87 / 382
第4章 リザベートの結婚狂想曲
8 【マサルの憂鬱】
しおりを挟む
<<マサル視点>>
ううん、面倒だ。本当に面倒だ。
こうなることが予想できたから、できるだけ目立ちたくなかったのに!!
「マサル様、いい加減、現実逃避はやめて片付けてしまいましょう。」
ヤングさんが、会頭室に入って来て、机の上に積み上がっているお見合い写真を前に、ため息をついている。
半年くらい前に、写真機を作ってみた。
キッカケは、ネクター王の末娘であるピーチ姫の嫁入りだ。
眼の中に入れても痛くないほど、かわいがっていた姫が他国に嫁入りするにあたり、どうしても精巧な肖像画が欲しいと、頼まれたのだ。
もちろん俺に絵心がある訳も無く、写真ならと思い、写真機を作ってしまった。
当然ネクター王は大喜びで大きく引き伸ばしたものを、書斎に飾ってある。
気に入ったものは、人に自慢したくなるのが人間の性である。
謁見するたびに自慢するものだから、貴族や大商人から『うちの娘も撮って欲しい。』との依頼が、カトウ運輸に殺到した。
この機会を番頭のヤングさんが見逃すはずも無く、写真館を作ってしまった。
多くの貴族や大商人が争うように写真を撮りに来た。
その中には、適齢期の令嬢もたくさん含まれている。
「結婚の申し込みを打診する時は、写真を送るのが最先端ですよ。乗り遅れないようにしましょう。」
と、ヤングさんが商売っ気を出したのが大当りし、写真館の儲けだけで、中規模の商会に匹敵する繁盛振りなのだ。
俺の机の上にあるのは、それら令嬢達の写真だ。
4年ほど前だったか、ハーバラ村で最初の農村改革を成功させた時、キンコー王国はかつてないほどの盛り上がりを見せた。
吟遊詩人が競って改革の様子を歌にし、それが劇場で芝居になるまでに時間はかからなかった。
『マサル、ハーバラ村の奇跡』と名付けられたその芝居は、王都で専用劇場ができるほどのロングラン公演となり、王国内の各領主がこぞって自領に公演を招致したため、王国国民の誰もが知ることとなった。
もちろん、国外でも公演され農村改革の手本としても親しまれている。
その芝居で主人公だった俺の知名度は瞬く間に上がってしまい、そのせいで静かに暮らしたかったはずの生活はどこかに行ってしまった。
また、カトウ運輸を設立してからは、何故か辣腕事業家として、余計に注目されてしまい、それに伴い縁談の話もひっきりなしになった。
最近、ようやく下火になったと思っていたら、今回の写真騒動で、また火がついてしまったようだ。
「ヤングさん、片付けるって言っても、どうしましょう?
安くは無い写真を撮ってまで送ってきているのです。
無碍にはできないですよね。
ヤングさんが、欲を出して写真館なんか出しちゃったからじゃないですか。」
「結果的にはそうですが、商人が目の前の儲け話に食らいつくのは、仕方がないでしょう。」
「それはたしかに、そうだけどな。」
まぁヤングさんを責めても何も変わらないか。
それよりも、この山をなんとかしなきゃな。
「マサル様、少しだけでも見てくださいね。
できれば、4、5人とお見合いして下さい。」
「どうして?」
「このお嬢様方は、うちの写真館で撮影して下さったのですよ。
もし、全て断ってしまっては、お客様に申し訳無いじゃないですか。」
「本音は、お見合い写真が効果が無いと噂になって、売上げが落ちると困るからだろう。」
「マサル様に隠し事はできませんな。あははは。」
そんなわけで、俺はお見合いさせられることとなった。
<<シルス子爵視点>>
我がシルス家は、由緒正しい法衣貴族の家柄だ。
代々、キンコー王国で、法務長官を務めている。任せられる者は見当たらない。
わたしには適齢期の娘がいる。
目の中に入れても痛くない程、かわいい娘だが、誰かの元に嫁がせ無ければならない。
実は、婿候補は決めてあるのだ。
カトウ運輸会頭のマサル氏だ。
ナーラ大公爵の信任も厚く、ネクター王の覚えもめでたい。
一連の行政改革における手腕や国際連合設立における中心的な役割等、これ程の逸材は近年を見渡しても見当たらない。
王からは、爵位の話しもあるようだが、今のところ受けていないのが引っかかるが、庶民であった方が当方としては都合が良い。
彼を狙うのは、聡明さだけが理由ではない。
