世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

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Main story

夜の勉強会

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 伊千香いちか羽那子はなこから離反した事で、勉強の進みが確実に早くなった。
 まぁ離反と言うほど大袈裟なものではないが。ただ悪ノリをしなくなったというだけだ。
 美紀みきは元々真面目な性格なので、一度集中してしまえば自分からふざけた事を言い出す事はない。
 やはり問題は羽那子なのだ。

 俺と幼馴染みであるというこの女の子。
 どこか掴めない性格。
 恋人であったという幼馴染みとの距離感に悩んでいたという告白。
 だから現状をリセットしてリスタートするのは自分にとっても良い事だと受け止める姿勢。
 そして、ライバルであるはずの美紀と仲良くしようという人懐っこさ。

「みっきー、ここなんだけどさ-」

「どれどれ? あぁ、そこは引っかけやなぁ」

 俺の部屋、同じテーブルに向かい合い仲良く話す女の子二人。
 そのどちらも、俺からすれば初対面に近い関係なのに。
 何故か、当たり前のようにお泊まりで勉強会を開いている。
 俺が主催した訳ではないが、初めて会ったに等しい羽那子が企画をし、初めて会ったに等しい美紀が誘いに応じ、古くからの付き合いである民人たみとはやしさんは参加を断ってきた。
 違和感しかない。おかしいだろう。まるでこれは……。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 俺の視線に気付いたのか、羽那子の隣に座っていた伊千香が立ち上がって学習机に座る俺の方へ近寄って来た。

「……何でもない」

 妹である伊千香から見れば、俺は幼馴染みである羽那子に関する記憶だけを喪失した兄である。
 努めて普通に接してくれてはいるが、やはり俺の事を心配してくれているのだろう。
 羽那子とくっつけようとしていた事も、元を正せば俺の為でもあったのだ。 
 恐らく羽那子の行動が伊千香の想像の遙か上を行っていた事で引いてしまったんだろうけど、以前と同じ人間関係に近付けば、俺の記憶が戻ると信じての行動だったのだろう。
 今は羽那子の事だけ一旦脇に置いておいて、俺の事だけを気に掛けてくれているんだと思う。

「ホントに? ホントに何でもない?」

 心配そうに俺の顔を覗き込む伊千香。
 いや心配してくれるのは嬉しいけど、さすがに顔が近過ぎないか?

「いっちゃんどうしたの?」

 ほら、羽那子が気付いた。あいつの事だからお前に対抗して顔を近付けて勢いでキスするくらいの事やってのけるぞ……。

「うん、ちょっとお兄ちゃん調子悪いみたいなんだよ。
 テストも近いしお兄ちゃんはもう横になってもらった方がいいと思う」

「え、イチロー大丈夫!? ごめんな、うちらがわちゃわちゃしてうるさくしたからかな……」

「大変じゃん! これは幼馴染みとしてあたしが看病してあげないと!!」

 勢い良く立ち上がる羽那子に向けて伊千香がバッ! と手のひらを向ける。

「待て!!!」

 羽那子がピンっ! と直立不動に。犬かよ。

「そんなにひどくはなさそうだけど、風邪は引き始めが肝心って言うから。
 はいお兄ちゃん、ベッド行って。早く!」

 背中をぱしぱし叩かれ、伊千香に促されながらベッドへ向かって横になった。
 心配そうな美紀と、どこか面白くなさそうな羽那子。
 伊千香が俺が横になってすぐ、自分の勉強道具を片付けて羽那子達を急かした。

「さぁさぁ、お兄ちゃんは寝たら元気になるから。続きははなちゃんの部屋でしよ、ね?
 元々美紀さんの勉強の遅れを取り戻す為の会なんでしょ? はなちゃんがお兄ちゃんの事を構ってたら、今回のお泊まりの意味がなくなるじゃん」

「でも……」

「でもじゃない! 今はお兄ちゃんの事より勉強優先。
 あ、幼馴染み特権は妹権限で使用を制限させてもらうね」

 伊千香が俺の部屋の窓の鍵を掛ける。
 そう言えば、俺は常のその鍵を閉めていたのに、羽那子が現れてからは一度も触った事がなかったな。

「うぅぅ、いっちゃんが意地悪する……」

「意地悪ちゃうやろ? お兄ちゃん想いのええ妹さんやんか」

 美紀も自分の荷物を片付けて、羽那子の部屋に行く準備が出来たようだ。

「ほらはなちゃん、行くよ!」

 美紀は俺にしっかり休むよう声を掛けて、部屋を出て行った。
 羽那子は捨てられた子犬のような表情をしていたが、伊千香に引っ張られて連れて行かれた。
 最後に伊千香が、また後で様子を見に来ると言い残して俺の部屋の電気を消して行った。
 三人は羽那子の部屋で勉強を続けるらしい。
 俺も正直、もう少し勉強の続きをしたいが、部屋の電気を点けると羽那子の部屋から見える。
 どうも伊千香は俺の体調を心配しているだけではない気がするので、一人で勉強を続けるのは伊千香の思惑から外れる事になる。
 ここは素直に従っておこう。

 俺は深呼吸をして、目を閉じた。

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