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第四十二話 バルハルトの正体
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翌朝クルトは目覚めると、自分の顔がパンパンに腫れていることに気がついた。
「泣きすぎた……」
冷たい水で顔を洗ってなんとかしようとしていると、起きてきたバルハルトが声をかけてきた。
「そのままでも可愛いから問題ない」
真顔でそういう彼にクルトはしばし無言になった。
「そんなキャラでしたっけ?」
「思ってても口に出さなかっただけだ」
そんな風に言う彼にいたずら心が湧き、クルトはにやにやしながら尋ねてみた。
「いつから私のこと気になってたんですか?」
「四年前の建国の儀の時からだ。何て可愛らしい笑顔の持ち主なんだと見惚れてしまった」
「………….」
クルトが想像していたよりもずっと前からであった。
彼とはほぼ口をきいたことがなかったから、そんな感情を抱いていたことに、全く気が付かなかった。
「…….あのう、バルハルト殿って周りの人から重い、とか言われたことないですか?」
「そもそもそういう話をしたことがない」
それを聞いてクルトは若干安堵した。流石にこのレベルだと周りに引かれてしまいそうだ。
二人で一緒に朝食を取っていると、不意に扉を叩く音が館に響いた。
ノックの仕方からどこか切迫した様子が伝わってきて、クルトは少し不安になった。
執事が慌てた様子でバルハルトの元へ来て、何事かを耳元で囁く。
バルハルトは先程までとのどこかくつろいだ表情が、一気に険しくなり、何かしら問題が発生したのであろうことが窺える。
「何かあったのですか?」
「国境付近で不穏な動きがあった。召集がかけられているから、もう行かないと」
そう言ってバルハルトは食事を切り上げ、歯磨きをするとコートを羽織った。
「………絶対無事に帰ってきてね」
「もちろんだ」
そう言うとクルトに軽くキスをし、そのまま愛馬にまたがりいってしまった。
一人で黙々と食事を続けたが、どうにも味気なくおも思っていた以上にクルトにとって、バルハルトは大きな存在となっていたようだ。
「……….はぁ」
ハンスと作業をしていても、ついついバルハルトのことを思い出して、ため息をついてしまう。
彼の仕事柄、このようなことがあるのは予想はしていたが、それでもいざそうなるとやはり寂しい。
「まあバルハルト殿なら無事に帰ってくると思いますよ。とりあえず薬が大量に必要なるだろうから、今のうちに作っておきましょう」
ハンスの言葉に確かにその通りだと思い、クルトは薬作りに励むことにした。もし本格的な戦闘が始めればたくさんのドラゴンが傷つくことになる。少しでも多くの命を救うためには大量の薬を用意して、備えておかなければならない。
それから数日間、クルトとハンスは大量の包帯や治療用の道具を取りよせ、いつでも対応できるようにしていた。
もしドラゴンたちが帰還してくれば、ここが治療のための拠点になることは疑いがなかった。腕のいい医者は貴族の愛玩動物の治療しかしないし、神殿にいる神官は戦闘に関わったドラゴンは穢れである、として触れようともしない。
「ハンス殿、あまり無理はしない方がいいよ。これから多分眠れなくなるぐらい忙しくなるからね」
クルトの言葉にハンスも緊張した面持ちで頷いた。とにかくたくさん食べ、しっかりと睡眠をとった。
バルハルトが前線に向かってから二週間ほどした頃、何やら王都が賑やかであった。ちょうど薬草を買いに町まで行っていたクルトとハンスは、何事かと町の人々に尋ねてみた。
「国境付近で戦っていた軍が帰って来たんだよ!今回は激戦だったらしいけど、見事に勝ったらしい!さすが我が国の軍は不敗だ!!」
そう興奮気味にまくしたてる男の話を聞き、二人は呑気に勝利を喜んでいる場合ではないことを悟った。
激戦だったということはそれだけ死傷者がでているということだ。二人はとりあえず薬草を急いで買うと、そのまま全速力で館に戻り始めた。
あと少しで館にたどり着く、というところで不意に地上を黒い影が覆った。驚いて空を見上げると血を流した赤いドラゴンが墜落しそうになりながらもなんとか飛んでいる。
「まさかあのドラゴンはバルハルトのでは?!」
ドラゴンの動きを見るに、館の庭に着地しようとしていることは明らかだった。しかしあともう少しというところでバランスを崩し、そのまま庭にある池へと突っ込んでいった。
「まずい!!」
あたりに水しぶきが飛び散り、轟音が響く。普通ドラゴンは墜落しても体が鱗で保護されている為、そこまでの怪我になることはないが、あのドラゴンは相当状態が悪い。手当が遅れれば確実に助からない。
館についた二人は服が濡れることも顧みず、池に飛び込むとドラゴンを引き上げようとした。ドラゴン自身もなんとか池の石に足をかけ、上がろうとしている。クルトはドラゴンの腹の下に潜り込むと、ドラゴンが上がろうと足に力をいれた瞬間に、思いっきりドラゴンを押した。
ドラゴンはずるずると腹ばいになりながらも、ようやく陸に上がってきた。素早くクルトが怪我の状態の確認をしたが、あまりにもひどいものだった。
砲弾でも食らったのだろうか、脇腹にえぐれたような傷が広範囲にわたってあった。
「すぐ治療するからね」
