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Main story
今日から俺はクズじゃない
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昨夜は眠りが浅く、たびたび目が覚めてしまった。
風が何かを揺らす音。大きな車が地面を揺らす振動。自分の身体が下へストンと落ちるような感覚。
そして目を開けて、無意識に窓へ視線をやってしまう自分に気付く。
これは警戒なのか、それとも期待なのか。
羽那子という幼馴染み。
里奈という恋人。
どちらも自分の認識としては突然目の前に現れた相手。
二人とも無碍にはしたくないが、スタート位置からして良好な関係を気付けていない。
里奈には恋人としての誠実さが足りなく。
羽那子には幼馴染みだからという甘えがあり。
俺ではなく、この世界に元いた伊千郎という人間の悪行により、二人は振り回されていたのだと思う。
俺がした行いではないが、この世界の里奈と羽那子にそう伝えたところで理解も納得もされないだろう。
前回の羽那子がしたように、里奈とも羽那子とも、関係性を一度リセットした上で新たな人間関係を作れないものか。
よし。羽那子があの窓から入って来る前に起きよう。
階段を下りて洗面所へ向かう。ちょうど父さんと入れ替わる形になる。
「おはよう、早いな。体調はどうだ?」
「おはよう。大丈夫だよ、ありがとう」
歯を磨き、顔を洗い、ダイニングへ向かう。
「あらあら、珍しいわね」
「おはよう、母さん。羽那子も伊千香も」
テーブルについた俺を伊千香が意外そうな表情で見つめる。
「お兄ちゃんも一人で起きられるようになったんだね。
これははなちゃんから卒業かな?」
幼馴染みからの卒業。
俺は羽那子に起こしてもらうのが当たり前で、羽那子に色んな事を任せ、頼っていたのだろうか。
「ごめんねいっくん、もう少ししたら起こしに行こうと思ってたんだけど……」
「謝る事はないよ。自分で起きるのが当たり前なんだから」
そう返事して食事を始める。今日はご飯に焼き鮭にお味噌汁にほうれん草のごま和え。あとお漬物。
ほうれん草を口に入れもぐもぐと噛んでいると、みんなから顔をじっと見られているのに気付く。
何かおかしい事を言っただろうか。
「母さん、やっぱりまだ体調悪いんじゃないか?」
「うーん……、もうちょっと様子を見ましょうか。悪い事じゃないんだから」
「そうだね、むしろ良いよ。私の気苦労も減るね。
はなちゃん、明日から自分で起きてくるまで待ってみても良いかもね」
「う、うん……」
反応がおかしい。
これは俺の言動が昨日以前の伊千郎と全く違うからこういう反応をされるのだろうか。
メッセージアプリの履歴にあった民人とのやり取りの信憑性が増す。
家族も認めるクズだった訳か。
というか何で俺と同じ環境で育って来たはずなのに、こうも性格が違うんだ?
俺とこの世界の伊千郎との相違点といえば、羽那子という幼馴染みがいるかどうか。
異性の幼馴染みがいた事が、クズになる大きな要因になったという事か。
それはそれで羽那子本人にも問題がありそうだし、それを止められなかったうちの両親にも責任がありそうだ。
子供の教育について今さら両親を責めても手遅れだ。
これからは本来の両親に育てられた俺が修正していけばいい。
が、問題は羽那子だ。
羽那子にも問題があったとして、俺の方から羽那子と距離を置くように持って行けるかどうか。
昨日の寝る前の羽那子とのやり取りを鑑みると、今さら突き放されても困るとすがりついて来る可能性が大きい。
俺はそれ以上何も喋らず、朝食を食べ終えて部屋に戻った。
部屋で制服に着替えていると、スマホに通知が。里奈から今から家を出るというメッセージだった。
返事をしようとスマホをフリックしていると窓が開いて名前を呼ばれた。羽那子だ。
「いっくん、今日は何色にすれば良い?」
「ん? 何の事だ?」
少しずつ距離を取ろうと決めたばかりだ。いつものように窓から入って来られても困る。
窓の前に移動して羽那子と向かい合う。羽那子はベランダに出て、両手にそれぞれ小さな布のようなものを持っていた。
「だから……、今日の下着は、何色を履けばいい?」
か細い声でそう尋ねる羽那子。一体俺はこいつに何をさせていたのか……。
「昨日は色を指定せずに部屋に戻っちゃったでしょう?
だからあたし、学校には……。恥ずかしかったよ」
いやおかしいだろ。自分の判断で何色でもいいから履いて行けよ!
「羽那子、今日から自分で決めていいから」
「え、何で!? あたしは自分で決められないからいっくんが決めてくれてたんじゃん」
「だから、これからは自分で決めろって」
「困るよー! 何色がいいか決めてくれなきゃ分かんないもん!!」
両手をぶんぶん振って困ってますアピールをする羽那子。
その両手には布面積の少なめのパンツが。あれも俺がこれを買えと選ばせたんじゃないだろうな!?
「ねぇ、決めてよー!」
声が大きい! そしてもうすぐ里奈が来てしまう。
こんなやり取りを聞かれるのはマズイ。
あぁ~~~、もう何でもいいわ!!
