世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

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Main story

妹の忠告

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「ホントに送って行かなくていいのか?」

「大丈夫、明るい道だけを通って帰れるから」

 夕食後、しばらくして里奈りなが帰る時間に。
 伊千香いちかが一緒にお風呂に入ろうと誘いに来たが、里奈は着替えがないからとまた入ろうね、と言っていた。
 どうやらこの二人は一緒に風呂に入った事があるようだ。兄の彼女と一緒に入るもんなのだろうか。彼氏の家のお風呂に入る機会ってどんな時だ?
 そんな事を考えながら家の玄関の前に立ち、何度も振り返って手を振る里奈を見送った。
 家に戻りキッチンへ行くと伊千香が俺と里奈の分の食器を洗ってくれていた。

「ごめんな、洗い物も風呂の掃除も任せてしまって」

「いいよいいよ、風邪引いてる時くらい。
 それより里奈さんをもっと大切にしないとダメだよ」

 手を止めず顔だけ俺の方へ向け、伊千香は眉をひそめる。

「私ははなちゃんの事、幼馴染みとしては好きだしずっと仲良くしていきたいって思ってるけど、お兄ちゃんが絡むとはなちゃんは行き過ぎる。
 何て言うか、お兄ちゃんさえ自分の傍にいれば、後は何もいらないって思ってるように見えるんだよね」

 それがちょっと淋しかったりするんだけど、と続ける伊千香。
 
「はなちゃんはお兄ちゃんの事だけを見てる。お兄ちゃんの隣にいる里奈さんの事は目に入ってない。
 だからすっごく里奈さんは傷付いてると思う。
 その分、お兄ちゃんの方からはなちゃんと距離を作るべきだと思うよ。はなちゃんとではなく、里奈さんとのお付き合いを続けたいのであれば」

「そうだな……」

「あれ? 今日はやけに素直だね。おっと」

 伊千香のスマホが通知を告げる。伊千香は手を洗ってテーブルに置いていたスマホを取る。

「あ、里奈さんだ」

 兄の彼女とやり取りする女子中学生。伊千香がそんな事をするなんて想像もしていなかったのでビックリする。

「へー、何だ。私がごちゃごちゃ言う必要ないみたいだったね。
 お兄ちゃん、やるじゃん」

 ん? 何がやるじゃんなのか分からないが、里奈から俺の事についてメッセージが来た事は分かる。
 もう家に着いたんだろうか。
 よく考えると、里奈は俺の家族を知っているが、俺は里奈の家族も家がどこにあるかも知らない。 
 ちょっとこれは良くない状況だな。どこかのタイミングで確認しておかなくては。

「さて、お兄ちゃん先にお風呂行って来たら?
 私は洗い物終わらせたら友達に電話するつもりだから」

 スマホをテーブルに置き直し、伊千香が洗い物を再開する。
 友達と電話か。長くなりそうだし、さっさと先に入ってしまおう。
 部屋に戻り着替えを用意し、また階段を下りて脱衣所へ。少し迷ったが、扉に鍵を掛けておく。
 浴槽にお湯が溜めてあるが、俺は体調不良で学校を休んだ身だ。シャワーで済ませておく。
 浴室内のリモコンで給湯温度を少し上げ、熱めのお湯を浴びる。気持ちが良い。さっぱりする。
 全身洗い終え、バスタオルで身体を拭いてから脱衣所へ戻る。

ガチャ

 ん? 扉を開けようとしたのかな?

「伊千香か? もうすぐ出るからちょっとだけ待って」

 声を掛けたが返事はなかった。先に入れって言ったくせに。せっかちか?
 寝間着を着てから鍵を開け、脱衣所を出る。リビングやダイニングを探しても、伊千香はいなかった。
 階段を上がって伊千香の部屋の前を通ると、中から伊千香の声が聞こえる。どうやら電話をしているようだ。

『そう、お兄ちゃんがやっと気付いてくれたって里奈さんが喜んでて、私も嬉しくなっちゃってさ!』

 ……俺が聞いて良い内容じゃない気がするので、声は掛けずに通り過ぎる。
 少しわざとらしく音が鳴るように部屋の扉を閉め、ベッドに横になる。

 伊千香、誰と電話してるんだろう。学校の友達に兄とその恋人の事を相談してるとか?
 恥ずかしいから止めてほしい……。
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