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好きなのに理由って必要ですか? と私は言ったけれど
「柊人さんを好きな私に謝って下さいっ!!」
しおりを挟む「好きなのに、理由って~……、必要で、すか?」
噛んだ~~~!!!
噛んだけど柊人さんからのツッコミはない。目を見開いて驚いてるみたいだ。笑ってよ、笑って噛んでんじゃんってツッコんでよ……。
何も言われないとか一番悲しいパターンだよ?
「好きだなと思ったんですよ、柊人さんの事。だから告白しました。
ダメ、ですか?」
よしっ、噛んでない! 噛んでないけど焦って出た言葉だからちょっと意味不明。
え~っと、好きな理由は好きだと思ったからであって、従って告白をしたのは私。オ~ケイ? ノ~、やっぱり意味が分からない。
私には柊人さんを好きだと思う4つの大きな理由と、20を越える小さな理由と、そして揺るぎない理由がいくつかある。あるんですっ!
でも言えない。SNSを通して覗き見した柊人さんの人間性を、私は知っていますと柊人さんには伝えられない。伝えてしまったら、ただの気味の悪い行動派ネットストーカーだと思われるのがオチだ。それはすなわちただのストーカーだ。
さて、どうしよう。どうしたもんか、不安になって来た。頭おかしい系女子だって思われてないかな? でも柊人さんちょっと頭が痛い女の子の方が好みだったりしそうだし。
テヘペロッ☆ は行き過ぎだとしても、テヘッ♪ くらいならストライクゾーンなんじゃないかな。
いやもう訳分かんなくなって来たよ! どうしようかな!!
「あれ? 冬花ちゃんじゃん、どしたの? 家この辺なの?」
「冬花ちゃんと塾以外で会うなんて、運命じゃね!?
この人お兄さん? あんまり似てないけど」
う~ん、この人達は決して救いの手なんかではない。塾で同じ教室に座っている、ってだけの人達だ。顔は知ってるけど名前は知らないし、個人的に話をした事もない。だから軽々しくちゃん付けで呼ぶな! 柊人さんが勘違いしたらどうしてくれるのよっ!!
決めた、柊人さんと私だけの空間から排除すべき。私達のラブスペース(仮)には不必要な存在。
「話し掛けないで下さい、迷惑です」
身体全身から拒絶オーラを出す。あなた達を見る為の目すら持ってません、という意味を込めてクイッて眼鏡を上げる。
私は氷の女王、私の心を解かせるのは柊人さんだけなの……。
そんな私の拒絶オーラを感じてか、2人組みが柊人さんに擦り寄ろうとする。
「お兄さん、冬花ちゃん塾でいっつも冷たいんスよ。家でもそうなのかなぁって思ってたらお兄さんと一緒に出掛けてんの見てビックリっス!
あれっスか、ブラコンってヤツっスか!?」
「一緒にお風呂入ってるスか!? 羨ましい!! 爆発しろ!!!」
あれ? 私達ってそんな風に見えるの……? 仲良さそうだった? 何だ、良い人達だったみたい。見どころあるわ、やるじゃん。今度会ったらグッジョブメダルあげよう。持ってないけど。
ってか、え? お、お風呂? 一緒にお風呂……? もうっ! まだ早いよっ!!
ハッ! しまった、何ともだらしのない顔をしていた気がする。でも柊人さんは去り行く良い人達の背中を眺めているみたいで、私の表情は気付かれなかったみたいだ。セーフセーフ。
あ、そうだ。一応私の知り合い、いや同士、は言い過ぎだから塾仲間かな? が騒ぎ立てて迷惑を掛けてしまったから、ここは私が謝っておかないと。
「すみません、塾の人達がご迷惑をお掛けしました」
あ、ダメだ、表情がまだだらしない。どんな顔で謝ればいいのか分からないからとりあえずくしゃっとさせておこう。こんな顔、可愛くないだろうけどだらしのない顔よりはマシだと思おう。
「ごめんね、お兄さんって言われた時すぐに否定すれば良かったね」
そう言って柊人さんが逆に申し訳なさそうに謝って来た。
「えっ、何でですか?」
「だって、こんな俺が冬花ちゃんのお兄さんだって思われたらさ、何か申し訳ないなって」
ん? んん? こんな、俺が、冬花ちゃんの、お兄さんだって、思われたら、申し訳ない……?
何が申し訳ないんだろう? 私が好きな柊人さんが、私の兄だと勘違いされて、何がダメなの?
え、結婚出来ないから? それとも、柊人さんが私の兄っぽくないから?
「……、何でですか?」
おっと、今の声どこから出たんだろう、自分でもビックリ。
「ほら、冬花ちゃんって、その……、か、可愛いじゃん? それなのにさ、こんな俺が兄だなんて勘違いされたままだとさ、塾で噂になるんじゃないかって思って。冬花ちゃんのお兄さんってブおt」
ダンッ!! 思い切りテーブル叩く。うわぁ、思った以上に手が痛いよう……。
でも我慢、奥歯を食いしばって痛いの耐えて柊人さんを見る!
「謝って下さい!」
どうだ! これでさっきの「好きな理由」の話題はどっかに飛んで行ったでしょう!! え? まだ覚えてるって? じゃあもうひと押しですっ!!
「柊人さんを好きな私に謝って下さいっ!!」
目をキョロキョロと、口をパクパクとさせながら、柊人さんが私を見つめている。よし、場の空気は変わった。ここから畳み掛ける!
「柊人さんは私が好きな人の事を否定するんですか!? 私は柊人さんが好きなんです。顔も、話し方も、仕草も、私を気遣ってくれる優しさも、全部好きです。好きになってから知った柊人さんも好きです。実際に話してみたら幻滅したとか、そんな事はありません!
信じて、くれませんか……?」
話し方も、仕草も、気遣ってくれる優しさも、知ったのは私が好きだと告白した後の話だ。でもこの空気感の中でそこに気付く事が出来るだろうかいや出来ない。
柊人さんは完全に私の話術に嵌っているはず! よしっ、上手く誤魔化せたんじゃな~い?
そう思ってたら、コクコク頷いていた柊人さんが立ち上がって、テーブルの上をさささっと片付けて、そして私の手を握って言った。
「分かったからもう出よう! 着いて来て!!」
ハイッ、どこまでも着いて行きますともっ!!
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