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case2 B区――紗耶 彼女が目撃した"取り残された記憶"
第一章 地図の陰に潜むもの|地図に残った交差点
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この本は、福岡県のとある政令指定都市で起こった奇妙な記録である。
中学生の少女・紗耶は、誰も知らない“街の影”を目撃した。
夜に現れては消える交差点、再開発で姿を消した駅前の線路跡、
黒鉄バスの幽霊――。
それらは、都市の変化の裏で忘れられた“過去の事故”の残響だった。
紗耶が見ているのは恐怖ではない。
“取り残された記憶”そのものだ。
都市が忘れようとした痕跡が形を持ち、彼女の前に現れ続けている。
本書は、その断片的な記録を一冊にまとめたものである。
読み進めるほどに、“忘れられたはずの記憶”が
あなたの背後にも寄り添ってくるかもしれない。
夕暮れのB区。
薄い橙の光が消えかけ、影だけが濃く伸びる時刻。
紗耶は早足で住宅街を進んでいた。
「……この裏道、近道になるはず……」
細い路地。
街灯は死んだように暗く、家と家の隙間から冷たい風が漏れてくる。
普段なら絶対に足を踏み入れない場所だった。
曲がり角をいくつか抜けると、急に視界が開けた。
四つ角の交差点。
黒ずんだアスファルトの中央だけ、ぽっかりと凹んでいる。
そこだけ濡れているようで、光も吸い込んでいた。
(こんな交差点……前からあった?)
違和感を抱えつつ右へ曲がったその時――
――カサ……
……カサ……
……カサ……
……湿った足音が、背中に貼りつくように響いた。
一歩でも止まれば、すぐ真後ろに張りつかれるような距離感。
紗耶は息を殺し、振り返る。
……誰もいない。だが。
――カサ……カサ……
……カサ……カサ……カサ……
今度は増えていた。
二つ、三つ……、…………いや、もっと。
地面を引きずるような、不規則な足音が積み重なっていく。
紗耶の細き躯体に、ぞわりと背筋が冷たくなる感覚。
空気が湿り、匂いが変わった。
……次の瞬間――耳元に消え入りそうな息。
「……どこに……いくの……?」
あどけさ残る少女の声。
それは、耳元よりもっと近く、肌の上で囁かれたようだった。
紗耶は弾かれたように振り返る。
……誰もいない。
しかし、紗耶の右肩がひやりと冷え、白い手形が浮かんでくる。
小さな指が、ぎゅ、と皮膚を押した感触まであった。
紗耶は悲鳴をあげて走り出す。
走るたび、背後で音が増える。
――カサ……カサ……
カサ……カサ……カサ……
……カサ、カサ、カサ、カサ、カサ……
音が波のように押し寄せてきた。
それも、一本の足音ではない。
何人もの“何か”が、ぴったり背中に張りつくように追ってくる。
角を曲がっても、振り返っても、音は止まらない。
――カサッ……カサッ……カサッ……
今度はすぐ耳元で鳴った。
ほとんど触れられている距離。
紗耶は喉の奥が焼けるほどの息で走り続けた。
ようやく大通りに飛び出した瞬間、すべての足音がピタリと消える。
振り返ると、さっきの交差点は影も形もなかった。
翌日。
紗耶は記憶を頼りに図書館で古地図を開く。
……そして、震える指で、……その場所を見つける。
“事故多発”と記された封鎖された交差点。
どうやら幼い少女が、雨の夜、ひとりで倒れていたという。
前日の謎のささやきは、この少女のもの……、だったのだろうか。
図書館を出た途端、スマホが勝手に地図アプリを起動した。
目的地:あの交差点
即座に画面が暗転し、ザザザ……と激しくノイズが走った後、
濡れたワンピース姿の小さな影が映った。
黒い影の顔のまま、ゆっくり手を伸ばし――
「……いっしょに……かえろ……?」
……その瞬間。
――カサ……
カサ……
