世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

文字の大きさ
4 / 72
Main story

圧倒的非日常感

しおりを挟む

「「行ってきまーす」」

 朝食を済ませた後、学ランへ着替えて母さんから弁当を受け取る。
 伊千香いちか羽那子はなこと共に玄関で靴を履く。父さんは先に会社へ向かった。
 俺の記憶が確かならば、いつもは羽那子どころか伊千香とも一緒に家を出る事はない。
 妹とは決して仲が悪い訳ではないが、中学三年生の女の子が毎朝兄と一緒に家を出る方がおかしいと思っていた。
 だから逆に、今俺は日常を過ごしていない。圧倒的非日常感。

伊千郎いちろう、無理しないようにね」

「はいはい」

 何だかんだ、やはり母親だ。母さん目線ではどうもいつもと様子が違う息子に映っているだろうからな。
 ただ俺目線で見ると、家族全員がいつもと様子が違う訳だけど。

 まぁそれももうすぐ変わるだろう。学校までは歩いて15分。クラスメートに会えば、俺の身の回りに起きている不思議な出来事に気付いてくれるはずだ。

「じゃあここで。はなちゃん、お兄ちゃんをお願いね?」

「大丈夫だよ。いっちゃんこそ気を付けてね」

 伊千香が十字路を右に曲がり、その先で待っていた友達のみっちゃんと合流する。みっちゃんが俺に向けてぺこりと頭を下げてくた。
 伊千香にみっちゃんと呼ばれている女の子。同じクラスで、たまにうちに遊びに来るから面識がある。
 羽那子はみっちゃんの事、知ってるだろうか。カマを掛けてみるか。

「羽那子、あの子の名前何だったっけ?」

 みっちゃんに向けて小さく手を振っていた羽那子が、考える素振りすら見せずに答える。

及川おいかわ光代みつよちゃんでしょ? 普段みっちゃんとしか呼ばないから自信はないけど」

 よく考えたら、俺みっちゃんのフルネーム知らないわ。合ってるかどうか分からん。でもみっちゃんというあだ名は合ってた。
 うーん、微妙。

「さて、2人きりになった訳だけど、無理に思い出そうとしなくていいからね?」

 何がさてなのか分からないが、俺を気遣っている風なのは分かる。あくまで風だ。だって、俺は元々この女の子を知らない。
 だから、俺の『元々知らない』という感覚が正しければ、この女の子だって俺の事を知らなかったはずだ。はずなのだ。だから風だ。
 俺とこの子が一緒に登校するのは、今日が初めてのはずなのだ。

「なぁ、本当に俺と羽那子って幼馴染なのか? 全く実感がないんだ。まるで羽那子が降って湧いたみたいだ」

「人をボウフラみたいに言わないでよ」

 ケラケラと笑う羽那子。いや、君の立場からすれば笑っている場合ではないと思うんだけど。

「はぁお腹痛い、もう歩けないじゃん」

 その場で立ち止まる羽那子。その背中をトンと叩いて声を掛けるセーラー服姿の女の子。

「おっはー、はな。今日も朝から夫婦漫才してんの?」

「おはよー、りなりん。いっくんのせいでお腹痛いの」

「えー、ちゃんと避妊しなさいってあれだけ言ったのにー」

「違うよ、あたし達そんなヘマはしないから」

「いやそもそも何もしてないからな!?」

 何で普通に会話してんだ、まるで最初から知ってる友達同士なんだが……。
 羽那子がりなりんと呼ぶ子ははやし里奈りな。俺と同じクラスで、俺でもたまに話をするくらいフランクな性格のギャルっぽい女の子。
 その子と普通に会話をする羽那子。降って湧いた説は間違いなのか……?

「おはよー、朝からやってんなー」
「見せつけられる方の身にもなってみろっての!」
「ひゅーひゅー」
「ふーふー」
「私も先輩達みたいに仲の良い恋人欲しいな~」
「くそっ、後輩がイチャイチャしてるせいで一夜漬けした内容全部飛んでった!」

 おい、何でみんな羽那子の事知ってるんだよ!?
 羽那子も先輩や後輩関係なく手を振って愛想振りまいてるし。

「何でみんな俺らの事知ってんだ……?」

「去年の学園祭でベストカップル賞に選ばれたあんた達の事を知らない生徒がいる訳ないでしょ? 今さら何言ってんの?」

 えっとりなりんさん、ベストカップル賞って何です……?
 あれ、もしかしてこれ、マジで世界で俺だけが幼馴染の事を知らないって事か……?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...