世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

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Main story

伊千香の認識

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 夕食。もちろん羽那子はなこは水着を脱いで部屋着に着替えている。
 俺の部屋の窓から羽那子が自分の部屋へ戻る際、その後ろ姿を見て伊千香いちかが大きなため息を吐いていた。
 妹よ、もうあっち側に戻るんじゃないぞ。
 対する美紀みきは「幼馴染みの定番やぁ~~~!」と興奮して羽那子のケツに付いて行った。彼女はもう戻ってこれないと思われる。

「そう、元々はこっちに住んでたのねぇ」

「はい、そうなんです。父の会社の本社が駅前にあるんですよ」

 そんな美紀だが、うちの両親には礼儀正しく大人しめ。なかなか直せないという関西弁も控えめ。
 借りてきた猫というのはこういう状態の事を言うのだろうな。

「それが引っ越した後にキャンプ合宿で伊千郎いちろうと友達になったのか。
 不思議なご縁だなぁ」

 父さんは娘である伊千香と赤ん坊の頃から知っている羽那子がいるからか、年頃の娘さん相手でも自然に話す。
 羽那子と美紀が手伝って作ったハンバーグをパクパク食べている。

「お布団はあれで良かった?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

寿々音すずねさんには私から連絡しておいたけど、はなちゃんからもちゃんと伝えておくのよ?」

「分かった-」

 そう言えば、未だに羽那子の両親を見ていないな。いつもいつ帰って来ていつ出掛けて行くのか。
 母さんはやり取りをしているようだけど、羽那子の口から親に関する情報はほとんど出て来ない。

「お風呂はどうするの? 入りに帰る?
 うちのお風呂は伊千郎が洗ってくれてるからすぐに入れるけど」

「いや、羽那子の家で入ればいいだろう。美紀が泊まるのはあくまで羽那子の家なんだから」

 こっちで入られたら何に巻き込まれるか分からん。

「えー、こっちで入りたいのに。いっくんも一緒に入ろうよ」

 ね? と羽那子が美紀に同意を求める。
 美紀は頬張ったハンバーグが変なところに入ったようで、慌ててお茶に手を伸ばしている。

「はなちゃん、家で入った方がいいよ。
 お兄ちゃんはもうシャワー浴びたから入らないよ」

 伊千香が我に返った事で、強い味方となってくれた。
 いや、至極当たり前の事を言っているだけなんだけど。
 悪ノリで俺を追い詰めて来ないだけで十分か。

「はっはっはっ、はなちゃんが伊千郎とお風呂入ってたぞなんて言ったら源にぃは何で言うかな?
 今すぐ籍入れろって言うかもしれんな!」

 何が面白いのか。父さんは口を大きく開けて笑う。

「パパ、食事中だよ」

「おっと、すまんすまん」

 羽那子が何か言おうとするのを牽制し、伊千香が父さんへ行儀が悪いと怒る。
 伊千香が羽那子に対して睨みを効かせている状態。
 俺と羽那子の関係性が変わってしまうのを恐れていた伊千香はどこに行ったのか。
 いや、ある意味では現状を維持しようとしていると言える。
 俺の記憶がなくなり、伊千香にとって羽那子は兄の恋人ではなく幼馴染みという認識に戻したのだろう。
 であれば、改めて俺と羽那子がくっつけば、それは変化になる。
 ……いや、考え過ぎか。
 単に羽那子がやり過ぎているのに気付いただけだろう。

「うちよりはなちゃんの家のお風呂の方が広いんだからそっちで入ろうよ。
 美紀さん、三人で一緒に入りません?」

「うん、そうしよっか。何か合宿みたいで楽しいなぁ」

 伊千香が美紀を取り込んだ。
 羽那子もそれに同意して、俺と風呂に入る云々の話は流れた。
 伊千香が頼もしい。いつまでも俺の味方であってほしいものだ。

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