ドラゴン使いと元神官の奇妙な暮らし〜傷モノ神官はコワモテ軍人に溺愛される〜

江島梓

文字の大きさ
40 / 59

第四十話 まさかの……

しおりを挟む
「それではクルトを夕方に神殿から追い出したのは、私に彼を拾わせるためだったのでしょうか?」


「そうです」

 あっさりと答えているが、ますます謎は深まるばかりだ。そもそも何故神官長はバルハルトがクルトを拾うだろう、と思ったのか。


「儀式の時にずっとクルトのことを目で追いかけていたでしょう」

 バルハルトの考えを読み取ったかのように、神官長はにやにやしながら答える。確かに以前儀式があった時にクルトのことを見てはいたが。

「そんなに彼のことを見てましたか?」

 いまいち自覚のないバルハルトは顔を赤ながら、もごもごと尋ねる。その途端神官長は噴き出し、バルハルトの肩を叩いた。

「まさか自覚してなかったのですか?!瞬きする時間すら惜しいというような様子で、彼を眺めていたのに」


 あれは建国記念日を祝う儀式の時のクルトが、あまりにも可愛いすぎたからだ。あんなにも明るく笑う人をバルハルトはこれまで見たことなかった為、目が釘付けになった。





「それにしてもよく私を選びましたね。良くない噂しかなかったのではありませんか?」


「それは大した問題ではありません。あなたが誰かに暴力を振るったり、罵倒しているのを実際に見た人は、私が調べた中では一人もいなかった。だからどうせ噂が独り歩きしているだけだろう、と判断しました」


 へぇ、と相槌を打つことしかできない。一歩間違えばクルトがより悲惨な目に遭っていたかもしれないが、神官長からしたら藁にもすがるような思いだったのだろう。


「……クルトのことをお願いします。あの子は勉強も頑張って、番に選ばれてからは愛されようと、たくさん努力していました。それでもあのような仕打ちを受けて……。だからあの子には幸せに暮らしていて欲しいんです。この神殿ではマクシミリアンの力があまりにも強すぎて、神官長である私ですら彼に抗議することはほぼできません。なのでクルトを守るのには、まずこの神殿の外に出すことが必要だったのです」


「……分かりました。クルトのことは任せてください。絶対に彼を傷つけるような真似はいたしません」


 バルハルトの言葉に神官長は安心したように微笑んだ。
 バルハルトは元々本人が望むのなら一生クルトの面倒を見るつもりでいたのだ。今回の件で、クルトも神殿との繋がりがすっぱり切れ、こちらで気兼ねなく暮らしていくことができる。

「………あとクルトにはもし子どもに会いたかった場合、好きに来ていい、とお伝えください。クルトとあの子はほとんど会えなかったから。亡くなってしまってはいても、彼にとって可愛い我が子でしょう」


 神官長はやや言いにくそうにそう伝えてきた。今クルトと暮らしていて、尚且つ彼に好意を寄せている自分にそれは伝えてにくいことだろう。

「彼に伝えておきます」

 バルハルトが頷きながら言うと、神官長は申し訳なさそうな顔をした。

「今回神殿内での問題にあなたを巻き込んでしまい、本当に申し訳ない。何か困ったことがあった時、ぜひ頼ってください。必ずこの恩はお返しします」








 神官長と話した後、バルハルトは愛馬に跨ってすぐさま館へと戻った。館に到着すると大急ぎでクルトの部屋に向かう。

「あれ?」

 しかし彼の部屋に姿は見えず、とりあえず自分の部屋に行ってみると、ベッドの上で毛布に包まっていた。

「…….おかえりなさい」

「ただいま」

 バルハルトはクルトに駆け寄り、抱きしめた。

「今日はたくさん迷惑かけちゃった……、本当にごめんなさい」


 ぎゅっと抱きついてきながらそう言うクルトに、バルハルトは激しく首を振った。

「迷惑ではない。本当に…….」


 今日クルトが攫われたという話を職場で知らされた時、頭が真っ白になって一瞬何も考えられなかった。


 彼にもし万が一のことがあって、二度と会えなくなってしまったらどう生きていけばいいのか、と真剣に考えるほどだった。


「……..バルハルト殿はどうやって私を見つけたのですか?」


「マクシミリアンを殴った」







「マクシミリアン様を殴った……」

 彼の性格上少し殴られただけでは話さないだろう。クルトはちらりとバルハルトを見た。涼しい顔をしているが、一体どれくらいマクシミリアンをボコボコにしたのだろう。


「もう今日は遅い。ゆっくりおやすみ」

 いつもなら抱きしめるだけで済むのに、今日はなぜか額にキスをしてきた。驚いてバルハルトの方をみると、彼はそっぽを向いて部屋から出て行こうとする。

「待って!」

慌てて彼の袖を引っ張って彼を引き寄せる。

「………もし嫌じゃなかったら、唇にして欲しい」


自分でも何をいっているのか、と思いつつ彼の方をじっと見つめると、バルハルトは顔を真っ赤にしていた。

「じゃあ……」

バルハルトの顔が近づいてきて、お互いの唇が触れ合う。
彼の唇の温かさと柔らかさに驚いてるうちに、唇が離れていく。

「バルハルト殿の唇って柔らかいんだね……」

思わず呟くと、バルハルトはじりじりと後ろへ退がっていって、そのまま部屋から飛び出していった。彼は首まで真っ赤にしていた。

「どこいくの?!」

「シャワー浴びてくる!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...