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無口な毒舌の聖女
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山間にある里。その中心にある大きな屋敷。
俺が連れて来られた目的は、聖女の話し相手だと明かされた。
「いやいやいやセバスチャンさん! 話が違うじゃないですか!!」
「すみません、私は聖女様の命を受けてお迎えに上がっただけですので……」
「いや、勇者は!? 神に選ばれたって話は!?」
すみませんすみません、と頭を下げながら部屋を出て行った。
完全に騙された形になってしまった。これは事件では? 誘拐事件じゃない?
しかしじゃあ逃げるか助けを求めるかというのは少し性急な気がした。
もう少し様子を見てから考える事にしよう。
俺に用意されたという部屋。ベッドとタンスがあるだけの部屋だが、今まで一人で寝るという経験がなかったので落ち着かない。
「あら、じゃあ今夜は一緒に寝てあげましょうか?」
「うわっ!?」
部屋の扉が勢い良く開き、テレスが入って来た。
「呼び捨てするつもり? 私は聖女よ、例え心の中であってもテレス様と呼ぶべきではなくて?」
「ノックもしないような女を聖女だなんて認めねぇよ!」
「ひぃっ!?」
女の子がびっくりしたような声を上げた。テレスの背中に隠れていたようだ。
「ほら、ププルが怯えているじゃない」
小さな女の子、歳は十歳くらいか?
「ごめんね、ププルちゃん。俺の名前はアース。
そこのテレスに呼ばれたらしくてね、今日からここに住むらしい」
「聖女をちゃん付け? あなたなかなか大きな態度を見せるわね」
ん? もしかしてププルちゃんも聖女なのだろうか。
何となくのイメージで、聖女は一人だと思っていたが。
「そしてあなたをここへ呼ぶきっかけになったのはこのププルの予言よ。
つまりあなたを呼んだのは私ではなくてププルって事になるわね」
予言、これから起こる事を言い当てるという神からのお告げか。
テレスは人の心を読む事が出来て、ププルちゃんは予言が出来る、と。
「そういう事ね。
つまり、聖女の定義としては神から人ならざる力を授けられた女性、という事よ。
あなたがイメージする慎ましく儚く健気で云々かんぬんは関係ないの。分かった?」
いや、分かりたくない。
「あっそ。ププルが自分の予言で連れて来られた男の顔を確認したいって言ったから来ただけだから。
どう? ププル、もういい?」
「………………」
テレスの影に隠れながら、じぃ~っと俺を見てくるププルちゃん。
テレスと同じような白いドレス。銀色の長い髪の毛を編み込んで背中で纏めている。
テレスに比べれば聖女っぽい気もするな。
「ちょっとププル、そこまで言わなくてもいいでしょう?
ホントあんたは心の中では毒舌よねぇ」
前言撤回。容姿はともかく性格はテレスと同じく聖女とは言い難いようだ。
「だからね、アース。あなた聖女に夢見過ぎよ?
そんなんじゃ明日から大変なんだから」
何が大変だと言うのか。というか俺はここで何をすればいいのだろうか。
勇者であるという嘘をつかれ、ここに連れて来られた理由は何なのだろうか。
「それは追々という事で。とりあえず今は部屋で休んでなさい。
夕食の用意が出来れば誰かが呼びに来ると思うから」
部屋で休もうとしていたところに二人が入り込んで来たんだが。
まぁ声に出しては言うまい。
「全部聞こえてるんだけどね。まぁいいわ、じゃあね」
ヒラヒラと手を振ってテレスが部屋を出て行った。
ププルちゃんもテレスの腰に引っ付いて出て行ったのだが、扉が閉まる寸前に俺へ向けて小さく手を振ってくれたような気がした。
その後新たな来訪者はなく、何もない部屋で一人、落ち着きなく寝たり起きたり歩いたりして過ごした。
俺が連れて来られた目的は、聖女の話し相手だと明かされた。
「いやいやいやセバスチャンさん! 話が違うじゃないですか!!」
「すみません、私は聖女様の命を受けてお迎えに上がっただけですので……」
「いや、勇者は!? 神に選ばれたって話は!?」
すみませんすみません、と頭を下げながら部屋を出て行った。
完全に騙された形になってしまった。これは事件では? 誘拐事件じゃない?
しかしじゃあ逃げるか助けを求めるかというのは少し性急な気がした。
もう少し様子を見てから考える事にしよう。
俺に用意されたという部屋。ベッドとタンスがあるだけの部屋だが、今まで一人で寝るという経験がなかったので落ち着かない。
「あら、じゃあ今夜は一緒に寝てあげましょうか?」
「うわっ!?」
部屋の扉が勢い良く開き、テレスが入って来た。
「呼び捨てするつもり? 私は聖女よ、例え心の中であってもテレス様と呼ぶべきではなくて?」
「ノックもしないような女を聖女だなんて認めねぇよ!」
「ひぃっ!?」
女の子がびっくりしたような声を上げた。テレスの背中に隠れていたようだ。
「ほら、ププルが怯えているじゃない」
小さな女の子、歳は十歳くらいか?
「ごめんね、ププルちゃん。俺の名前はアース。
そこのテレスに呼ばれたらしくてね、今日からここに住むらしい」
「聖女をちゃん付け? あなたなかなか大きな態度を見せるわね」
ん? もしかしてププルちゃんも聖女なのだろうか。
何となくのイメージで、聖女は一人だと思っていたが。
「そしてあなたをここへ呼ぶきっかけになったのはこのププルの予言よ。
つまりあなたを呼んだのは私ではなくてププルって事になるわね」
予言、これから起こる事を言い当てるという神からのお告げか。
テレスは人の心を読む事が出来て、ププルちゃんは予言が出来る、と。
「そういう事ね。
つまり、聖女の定義としては神から人ならざる力を授けられた女性、という事よ。
あなたがイメージする慎ましく儚く健気で云々かんぬんは関係ないの。分かった?」
いや、分かりたくない。
「あっそ。ププルが自分の予言で連れて来られた男の顔を確認したいって言ったから来ただけだから。
どう? ププル、もういい?」
「………………」
テレスの影に隠れながら、じぃ~っと俺を見てくるププルちゃん。
テレスと同じような白いドレス。銀色の長い髪の毛を編み込んで背中で纏めている。
テレスに比べれば聖女っぽい気もするな。
「ちょっとププル、そこまで言わなくてもいいでしょう?
ホントあんたは心の中では毒舌よねぇ」
前言撤回。容姿はともかく性格はテレスと同じく聖女とは言い難いようだ。
「だからね、アース。あなた聖女に夢見過ぎよ?
そんなんじゃ明日から大変なんだから」
何が大変だと言うのか。というか俺はここで何をすればいいのだろうか。
勇者であるという嘘をつかれ、ここに連れて来られた理由は何なのだろうか。
「それは追々という事で。とりあえず今は部屋で休んでなさい。
夕食の用意が出来れば誰かが呼びに来ると思うから」
部屋で休もうとしていたところに二人が入り込んで来たんだが。
まぁ声に出しては言うまい。
「全部聞こえてるんだけどね。まぁいいわ、じゃあね」
ヒラヒラと手を振ってテレスが部屋を出て行った。
ププルちゃんもテレスの腰に引っ付いて出て行ったのだが、扉が閉まる寸前に俺へ向けて小さく手を振ってくれたような気がした。
その後新たな来訪者はなく、何もない部屋で一人、落ち着きなく寝たり起きたり歩いたりして過ごした。
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