声をかけながら安心させるように撫でた瞬間、不意にそこの部分の鱗が水に溶けたように消えていき、代わりに人の肌が表れてきた。
「泣きすぎた……」
冷たい水で顔を洗ってなんとかしようとしていると、起きてきたバルハルトが声をかけてきた。
「そのままでも可愛いから問題ない」
真顔でそういう彼にクルトはしばし無言になった。
「そんなキャラでしたっけ?」
「思ってても口に出さなかっただけだ」
そんな風に言う彼にいたずら心が湧き、クルトはにやにやしながら尋ねてみた。
「いつから私のこと気になってたんですか?」
「四年前の建国の儀の時からだ。何て可愛らしい笑顔の持ち主なんだと見惚れてしまった」
「………….」
クルトが想像していたよりもずっと前からであった。
彼とはほぼ口をきいたことがなかったから、そんな感情を抱いていたことに、全く気が付かなかった。
「…….あのう、バルハルト殿って周りの人から重い、とか言われたことないですか?」
「そもそもそういう話をしたことがない」
それを聞いてクルトは若干安堵した。流石にこのレベルだと周りに引かれてしまいそうだ。
二人で一緒に朝食を取っていると、不意に扉を叩く音が館に響いた。
ノックの仕方からどこか切迫した様子が伝わってきて、クルトは少し不安になった。
執事が慌てた様子でバルハルトの元へ来て、何事かを耳元で囁く。
バルハルトは先程までとのどこかくつろいだ表情が、一気に険しくなり、何かしら問題が発生したのであろうことが窺える。
「何かあったのですか?」
「国境付近で不穏な動きがあった。召集がかけられているから、もう行かないと」
そう言ってバルハルトは食事を切り上げ、歯磨きをするとコートを羽織った。
「………絶対無事に帰ってきてね」
「もちろんだ」
そう言うとクルトに軽くキスをし、そのまま愛馬にまたがりいってしまった。
一人で黙々と食事を続けたが、どうにも味気なくおも思っていた以上にクルトにとって、バルハルトは大きな存在となっていたようだ。
「……….はぁ」
ハンスと作業をしていても、ついついバルハルトのことを思い出して、ため息をついてしまう。
彼の仕事柄、このようなことがあるのは予想はしていたが、それでもいざそうなるとやはり寂しい。
「まあバルハルト殿なら無事に帰ってくると思いますよ。とりあえず薬が大量に必要なるだろうから、今のうちに作っておきましょう」
ハンスの言葉に確かにその通りだと思い、クルトは薬作りに励むことにした。もし本格的な戦闘が始めればたくさんのドラゴンが傷つくことになる。少しでも多くの命を救うためには大量の薬を用意して、備えておかなければならない。
それから数日間、クルトとハンスは大量の包帯や治療用の道具を取りよせ、いつでも対応できるようにしていた。
もしドラゴンたちが帰還してくれば、ここが治療のための拠点になることは疑いがなかった。腕のいい医者は貴族の愛玩動物の治療しかしないし、神殿にいる神官は戦闘に関わったドラゴンは穢れである、として触れようともしない。
「ハンス殿、あまり無理はしない方がいいよ。これから多分眠れなくなるぐらい忙しくなるからね」
クルトの言葉にハンスも緊張した面持ちで頷いた。とにかくたくさん食べ、しっかりと睡眠をとった。
バルハルトが前線に向かってから二週間ほどした頃、何やら王都が賑やかであった。ちょうど薬草を買いに町まで行っていたクルトとハンスは、何事かと町の人々に尋ねてみた。
「国境付近で戦っていた軍が帰って来たんだよ!今回は激戦だったらしいけど、見事に勝ったらしい!さすが我が国の軍は不敗だ!!」
そう興奮気味にまくしたてる男の話を聞き、二人は呑気に勝利を喜んでいる場合ではないことを悟った。
激戦だったということはそれだけ死傷者がでているということだ。二人はとりあえず薬草を急いで買うと、そのまま全速力で館に戻り始めた。
あと少しで館にたどり着く、というところで不意に地上を黒い影が覆った。驚いて空を見上げると血を流した赤いドラゴンが墜落しそうになりながらもなんとか飛んでいる。
「まさかあのドラゴンはバルハルトのでは?!」
ドラゴンの動きを見るに、館の庭に着地しようとしていることは明らかだった。しかしあともう少しというところでバランスを崩し、そのまま庭にある池へと突っ込んでいった。
「まずい!!」
あたりに水しぶきが飛び散り、轟音が響く。普通ドラゴンは墜落しても体が鱗で保護されている為、そこまでの怪我になることはないが、あのドラゴンは相当状態が悪い。手当が遅れれば確実に助からない。
館についた二人は服が濡れることも顧みず、池に飛び込むとドラゴンを引き上げようとした。ドラゴン自身もなんとか池の石に足をかけ、上がろうとしている。クルトはドラゴンの腹の下に潜り込むと、ドラゴンが上がろうと足に力をいれた瞬間に、思いっきりドラゴンを押した。
ドラゴンはずるずると腹ばいになりながらも、ようやく陸に上がってきた。素早くクルトが怪我の状態の確認をしたが、あまりにもひどいものだった。
砲弾でも食らったのだろうか、脇腹にえぐれたような傷が広範囲にわたってあった。
「すぐ治療するからね」
声をかけながら安心させるように撫でた瞬間、不意にそこの部分の鱗が水に溶けたように消えていき、代わりに人の肌が表れてきた。
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