四人の聖女に囲まれて身も心もボロボロです

なつのさんち

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聖女と死の腕立て伏せ

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 目が覚めると、自分の部屋のベッドに寝かされていた。

「食べる?」

 ベッド横にテーブルが置かれており、椅子に座ったテレスが声を掛けて来た。
 テーブルにはパンとスープとサラダ。朝食のようだ。
 あんだけボロボロにされたのに、すぐに食べられる訳ないじゃないか。

「ちゃんと自分の身体を確認なさい。聖女のキスを受けたでしょう?」

 ……そう言えば痛みがない。痛みを感じないほどやられた可能性も否定出来ないが、手も足も問題なく動かせる。
 焼けでボロボロになったはずの服も新しい物に着替えさせられているようだ。

「ルヴァンのキスか、あの状態からでも治せるのか。正直死んだと思ったぞ」

「言ったでしょ? ルヴァンが一番聖女っぽいって。
 さ、早くこれを食べてしまいなさい。みんな待ってるわ」

 待ってるわ……?

「鍛錬の続きよ」


 テレスに急かされて朝食を手早く済ませ、言われるがまま屋敷の外に出る。

「いーち! にー! さーん! しー!」

 マルスの太い掛け声に合わせ、ルヴァンが腕立て伏せをしている。
 その隣にププルの姿が。こちらは腕立て伏せではなくただ身体を支えてプルプルしているだけだが。
 ププルだけにプルプル……。

「そんなしょうもない事を考えられるくらい精神的にも余裕があるって事と見なすわ。
 さぁ、あなたも一緒にやるのよ」

 白いドレス姿の聖女四人に交じり、俺も腕立て伏せをする。
 孤児院にいた頃から筋トレは毎日の習慣としてやっていたので、これくらい訳もない。

「よし、テレスとププルとルヴァンは休憩。
 アース、腕立て五百回!」

「はぁ!? いくらなんでもそれは無理だろ!!」

「やる前から無理だと決めつけるな! 今朝の続きでもいいんだぞ!?」

 先ほどは戦闘狂だったマルスだが、今は鬼教官のような雰囲気だ。
 またボコボコにされるのも嫌なので、素直に腕立て伏せを続ける。

「私に口答えした罰だ、ププル! アースの背中に乗れ」

 ふるふるふる! と全力で首を横に振るププル。そんなに嫌か?

「あら、残念そうね? 小さな女の子に乗ってもらえると思ったのにね?」

「そんな事は思ってない!」

 テレスと捏造を受けて、ププルはゴミを見るような目で俺を見て来る。ルヴァンはケラケラと笑いながらワインを飲んでいる。
 何なんだここは……。

「じゃあ代わりに私が乗ってあげるわ。感謝しなさい」

 俺の背中に腰掛けるテレス。その乗り方だとバランスが取りにくいんだが。

「何? 背中に抱き着いてほしいの? いやらしい……」

「そんな事思ってないってお前には分かってるよな!?」

 何なんだよマジで!!
 マルスが早くしろとうるさいので、言われた通りテレスを乗せたまま腕立て伏せを開始する。
 五十回までは何とかなったが、それ以上は腕が震えて持ち上げるのがキツイ。

「アイスランス!!」

 マルスの詠唱と共に地面から先の尖った氷がせり上がって来た。頬を掠めて血がつつつっと流れる。

「ちょ!? 危ねぇだろ!!」

「次は顔の真下から出す。直撃したくなければしっかりと身体を持ち上げる事だな」

 脅しか? そもそも魔法がそんなホイホイ使える訳ないだろ。
 さっきもファイヤーボールとウォーターボールを出していた。魔法が使えると言っても魔力が無尽蔵にある訳ではないはずだ。
 日に何回か使える程度だろう。ここぞという瞬間に魔法を撃ち込むのが魔法使いの戦い方だと聞いた事がある。

「マルスの魔力は無尽蔵よ。体力も。
 そんじょそこらの魔法使いや戦士と同じ程度であれば、わざわざ聖女だなんて言わないでしょ?」

 頭上がからテレスの声が聞こえた。その瞬間。
 目の前の地面からゆっくりと、ぬぬぬと氷がせり上がって来た。
 飛び退こうにも背中にはテレスが乗っている。俺が避ける事でテレスにこの氷が突き刺さるかもしれない。
 腕を目一杯伸ばして顔を反らす事で氷を回避。氷はまたぬぬぬっと下がって行った。

「た、助かった……」

 バタンと身体を倒し、地面に突っ伏していると、俺の両肩を鋭い痛みが走った。

「ギャーーー!!!」

「腕立て伏せだと言っているだろう!」

 マルスが俺の両肩を氷で貫きやがったようだ。あまりの痛みに意識が遠のいていく……。

「あら、またルヴァンの熱いキッスをしてほしいのね」

 その言葉を受けてグッと心を強く持とうとしたが、新たな氷の刃で脇腹や太ももなど複数個所を刺されてしまい、今度こそ本当に意識を失った。

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