そんな裏設定知らないよ!? ~脇役だったはずの僕と悪役令嬢と~

なつのさんち

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第四章:勇者選定

32:入学試験視察

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「お兄様、おはようございます」

「リュー様、おはようございます」

「あぁ、もう朝か……。おはよう、アンヌ、アンジェル」

 最近この2人が部屋まで起こしに来てくれる事が当たり前になっている。仲が良いのか悪いのか、判断が付きにくい。

 このままでは勇者選定の儀が行われない。その事実に気付き、寝ずにあれこれと考えていたんだけど、結局寝てしまっていたようだ。朝の鍛錬をサボってしまったみたいだ。
 精霊シスターズが眠らずに考え事をしている僕を見て不思議そうにしていたけど、「実はマクシムが勇者に選ばれなくなってしまうかも知れないんだっ!!」なんて言っても、何故マクシムが勇者に選ばれると僕が知っているのか話せない以上は相談出来ない。

「ずいぶんと眠たそうにしておられますわね、お兄様」

 うん、すごく眠たい。頭がボーっとしてる。

「リュー様、陛下とシャルパンティエ侯爵閣下がお待ちですよ」

「あぁ、そうだったな。すぐに支度をするよ」

 おじいちゃんとの会話で、現状ではマクシムが勇者に選ばれない可能性に気付いたんだった。シャルパンティエ侯爵も、いやお爺様と呼べと言われていたか。お爺様も昨夜にこの学園都市に着いたんだろう。2人揃って朝食を摂っているんだろうか。
 陛下がおじいちゃんで、シャルパンティエ侯爵がお爺様。ややこしいなぁもう。


「おはようございます、陛下、シャルパンティエ侯爵閣下、父上、お父様、母上、お母様、兄上達」

 本当にややこしい。めちゃくちゃ複雑な家庭環境で育っている気がする。
 いつもなら一緒に食事を摂るマクシムだが、今朝はさすがに公爵城には来ていない。平民だからね、警備の関係上、仕方ない。

「堅苦しいのはナシじゃ、早よう座らんかい」

 陛下、改めおじいちゃんが隣の席を勧めてくれる。いやいや、その席は公爵たる父上の席でしょうに。

「構わないから座りなさい」

 父上の許可が下りたので、公爵家の紋章を背にして座る。前世でそこまで厳しく躾けられた訳ではないけど、一応日本人としてはどこが上座だろうと意識をするので、すごく居心地が悪い。しかも2人の兄達よりもいい席。
 今や僕の方が立場的には断然上になっているから当たり前と言えば当たり前なんだけど、こればっかりはなかなか慣れられないよなぁ……。
 アンヌとアンジェル含め全員が食卓に着くと、メイド達が朝食を配膳してくれる。いつもよりも豪華なメニュー。
 公爵家は王国貴族トップの貴族家だけど、毎日贅沢をして暮らしている訳ではない。今日はおじいちゃんとお爺様の御持て成しをする為、特別に豪華な食事が用意されている。

「そうそう。リュドヴィック、アンジェル王女、婚約おめでとう。他国の姫君を射止めるとは、我らの孫はなかなかやりおるのぉ。なぁ、アルノルフ」

「そうですな、ハーパニエミ神国との繋がりも太くなり、より友好的な関係を築く事が出来そうです」

 僕とアンジェルがおじいちゃんとお爺様へ向け、その場で頭を下げる。祝辞に対する返答を述べようと口を開くと、婚約のお祝いもそこそこにおじいちゃんがとんでもない話題をぶっこんで来た。

「で、御霊みたまはこちらにおわすのか?」

 そりゃ耳に入ってるか。もうこうなったら隠しても仕方ないよね。

「リュー、御霊に顕形げんぎょうたまえるか?」

 ノマール子爵、つまり僕の実のお父様がおじいちゃん達に精霊達を見せてくれないかと僕に促す。

「分かりました。リュエ、シャン、クー、みんなに姿を見せてくれるか?」

 精霊三柱が姿を現す。僕とおじいちゃんの対面、食堂の入り口に3人が立っている。

「ご機嫌麗しゅう、皆様」

 リュエ達が揃って上品にカーテシーをすると、おじいちゃんとお爺様が席を立ち、その場で跪く。

「あら、堅苦しいのはナシなのではなくて?」

「そういう訳には参りませぬ。お初にお目に掛かり、恐悦至極に存じます」

 お爺様は光の精霊たるリュエール・デ・ゼトワールから王家へ授けられた宝珠の腕輪を預かるシャルパンティエ侯爵家の当主だからな。リュエと会えるなんて思ってもみなかっただろう。って、シャルパンティエの血は僕にも流れてるけど。

「堅苦しいのは嫌なの。リューちーのおじいちゃんってだけでいいの」

「そうじゃの、わらわも頭を下げられて喜ぶような趣味はないしの」

 シャンもクーも、そんな釣れない対応するなよ。

「そういう事ですので、皆様お掛けになって下さいまし。ご家族の会食にお邪魔のようであれば、私達は席を外しますが?」

 リュエのこの言葉を受け、おじいちゃん達に続き跪いていた一同が顔を上げ、席に座る。アンヌとアンジェルは精霊達に対してではなく、国王陛下が跪いているのに自分だけ座ったままなのはダメだとの判断だと思うけど。


