世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

文字の大きさ
59 / 72
Main story

幼馴染との線引き

しおりを挟む
 東条とうじょう美紀みきという、ショートカットにした髪の毛をふわふわとセットしていた女の子が、この世界にはいないかもしれない。
 少なくない衝撃を受けたが、それでも俺が取り乱す事はなかった。
 いなかったはずの幼馴染、羽那子はなこ
 付き合ってなんかいないはずの恋人、里奈りな
 この二人の存在があるから、存在したはずの知り合って間もない女の子がいなくなったとて、それほどのショックではなかった。
 いや、単に麻痺しているだけかもしれない。
 目の前で伊千香いちかが羽那子をメッタ刺しにした。その衝撃が未だ残っているのだろう。

 口に出して、今日東条美紀という転校生が現れなかったかと、二人に質問する事はなかった。
 羽那子は美紀の事を知っている可能性が高い。里奈も可能性がないとは言い切れない。
 ここで二人に詰め寄って、どうなっているんだと喚いたとしても、何も変わらないのだ。
 それは、このアルバムが証明している。
 俺が知っている過去が、書き換えられている。
 時間が巻き戻されただけでなく、世界線すら跨いでしまっている。
 俺が元々いた世界の記憶との食い違いは、きっと幼馴染や恋人や転校生だけに留まらない。
 学校へ行けばさらなる相違点を目の当たりにするだろう。
 今は、分かっている範囲の変化について対応しよう。
 俺が変化に気付いていると羽那子に気取られた時、何が起こるか想像出来ない。

 知っている顔だが、中身が全く違う人間。
 世界丸ごとを書き換えられた、いや違う。
 この世界にとって、俺が異物なのだ。
 うっ、吐き気がする……。

伊千郎いちろう、顔色が悪くなってるけど大丈夫?」

「あぁ、ちょっと眩暈がしただけだ」

 里奈に心配を掛けたくない。
 俺が、ではないが、伊千郎は里奈に負い目がある。この子にこれ以上負担を掛けたくない。
 今のこの世界がいつまで続くのか、もはや俺には予想出来ない。
 次に目が覚めた瞬間、また俺を取り巻く人間関係が変わっているかもしれない。
 変わっていないかもしれない。このままずっと死ぬまで続くかもしれない。
 今は目の前の里奈と、真摯に向き合おう。
 今の伊千郎には出来ると思うから。

「そろそろ夕飯の支度が出来た頃かな。ちょっと様子見て来るね!」

 羽那子が立ち上がり、部屋を出て行った。
 あいつ、俺達と一緒にこの部屋で食べるつもりじゃないだろうな。

「二人分の夕飯、取って来るから待っててくれるか?」

「伊千郎……。ううん、私が取りに行くよ。無理しないでいいから。
 もし藤村ふじむらさんが一緒でもいいから。私、伊千郎が分かってくれているだけで嬉しいんだよ」

 分かっているだけじゃ、ダメだと思うぞ。
 幼馴染だからグイグイ来ても仕方ない。そんなのは間違ってる。
 どこかで線引きをしないとならない。
 例えそれが同性の幼馴染であろうが、恋人を優先すべき時や場合は必ずあるはずだ。
 やはり俺が取りに行こうと立ち上がった時、二人分の足音が階段を上がって来た。
 ノックの後、部屋の扉が開く。
 そこにいたのはお盆を持った母さんと、妹の伊千香だった。

「あら、立ち上がってどうしたの?
 夕飯を持って来たから、二人でゆっくり食べなさいね」

「里奈さん、こんばんはっ」

 羽那子ではなく、伊千香が手伝ってくれたようだ。
 母さんも伊千香も、幼馴染であっても引かなければならない線を理解してくれているという事。

「ありがとうございます。伊千子いちこさん、伊千香ちゃん」

「どういたしまして。
 風邪うつされないよう気を付けてよ? あ~ん、とかしたら一発でうつるんだからね」

 俺達を冷かしながら、二人は部屋を出て行った。
 俺達は静かに、でも楽しみながら夕飯を食べたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

処理中です...