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Main story
永遠の終わりか、永遠の繰り返しか
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腰に掛かる負荷によって目が覚めた。
最初に目に入ったのは紺色の見慣れたセーラー服。巻かれた棒タイは白。俺と同じ二年のものだ。
棒タイは胸の豊かな膨らみを強調する役割を果たしている。
その膨らみから視線を上げ、発育のよろしい身体の持ち主の顔を見やる。
肩あたりで揃えられた黒髪。濡れた瞳。ぷるんと柔らかそうな赤い唇。
俺の反応を待っているようだ。
「え、誰!?」
「……伊千郎、今回は記憶喪失シチュエーションじゃないよ?」
目の前が真っ暗になる前に、羽那子の腕を掴んで叫ぶ。
「頼む! 何だかよく分からないけど目の前を真っ暗にするのは止めてくれ!!
それに次会った時はこのままにするって言ってたよな!? なぁ、言ってたよな!!?」
「痛い痛い痛い! 分かった、分かったから!!
はぁ……、結局このままか。直りそうにないね」
何とか羽那子を思い直らせる事に成功したようだ。
羽那子の気が変わらないうちに確認したい事を聞こう。
ゆっくりと上半身を起こして、羽那子と向かい合う。
「まず根本的な質問だ。
俺は、ゲームの中のキャラクターなのか……?」
「うん、そうだよ。プレイヤーが仮想現実のゲーム世界に入り込んで遊ぶタイプのシミュレーションゲーム。
この手も、ベッドも、音も色も全てヴァーチャル。脳に直接信号を送ってそこにあると認識させる技術。
君はこのゲームのキャラクター。恋愛シミュレーションゲームだから、攻略対象。
プレイヤーであるあたしは羽那子の部屋で目が覚めて、日記を見ると今回のプレイの設定がある程度確認出来る」
君はこのゲームのキャラクターだ、と言われても、困る。
第一俺は幼い時の記憶があるし、両親の馴れ初め話も聞いた事がある。
羽那子に対する記憶は一切ないが、東条美紀や町村民人の記憶はある。
林里奈と付き合っていた記憶はないが、クラスメイトとしての記憶はもちろん持っている。
「そう、このゲームのすごいところは、そういうキャラごとの記憶がすごく細かく設定されている事。
その記憶や埋め込まれた経験を元に、プレイヤーの自由な発言に対してもそつなく応じる事が出来る。
NPC別にそれぞれAIが組み込まれてるんだろうね。つまり君は人工知能であると言えるね」
俺が、作られた存在? 人間に作られた、ゲームの中のキャラクター?
そんなの信じられる訳がない。
「そうだろうね、信じられないよね。あたしもビックリだよ。
だってプレイを跨いで記憶が継続してるなんてバグ、聞いた事ないよ。いくら精密に設計されたAIだとしても、いやだからこそか。
自分がAIだという情報が組み込まれてなかったら、理解出来る訳ないよね。自分自身は生身の人間であると認識するようにプログラムに書いてあるんならさ、信じられる訳ないよ」
信じられる訳ないよと言われても、でも羽那子は俺がAIで、作られた存在であると思って話しているんだよな……?
「お兄ちゃーん、起きたー?」
伊千香が部屋の扉を開けて顔を出す。なぁ、俺も妹もAIで、人工知能で、作られた存在だと言うのか?
「あたしが君の妹の首を絞めるとする。そしてまたこの世界をリセットすれば、また同じタイミングでこの部屋の扉を開けて、君を起こしに来るんだよ。
試してみる?」
止めてくれ、例えこの世界が造り物で、俺も伊千香もAIだとしても、そんな光景を何度も何度も何度も何度も見たくない。見せられたくないし、伊千香にも何度も痛い思いをさせたくない。
「その瞬間は痛いかもしれないけど、次にこの部屋に入って来る時はその時の記憶がないから、何度も痛い思いをするというのは違うかもね」
「それでも! 俺は伊千香が死ぬのを何度も見たくない」
「何で私が死ぬ話してんの? 悪い夢でも見た?」
呆れたような表情で俺達を見る伊千香。早く下りてくるよう言い残して、階段を下りて行った。
「なぁ羽那子。俺は一体どうすればいいんだ……」
「そんな事あたしに言われてもなー」
羽那子が少し考えてから、俺の目を見つめて口を開いた。
「あたしがこのゲームにログインしなければこの世界の時間は進まない。プレイヤーがいないんだから、時間を進めても仕方がないからね。
観測者のいないシミュレーションなんて、意味がないもの」
この世界の時間が止まって、この世界の住人である君は、NPCである君は、その事を認識出来ない。
永遠に進まない、何も感じず何も考える事が出来ないこの世界に閉じ込められて、君は一体どうなるんだろうね?