「ワタクシもご一緒したいですわ! ダメですか? おじいちゃん」

 精霊達に対してそれぞれが思い思いの質問をし、リュエ達が答えるという流れが一通り終わった。
 僕が学園の入学試験を受けず、視察する側としておじいちゃん達に同行すると聞いて、アンヌが自分も行きたいと言い出した。

「試験会場に勇者として選ばれるお方がおられるのでしょう? ワタクシの将来の旦那様ですもの。その場に立ち会う権利があるはずですわ!」

「アンヌよ、今日は学園の入学試験であって、勇者選定の儀ではないぞ?」

 あれ? 勇者選定の儀は行われないとは言わないんだ。

「アンヌ、試験自体は見ようと思えば見れる。保護者用の観覧席が用意されるからな。
 さすがに王家として用意された席には座れんが、試験を見たいと言うのならそちらに座りなさい」

 父上がアンヌに対してフォローを入れる。甘いなぁ、そこはダメだとハッキリと言ってほしい。

「あら、でしたら私も見に行こうかしら。リューが王家に連なって座っている姿を見たいわ」

 いいでしょう? とお父様におねだりするかのようなお母様。あんたもか。
 お、おう……。と返事するお父様。あんたもか。


 試験会場は学園の園庭。今年12歳になった、もしくはなる子供達が全員その場で跪いている。
 こうべを垂れる先は校舎三階にある校長室の外、テラスに用意された席に座っている王家の面々。僕もその中の1人だ。今の内に慣れろと言われているが、この状況に慣れる日が来るんだろうかってくらい緊張している。

「楽にせよ」

 おじいちゃん、いやこの場では国王陛下か。陛下のお声を受けて今年の入学試験対象者300名弱が一斉に立ち上がる。その中にマクシムも含まれているんだけど、会場のどこにいるかは分からない。
 父上が仰っていた保護者の観覧席として、園庭の周りを囲うように長椅子が用意されている。すぐにアンヌとお母様が座っているのを見つけた。こちらに向かって小さく手を振っている。

「これより王立スタニスラス学園の入学試験を開始致します」

 園庭に用意された前世で言うところの朝礼台に立ち、受験者に向けて王立スタニスラス学園、マリー=エレオノール・ドゥ・トルアゲデス学園長が試験内容について説明を始められた。
 用意された魔石に自身の魔力を注入しなさい。そのような説明を受験者達が緊張した面持ちで聞いていた。

「口で説明をするよりも、実際に見た方が早いでしょう。リュドヴィック・ドゥ・トルアゲデス、こちらへ」

 朝食の席にて、お爺様より試験のお手本をするようにと命を受けた。魔石に魔力を注入するだけとはいえ、魔石自体が高価な物なので平民であれば触れる機会などない。
 触った事もない物に魔力を注入しろと言われても、イメージが出来なければそうそう出来るものではない。逆に、見た事があればイメージがしやすく、魔力注入程度であれば問題なく出来るだろうという話だった。

 結局僕も試験を受けるような形になった訳だ。さて、呼ばれたので行こうと思うんだけど、一度校舎に入って階段を使って降りようと振り返ると、「そこから降りれば良かろう」と陛下が無茶ぶりして来た。
 ここ三階なんですが。まぁいいか。風魔法を使ってフワリと園庭に降り立つと、会場がざわついた。

「さすが兄貴だぜ!」

 あ、マクシムそこにいたんだ。

 台車を使ってバランスボールくらいの大きさの魔石が運ばれて来た。石と言うよりも岩だろ、これ。
 水晶のような少し白みがかった魔石。全員がこの魔石を使って試験をするんだろうか。全力で魔力を注入するようにと指示を受けているので、魔石に両手をあてがい魔力を注入して行く。
 見た目通り結構容量がデカそうだ。どんどん魔力が吸い込まれて行くのを感じる。まだまだ僕の魔力的には余裕があるけど、一体どれくらいの魔力を注げば合格になるんだろうか。
 しばらく魔力の注入を続けていると、魔石が虹色を帯びて光り出した。おぉ、とかうわぁ、などの声が漏れ聞こえる。え、もしかして引かれてる……?
 テラスを見上げると、お父様に目を逸らされた。お爺様は目を細めして見つめて来るし、おじいちゃんはニヤニヤしている。ちょっとリアクションがバラバラで判断が付きにくい。

「そこまで!」

 母上、学園長からストップが掛かった。目を離していた間に、魔石の虹色のオーラを放っているような見た目にまで変化していた。少し眩しい。天然のミラーボールのようだ。
 すぐさま魔石は回収されて、学園長からテラスへ戻るよう声を掛けられる。身体強化フィジカルブーストを掛けて跳躍し、テラスへと戻る。

「あ~……、リュー。保護者達の顔を見てみろ」

 お父様に言われて観覧席の方を見てみると、全員唖然と言った表情で僕を見上げている。どうしたんだろうか?

「では試験用の魔石を配布します。魔力を込められたら近くの試験官に渡して、名前を名乗って下さい」

 試験官の先生方が受験者に小石ほどの魔石を配布している。はぁ!? あの岩は何だったんだよ!!?

「ほっほっほっ、あれは王家の宝になるの~」

 嵌められた!?

『あの魔石にあれだけの魔力量、自然の状況下なら溜めるのに数千年は掛かるよ?』

『過剰』

『さっすがお兄ちゃん☆』

 いやいやいや、終わってからじゃなくて途中で教えてくれよ!!
 
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