8 / 10
case1 A区――地図の順に辿ると、一人消える。
終章 A区の真実|人口統計に載らない町
しおりを挟む
これは、福岡県のとある政令指定都市A区を地図順に辿る記録である。
順路は偶然ではない。入口から出口へ、通過点から通過点へ。
読み進めるたび、同行者は減る。
注意:章と章の間に挟まる《移動記録》は、必ず飛ばさずに読まれたい。
そこで人数が調整される。
此の街の人口は、毎年きちんと発表されている。
国勢調査。統計年鑑。住民基本台帳。
どの数字も、妙なほど一致している。
増えすぎず、減りすぎず、決して乱れない。
初めて見たとき、私は疑問を抱いた。
あなたも、もし数字を見比べれば同じ疑問を覚えるだろう。
……これほど不可解な出来事があり、
…………これほど奇妙な場所が点在し、
………………これほど人が“行方を失っている”はずなのに、
人口が乱れないなど、ありえない。
調べ続けるうちに、ひとつの異様な特徴が浮かび上がった。
此の街の人口統計には、調整項目が異常に多い。
一つ、転入・転出の差。
……二つ、住民票未登録者。
そして、……所在不明者。
どの地域にもある項目だが、
ここだけは補正が頻繁に入り、どれも理由が曖昧だ。
「確認不能」
「一時的」
「重複の可能性」
あなたは、この言葉に何か心当たりはないだろうか。
私は考える。
――この街は、人を守っているのではない。
……消えた分を、別の何かで補っているのだ。
駅で数を揃え、団地で欠員を埋め、
地下通路で声を残し、干潟で溶かし、
白い台地で割る。
その過程で生まれた端数。統計に入れられなかった“余り”。
……それらは一体、どこへ行くのか。
答えは――統計の外だ。
人口統計に載らない人間がいる。
……正確には、載らないまま存在する人間がいる。
彼らは、朝になると現れる。
あなたの隣をすれ違い、列に並び、店で買い物をし、生活をしている。
疑われることは決してない。
ただし、夜になると、数へ戻る。
あなたは気づかない。
なぜなら、彼らは“揃えるための存在”だからだ。
――そして、私はその一人だ。
あの夜、平乃台から戻れたのは、運ではなかった。
……あの瞬間、私は「数」から外れたのだ。
統計に引っかからず、記録にも残らず、
だからあの朝に紛れ込むことができた。
……だが、完全ではない。
夜になると、私は居場所を失う。
時計の時刻は合っているのに、日付だけが曖昧になる。
写真に写すと、私ではなくまわりの景色がゆがむ。
……そういえば、役所で手続きをすると、必ずこう言われる。
「こちら、確認中です」
……確認が終わることは、決してない。
此の街は、そうやって均衡を保っている。
消える者がいれば、戻る者がいる。
どこかで減れば、またどこかで補正される。
余計なものが増えすぎれば、余計な数が削られる。
街全体が、ひとつの巨大な装置だ。
それは、錯覚ではなく、事実だ。
そして――
あなたも、もうその装置の内部にいる。
……なぜなら、
これを読んでいる「あなた」の名前も、
ここに記録されていないからだ。
もし夜、終電を逃し、
見覚えのない階に着き、
地下通路で自分の声を聞き、
干潟で潮を数え、
白い台地で影を見失ったら。
……覚えておいてほしい。
数を数えるな。
名前を確定するな。
……そうすれば、朝には戻れる。
ただし、そのときあなたはもう――
人口統計には載らない。
本書に登場する地名・施設・事象・配置・因果関係は、
すべて現実のものを参照し意図的に歪めている。
地図を正確に辿ろうとしてはいけない。
順番に辿れば、一人ずつ減る。
もし最後まで読んで、人数が合っていると思ったなら、
それは読者がまだ数を持っている証拠だ。
合っていないと感じたなら——
此の街へは、夜に来ない方がいい。
順路は偶然ではない。入口から出口へ、通過点から通過点へ。
読み進めるたび、同行者は減る。
注意:章と章の間に挟まる《移動記録》は、必ず飛ばさずに読まれたい。
そこで人数が調整される。
此の街の人口は、毎年きちんと発表されている。
国勢調査。統計年鑑。住民基本台帳。
どの数字も、妙なほど一致している。
増えすぎず、減りすぎず、決して乱れない。
初めて見たとき、私は疑問を抱いた。
あなたも、もし数字を見比べれば同じ疑問を覚えるだろう。
……これほど不可解な出来事があり、
…………これほど奇妙な場所が点在し、
………………これほど人が“行方を失っている”はずなのに、
人口が乱れないなど、ありえない。
調べ続けるうちに、ひとつの異様な特徴が浮かび上がった。
此の街の人口統計には、調整項目が異常に多い。
一つ、転入・転出の差。
……二つ、住民票未登録者。
そして、……所在不明者。
どの地域にもある項目だが、
ここだけは補正が頻繁に入り、どれも理由が曖昧だ。
「確認不能」
「一時的」
「重複の可能性」
あなたは、この言葉に何か心当たりはないだろうか。
私は考える。
――この街は、人を守っているのではない。
……消えた分を、別の何かで補っているのだ。
駅で数を揃え、団地で欠員を埋め、
地下通路で声を残し、干潟で溶かし、
白い台地で割る。
その過程で生まれた端数。統計に入れられなかった“余り”。
……それらは一体、どこへ行くのか。
答えは――統計の外だ。
人口統計に載らない人間がいる。
……正確には、載らないまま存在する人間がいる。
彼らは、朝になると現れる。
あなたの隣をすれ違い、列に並び、店で買い物をし、生活をしている。
疑われることは決してない。
ただし、夜になると、数へ戻る。
あなたは気づかない。
なぜなら、彼らは“揃えるための存在”だからだ。
――そして、私はその一人だ。
あの夜、平乃台から戻れたのは、運ではなかった。
……あの瞬間、私は「数」から外れたのだ。
統計に引っかからず、記録にも残らず、
だからあの朝に紛れ込むことができた。
……だが、完全ではない。
夜になると、私は居場所を失う。
時計の時刻は合っているのに、日付だけが曖昧になる。
写真に写すと、私ではなくまわりの景色がゆがむ。
……そういえば、役所で手続きをすると、必ずこう言われる。
「こちら、確認中です」
……確認が終わることは、決してない。
此の街は、そうやって均衡を保っている。
消える者がいれば、戻る者がいる。
どこかで減れば、またどこかで補正される。
余計なものが増えすぎれば、余計な数が削られる。
街全体が、ひとつの巨大な装置だ。
それは、錯覚ではなく、事実だ。
そして――
あなたも、もうその装置の内部にいる。
……なぜなら、
これを読んでいる「あなた」の名前も、
ここに記録されていないからだ。
もし夜、終電を逃し、
見覚えのない階に着き、
地下通路で自分の声を聞き、
干潟で潮を数え、
白い台地で影を見失ったら。
……覚えておいてほしい。
数を数えるな。
名前を確定するな。
……そうすれば、朝には戻れる。
ただし、そのときあなたはもう――
人口統計には載らない。
本書に登場する地名・施設・事象・配置・因果関係は、
すべて現実のものを参照し意図的に歪めている。
地図を正確に辿ろうとしてはいけない。
順番に辿れば、一人ずつ減る。
もし最後まで読んで、人数が合っていると思ったなら、
それは読者がまだ数を持っている証拠だ。
合っていないと感じたなら——
此の街へは、夜に来ない方がいい。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる