最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

まーくん

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第1章 キンコー王国は行政改革で大忙し

1【死亡確定、そして転移した】

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<<マサル視点>>
加藤優24才、今俺は人生最大のピンチかもしれない。

俺の目の前には、体長4メートルはゆうにあろう熊らしき…
正確には、熊に似ていて頭にツノが1本生え、ヨダレをダラダラ垂らしている謎の生き物が、今まさに俺に襲い掛かろうとしているのだ。

さっきまで、コンビニで新聞を立ち読みしていたのに…



俺は中流大学の建築学科卒業後、エンジニアとして中堅建設会社に入社した。

この会社では入社後2年間は現場経験を積み、その経験を3年目からのエンジニア経験に活かす事になっている。

俺は、材料加工から建設現場までの全ての工程を経験し、出社後はひとまず、現場監督としていろんな現場に入る予定になる。

この仕事は俺に向いているらしい。

『指示書に従い、淡々と作業工程を繰り返す。』

なんて……素晴らしい仕事なんだ!!

俺は決して内向的では無いが、積極的なリーダータイプでも無い。

どちらかといえば3番手位を先頭の後について淡々と進んでいくタイプだと自分で思っている。

人は俺のことをコバンザメみたいに評価しているようだが、何も先頭を行くことだけが良いわけじゃないと思う。

先頭が開拓した道をキチンと踏み固めていくなんて、その作業を完成させているみたいで達成感があるではないか。

だから俺は、このポジションが好きなんだ。って言えればカッコいいんだが、実際にはそこまでの強いこだわりは無い。

3番目位の方が、風当たりも強くなく、何となく劣等感もないんじゃないかと思っているだけなんだけど...

まあ、とりあえずこの仕事は俺に向いていると思う。



現場実習ももう少しで終わる2年目の2月末に、俺は足場から転落し、足を骨折した。

3週間の入院を経て今は自宅で療養中である。もうほとんど完治しているので、来週の本社初出勤には間に合いそうだ。

今日は初出勤に向けて必要なものを買いに出かけた。
弁当でも買おうとコンビニ入って、何気なく新聞スタンドを眺めていると我社の名前が出ていたので、その新聞を手に取ってみる。

『倒産』そこにはその2文字が大きく書かれていた。
あまりにも突然のことで動転し、新聞を貪るように読んでいると、突然目の前が車のヘッドライトで真っ白になった。

思わず目を瞑り、数秒後、目を開けてみると目の前にいる熊らしき生き物に今まさに襲い掛かられそうになっていたのである。

熊らしき生き物は、その長い爪で俺を引っ掻こうと両腕を高く上げている。

意識が追いついていない俺は、危険だと認識しつつも、動くことすら出来ないでいる。

まさにその長い爪が俺の頭を抉ろうとし、俺が諦めた瞬間、目の前が再び真っ白になる。

数秒後に視界がクリアになると広い空間が広がっていた。

襲い掛かってきていた熊らしき生き物もおらず、ただ白くて広い空間があるだけである。

足元を見ると上空から真下に望遠レンズで地上を見たような景色が見える。

昔、○○タワー展望台のガラスの床から双眼鏡で覗いた感じに近い。

そこには、深い森と先程まで俺を襲っていた熊らしき生き物が見える。

熊らしき生き物は、両手を高く上げたまま停止しており、その前方2メートル程に、1人の少女が蹲ったまま停止している。

どうやら熊らしき生き物は少女を襲おうとしており、何故か俺がそのあいだに紛れ込んだ形になっていたようだ。

ところで、ここはどこだろう。
しばらく放心していると、何処からとも無く声が聞こえてきた。

「加藤優さんですね?貴方は不慮の事故で亡くなりました。
貴方には、新しい世界に転生して頂く事になります。

本当は、ここに直接来てもらい転生先を選んでもらう予定でしたが、手違いでヨーシノの森に降り立ってしまったようですね。」

おおい、ちょっと待って欲しいのだが。
事故で死んでしまったのはともかく、何故転生なの?

声にならない心の声が出てしまったが、天の声には聞こえてるようで、すぐに返事が返ってきた。

「別に珍しい話しではありません。
転生者は、定期的に抽選で決めています。

これは、それぞれの世界の文化が停滞しないようにする為に必要な措置です。

もちろん貴方のいた世界にも転生者はいますよ。

稀に世界中を驚かせるような発明をする人が現れるでしょう。

大概そういう人は、世間的に常識はずれじゃないですか?」

たしかにエジ○ンやアイ○シュタインなんかが当てはまる。
ゴッ〇やダ〇ンチなんかもそうだ。

「転移ではなく転生にするのは、そちらの方が自然だからです。

転生者に選ばれた方には、なんらかのアドバンテージをお渡ししています。

貴方がいた世界には魔法が無かったので、特定分野の卓越した知識や芸術などを求める方が多かったですね。

こちらでは、魔法やスキル、腕力などを望む人が多いです。」

なるほど、確かに理にかなっている。文化や文明に変化がなくなると世界が頽廃していくのは当然だろう。

良しにしろ悪しにしろ定期的な変化は必要だと思う。

でも文化や文明が作為的に作られてきたなんてロマンも何もあったもんじゃない。

そんな事を考えていると、またしても俺の思考を読み取ったのか、天の声が届く。

「貴方は、非常に理解が良くて助かります。

最近は、此方の想いをよく理解もせずに、力だけを欲しがる方達が多すぎます。

お陰でこの世界は、500年程文化や文明が停滞しています。

貴方がなんとかしてくれませんか?

もちろんただとは言いません。
普通は1つしか与えない力を貴方には、3つあげましょう。

なんでも言って下さいね。」

なんでもって言われても困ってしまう。

ただ、この世界の文化や文明をリフレッシュすることには非常に興味はあるし、必要不可欠だと思うのでできる限り協力したいと思う。

「たしかに急に力を3つと言われても困るでしょうね。

ゆっくり考えてくれて構わないですよ。

あと転生と転移どちらにしますか?

転生の方が活躍までに時間が掛かりますが自然にこちらの世界に溶け込めます。

転移の場合は、常識のギャップに苦しむかも知れませんが、すぐに活躍出来ますね。」

もし転生にしたらあの熊らしき生き物に襲われている少女は、どうなるのだろう。放っては置けないよなぁ。

「貴方はほんとうに優しい人ですね。

この世界は人の命が非常に軽く、あの少女が死んでも「しょうがない」で片付けられますよ。

もし助けてあげたいのであれば、転移になってしまいますが、良いですか?」

俺が迷わずそれで良いと答えると、「本当に貴方ならどんなに力を与えても大丈夫そうですね。

では貴方をあの場所に戻しましょう。

ただ今は、時間が止まっている状態なので、そのまま戻すと、即死んでしまいます。

なので、魔物のビッグベアを5メートル後ろに下げて、貴方には、勝てるだけの攻撃力と防御力、あと人間界で魔剣と呼ばれる神の加護が付与された剣を与えます。

そうそう、これは、3つの力には含まないので安心して下さいね。」

あの熊らしき生き物は、魔物でビッグベアっていうのか。

倒せるだけの力を貰えるのは、有り難い。でも天の声ってどんな人なんだろうか?

「わたし?そう言えば自己紹介してなかったわね。

わたしは、この世界の創造神でマリスと言います。

大きな街には、わたしを祀った神殿があるので、たまにお祈りして下さいね。

あっそうそう、この世界の読み書きができるようにもしているので安心して下さいね。

じゃ下に戻しますね。」

再び目の前が真っ白になり、視界がクリアになると、ビッグベアが腕を振りおろし盛大に空振りしていた。

体制を崩した今がチャンスと判断、前に足を踏み出しながら手に持った剣を横に薙ぎ払った。

驚くほど身体が軽く、切ったという手ごたえもほとんどなかったが、数秒後に、目の前のビッグベアの上半身は滑るように落ちていった。

俺は、後ろで震えている少女に「俺の名前はマサル、大丈夫?」と声を掛け、名前とどうしてここにいるのかを聞いてみた。

「あ、ありがとう…ご、ございます………。わたしの…名前はリザベート、…… り、両親は行商人をしていて、ナ、ナーラの街に行く途中にたくさんの魔物やあのビッグベアに襲われたの。

