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三十六話 酔っ払い
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「お帰りなさい、バルハルト殿!」
クルトが夕食をとっていると、バルハルトがようやく帰ってきた。バルハルトからは微かに酒の香りが漂っているのは、どこかで飲んできたからだろう。
「同僚の人たちと飲んできたんですか?」
「…….うん」
いつもはっきり受け答えをするはずのバルハルトは、今日はどこかぼんやりしている気がする。
「まさか酔っ払ってますか?」
「……….酔ってない」
酔っ払いは自覚がないという話はよく聞く。現にバルハルトも自分は酔っ払っていないというような顔をしている。
だが足取りは少しふついており、話し方もいつもよりゆっくりである。
「やっぱり酔っ払ってますよね?とりあえずその状態でシャワー浴びるたりするのはよくないので、一旦部屋で休んだらどうですか?」
「でもクルトとご飯を食べたい」
幼子が駄々をこねるような口調でバルハルトは言い募る。
どうすればいいのかわからず、クルトは眉を八の字にした。
「ほらでも……そんな状態じゃあ」
何とか説得しようとすると、いきなりバルハルトは腕を伸ばしてきて、クルトを抱き上げた。
「何するんですか?!」
「お前が一緒にいてくれるのなら部屋に行ってもいい」
何だそりゃ、と思いつつも酔っ払いに逆らっても意味がない。食事は取っておいてもらうことにし、仕方なくバルハルトの好きなようにさせた。
「ねぇちょっと、そんな抱きしめられると苦しいです」
「うん」
「聞いてますか?!」
構わず抱きしめてくる彼は確実に酔っ払っている。見た目はそれなりに強面だから、勝手に酒豪のようなイメージを持たれていたのかもしれない。
ソファに腰掛けたバルハルトは自分の膝の上にクルトを乗せ、クルトの肩に顎を乗っけていた。
「水を持ってきますね」
「いらない。なあお前は今でもマクシミリアンのことが好きなのか?」
何の脈絡もなく突然バルハルトがそう言ってきて、クルトはぽかんと口を開けた。何故ここで彼の名前が出てくるのだろうか。
でもバルハルトは今酔っているから、クルトが本音を言っても明日には忘れてしまっている。誰かにずっと吐き出してみたかったから、ちょうどいいのかもしれない。
「別にマクシミリアン様のことはもともと好きではなかったんです。でも番になることは名誉なことでしょ?だから孤児でもいろんな生き方があるよって、孤児院の子たちに見せてあげたかったの。生まれは関係ないって」
クルトが過去の自分の、まだ青かった頃の考えを話すとバルハルトはよしよしと頭を撫でてきた。
「優しいんだな。そうやって希望を見せてあげようとするなんて」
そう言われただけで胸がきゅっとなってしまう。神殿に行けば身分の差も何も関係ないと思っていたが、そんなことは全くなかった。
自分の存在を否定するようなことも、たくさん言われた。だからちょっと優しいことを言われただけで、自分の考えを肯定されただけで嬉しくなってしまう。
肩に彼の重みを感じながら、抱えていたことを話していく。
「マクシミリアン様は私のことを嫌っていた。親に捨てられた、身元も不確かな者と番になるなど耐えられない、と番になってから毎日言われた。彼には別に好きな人がいたのも知っていた」
クルトは口元に苦い笑みを浮かべながら過去を思い出した。マクシミリアンはクルトが身籠っている時も、出産した時も、その相手のところに行っていた。
だから彼が本当に自分のことを視界にも入れたくないと思っていたのは、いつも感じていた。
「………クルトは本当にあいつに未練はないんだな?」
「ないよ。そもそも心が通じ合うことなんてなかったし」
「クルトは今幸せか?神殿にいた時よりも安心して過ごしているか?私にして欲しいこととかないのか?」
少し眠たげな眼差しでも、クルトのことを気にかけてくれることが伝わってくる彼の言葉に、クルトは微笑んだ。
「私は今とっても幸せだよ。神殿にいた頃はこんな穏やかに暮らせる未来なんて想像すらしたことなかったのにね」
「……..ならよかった」
バルハルトが呟くようにそう言った後、急に彼の体重がかかってきた。
(まさか寝ちゃった?)
