好きなのに理由って必要ですか? と彼女は言った

なつのさんち

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好きなのに理由って必要ですか? と彼女は言った

「……で…、つ…あっ…くだ…い」

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な2の3ち@電書化:それで大丈夫w そんな感じでおkwww



 何が大丈夫なのかイマイチ分からないけど、まぁいつもこの人はこんな感じだから、とりあえずいいねを押しておく。

 いつもの通学時間。いつも通りスマホゲームでスタミナを消費し切った後、SNSアプリを立ち上げて、顔も見た事もないオッサンと下らない会話のやり取りをする。いや、実際は顔は知ってるけど会った事はないって意味で。

 都心から少し離れているとはいえ、やはり都会の通学・通勤電車はそれなりに混む。切れそう。隣のサラリーマンとは肩が当たらないように少し距離を明ける。これが女子高生ならクンカクンカするんだが。しないけど。



橘をあぃす@デレP:botの調子が悪いのでまた昼にでも調整しておきますね



 SNSは顔も本名も知らない人達と気軽に交流が出来るから楽。イラついたらブロックすればいいし。でもリアルではそれが出来ないんだよな~。

 俺はあまり人付き合いがいい方ではないけど、SNSは気軽そして気楽。割と素で人と会話が出来るし、思っている事もそのままタイムラインに投稿出来るしで、正直SNSに依存気味だ。
 アカウントも用途によって複数使い分けており、スマホゲームの人気キャラのbotを作ったりして楽しんでいる。

 通学中の外の風景は大学一年生の春で十分見飽きたので、電車の中ではそんな感じで常にスマホを触っている。周りに誰が乗っていようが気にならない。
 可愛い女の子がいたらどうするのかって? 二次元最高だと思ってるから三次には興味がないんだな、コレが。

 とは言え、今まで彼女がいた事ないかって聞かれるとノーと答える。高校生の時にいたんだなコレが。まぁキスすらせずに自然消滅したんですが……。



ハムすこ改@デレP:たまには周り見渡して見たら? 可愛いおにゃのこが見つめてるかも知れんよ?

橘をあぃす@デレP:ナイナイ(ヾノ・∀・`)



 ないわ、ホントにない。自分自身そんなに自信を持っている方ではないので、こういう投稿を貰うとすぐに否定してしまう。自信を持てとか言われるけど、そんなん言われても困るわ。

 それでも改さんの投稿につられて、ふと顔を上げる。ちょうど駅に着いてドアが開き、車内に人が入って来る。

 お、リクルートスーツキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! 春からご苦労様です。今から就活とか、ホント自分の時どうすんだろうって気が滅入るけど、リクスーはやはりいい物ですね。

 リクスーのお姉さんの後ろには、俺が降りてさらに数駅後に着く駅近くにある有名女子高の制服に身を包んだ可愛いおにゃのこ、もとい女の子。セーラー服ではなくブレザー姿で、リムの細い眼鏡を掛けて……
 え、目が合っちまった。ドキッとするわ……。



橘をあぃす@デレP:可愛い女子高生と目が合いました!!

な2の3ち@電書化:目と目が合えば~

ハムすこ改@デレP:恋が始まる~



 相変わらず選曲が古いw 俺が生まれるよりも前の歌だからね、それ。
 この2人は社会人で、しかも子供もいる30代のオッサンだ。

 なのちさんは俺がよく見る小説投稿サイトで小説を連載している人で、改さんは通称デレレテと呼ばれるスマホのゲームを同じ趣味とする人。この2人とはSNSを通じて出会った。実際に会った事はないけど。

 スマホをフリックフリックしていると、女子高生が俺の目の前に向かい合った状態で立ち止まる。
 ん? 今日はそんなに混んでないからわざわざ俺の目の前に来る必要もないのに。あれか? 俺に用があるのか?



橘をあぃす@デレP:女子高生が目の前に立ってるぅぅぅ!



 無表情のままで、さも興奮しているかのようなSNSへの投稿。割とみんなやってるよね?



な2の3ち@電書化:よし、連絡先を交換しよう!



 ないない。そんな事しない。女子高生ですよ、女子高生。通報されたらどうすんだ。晒し者になっちまうYO!

 スマホ画面を見続けてはいるが、視界の端には女の子のスカート。少し揺れているのは電車が揺れているからか? いや、そんなにガタガタはしていない。
 チラッと視線を彼女の顔に向けると、はっ!? 何か喋ってるし!! イヤホンしてるから何も聞こえん。ノイズキャンセリング、いい仕事してますねぇ~ってそうじゃない。
 SNSアプリはオッサン2人の新しい投稿を表示しているが、アプリを切り替えて音楽の音量を下げる。いや消す。

「……で…、つ…あっ…くだ…い」

 やっぱり何か喋ってるぅ~!? え、俺に向けて喋ってんの!? でも全然聞こえない!
 あ、そうか、ノイズキャンセリング機能はスマホの画面さえ点いていれば有効になったままなんだ。慌ててスマホの画面をオフにする。

「す…です。つき…って…ださい」

 リクスーのお姉さん、隣のサラリーマンのオッサンが俺の顔と女子高生の顔を代わる代わる見比べている。やっぱり彼女は俺に向かって話し掛けてるっぽい!

 とりあえずイヤホンを片耳だけ外して今気付いたような感じでリアクションしてみる。まだ俺に話し掛けていると確定した訳ではないので行動は慎重を期すべき。
 俺に何の用? はぁ? お前じゃね~し! こういう展開だけは避けたいところ。



「好きです、付き合って下さい」

 ファッ!!!!???


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