カトウ運輸に関わる利権も大いに魅力がある。
さて、再三お見合いの申し込みをマサル氏にしているのだが、色良い返事が頂けない。
想い人がいるのかを調査させたが、特にいるような気配はなさそうだ。
彼を婿として迎えたい貴族は多い。
早くお見合いまで漕ぎ着けないと、ライバルに先を越されてしまう。
お見合いに漕ぎ着けるための手段がないか悩んでいると、ベル侯爵夫人のお茶会から戻ってきた妻がアイデアをくれた。
今写真というものが流行っているらしい。
写真機という魔道具を人に向けると、実物と見間違うような肖像画が描き上がるらしい。
その肖像画をお見合いの申し込み時に使えば、お見合いの成功率が断然高くなるという。
その写真機の発明者は、あのマサル氏ということだ。
しかも、カトウ運輸が写真館という、その肖像画を描くための商会を設立したらしい。
肖像画一枚金貨10枚もするので少し高いような気もするが、将来への投資だと考えると安いものだ。
早速写真館に出向き娘の肖像画を描いてもらった。
出来上がりを見て腰を抜かすほど驚いた。
娘と瓜二つだ。
これならいけると思って、マサル氏にその肖像画を送った。
しばらくして、カトウ運輸からマサル氏とのお見合いの調整について連絡が入った。
お見合いの結果は残念だったが、わたしは満足している。
マサル氏とのコネクションを作れたこともそうだが、あの精巧な娘の肖像画が戻ってきたのだ。
今、その肖像画はわたしの執務室に飾ってある。
しばらくして、娘の縁談が決まった。
わたしの部下の1人と娘が恋仲であることがわかったのだ。
ちょっと気が弱く真面目で誠実なだけが取り柄のような男だが、娘が良ければそれが一番だろう。
マサル氏とのことは残念だったが、娘には幸せになって欲しいと願っている。
ううん、面倒だ。本当に面倒だ。
こうなることが予想できたから、できるだけ目立ちたくなかったのに!!
「マサル様、いい加減、現実逃避はやめて片付けてしまいましょう。」
ヤングさんが、会頭室に入って来て、机の上に積み上がっているお見合い写真を前に、ため息をついている。
半年くらい前に、写真機を作ってみた。
キッカケは、ネクター王の末娘であるピーチ姫の嫁入りだ。
眼の中に入れても痛くないほど、かわいがっていた姫が他国に嫁入りするにあたり、どうしても精巧な肖像画が欲しいと、頼まれたのだ。
もちろん俺に絵心がある訳も無く、写真ならと思い、写真機を作ってしまった。
当然ネクター王は大喜びで大きく引き伸ばしたものを、書斎に飾ってある。
気に入ったものは、人に自慢したくなるのが人間の性である。
謁見するたびに自慢するものだから、貴族や大商人から『うちの娘も撮って欲しい。』との依頼が、カトウ運輸に殺到した。
この機会を番頭のヤングさんが見逃すはずも無く、写真館を作ってしまった。
多くの貴族や大商人が争うように写真を撮りに来た。
その中には、適齢期の令嬢もたくさん含まれている。
「結婚の申し込みを打診する時は、写真を送るのが最先端ですよ。乗り遅れないようにしましょう。」
と、ヤングさんが商売っ気を出したのが大当りし、写真館の儲けだけで、中規模の商会に匹敵する繁盛振りなのだ。
俺の机の上にあるのは、それら令嬢達の写真だ。
4年ほど前だったか、ハーバラ村で最初の農村改革を成功させた時、キンコー王国はかつてないほどの盛り上がりを見せた。
吟遊詩人が競って改革の様子を歌にし、それが劇場で芝居になるまでに時間はかからなかった。
『マサル、ハーバラ村の奇跡』と名付けられたその芝居は、王都で専用劇場ができるほどのロングラン公演となり、王国内の各領主がこぞって自領に公演を招致したため、王国国民の誰もが知ることとなった。
もちろん、国外でも公演され農村改革の手本としても親しまれている。
その芝居で主人公だった俺の知名度は瞬く間に上がってしまい、そのせいで静かに暮らしたかったはずの生活はどこかに行ってしまった。
また、カトウ運輸を設立してからは、何故か辣腕事業家として、余計に注目されてしまい、それに伴い縁談の話もひっきりなしになった。
最近、ようやく下火になったと思っていたら、今回の写真騒動で、また火がついてしまったようだ。
「ヤングさん、片付けるって言っても、どうしましょう?
