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Main story
幼馴染との線引き
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東条美紀という、ショートカットにした髪の毛をふわふわとセットしていた女の子が、この世界にはいないかもしれない。
少なくない衝撃を受けたが、それでも俺が取り乱す事はなかった。
いなかったはずの幼馴染、羽那子。
付き合ってなんかいないはずの恋人、里奈。
この二人の存在があるから、存在したはずの知り合って間もない女の子がいなくなったとて、それほどのショックではなかった。
いや、単に麻痺しているだけかもしれない。
目の前で伊千香が羽那子をメッタ刺しにした。その衝撃が未だ残っているのだろう。
口に出して、今日東条美紀という転校生が現れなかったかと、二人に質問する事はなかった。
羽那子は美紀の事を知っている可能性が高い。里奈も可能性がないとは言い切れない。
ここで二人に詰め寄って、どうなっているんだと喚いたとしても、何も変わらないのだ。
それは、このアルバムが証明している。
俺が知っている過去が、書き換えられている。
時間が巻き戻されただけでなく、世界線すら跨いでしまっている。
俺が元々いた世界の記憶との食い違いは、きっと幼馴染や恋人や転校生だけに留まらない。
学校へ行けばさらなる相違点を目の当たりにするだろう。
今は、分かっている範囲の変化について対応しよう。
俺が変化に気付いていると羽那子に気取られた時、何が起こるか想像出来ない。
知っている顔だが、中身が全く違う人間。
世界丸ごとを書き換えられた、いや違う。
この世界にとって、俺が異物なのだ。
うっ、吐き気がする……。
「伊千郎、顔色が悪くなってるけど大丈夫?」
「あぁ、ちょっと眩暈がしただけだ」
里奈に心配を掛けたくない。
俺が、ではないが、伊千郎は里奈に負い目がある。この子にこれ以上負担を掛けたくない。
今のこの世界がいつまで続くのか、もはや俺には予想出来ない。
次に目が覚めた瞬間、また俺を取り巻く人間関係が変わっているかもしれない。
変わっていないかもしれない。このままずっと死ぬまで続くかもしれない。
今は目の前の里奈と、真摯に向き合おう。
今の伊千郎には出来ると思うから。
「そろそろ夕飯の支度が出来た頃かな。ちょっと様子見て来るね!」
羽那子が立ち上がり、部屋を出て行った。
あいつ、俺達と一緒にこの部屋で食べるつもりじゃないだろうな。
「二人分の夕飯、取って来るから待っててくれるか?」
「伊千郎……。ううん、私が取りに行くよ。無理しないでいいから。
もし藤村さんが一緒でもいいから。私、伊千郎が分かってくれているだけで嬉しいんだよ」
分かっているだけじゃ、ダメだと思うぞ。
幼馴染だからグイグイ来ても仕方ない。そんなのは間違ってる。
どこかで線引きをしないとならない。
例えそれが同性の幼馴染であろうが、恋人を優先すべき時や場合は必ずあるはずだ。
やはり俺が取りに行こうと立ち上がった時、二人分の足音が階段を上がって来た。
ノックの後、部屋の扉が開く。
そこにいたのはお盆を持った母さんと、妹の伊千香だった。
「あら、立ち上がってどうしたの?
夕飯を持って来たから、二人でゆっくり食べなさいね」
「里奈さん、こんばんはっ」
羽那子ではなく、伊千香が手伝ってくれたようだ。
母さんも伊千香も、幼馴染であっても引かなければならない線を理解してくれているという事。
「ありがとうございます。伊千子さん、伊千香ちゃん」
「どういたしまして。
風邪うつされないよう気を付けてよ? あ~ん、とかしたら一発でうつるんだからね」
俺達を冷かしながら、二人は部屋を出て行った。
俺達は静かに、でも楽しみながら夕飯を食べたのだった。
少なくない衝撃を受けたが、それでも俺が取り乱す事はなかった。
いなかったはずの幼馴染、羽那子。
付き合ってなんかいないはずの恋人、里奈。
この二人の存在があるから、存在したはずの知り合って間もない女の子がいなくなったとて、それほどのショックではなかった。
いや、単に麻痺しているだけかもしれない。
目の前で伊千香が羽那子をメッタ刺しにした。その衝撃が未だ残っているのだろう。
口に出して、今日東条美紀という転校生が現れなかったかと、二人に質問する事はなかった。
羽那子は美紀の事を知っている可能性が高い。里奈も可能性がないとは言い切れない。
ここで二人に詰め寄って、どうなっているんだと喚いたとしても、何も変わらないのだ。
それは、このアルバムが証明している。
俺が知っている過去が、書き換えられている。
時間が巻き戻されただけでなく、世界線すら跨いでしまっている。
俺が元々いた世界の記憶との食い違いは、きっと幼馴染や恋人や転校生だけに留まらない。
学校へ行けばさらなる相違点を目の当たりにするだろう。
今は、分かっている範囲の変化について対応しよう。
俺が変化に気付いていると羽那子に気取られた時、何が起こるか想像出来ない。
知っている顔だが、中身が全く違う人間。
世界丸ごとを書き換えられた、いや違う。
この世界にとって、俺が異物なのだ。
うっ、吐き気がする……。
「伊千郎、顔色が悪くなってるけど大丈夫?」
「あぁ、ちょっと眩暈がしただけだ」
里奈に心配を掛けたくない。
俺が、ではないが、伊千郎は里奈に負い目がある。この子にこれ以上負担を掛けたくない。
今のこの世界がいつまで続くのか、もはや俺には予想出来ない。
次に目が覚めた瞬間、また俺を取り巻く人間関係が変わっているかもしれない。
変わっていないかもしれない。このままずっと死ぬまで続くかもしれない。
今は目の前の里奈と、真摯に向き合おう。
今の伊千郎には出来ると思うから。
「そろそろ夕飯の支度が出来た頃かな。ちょっと様子見て来るね!」
羽那子が立ち上がり、部屋を出て行った。
あいつ、俺達と一緒にこの部屋で食べるつもりじゃないだろうな。
「二人分の夕飯、取って来るから待っててくれるか?」
「伊千郎……。ううん、私が取りに行くよ。無理しないでいいから。
もし藤村さんが一緒でもいいから。私、伊千郎が分かってくれているだけで嬉しいんだよ」
分かっているだけじゃ、ダメだと思うぞ。
幼馴染だからグイグイ来ても仕方ない。そんなのは間違ってる。
どこかで線引きをしないとならない。
例えそれが同性の幼馴染であろうが、恋人を優先すべき時や場合は必ずあるはずだ。
やはり俺が取りに行こうと立ち上がった時、二人分の足音が階段を上がって来た。
ノックの後、部屋の扉が開く。
そこにいたのはお盆を持った母さんと、妹の伊千香だった。
「あら、立ち上がってどうしたの?
夕飯を持って来たから、二人でゆっくり食べなさいね」
「里奈さん、こんばんはっ」
羽那子ではなく、伊千香が手伝ってくれたようだ。
母さんも伊千香も、幼馴染であっても引かなければならない線を理解してくれているという事。
「ありがとうございます。伊千子さん、伊千香ちゃん」
「どういたしまして。
風邪うつされないよう気を付けてよ? あ~ん、とかしたら一発でうつるんだからね」
俺達を冷かしながら、二人は部屋を出て行った。
俺達は静かに、でも楽しみながら夕飯を食べたのだった。
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