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Main story
妹の戸惑い
しおりを挟む「たまにこっちに帰って来てたけどな、おじいちゃんの家があるから」
「そっかー、じゃあどっかですれ違ってたかもねー」
東条さんと羽那子が楽しそうに話しているのを眺めつつ、後ろをついて歩く。
俺の隣には唇を尖らせて東条さんの背中を見つめる伊千香。中学の制服もセーラー服なので、東条さんが着るブレザーの制服が珍しいのだろうか。
「こっちの高校に転校するっていうてもさ、まさかイチローのいる高校でそれも同じクラスになるなんて思ってもみんかったからビックリしたわ」
「運命や! って叫んでたもんねー」
二人が振り返って俺の顔を見る。いや、確かに俺もビックリしたけども。
「そう言えば東条さんはあの後教科書受け取ったの?」
東条さんは六時間目の授業後、すぐに職員室に行ったらしいからその時に教科書など必要なものを受け取っているんじゃないだろうか。
「うん、もらったで。
あ、ほな今日は机くっ付けられへんな。しもた、まだやて言うたら良かったわ」
イタズラっ子のような笑みを浮かべる東条さん。そして何故か俺を睨みつける伊千香。
「ってかイチローって昔はみっきーの事呼び捨てにしてたんでしょ?
せっかく再会したんだし当時みたいに美紀って呼べばいいじゃん」
羽那子のその言葉を聞き、伊千香が大きく口を開ける。は? みたいな表情。
昨夜の言い方を鑑みるに、羽那子はとにかく自分と東条さんを同じラインに置きたいのだろう。
ゼロからのスタート、でもあたしは幼馴染で家は隣。好きな時に会える。
だからその分みっきーといっくんで連絡先を交換させ、呼び方も昔のものにすれば、その分距離が近くなる。
だいたいそんな考えだと思う。知らんけど。
「何で……!」
だからってそれを受けて伊千香が怒る理由が分からない。両手を握り締めて立ち止まってしまった。
「いっちゃん、どうしたの?」
羽那子が声を掛けると、はじかれたように顔を上げ、キッと羽那子を睨み付けた。
「私先に行くね!」
タッタッタッと走り去っていく伊千香。
「何であいつが怒るんだ?」
「あー……。仲が良い二人の間に突然うちが割って入ったように見えるからやと思うよ」
だとしても、東条さんが申し訳なく思う必要はないんだけどな。悪いのは羽那子だ。
伊千香目線で考えると相当訳分からん状況だと思うしな。いや、それ以上に俺が一番訳分かってないんだけど。
「帰ったらあたしから言っとくよ。みっきーは気にしないで」
いや気にするでしょう。
でも気にしても仕方ないな。特殊な状況ではあるが、伊千香は当事者ではないので何とかやり過ごしてほしい。
俺が自分の状況に慣れるよりも早く順応出来るはずだ。
とはいえ、妹の行動で東条さんを困らせてしまった。兄として謝っておくべきか。
「東条さん、ごめんな。あいつもその、混乱してるんだと思うんだ」
「うん、昨日テレビ電話で話聞いた。はなちゃんの記憶がなくなったんやって?
それが元で伊千香さんが戸惑うのも分かる。
イチローも謝らんとって。一番大変なんはイチローなんやから」
羽那子から東条さんに話してたのか。
まぁスタートラインに立って、よーいドンをする為には説明が必要だよな。
「そう言ってくれると助かる」
「違うでしょいっくん。美紀って呼ぶんだよ?」
いやお前はちょっと黙れ。前のめり過ぎるわ!
東条さんを見るとはにかみながらも俺の様子を伺って来る。
こういう、俺が言うのを待ってますよっていう空気感すごい苦手。逃げたくなる。
でも伊千香が走って先に行ってしまったのを謝った以上、俺が走って逃げるのはダメだろう。
こういうのは何でもないよって顔で呼び捨てしてしまうに限る。
変に意識するから恥ずかしかったり不自然になったりするんだ。冷静に冷静に。
ただ名前を呼ぶだけ。小さい頃はそう呼んでたんだから、大丈夫。うん。
「分かったよ。
美紀、ありがとうな」
「えっ、何この急展開!」
「伊千郎お前、はなちゃんという者がありながら!!」
面倒なタイミングで会うなぁ! おはよう二人とも!!
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