安くは無い写真を撮ってまで送ってきているのです。
無碍にはできないですよね。
ヤングさんが、欲を出して写真館なんか出しちゃったからじゃないですか。」
「結果的にはそうですが、商人が目の前の儲け話に食らいつくのは、仕方がないでしょう。」
「それはたしかに、そうだけどな。」
まぁヤングさんを責めても何も変わらないか。
それよりも、この山をなんとかしなきゃな。
「マサル様、少しだけでも見てくださいね。
できれば、4、5人とお見合いして下さい。」
「どうして?」
「このお嬢様方は、うちの写真館で撮影して下さったのですよ。
もし、全て断ってしまっては、お客様に申し訳無いじゃないですか。」
「本音は、お見合い写真が効果が無いと噂になって、売上げが落ちると困るからだろう。」
「マサル様に隠し事はできませんな。あははは。」
そんなわけで、俺はお見合いさせられることとなった。
<<シルス子爵視点>>
我がシルス家は、由緒正しい法衣貴族の家柄だ。
代々、キンコー王国で、法務長官を務めている。任せられる者は見当たらない。
わたしには適齢期の娘がいる。
目の中に入れても痛くない程、かわいい娘だが、誰かの元に嫁がせ無ければならない。
実は、婿候補は決めてあるのだ。
カトウ運輸会頭のマサル氏だ。
ナーラ大公爵の信任も厚く、ネクター王の覚えもめでたい。
一連の行政改革における手腕や国際連合設立における中心的な役割等、これ程の逸材は近年を見渡しても見当たらない。
王からは、爵位の話しもあるようだが、今のところ受けていないのが引っかかるが、庶民であった方が当方としては都合が良い。
彼を狙うのは、聡明さだけが理由ではない。
カトウ運輸に関わる利権も大いに魅力がある。
さて、再三お見合いの申し込みをマサル氏にしているのだが、色良い返事が頂けない。
想い人がいるのかを調査させたが、特にいるような気配はなさそうだ。
彼を婿として迎えたい貴族は多い。
早くお見合いまで漕ぎ着けないと、ライバルに先を越されてしまう。
お見合いに漕ぎ着けるための手段がないか悩んでいると、ベル侯爵夫人のお茶会から戻ってきた妻がアイデアをくれた。
今写真というものが流行っているらしい。
写真機という魔道具を人に向けると、実物と見間違うような肖像画が描き上がるらしい。
その肖像画をお見合いの申し込み時に使えば、お見合いの成功率が断然高くなるという。
その写真機の発明者は、あのマサル氏ということだ。
しかも、カトウ運輸が写真館という、その肖像画を描くための商会を設立したらしい。
肖像画一枚金貨10枚もするので少し高いような気もするが、将来への投資だと考えると安いものだ。
早速写真館に出向き娘の肖像画を描いてもらった。
出来上がりを見て腰を抜かすほど驚いた。
娘と瓜二つだ。
これならいけると思って、マサル氏にその肖像画を送った。
しばらくして、カトウ運輸からマサル氏とのお見合いの調整について連絡が入った。
お見合いの結果は残念だったが、わたしは満足している。
マサル氏とのコネクションを作れたこともそうだが、あの精巧な娘の肖像画が戻ってきたのだ。
今、その肖像画はわたしの執務室に飾ってある。
しばらくして、娘の縁談が決まった。
わたしの部下の1人と娘が恋仲であることがわかったのだ。
ちょっと気が弱く真面目で誠実なだけが取り柄のような男だが、娘が良ければそれが一番だろう。
マサル氏とのことは残念だったが、娘には幸せになって欲しいと願っている。
10
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~
中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」
唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。
人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。
目的は一つ。充実した人生を送ること。
異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」
その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ!
「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた!
俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる