四人の聖女に囲まれて身も心もボロボロです

なつのさんち

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戦闘狂な聖女

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「さぁさぁ掛かって来なぁ!! ヤっちゃうよー? ヤっちゃうよー? ギャハハハハッ!」

 殺される!!

 四人の聖女が隠れ住む里に連れて来られたのが昨日。
 テレスにある事ない事言われながら夕食を共にし、その後はすんなりと自分の部屋へ戻れた。
 ルヴァンがしきりに部屋に誘って来たが断固拒否した。寝込みを襲われるかと警戒したがそんな事はなかった。
 無理矢理キスはされたが、そこまでめちゃくちゃではないのかと思い、夜遅めに就寝。
 そしていつも起きる時間に目を開けると、そこにはマルスが立っていた。
 マルスは俺が起きたのを確認し、着いて来るよう言って部屋を出た。
 何をするつもりか分からないままその背中を追いかけていると、外に出て木で出来た剣を渡された。
 その結果が冒頭のシーンである。

 どうやらマルスは戦闘狂のようだ。稽古が始まってすぐに人が変わったように笑い声を上げ、とても楽しそうに俺の頭や腕を叩いて来る。
 恐らく骨の一本や二本や三本四本くらい折れていると思う。
 それでも今俺が立っているのは、一重に殺されたくないからだ。

「ほれほれ足元がお留守だ! 足と見せかけて腹! そして膝そこから肩!!」

 めちゃくちゃだ。自分の身を守る事すら出来ず、ただ頭を守って立っているのが精いっぱい。この女のスタミナが切れるのはいつだ?
 走って逃げようにも負傷しているので踏み出せない。

「マルス様、朝食の用意が出来ました」

「せ、セバスチャンさん! 助けて下さいよ!!」

 俺の助けに深々と一礼して返し、セバスチャンさんが屋敷へ戻っていく。そんな殺生な!

「殺生事になりたくなければ必死で守りなさいな」

 いつの間にか俺の後ろにギャラリーがいた。テレスにルヴァンだ。ルヴァンは朝からワインを引っかけている。 

「ププルは朝が弱いからまだ寝てるわよ」

「そんな事考えている余裕はねぇよ!!」

 テレスに返事している間もマルスの剣が俺を絶え間なく襲う。これは稽古ではなくリンチというやつでは?
 新入りに対してどちらが上かを思い知らさせる為の儀式では?
 孤児院でも入った日にその儀式を受けたが返り討ちにしてやったのを思い出した。
 それ以降孤児院でその儀式は行われなくなったのだ。俺が止めさせたから。

「あら、走馬灯を見ているのかしら」

 勘弁してくれ……。
 俺の人生において、ここまで窮地に立たされた経験はないぞ。走馬灯を見たとしてもこの場を切り抜ける有効な手段は思い出せそうにない。

「マルス、ルヴァンがいるから終わらせてしまっていいわよ」

 ルヴァンがいるから? 次はルヴァンの相手をしろという事か? 俺はもうこれ以上無理だぞ!?

「ギャハハハハッ! 初日にしてはよく持った方だと思うがな、明日はもっと楽しませてくれよ?」

 おぉ? マルスが剣を放り投げた。終わりか? 終わりなのか?

「えぇ、終わりね」

 マルスが両腕を伸ばし、手のひらを俺の方へ向ける。目を閉じて何かぶつぶつと唱えているようだ。
 もしかしてこれって……!?

「ファイヤーボール!!」

 マルスの声と共に手のひらから大きな火の玉が飛び出し、俺に向かって来た。飛び退きたいが後ろにはテレスとルヴァンがいる。
 避けたら二人が危ない! どうすればいい、どうすれば……!?
 考えている内に手が動いた。剣を上段で構え、火の玉目掛けて振り下ろす!!


 ボーーーーー!!!

 あっつぅぅぅ!! 剣を放り投げ、燃えている服を叩く。ってか髪の毛も燃えてね!?
 地面に寝て転がり、全身を土に擦り付けて消火する。消えないんだけど!?

「ウォーターボール!!」

 ジューーーー!!!

 全身に大量の水が降り注いだ。火は消えたが、大量の水を浴びせられてびちょびちょ。マルスの剣で折れた骨や傷、そして疲労も相まって動けなくなってしまった。
 このまま意識を失いそうだな、もしかしたら死ぬかもしれん……。

 ぶちゅー、れろれろぴちゃぬちょ。

 酒臭っ!? え、何?

「何、じゃないわよ。あなたがボロボロだからルヴァンが聖女のキスで回復させてんでしょうが」

 目を開けると、俺の口とルヴァンの口に薄い赤色の唾液で出来た橋が架かっていた。ワイン色……。
 今度こそ本当に、俺は意識を失った。 

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