好きなのに理由って必要ですか? と彼女は言った

なつのさんち

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付き合うのに好き以外の理由が必要ですか?

「実は、彼氏が出来たんだけど……」

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『そっか、分かった。もし夜にビデオ通話出来たら教えてね』

『うん、遅くなると思うから絶対とは言えないけど、出来そうなら連絡するね』

『俺は真夜中まで起きてると思うけど、無理はしなくていいから』


 柊人しゅうとさんとのやり取りを終え、電車を降りる。お昼休みの柊人さんとの電話の後、兄から連絡が来た。今日久しぶりにお姉ちゃん、兄の彼女が我が家に遊びに来るというものだった。
 兄と兄の彼女は中学生の頃からのお付き合いで、私はずっと兄の彼女の事をお姉ちゃんと呼び、仲良くさせてもらっている。
 大好きなお姉ちゃん。兄と同じ医科大学に通い、専攻は違うものの医師への道を進んでいる。兄と同じくらいカッコイイ、尊敬出来る人物だ。
 せっかくうちに来てくれるのだから、柊人さんとのお付き合いについて相談してみようと思っている。こっそりと、自分の部屋で。2人きりがいいけど、お兄ちゃんがそっとしておいてくれるかどうかが不明だ。



「それで、話って?」

 兄に可愛い妹の頼みを聞いてもらい、お姉ちゃんと2人で話す時間をくれた。でも多分恋バナだと気付かれている。いいけどね。

「実は、彼氏が出来たんだけど……」

「えっ!? ホントに!!? えっ、おめでとう!!」

 ちょっと驚き過ぎじゃない? 私ってそんなに彼氏いなさそうなキャラに見えるんだろうか。驚きながら、お姉ちゃんが私を抱き締めてくれる。
 今となっては私よりも小さな身体なのに、抱き締められるととっても安心する。ほっとする。

「ふふっ、ありがとう。でね、実は……」

 付き合う事となった経緯を全て話す。隠し事一切なしで話す、事が出来れば良かったんだけど、結局はSNSで柊人さんのアカウントを覗き見していた事がきっかけで好きになったとは言えなかった。
 後ろ暗い事をした上での恋の話。小さい頃から良くしてくれているお姉ちゃんには告白出来なかった。

「へぇ、冬花ふゆちゃんが一目ぼれしてその日のうちに告白するなんてねぇ~、ビックリだよ」

 そうよね、私の事を知っている人ほど、私が一目ぼれするようなタイプじゃないって知ってるよね……。
 あぁ~、やっぱり本当の事を言って、その上でどうやって謝ればいいのか聞いた方がいいよね、そうだよね……。

「あのね、お姉ちゃん……」

「うんうん、分かるよ。言わなくても私は分かってるんだから。
 キスはいつのタイミングでするのか、初体験はいつ頃するのか、そこんとこを聞きたいんでしょ?」

 えぇっ!? お姉ちゃんって自分からそんな話題を振ってくるようなタイプの人だったっけ?

「私も最初は悩んだよ、私達が付き合い始めたのって中学三年だったからね、キスはしても、ね? 全然早いだろうって思ってたの。
 ん~、キス自体は付き合ってひと月も経ってなかったな~。学校からの帰り道でさ、ホントに軽くチュッ! って感じだったの。
 で~、初めての…………、へへへっ♪
 笑っちゃうんだけどさ、あの春馬はるがコンビニでアレを買って来てさ、『頼む、絶対に優しくするから!』 って頭下げて来てね!
 当時は遂に来たか、いやこんなに早くても大丈夫か、ってちょっと考えたけど、もう思い出すだけで笑っちゃうよね!!」

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、聞きたくなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。ってか中三でって早過ぎるでしょ! 何考えてんのあのバカ!!
 あ、ちなみにバカの名前は春馬はるまだ。そして思わぬ一面を知ったこのお姉ちゃんの名前は美空みそらだ。
 美男美女カップル、しかもどっちも医者の卵。2人の事を誇りに思っている、けれどちょっと揺らいでいるのであった。

「ちなみにこの家なんだよね、思ってたよりもふゆちゃんが早く帰って来てさ」

 だから聞きたくないぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!



「ごめんね、私ばっか喋って」

「ウン、ダイジョウブ」

 大丈夫じゃないよ……、勘弁してよ……。

「まぁ散々話したけどさ、そういう雰囲気になる前にちゃんと話し合っておけば用意してくれるよ。
 聞いてる限りしっかりした人だと思うよ、柊人君は」

 ……、そうなのかな。私の事をちゃんと想ってくれれば、後先考えないような事はしないのかな、柊人さんも。
 うん、でもそれは確信出来る。絶対無理やりな事はされないって、信用出来る。確信してる。
 だって、私の好きな柊人さんだもん。

 コンコンコンッ、ノックの音の後にお兄ちゃんの声。

美空みそら、そろそろ時間も遅いし送って行くよ」

「うん、分かった~」

 お兄ちゃんの声にベッドから立ち上がって応え、そしてまた私を抱き締めてくるお姉ちゃん。

「今日の話は絶対に誰にも言わないから。だから、ふゆちゃんも内緒だよ? 私も結構恥ずかしかったんだから。
 でも、ふゆちゃんに柊人君の事聞かせてもらって、嬉しかった。
 私で良ければ、いつでも相談に乗るからね?」

「うん、ありがとう。聞いてもらって嬉しかった。
 お兄ちゃんと、お姉ちゃんと、私達と4人でデート出来たらなって思ってる」

「いいねそれ!」



 お姉ちゃんに話してるうちに、柊人さんの声が聞きたくなった。でも、色んな話を聞いた後では意識し過ぎて柊人さんの声を聞けないっていう気持ちにもなった。
 柊人さんとのキス。柊人さんとの、その……、先。
 想像するだけで顔が真っ赤になっているのを自覚する。想像するだけでこれなんだから、いざ事に及ぼうとした時には、私はどうなってしまうんだろうか……。

『冬花、いいかい?』

『……、うん……』

「キャーーー!!!」

 ベッドに寝転がり、足をバタバタさせて枕に顔をうずめる。明日は曜日的に朝の電車で柊人さんと一緒になる日だ。どうしよう、明日まともに柊人さんの顔を見れるんだろうか……。
 想像、いや妄想していた為に、柊人さんへの連絡をすっぽかしている事に気付いたのは、次の日の朝だった。

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