「じゃあ白で!」
言うだけ言って、窓を閉めて鍵を掛けた。
風が何かを揺らす音。大きな車が地面を揺らす振動。自分の身体が下へストンと落ちるような感覚。
そして目を開けて、無意識に窓へ視線をやってしまう自分に気付く。
これは警戒なのか、それとも期待なのか。
羽那子という幼馴染み。
里奈という恋人。
どちらも自分の認識としては突然目の前に現れた相手。
二人とも無碍にはしたくないが、スタート位置からして良好な関係を気付けていない。
里奈には恋人としての誠実さが足りなく。
羽那子には幼馴染みだからという甘えがあり。
俺ではなく、この世界に元いた伊千郎という人間の悪行により、二人は振り回されていたのだと思う。
俺がした行いではないが、この世界の里奈と羽那子にそう伝えたところで理解も納得もされないだろう。
前回の羽那子がしたように、里奈とも羽那子とも、関係性を一度リセットした上で新たな人間関係を作れないものか。
よし。羽那子があの窓から入って来る前に起きよう。
階段を下りて洗面所へ向かう。ちょうど父さんと入れ替わる形になる。
「おはよう、早いな。体調はどうだ?」
「おはよう。大丈夫だよ、ありがとう」
歯を磨き、顔を洗い、ダイニングへ向かう。
「あらあら、珍しいわね」
「おはよう、母さん。羽那子も伊千香も」
テーブルについた俺を伊千香が意外そうな表情で見つめる。
「お兄ちゃんも一人で起きられるようになったんだね。
これははなちゃんから卒業かな?」
幼馴染みからの卒業。
俺は羽那子に起こしてもらうのが当たり前で、羽那子に色んな事を任せ、頼っていたのだろうか。
「ごめんねいっくん、もう少ししたら起こしに行こうと思ってたんだけど……」
「謝る事はないよ。自分で起きるのが当たり前なんだから」
そう返事して食事を始める。今日はご飯に焼き鮭にお味噌汁にほうれん草のごま和え。あとお漬物。
ほうれん草を口に入れもぐもぐと噛んでいると、みんなから顔をじっと見られているのに気付く。
何かおかしい事を言っただろうか。
「母さん、やっぱりまだ体調悪いんじゃないか?」
「うーん……、もうちょっと様子を見ましょうか。悪い事じゃないんだから」
「そうだね、むしろ良いよ。私の気苦労も減るね。
はなちゃん、明日から自分で起きてくるまで待ってみても良いかもね」
「う、うん……」
反応がおかしい。
これは俺の言動が昨日以前の伊千郎と全く違うからこういう反応をされるのだろうか。
メッセージアプリの履歴にあった民人とのやり取りの信憑性が増す。
家族も認めるクズだった訳か。
というか何で俺と同じ環境で育って来たはずなのに、こうも性格が違うんだ?
俺とこの世界の伊千郎との相違点といえば、羽那子という幼馴染みがいるかどうか。
異性の幼馴染みがいた事が、クズになる大きな要因になったという事か。
それはそれで羽那子本人にも問題がありそうだし、それを止められなかったうちの両親にも責任がありそうだ。
子供の教育について今さら両親を責めても手遅れだ。
これからは本来の両親に育てられた俺が修正していけばいい。
が、問題は羽那子だ。
羽那子にも問題があったとして、俺の方から羽那子と距離を置くように持って行けるかどうか。
昨日の寝る前の羽那子とのやり取りを鑑みると、今さら突き放されても困るとすがりついて来る可能性が大きい。
俺はそれ以上何も喋らず、朝食を食べ終えて部屋に戻った。
部屋で制服に着替えていると、スマホに通知が。里奈から今から家を出るというメッセージだった。
返事をしようとスマホをフリックしていると窓が開いて名前を呼ばれた。羽那子だ。
「いっくん、今日は何色にすれば良い?」
「ん? 何の事だ?」
少しずつ距離を取ろうと決めたばかりだ。いつものように窓から入って来られても困る。
窓の前に移動して羽那子と向かい合う。羽那子はベランダに出て、両手にそれぞれ小さな布のようなものを持っていた。
「だから……、今日の下着は、何色を履けばいい?」
か細い声でそう尋ねる羽那子。一体俺はこいつに何をさせていたのか……。
「昨日は色を指定せずに部屋に戻っちゃったでしょう?
だからあたし、学校には……。恥ずかしかったよ」
いやおかしいだろ。自分の判断で何色でもいいから履いて行けよ!
「羽那子、今日から自分で決めていいから」
「え、何で!? あたしは自分で決められないからいっくんが決めてくれてたんじゃん」
「だから、これからは自分で決めろって」
「困るよー! 何色がいいか決めてくれなきゃ分かんないもん!!」
両手をぶんぶん振って困ってますアピールをする羽那子。
その両手には布面積の少なめのパンツが。あれも俺がこれを買えと選ばせたんじゃないだろうな!?
「ねぇ、決めてよー!」
声が大きい! そしてもうすぐ里奈が来てしまう。
こんなやり取りを聞かれるのはマズイ。
あぁ~~~、もう何でもいいわ!!
「じゃあ白で!」
言うだけ言って、窓を閉めて鍵を掛けた。
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