「あたしはきっと、いつかまたこのゲームにログインしちゃうよ。だって君の事が気になるから。
そして君の時間は再び動き出す。このすぐ後という認識で。
永遠に止まっているのと、永遠に続くのと。どっちが幸せなんだろうね」
最初に目に入ったのは紺色の見慣れたセーラー服。巻かれた棒タイは白。俺と同じ二年のものだ。
棒タイは胸の豊かな膨らみを強調する役割を果たしている。
その膨らみから視線を上げ、発育のよろしい身体の持ち主の顔を見やる。
肩あたりで揃えられた黒髪。濡れた瞳。ぷるんと柔らかそうな赤い唇。
俺の反応を待っているようだ。
「え、誰!?」
「……伊千郎、今回は記憶喪失シチュエーションじゃないよ?」
目の前が真っ暗になる前に、羽那子の腕を掴んで叫ぶ。
「頼む! 何だかよく分からないけど目の前を真っ暗にするのは止めてくれ!!
それに次会った時はこのままにするって言ってたよな!? なぁ、言ってたよな!!?」
「痛い痛い痛い! 分かった、分かったから!!
はぁ……、結局このままか。直りそうにないね」
何とか羽那子を思い直らせる事に成功したようだ。
羽那子の気が変わらないうちに確認したい事を聞こう。
ゆっくりと上半身を起こして、羽那子と向かい合う。
「まず根本的な質問だ。
俺は、ゲームの中のキャラクターなのか……?」
「うん、そうだよ。プレイヤーが仮想現実のゲーム世界に入り込んで遊ぶタイプのシミュレーションゲーム。
この手も、ベッドも、音も色も全てヴァーチャル。脳に直接信号を送ってそこにあると認識させる技術。
君はこのゲームのキャラクター。恋愛シミュレーションゲームだから、攻略対象。
プレイヤーであるあたしは羽那子の部屋で目が覚めて、日記を見ると今回のプレイの設定がある程度確認出来る」
君はこのゲームのキャラクターだ、と言われても、困る。
第一俺は幼い時の記憶があるし、両親の馴れ初め話も聞いた事がある。
羽那子に対する記憶は一切ないが、東条美紀や町村民人の記憶はある。
林里奈と付き合っていた記憶はないが、クラスメイトとしての記憶はもちろん持っている。
「そう、このゲームのすごいところは、そういうキャラごとの記憶がすごく細かく設定されている事。
その記憶や埋め込まれた経験を元に、プレイヤーの自由な発言に対してもそつなく応じる事が出来る。
NPC別にそれぞれAIが組み込まれてるんだろうね。つまり君は人工知能であると言えるね」
俺が、作られた存在? 人間に作られた、ゲームの中のキャラクター?
そんなの信じられる訳がない。
「そうだろうね、信じられないよね。あたしもビックリだよ。
だってプレイを跨いで記憶が継続してるなんてバグ、聞いた事ないよ。いくら精密に設計されたAIだとしても、いやだからこそか。
自分がAIだという情報が組み込まれてなかったら、理解出来る訳ないよね。自分自身は生身の人間であると認識するようにプログラムに書いてあるんならさ、信じられる訳ないよ」
信じられる訳ないよと言われても、でも羽那子は俺がAIで、作られた存在であると思って話しているんだよな……?
「お兄ちゃーん、起きたー?」
伊千香が部屋の扉を開けて顔を出す。なぁ、俺も妹もAIで、人工知能で、作られた存在だと言うのか?
「あたしが君の妹の首を絞めるとする。そしてまたこの世界をリセットすれば、また同じタイミングでこの部屋の扉を開けて、君を起こしに来るんだよ。
試してみる?」
止めてくれ、例えこの世界が造り物で、俺も伊千香もAIだとしても、そんな光景を何度も何度も何度も何度も見たくない。見せられたくないし、伊千香にも何度も痛い思いをさせたくない。
「その瞬間は痛いかもしれないけど、次にこの部屋に入って来る時はその時の記憶がないから、何度も痛い思いをするというのは違うかもね」
「それでも! 俺は伊千香が死ぬのを何度も見たくない」
「何で私が死ぬ話してんの? 悪い夢でも見た?」
呆れたような表情で俺達を見る伊千香。早く下りてくるよう言い残して、階段を下りて行った。
「なぁ羽那子。俺は一体どうすればいいんだ……」
「そんな事あたしに言われてもなー」
羽那子が少し考えてから、俺の目を見つめて口を開いた。
「あたしがこのゲームにログインしなければこの世界の時間は進まない。プレイヤーがいないんだから、時間を進めても仕方がないからね。
観測者のいないシミュレーションなんて、意味がないもの」
この世界の時間が止まって、この世界の住人である君は、NPCである君は、その事を認識出来ない。
永遠に進まない、何も感じず何も考える事が出来ないこの世界に閉じ込められて、君は一体どうなるんだろうね?
「あたしはきっと、いつかまたこのゲームにログインしちゃうよ。だって君の事が気になるから。
そして君の時間は再び動き出す。このすぐ後という認識で。
永遠に止まっているのと、永遠に続くのと。どっちが幸せなんだろうね」
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