ドラゴン使いと元神官の奇妙な暮らし〜傷モノ神官はコワモテ軍人に溺愛される〜

江島梓

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第三十七話 誘拐された!

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翌朝、クルトがバルハルトの腕の中でぬくぬくと温まっていると、目を覚ましたバルハルトが口を開いた。

「昨日話してくれたことは全部本当なんだな。だとしたら私はマクシミリアンをますます嫌いになりそうだ」


クルトの滑らかな髪をさらりと撫でながら、バルハルトが呟く。

「昨日話したこと覚えてるんですね」

覚えていないだろうと思って話したが、彼はしっかり記憶していたらしい。

「クルトの話すことはいつも全部覚えている」

「くだらないことばかり話してますよ」


クルトが小さく笑うと、バルハルトも笑みを浮かべた。
誰にも邪魔されない二人だけの時間がゆっくりと流れていった。












「おい、誰かこの館にいないのか?」


昼頃にどんどんと無遠慮にノックする音が聞こえ、男の声が庭に響いている。
クルトはちょうどハンスに授業のようなものをしていたため、出られる状況ではあったのだが、バルハルトから知らない人が来たら出なくて良いと言われていたので、そのまま無視していた。


しかしその声はあまりにもしつこく、クルトもハンスもいらいらしてきた。


「この館の護衛は何をしているんだ?普通門のところで止めるだろ!俺が様子を見てくる!」

そう勢いよく言ったハンスはそのまま玄関に向かうと、すでに玄関の前には執事や他の使用人たちが集まっていた。


しかし全員出ることがなく、何やらその場の雰囲気はおかしかった。

「誰だあのしつこいやつは」

「…….マクシミリアン様の使者のようです」

「何だと?!」


マクシミリアンの使者が相手では立場的に追い返すのは難しい。


慌てたハンスはすぐにクルトのところへ行き、事情を説明した。


「………何故彼の使者が来たのか分からないなあ。ハンスがここで見習いをしてることは、神殿の人たちには言ってないでしょ?それに私がここにいることも知らないはず。でもどうしようか。まあマクシミリアン本人が来ているわけじゃないんだから、私が出るよ」


そう言ってクルトは様子を伺いつつ玄関のドアをそっと開けると、そこに立っていたのは何とマクシミリアンだった。


「………!」

すぐに扉を閉めようとするが彼は素早く靴で扉を止め、驚くクルトを見ながら無理やり扉を開けてきた。



「まさかバルハルトはこんなにも隠し事をしていたとはな」


そう言いながら笑った彼に、クルトは拳を握りしめることしかできなかった。



柔らかな銀髪に蒼い瞳を持つ、目の前の男は見かけだけは非常に麗しかった。すっと通った鼻筋に薄い唇は彼にどこか冷たい印象を持たせている。

「………今バルハルトは出かけておりますから、また後で来ていただけますか?」


彼の方を見ないようにしながらクルトは話したが、彼は薄らと笑みを浮かべるだけだった。

彼がそうやって笑うのは大体不快に感じた時だ。いつもこの笑みを浮かべた後に、マクシミリアンはクルトを殴ったり蹴ったりしていた。だから今も悪い予感しかしない。


「ハンスのことはもういい。今日はそれ以上の収穫があったな」


嫌な予感は的中した。クルトが館の中に逃げようとすると、マクシミリアンはクルトの腕を掴み一気に引きずっていった。

その手際は鮮やかで館の外の護衛たちがこちらの様子に気づく前に、彼はあっという間にクルトを館の前に止まっていた馬車に引きずりこんだ。


「クルトどの───っ!!」


ハンスが全力でこちらに走ってくるのが視界に入ってきたが、多分間に合わないだろう。


「バルハルトにっ、知らせて!!」

そう言うので精一杯だった。きっと少ししたらバルハルトが助けに来てくれる。








(もしさっき扉を開けずに追い返していたら───使用人が人質になっていただろう)


馬車に揺られながら自分の向かいに座るマクシミリアンを見て、クルトは心の中で呟いた。

目の前の男はクルトと目が合うとニヤリと唇の端を歪めるようにして笑った。何やらとても不快なものを見たような気がして、クルトは顔を背ける。


「なんだ、少し前までは私の顔色を窺って機嫌を取るので必死だったのに、今ではこちらを見もしないのか。大層なご身分になったものだな」


いきなり彼は顎を掴み、憎々しげに吐き捨てた。
相変わらず情緒不安定だな、とどこか他人事のようにぼんやりと思いながら、彼の手を振り払った。

「触らないでください。つくづく強引な方ですね」


神殿にいた頃は彼に愛されようと必死だった。彼に愛され子を為さなければ、ただの価値のない人間だと思っていた。
でも今では過去の自分はこんなにも器の小さな男に愛されようと必死だったのかと、笑いが込み上げてくるほどだった。

「いつの間にそんなに強気になったんだ?そのうち以前のように私に情けない顔で相手をしてくれ、と懇願するようになるのかもしれないのに。まあ今のお前なら相手をしてやってもいいが」


「誰があなたに相手を頼むと?」


鼻で笑い飛ばせばマクシミリアンの額に青筋が浮かんだ。
本当に分かりやすいことだ。


「大口叩いていられるのも今だけだ。絶対に後悔することになるぞ!」


「大丈夫です。バルハルトが絶対に助けに来てくれます」
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