好きなのに理由って必要ですか? と彼女は言った

なつのさんち

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好きなのに理由って必要ですか? と私は言ったけれど

それ、私の事でいいんですか?

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橘をあぃす@デレP:バイト面倒だなぁ~、辞める時って辞めさせて下さいって言えばいいのかなぁ~

な2の3ち@電書化:それで大丈夫w そんな感じでおkwww

ハムすこ改@デレP:そうそう、何で辞めるかなんて理由必要ないからね、辞めるって意思表示だけでおkよ



 性懲りもなく、私は駅のホームで電車を待ちながら彼の投稿を覗き見ている。
 結局バイトは辞めるつもりのようだ。朝だからなのか、それともこっちのアカウントだからなのか、風俗かどうの、女の子がどうのという話は出て来ない。
 彼の投稿を眺めていると、いつもの時間通りに電車が来た。都心から少し離れているとはいえ、やはり都会の通勤電車はそれなりに混む。私はスマホで彼の投稿を確認したいから、いつも少し空いているスペースを探して移動するようにしている。ゆっくりと止まる車内を窓越しに見ると、いつも彼がいる辺りは人が少なそうだなと確認出来た。



ハムすこ改@デレP:たまには回り見渡して見たら? 可愛いおにゃのこが見つめてるかも知れんよ?

橘をあぃす@デレP:ナイナイ(ヾノ・∀・`)



 思わず改さんの投稿をいいねしてまったけど、電車のドアが開いてみんなが歩き始めているので取り消す事が出来ない。リクルートスーツ姿の女性の後ろに続いて車内へと進んで行く。
 いつも彼がいる場所をチラッと見ると、彼と目が合った。でもすぐに逸らされた。逸らされた後、彼はスマホをフリックして何か入力しているのが分かる。



橘をあぃす@デレP:可愛い女子高生と目が合いました!!

な2の3ち@電書化:目と目が合えば~

ハムすこ改@デレP:恋が始まる~



 か、可愛い……? それ、私の事でいいんですか? 私の事を可愛いって言ってるんですか?

 確かめたい、聞きたい、彼の声を聞きたい。私をもっと見てほしい。私にあなたの辛い話を聞かせてもらいたい。笑顔を見せてほしい。一緒に笑いたい。好き。あなたが好き。いつから好きなのか分からないけど、あなたが好き。好き。好き。どうしようもないくらい、私はあなたの事が好きなんです。

 いつの間にか、彼の目の前まで歩いて来てしまった。近寄り過ぎて、もうスマホを確認する事は出来ない。スマホを胸に握り締めて、彼の顔を見つめる。チラッと、私の姿を確認した後、またスマホをいじり出す彼。何か投稿したんだろうか。気になるけど、もう気にする必要はない。今この瞬間からは、直接彼に聞けばいいんだから!


「好きです、付き合って下さい」


 彼がイヤホンを耳にしているのを今さらながらに気付いた。そう言えば毎日イヤホンしてたな。私も、見ているようで全然彼の事を分かっていないのかも知れない。


「好きです、付き合って下さい」


 やっと私が何か言っている事に気付いた様子の彼。ちょっと驚いたような表情を見せた後、スマホを操作している。音楽の音量を下げたんだろうか。じゃあ、次に言う言葉は聞こえるよね? 聞いてくれますよね?


「好きです、付き合って下さい」


 彼がイヤホンを片耳だけ外した。今気付いたような感じのリアクション。でもその前から私の事、気付いてましたよね? ふふっ、まだ私が彼に話し掛けている事に確信が持てないみたい。
 あなたの事をまだまだ分かっていない私ですけど、それくらいは分かるくらいあなたの事を知っているんですよ? って言ったら、驚くだろうな。気持ち悪がられるかも。


「好きです、付き合って下さい」

「へぁっ!?」

 あ、そんな顔で驚くんですね。でもよく分かってないみたいなんで、もう一度言いますね?


「好きです、付き合って下さい」


 そんなに警戒しないで下さい。って言っても無理ですよね。私があなたの事を一方的に見ていただけなんですから。


「好きです、付き合って下さい」


 でもこの気持ちは本当なんです。信じてもらえるまで、何度だって繰り返して伝えます。受け入れてほしい、なんて事は私には言えません。けれど、あなたの事が好きだっていう女の子が、ここにいるんだよって伝えたかったんです。


「好きです、付き合って下さい」


「おい、いい加減何とか答えてあげなよ。女の子が困ってるじゃないか」

 彼の隣に立っていた会社員風の男性が、彼の肩を小突いている。そこでやっと彼が我に返ったようにビクリと反応をした。

「す、すみません。その、と、突然の事で、つい……」

 突然の事で信じられないのだろうか。私は何度でも言います。あなたが、好きだから。

「好きです、付き合って……」

「わー! 分かった、分かりましたから、もう大丈夫です。とりあえず、その、みんな見てるので……」

 誰に見られようと関係ない。私は自分の気持ちを伝えるだけ。それだけで、こんなにも心が落ち着く。こっそり覗き見ていた罪悪感が少しだけ、ほんの少しだけ軽くなった。
 私はここにいる、その事を彼が認識してくれた。それだけで、とっても嬉しい。手を伸ばせば触れられる。話せば答えてくれる。私の想いは、伝わった。

 伝わったけど、でもそれだけじゃ足りない。好きだって伝えただけじゃ、物足りない。そもそも無意識だったけど、付き合って下さいって連呼してる……。付き合いたい、お付き合いしたい、彼の、彼女になりたい……。
 急に恥ずかしくなって来た!


「連絡先を交換してもいいですか?」


 そう言って私はスマホを取り出す。急にそんな事を言われたからか、彼が操作が上手く行かないようだったので私が教えながら連絡先を無事、交換する事が出来た。


柊人しゅうとさんていう名前なんですね、ふふっ」


 やっと教えてもらった、彼の名前。あ、私と同じ、名前に冬が入ってる。お揃いだ!


「私と柊人さん、2人とも名前に冬が入ってますね、これって運命なのかな」


 どうしよう、柊人さんと連絡先を交換出来たのが幸せ過ぎて、離れたくない。でも、もう私が降りる駅に着いてしまった。とっても名残惜しいけど、でも連絡先を交換したんだから、もういつでも会えるんだ!


「柊人さん、私が降りる駅に着いたので、今日はお先に失礼しますね。また後で連絡、させてもらいます」


 後で連絡、後で連絡……、か。ふふふっ、ダメだ顔がにやけて力が出ない。柊人さんに手を振って、出来るだけゆっくり歩く。膝がガクガクとなって、気を抜くとこけてしまいそうになる。改札を抜け、学校へ向けて歩き出す。いつもの風景、いつもの友達の顔を見て、やっと心が落ち着いて来た。
 思い返すと、結構大胆な事をしてしまったな。あ、そう言えば……。


『突然の告白すみませんでした。ところで、降りる駅過ぎてましたけど大丈夫でした?』


 ちょっと知らせるのが遅過ぎた気もするけど、それさえも連絡する口実なのかも知れない。次はどんな連絡をしようかな。私から会いたいって言っても、いいよね? いつ告白の返事もらえるかな。

 あぁ、柊人さんが好きだ。やっぱり好きだ。大好きだ。どうしようもないくらい好きだ……。
 告白した途端、軽くなったと思った胸の中には彼の事で一杯になって満たされて、ぎゅうぎゅうと私の身体を内側から圧迫する。胸から好きだという気持ちが飛び出しそうになって、慌てて胸を押さえる。


 どうしよう、もう柊人さんに会いたくなっちゃったよ……。

 はぁ、柊人さん……、大好きです……。

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