カサ……
カサカサカサカサカサカサカサッ……
……背後から、無数の足音が紗耶を包み込むように迫ってきた。
紗耶は、再び喉の奥が焼けるほど叫んだ。
中学生の少女・紗耶は、誰も知らない“街の影”を目撃した。
夜に現れては消える交差点、再開発で姿を消した駅前の線路跡、
黒鉄バスの幽霊――。
それらは、都市の変化の裏で忘れられた“過去の事故”の残響だった。
紗耶が見ているのは恐怖ではない。
“取り残された記憶”そのものだ。
都市が忘れようとした痕跡が形を持ち、彼女の前に現れ続けている。
本書は、その断片的な記録を一冊にまとめたものである。
読み進めるほどに、“忘れられたはずの記憶”が
あなたの背後にも寄り添ってくるかもしれない。
夕暮れのB区。
薄い橙の光が消えかけ、影だけが濃く伸びる時刻。
紗耶は早足で住宅街を進んでいた。
「……この裏道、近道になるはず……」
細い路地。
街灯は死んだように暗く、家と家の隙間から冷たい風が漏れてくる。
普段なら絶対に足を踏み入れない場所だった。
曲がり角をいくつか抜けると、急に視界が開けた。
四つ角の交差点。
黒ずんだアスファルトの中央だけ、ぽっかりと凹んでいる。
そこだけ濡れているようで、光も吸い込んでいた。
(こんな交差点……前からあった?)
違和感を抱えつつ右へ曲がったその時――
――カサ……
……カサ……
……カサ……
……湿った足音が、背中に貼りつくように響いた。
一歩でも止まれば、すぐ真後ろに張りつかれるような距離感。
紗耶は息を殺し、振り返る。
……誰もいない。だが。
――カサ……カサ……
……カサ……カサ……カサ……
今度は増えていた。
二つ、三つ……、…………いや、もっと。
地面を引きずるような、不規則な足音が積み重なっていく。
紗耶の細き躯体に、ぞわりと背筋が冷たくなる感覚。
空気が湿り、匂いが変わった。
……次の瞬間――耳元に消え入りそうな息。
「……どこに……いくの……?」
あどけさ残る少女の声。
それは、耳元よりもっと近く、肌の上で囁かれたようだった。
紗耶は弾かれたように振り返る。
……誰もいない。
しかし、紗耶の右肩がひやりと冷え、白い手形が浮かんでくる。
小さな指が、ぎゅ、と皮膚を押した感触まであった。
紗耶は悲鳴をあげて走り出す。
走るたび、背後で音が増える。
――カサ……カサ……
カサ……カサ……カサ……
……カサ、カサ、カサ、カサ、カサ……
音が波のように押し寄せてきた。
それも、一本の足音ではない。
何人もの“何か”が、ぴったり背中に張りつくように追ってくる。
角を曲がっても、振り返っても、音は止まらない。
――カサッ……カサッ……カサッ……
今度はすぐ耳元で鳴った。
ほとんど触れられている距離。
紗耶は喉の奥が焼けるほどの息で走り続けた。
ようやく大通りに飛び出した瞬間、すべての足音がピタリと消える。
振り返ると、さっきの交差点は影も形もなかった。
翌日。
紗耶は記憶を頼りに図書館で古地図を開く。
……そして、震える指で、……その場所を見つける。
“事故多発”と記された封鎖された交差点。
どうやら幼い少女が、雨の夜、ひとりで倒れていたという。
前日の謎のささやきは、この少女のもの……、だったのだろうか。
図書館を出た途端、スマホが勝手に地図アプリを起動した。
目的地:あの交差点
即座に画面が暗転し、ザザザ……と激しくノイズが走った後、
濡れたワンピース姿の小さな影が映った。
黒い影の顔のまま、ゆっくり手を伸ばし――
「……いっしょに……かえろ……?」
……その瞬間。
――カサ……
カサ……
カサ……
カサカサカサカサカサカサカサッ……
……背後から、無数の足音が紗耶を包み込むように迫ってきた。
紗耶は、再び喉の奥が焼けるほど叫んだ。
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