福岡県某市――順に辿ると、誰かが消える。

アイスホカロン

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case1 A区――地図の順に辿ると、一人消える。

番外二 改名され続けるバス停|名前が定着しない場所

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 この本は、福岡県のとある政令指定都市A区を地図順に辿る記録である。
 順路は偶然ではない。入口から出口へ、通過点から通過点へ。
 読み進めるたび、同行者は減る。

 この物語は、地図順に辿る記録の番外編である。


 そのバス停には、名前が定着しない。
 勿論、正式な停留所名は存在する。
 市の資料にも、路線図にも記載されている。

 ……だが、現地の標識だけが、一定の周期で書き換えられる。
 消され、貼られ、塗り直される。

 私は何度かその前を通った。
 ただ、通るたび違う名前が書かれていた。
 書かれ方も複雑だ。
 漢字が変わることもあれば、読みだけが変わることもある。
 意味が後退し、最後はになる。

 「上」「奥」「向こう」
 それ以上、具体化しない。漠然とした文字が並ぶ。

 ……近所の人に聞くと、皆、別々の名前を答えた。
 共通しているのは、という点だけだ。

 私は夜、最終便でそのバス停に降りた。
 周囲は住宅地のはずだった。だが、街灯が少なく、道の幅も曖昧だ。
 黒く固い舗装が途中で途切れ、先が闇に溶けている。

 バスが去ると、音が消えた。
 ふと標識を見る。
 そこには、今回も見覚えのない名前が書かれていた。

 ……私は考察する。
 バス停の名前は、位置を固定するためのものだ。
 ここで降りれば、ここにいる、と言い切るための。

 ……だが、この場所では、人の流入と流出が釣り合わない。
 降りた人数と、乗った人数がかみ合わない。
 そうなると、名前が更新される。
 人数が合わなくなるたび、地名が少しずつ抽象化され、
 ……やがて、

 バス停付近を私は歩いた。
 どの道も、どこかで同じ角度に戻る。
 目印にした自販機が、違う位置に現れる。距離が測れない。

 ふと、背後でエンジン音がした。
 振り返ると、バスが停まっている。
 行先表示は、だった。
 運転手が言う。
 「ここ、どこまで行きます?」
 ……唐突な問いに私は答えられなかった。

 その瞬間、標識の名前が剥がれ落ちた。
 ……そして、下から現れたのは、だった。

 私は理解した。
 名前を失った場所は、番号になる。
 番号になった場所は、調になる。

 私はバスに乗った。
 次に降りたとき、見覚えのある交差点だった。
 時刻は朝で、通勤・通学の人が歩いている。

 あのバス停の名前は、今も定まっていない。
 だが、路線図のその位置だけ、
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