隠し称号『追放されし者』が欲しい勇者はパーティーみんなに引き留められる(なおそんな称号はない)

なつのさんち

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18:執務室にて

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 テーヴァスが執務室へ入ると、レリックが入り口付近の壁に背を向けて立っていた。

「いつも言っているだろう、座って待てと」

 侯爵家当主の執務室ともなれば、来客用のソファーやテーブルも用意してある。主に待たされている客を見れば侍女達も茶の一杯も淹れるだろう。
 レリックは侍女の勧めを断り、立って待機していた。

「いえ、部屋で待たせて頂いただけで十分光栄でございます」

 まるで上官を前にした下士官のような態度。その表情には僅かながら緊張の色が見える。

「楽にしたまえ。堅苦しいのは嫌いだと知っているだろう。
 ほれ、こちらへ来て座れ。このやり取りをしている時間を取らすな」

「はっ! 申し訳なく……」

「いいから座れほら」

 テーヴァスはシオンが勇者として旅立つにあたり、息子を支えてやってほしいと直接レリックへパーティーへの加入を打診した。
 レリックはその要請を受け入れ、所属していた秘密部隊“ヴァイスカー”の副隊長を辞任。そして今に至る。

「報告を聞こう」

 レリックがソファーに座り、侍女がティーカップを配膳して執務室を出た後、テーヴァスが本題を口にする。

「はっ。私が第一王女殿下付き侍女、フルール様よりお聞きした内容について報告致します。
 シオン様が王城にて殿下とご面談された際、お二人の間でスキルについての話になったようです」

 テーヴァスはフルールと面識があり、何度もこの屋敷に遊びに来ている。テーヴァスにとってフルールからもたらされた報告は信頼に値するものである。

「スキルか」

「はっ。今回の王都帰還について、シオン様がお一人でウォータードラゴンを倒せるようになる為のヒントを得るという名目で話を進めました。
 王城の宝物庫にある書物であればそれらしいものが手に入るのではと、殿下とのご面談へ向けて調整した次第です」

「ウォータードラゴン? 私でも一人では厳しい相手だぞ」

 聞かせるつもりで出た言葉ではないその言葉に、レリックが激しく反応を見せる。

「そんな!? 閣下であれば瞬く間に片付けてしまうに違いありません!
 現にご子息であらせられるシオン様は、あと少しという所まで一人で戦っておられました!!」

 身振り手振りを交えて興奮して話すレリック。今にも立ち上がりそうな勢いだ。

「ほう、我が息子ながらなかなか頼もしい話だな。しかしレリック、落ち着け」

「も、申し訳ございません」

 構わん、と手をひらひらと振るテーヴァス。このやり取りは幾度となく行われており、テーヴァスの対応も慣れたものだ。

 レリックは元々行商人の息子として生まれた。家族三人でレオーネ王国内を転々としていたが、旅の途中で魔物の群れに襲われた。
 その際にたまたま通りかかった当時の勇者パーティーに助けられたのだ。
 残念ながら両親は助からなかったが、レリックは勇者テーヴァスの勧めで孤児院へ入る事になった。フォルツァ侯爵家が支援を行っている孤児院で、直接の運営はレリヒー教会が行っている。
 テーヴァスへの憧れから日々身体を動かしたり、魔法を習得すべく鍛錬に勤しんだ結果、秘密部隊という教会の実行部隊への入隊を許された。
 つまり、レリックにとってテーヴァスは命の恩人であり、憧れの英雄なのである。

「ウォータードラゴンに一人で立ち向かい、大きな怪我はなかったという事か。勇敢なのか向こう見ずなのか……」

「シオン様はご立派に勇者の務めを果たそうとされております。しかし、スキルを持っていないという思い込みが負の影響を及ぼす可能性があるのも事実」

「そうだな、それについてはいずれシオンに話さねばならん。しかし、今ではない」

 自ら稽古を付け、複数の家庭教師を使ってマナーから勉強から叩き込んで育てた。
 しかしまだ十歳の子供。疑う事を知らぬ性格も相まって、悪意に対して鈍感であると言わざるを得ない。
 今は勇者パーティーという小さく薄い保護膜を通して世界に触れさせ、慣らしてやる事こそ優先すべきか。

(追放される事によってスキルを得る、か)

 実際にお膳立てしてスキルを得たという状況を作ってやるのも手かもしれないが、すでに手にしているスキルはパーティーの能力を著しく向上させるというもの。
 仲間から追放されたシオンが仲間の能力に働きかけるスキルを手に入れるというのは、皮肉な昔話のようでしっくり来ない。

「ううむ、この件は保留としてしばらく様子を見てくれ」

「はっ、畏まりました」

 テーヴァスは問題を先送りにした。頭よりも身体を使う事の方が多い勇者だったのだ。
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