そっと伺えばすぅっ、すぅっという規則正しい寝息が聞こえてくる。幸いなことにソファとベッドはそこまで距離がない。
何とか彼をベッドまで運び、毛布をかけてやる。一瞬そのまま部屋から出ていこうとも思ったが、結局思い直して彼のベッドに潜り込むと、自ら彼の腕の中にすっぽりとおさまっていった。
(……….幸せ)
じわじわと噛み締めるような感じに近かった。
美味しいものをたくさん食べて、こうやって一緒に過ごすことができる相手がいて。
(バルハルト殿は私にたくさんのことを教えてくれた。私も彼のために何かしたい)
彼の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめるようにしながら、クルトも結局眠りについてしまった。
クルトが夕食をとっていると、バルハルトがようやく帰ってきた。バルハルトからは微かに酒の香りが漂っているのは、どこかで飲んできたからだろう。
「同僚の人たちと飲んできたんですか?」
「…….うん」
いつもはっきり受け答えをするはずのバルハルトは、今日はどこかぼんやりしている気がする。
「まさか酔っ払ってますか?」
「……….酔ってない」
酔っ払いは自覚がないという話はよく聞く。現にバルハルトも自分は酔っ払っていないというような顔をしている。
だが足取りは少しふついており、話し方もいつもよりゆっくりである。
「やっぱり酔っ払ってますよね?とりあえずその状態でシャワー浴びるたりするのはよくないので、一旦部屋で休んだらどうですか?」
「でもクルトとご飯を食べたい」
幼子が駄々をこねるような口調でバルハルトは言い募る。
どうすればいいのかわからず、クルトは眉を八の字にした。
「ほらでも……そんな状態じゃあ」
何とか説得しようとすると、いきなりバルハルトは腕を伸ばしてきて、クルトを抱き上げた。
「何するんですか?!」
「お前が一緒にいてくれるのなら部屋に行ってもいい」
何だそりゃ、と思いつつも酔っ払いに逆らっても意味がない。食事は取っておいてもらうことにし、仕方なくバルハルトの好きなようにさせた。
「ねぇちょっと、そんな抱きしめられると苦しいです」
「うん」
「聞いてますか?!」
構わず抱きしめてくる彼は確実に酔っ払っている。見た目はそれなりに強面だから、勝手に酒豪のようなイメージを持たれていたのかもしれない。
ソファに腰掛けたバルハルトは自分の膝の上にクルトを乗せ、クルトの肩に顎を乗っけていた。
「水を持ってきますね」
「いらない。なあお前は今でもマクシミリアンのことが好きなのか?」
何の脈絡もなく突然バルハルトがそう言ってきて、クルトはぽかんと口を開けた。何故ここで彼の名前が出てくるのだろうか。
でもバルハルトは今酔っているから、クルトが本音を言っても明日には忘れてしまっている。誰かにずっと吐き出してみたかったから、ちょうどいいのかもしれない。
「別にマクシミリアン様のことはもともと好きではなかったんです。でも番になることは名誉なことでしょ?だから孤児でもいろんな生き方があるよって、孤児院の子たちに見せてあげたかったの。生まれは関係ないって」
クルトが過去の自分の、まだ青かった頃の考えを話すとバルハルトはよしよしと頭を撫でてきた。
「優しいんだな。そうやって希望を見せてあげようとするなんて」
そう言われただけで胸がきゅっとなってしまう。神殿に行けば身分の差も何も関係ないと思っていたが、そんなことは全くなかった。
自分の存在を否定するようなことも、たくさん言われた。だからちょっと優しいことを言われただけで、自分の考えを肯定されただけで嬉しくなってしまう。
肩に彼の重みを感じながら、抱えていたことを話していく。
「マクシミリアン様は私のことを嫌っていた。親に捨てられた、身元も不確かな者と番になるなど耐えられない、と番になってから毎日言われた。彼には別に好きな人がいたのも知っていた」
クルトは口元に苦い笑みを浮かべながら過去を思い出した。マクシミリアンはクルトが身籠っている時も、出産した時も、その相手のところに行っていた。
だから彼が本当に自分のことを視界にも入れたくないと思っていたのは、いつも感じていた。
「………クルトは本当にあいつに未練はないんだな?」
「ないよ。そもそも心が通じ合うことなんてなかったし」
「クルトは今幸せか?神殿にいた時よりも安心して過ごしているか?私にして欲しいこととかないのか?」
少し眠たげな眼差しでも、クルトのことを気にかけてくれることが伝わってくる彼の言葉に、クルトは微笑んだ。
「私は今とっても幸せだよ。神殿にいた頃はこんな穏やかに暮らせる未来なんて想像すらしたことなかったのにね」
「……..ならよかった」
バルハルトが呟くようにそう言った後、急に彼の体重がかかってきた。
(まさか寝ちゃった?)
そっと伺えばすぅっ、すぅっという規則正しい寝息が聞こえてくる。幸いなことにソファとベッドはそこまで距離がない。
何とか彼をベッドまで運び、毛布をかけてやる。一瞬そのまま部屋から出ていこうとも思ったが、結局思い直して彼のベッドに潜り込むと、自ら彼の腕の中にすっぽりとおさまっていった。
(……….幸せ)
じわじわと噛み締めるような感じに近かった。
美味しいものをたくさん食べて、こうやって一緒に過ごすことができる相手がいて。
(バルハルト殿は私にたくさんのことを教えてくれた。私も彼のために何かしたい)
彼の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめるようにしながら、クルトも結局眠りについてしまった。
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