四人の聖女に囲まれて身も心もボロボロです

なつのさんち

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ずけずけと人の心を読む聖女

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 俺は孤児だ。身寄りがない。
 村が襲われて全滅。俺以外に生き残りはいなかったらしい。
 物心もついていなかった俺は、教会の孤児院に引き取られて育てられた。
 両親の顔すら覚えていない。
 俺と似た境遇の子供達と寝食を共にして、いずれは魔物を討つ冒険者になろうと誓っていた。

 十六歳になり、そろそろ孤児院を出て一人で生活をするべきかと考え始めたそんなある日、孤児院に俺を訪ねて来客があった。
 その客は自らを聖女の遣いであると名乗り、俺を迎えに来たと言った。
 何でも俺は神に選ばれし勇者であり、いずれこの国を襲うであろう魔王と立ち向かう運命である、と。

 俺は二つ返事で了承し、次の日にはその遣いに着いて旅立った。
 孤児院の先生や仲間と別れるのは辛かったが、強くなって帰って来ると約束を交わした。
 仲間達は孤児院で鍛錬を続けると言っていた。俺に手助けが必要になったら応えられるよう準備しておくと。
 そんな仲間達の分も、俺は強くなって魔王を倒そうと誓ったのだ。

 聖女の遣いに連れられて到着したのは山間にある小さな里だった。
 遣いが言うには、ここは聖女が暮らす秘密の里で、他言してはならないと。
 何故俺が聖女の里に呼ばれたのだろう。
 不思議に思いながらも案内されるまま、大きな屋敷へと入った。

「あら、随分と遅かったわね。セバスチャン、後でお仕置きよ」

「はっ! 申し訳ございませんテレス様」

 聖女の遣い、セバスチャンが床に膝をついて謝っている。若干表情が嬉しそうなのは気のせいか……?

「それで、そっちの男が例の少年ね」

 俺を品定めするかのような視線でジロジロと見る真っ白なドレス姿の女。
 これが聖女? 確かに容姿端麗、キラキラと輝く金髪。
 その見た目から神聖なる何かを感じるような気がするが、今のお仕置き発言だけでもう聖女っぽくない。

「あら、綺麗で可愛くて神々しいって? 聖女ではなく女神ではないかって?」

 何を言っているんだこの女は。これは聖女ではないな、聖女付きの侍女か何かだろう。
 いや、聖女付きの侍女であればそれなりの教育を受けているはずである。たまたま遊びに来た村娘か。

「失礼ね、私は正真正銘の聖女よ」

 ん? この女、一人で話しているが頭は大丈夫か?

「いい加減気付きなさいよ、あなたの心を読んでいるのよ」

「俺の心を? はっ、そんな話信じるかよ」

 こんな女が聖女な訳がない。聖女ってのは……

「聖女ってのは慎ましく儚く健気で世の平穏を日々祈っている、崇められるべき存在であると。
 聖女に夢見過ぎじゃない?」

 ……思っている事を全て言い当てられてしまった。

「ね? 信じる気になった?
 ま、あなたが信じようが疑おうが、私が変わる訳じゃないけどね」

 それより、と聖女が未だ膝をついたままのセバスチャンの前に立ち、ドレスの裾を持ち脚を上げてセバスチャンの胸を蹴飛ばした。

「あんたちゃんと話してなかったの? 帰りは遅いし説明はしてないし、ホント使えないわね!」

「申し訳ございません! あぁ申し訳ございません!!」

 床に仰向けになって倒れたセバスチャンが、その格好のまま聖女へ謝っている。
 何だこれは、悪夢か何かか?

「ちっ、次はないわよ!」

 舌打ちした!? 聖女が舌打ちとか……。

「はぁ、私の名前はテレス。あなたはアースね、知ってる」


 これが俺の最悪な日々の一日目だった。

 
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