お母さんが………お母さんがわたしを逃がしてくれたの、一生懸命走ってきたんだけど、あそこで追い付かれ殺されるところだったの。」

震えながらも気丈に話すリザベートにどことなく気品を感じるが、とりあえずリザベートの両親を探すことにする。

「リザベート、辛いだろうけど、ビッグベアに襲われた辺りに連れて行ってくれないか。」

「わかりました。それから、わたしの事は、リズって呼んで下さい。」

リズに逃げて来た方向を尋ね案内してもらう。

リズがそこに行くのを嫌がるかとも思い確認してみたが、両親の確認をしたいとの意思表示があったので、彼女のことを聞きながら慎重に最初の襲撃場所まで歩いた。

リズは、人族で14才、行商の両親と3人でナーラといくつかの街を回って各街で仕入れた商品を販売して生活していたらしい。

両親共に元々冒険者でこれまでも魔物に何度も襲われていたが今回のようなどうしようもないくらいの数とに強い魔物にあったのは、初めてだそうだ。

20分も歩いただろうか、そこには、倒れた馬車と焼け焦げた草木などがあり、2つの死体があった。



<<リズ視点>>
わたしは、生まれてからずっと両親と旅をしている。

だいたい4つの街や村を作物や特産品の仕入れと販売をしながら1ヶ月かけて回っているの。

お父さんお母さんは、今は行商してるけど、わたしが生まれる前は、有名な冒険者だったみたい。

ナーラの宿屋のミリーおばさんが教えてくれた。

よく旅の途中で魔物に襲われる事があったけど、お父さんお母さんがあっというまに倒しちゃうのでたぶん本当なんだと思うの。

一昨日ワーカの街を出発して明日ナーラに着く予定だったんだけど昼過ぎにたくさんの魔物に襲われた。

それをやっつけたんだけどその後ビッグベアに襲われた。

わたしは、ビッグベアを見たのが初めて。

物凄く大きくて力が強くA級冒険者が5人がかりでやっと勝てるくらいだってお父さんから聞いた事がある。

もし出会ってしまったら、とにかく逃げるようにしつこく言われていた。

そのビッグベアが目の前にいる。お父さんお母さんが剣と魔法で戦い始めたが苦戦している。

お母さんがわたしに向かって「はやく逃げなさい、あなただけでも生きて、ナーラの街に伝えて!」と必死に叫んでいる。

わたしは、無我夢中でナーラに向かって走った。まだ馬車で1日の距離があるが全速力で応援をたのまなきゃ。

でも走り始めて10分くらいで後ろからビッグベアの追いかけて来る音が聞こえてきた。

その時にお父さんお母さんが死んじゃったんだと思ったら急に力が抜けて転んだ。

後ろを振り返ると、ビッグベアがすぐ近くまで来て大きな腕を上げ私に襲い掛かろうとしていた。

もうだめだと思って目を瞑って「これで死んじゃうんだ」って覚悟していると、ドサッと大きな音がした。驚いて目を開けてみると、ビッグベアが目の前で倒れているのが見えた。

何が起こったのか理解できず、周りを見てみると1人の若い男の人が剣を持って立っている。

彼は私のほうを見ると「俺の名前はマサルだ、大丈夫?」と話しかけてきた。

私がうなずくと、その人は私の名前や何故ここにいるのかを聞いてきたので、私は素直に答えた。

私の話しを聞いた後、マサルさんは「ご両親を探しに行こうと思うんだけど、大丈夫?

もし無理だったらここで待っていてくれても大丈夫だけど、また魔物が来たらだめだよね。」と話しかけてきたので、一緒に行きますと答えた。

状況から考えてお父さんお母さんが生きているとは思えないけど、亡骸は私の手で葬ってあげたいもの。

マサルさんは悲痛な顔をしてくれている。

そりゃ両親が死んだら悲しいのは当然だけど、人が死ぬことなんて当たり前にあるし、両親を亡くした子供たちもいっぱいいるので、私だけが特別悲しいとは思わない。

私も14才。来年は成人で一人前の大人だもんね。

走ってきた道を歩いて戻っていく。進むにつれ現実を実感しだすと、だんだん足が震えてきて立っているのがつらくなってきたが、頑張って歩いた。

ビッグベアに襲われた場所まで来ると、うちの馬車が倒れており、お父さんお母さんが倒れていた。

近寄ってみると、2人共既に亡くなっていた。

私はこらえていた涙が一気にあふれ泣き出してしまった。マサルさんは優しく後ろから抱きしめて、私を慰めてくれた。

ひとしきり泣いたら、ちょっとだけ気持ちが整理できた。

マサルさんが「まだ気持ちの整理がつかないかもしれないけど、いつまでもここにいたら、また新しい魔物が来るかもしれないから埋葬をして、必要なものを回収したら移動しよう。」と言った。

わたしもその通りだと思うので返事の代わりに被りを振った。

マサルさんが埋葬の準備をしている間に、わたしは荷物の中から必要になりそうなものをまとめた。

馬車は、壊れていて動きそうもないが、馬は、生きていたので、荷物もある程度持っていけそうだ。

埋葬も荷物整理も2時間程度で終わったので、お父さんお母さんに最後の挨拶をした。

お父さんお母さん、リズは、これからも一生懸命に生きていきます。

天国から見守っていて下さいね。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆
新作が出ました。
「100年生きられなきゃ異世界やり直し~俺の異世界生活はラノベみたいにはならないけど、それなりにスローライフを楽しんでいます~」

本作とはかなり書き方も変えています。

こちらも本作同様、よろしくお願いします。
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