好きなのに理由って必要ですか? と彼女は言った

なつのさんち

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好きなのに理由って必要ですか? と彼女は言った

「謝って下さい!」

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「好きなのに理由って必要ですか?」

 え……? えっ!?

「好きだなと思ったんですよ、柊人しゅうとさんの事。だから告白しました。
 ダメ、ですか?」

 (ダメでは)ないです。
 いやいや、ダメじゃないけどさぁ、いいのそれで!?

 大学の講義が終わり、冬花ふゆかちゃんと連絡を取り合って俺の大学の駅近くにあるファストフード店で待ち合わせをした。

 俺はガチガチに緊張しながら冬花ちゃんの待っているテーブル席へ向かい、お腹が減っているか聞き、ちょっと摘まめる物を買って来るねと話すという難しい課題を達成したのだ。
 ミッションコンプリート! いやね、これだけの事で俺はもう精神的に参っているんだ。

 分かる? 俺って男前じゃないしさ、特別背も高い訳じゃない。お金持ちでもないし人に自慢できる特技がある訳でもないんだ。そしてコミュ力もないです。
 そんな俺が、みんなが振り向くような超絶美少女の向かい側の席に座ってんの。しかもこの席ガラス越しに大通りから丸見えなんスよ!?
 これはご褒美を通り越して罰ゲームなんじゃないかと思う訳です。ます。

 で、ふと思った訳。冬花ちゃんはそんな俺の何が好きなんだろう、と。聞きたいよね? 普通聞きたいじゃんね?
 それに対する答えがコレだもの。

 ちなみに俺の答えはコチラ。



 Q、好きなのに理由って必要ですか?


 A、必要ですよ! 一番大事でしょうに!!



 好きな理由がないと、納得が出来ないじゃないか! 例えば男前だから、とかお金持ちだから、とか分かりやすい理由がないと安心出来ぬ!!
 いや、俺にはその理由に当たる物がないんだけども。

 ともかく理由なく好きになったのなら、理由なく好きじゃなくなる可能性があるって事でしょう!? そういう事でしょう!!?
 俺はいつこのコから捨てられるやも知れぬ恐怖と戦いながらお付き合いしなきゃって事ですか……。


 胃に穴が空く予感!!!



「あれ? 冬花ちゃんじゃん、どしたの? 家この辺なの?」

「冬花ちゃんと塾以外で会うなんて、運命じゃね!?
 この人お兄さん? あんまり似てないけど」

 やたらとテンションの高い2人組が絡んで来た。すごく今風の男子高校生って雰囲気。冬花ちゃんの塾の男友達か何かだろうか。鬱陶しいけど冬花ちゃんの知り合いである手前、無碍にする事は出来ない。俺のせいで冬花ちゃんの評判が落ちるとか耐えられない。

「話し掛けないで下さい、迷惑です」

 えーっ!? どストレートにお断りしたな!!
 冬花ちゃんの態度も表情も雰囲気もまとめて急変したから変化に付いて行けないわ。可愛い女の子からクールビューティな女性に変身した感じ。クイッて眼鏡を上げる感じとか超クール。

 普段からそんなあしらわれ方に慣れているのか、2人組はへらへらしたまま。メンタル強ぇなおい。

「お兄さん、冬花ちゃん塾でいっつも冷たいんスよ。家でもそうなのかなぁって思ってたらお兄さんと一緒に出掛けてんの見てビックリっス!
 あれっスか、ブラコンってヤツっスか!?」

「一緒にお風呂入ってるスか!? 羨ましい!! 爆発しろ!!!」

 ゲラゲラ笑いながら店を出て行く彼ら。何だったんだ今のは……。悪いコ達ではなさそうだし大丈夫っぽいけど。
 あ、俺を兄だと勘違いしたままだった、否定しておくべきだったか。

「すみません、塾の人達がご迷惑をお掛けしました」

 クールビューティから可愛い女の子に戻った冬花ちゃんが表情をくしゃっとさせて俺に謝ってくれる。くしゃっとしてても可愛い……。
 いや、全然大丈夫。むしろ申し訳ない。

「ごめんね、お兄さんって言われた時すぐに否定すれば良かったね」

「えっ、何でですか?」

「だって、こんな俺が冬花ちゃんのお兄さんだって思われたらさ、何か申し訳ないなって」

「……、何でですか?」

 うわっ、またクールビューティに戻った! え、何で!? 何がダメだったんだろう……。

「ほら、冬花ちゃんって、その……、か、可愛いじゃん? それなのにさ、こんな俺が兄だなんて勘違いされたままだとさ、塾で噂になるんじゃないかって思って。
 冬花ちゃんのお兄さんってブおt」

 ダンッ!! うっわぁ!! いきなり冬花ちゃんがテーブル叩いた!!!
 うっわみんな見てるし、超見られてるし、冬花ちゃんが俺を睨んで来るし怖ぇ!!!!

「謝って下さい!」

 ええぇぇぇ、分かんないマジで分かんない!
 ちょっとこの展開分かんないですぅぅぅ!!

柊人しゅうとさんを好きな私に謝って下さいっ!!」

 ファッ!!!!??? ドユコト? 俺の事が好きな冬花ちゃんに謝れ?
 ちょっとホントに分かんないですってば!!!

「柊人さんは私が好きな人の事を否定するんですか!? 私は柊人さんが好きなんです。顔も、話し方も、仕草も、私を気遣ってくれる優しさも、全部好きです。好きになってから知った柊人さんも好きです。実際に話してみたら幻滅したとか、そんな事はありません!
 信じて、くれませんか……?」

 信じる! 俺冬花ちゃんの事信じるよ!!
 俺の全存在を賭けて信じるから、もう外に出ようお願います!!!


 周りの視線が痛いのぉ~!! 


 胃に穴が空いてる予感!!!

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