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第1部 春のはじまりパッドエンド事件
第2話 古羊洋子は天使である
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30分後、俺たちは体育館に集まって部活動紹介を兼ねた全校集会を行っていた。
が、野郎共の視線は、ステージの上で必死にパフォーマンスをしている男子ダンス部の方ではなく、その脇にちょこんと佇んでいる美少女に釘づけであった。
ステージの脇、そこには司会進行をするべくマイクを持った双子姫の妹、古羊洋子ちゃんがいた。
『だ、男子ダンス部のみなさん、ありがとうございましたっ!』
そう言って律儀にペコリと頭を下げる、妹さん。
途端にサラサラの彼女の亜麻色の髪が空調に靡き、フローラルな香りがここまで薫ってくるかのようである。
「はぁ~、相変わらず妹ちゃんも可愛いなぁ……。結婚したい」
「ワイも♪」
俺の隣に居た元気が、同意だ! と言わんばかりに、うっとりしていた。
ほんと妹ちゃんも、お姉さんと同じく可愛いよなぁ。
そう思っていたのは、どうやら俺だけではないらしく、周りの野郎共も、うっとりしながら、妹ちゃんを凝視していた。
「なにあの人? 超絶カワイイんですけど? 僕のお嫁さんかな?」
「ふざけんな、カス!? あの人は俺のお嫁さん、いやマイ・ワイフになってくれるかもしれない人だぞ!?」
「おいおい、キミたち? 人の女に色目を使わないでくれるかな?」
「「あぁんっ!?」」
新入生の列で、そんな醜い小競り合いが聞こえてくる。
俺は某奇妙な冒険に出てくる主人公のように「やれやれだぜ……」と呟きながら、軽く肩を竦めた。
ごめんな、新入生?
妹ちゃんは、俺の(同学年の)女だから、諦めてくれ?
そんな事を考えていると、試合用のユニフォームに着替えた野球部員が、ステージの上に立っていた。
『つ、続きましては硬式野球部のみなさんです。そ、それでは5分間のアピールタイムを、ど、どう
ぞ』
『どうも、キャプテンの坂田次郎です。我々、硬式野球部は! 本当はサッカーの方が大好きです! 一緒にサッカーをやってくれる新入生! 大! 募集中!』
『えっ!? そ、それでいいの? あっ、は、はい! あ、ありがとうございました!』
「……だからうちの学校の野球部は弱いねん」
「素直にサッカー部と合流すればいいのにな?」
隣で元気が同意だとばかりに、首を縦に振った。
うちの学校は実績と部員の数によって支給される部費が決まる。
なので、特に実績を残していない弱小の部活動たちは、この新入部員獲得にみんな躍起になるのが毎年の恒例行事なのだ。
だというのに、ウチの野球部からはやる気の「や」の字すら感じられない。
なんせ今もステージの上で、部員たちが一生懸命サッカーボールでリフティングしているくらい、野球への情熱を感じない。
妹ちゃんがさっさと坂田からマイクを回収すると、野球部をステージから撤退させる。
恥将、坂田キャプテン率いる野球部は、不満タラタラに奥へと引っ込んでいった。
『つ、続きまして、私たち森実高校生徒会執行部です』
『はい』
不思議とよく響く声が、体育館を包みこむ。
数秒遅れて、ステージの端から均等に整えられたボディの美少女が現れた瞬間、「おぉぉぉぉっ!?」と、新入生たちが一気に色めきたった。
「ちょっ!? なにあの人!? メチャクチャ可愛いですけど!?」
「うっわ、髪キレイ~」
「やべぇ。オレ、年上、大好物なんだよなぁ」
「結婚してください」
突如現れた美少女に、みな興奮を隠せないでいるのが見て取れる。
とくに半数の男子生徒なんかは、鼻息を荒くしながら食い入るようにステージを凝視ししている始末だ。
その美少女こと古羊芽衣ちゃんは、妹と同じ亜麻色の髪を風に靡かせ、ステージの中央に佇むと、ニコッと見る者全てを幸せな気分にさせる微笑みを浮かべて、お辞儀をした。
「「「はうわっ!?」」」
刹那、新入生の男子全員が前かがみになる。
新たな『古羊クラブ』の会員が増えた瞬間である。
さすがは我が校の2大アイドルの1人。
一瞬で男たちの心を鷲掴みにしやがった。
しきりにストレッチパワーの溜まったお股を押さえる新入生たちを、生温かい目で見守りつつ、ついつい苦笑してしまう。
「まったく、あの程度の微笑みで前かがみとは……。今年の新入生は軟弱者が多いな。気合が足りんぞ、気合が。なあ元気よ?」
「相棒……鼻血、拭けや?」
おっと、つい俺の古羊さんに対する熱いパトスが、鼻から溢れてしまったらしい。反省、反省☆
俺は手の甲で乱暴に鼻を擦りながら、ニヒルな笑みを浮かべて腰を九十度に曲げている元気と共に、再び彼女の勇姿を見守る作業に戻るべく、ステージへと視線を移した。
『そ、それではっ! 5分間のアピールタイムを、ど、どうぞ!』
『みなさん、こんにちは』
「「「「こんにちはぁぁぁぁ――っ!」」」」
『ふふっ。はい、こんにちは。元気があるのはいいことですね』
野太い男達の不愉快な大合唱も、さらりと受け流す古羊さん。
す、すごい……もし俺が逆の立場なら、あまりの気持ち悪さに発狂して、盗んだバイクで走り出すところだ。
さすがは古羊さんだ、メンタルが強いな。好きっ!
きっと彼女なら通りすがりのおっさんにいきなり「死ね!」と言われても、むしろニコニコしながら握手を求めにいくに違いない。
はっ? おっさん、俺の古羊さんにナニ暴言をぶつけてんだよ? 殺すよ?(暗黒微笑)
『こほんっ。えー、生徒会で会長を任されている古羊芽衣です。わたしたちは主に、体育祭や学園祭といった学校の行事、地域ボランティアや校内清掃、及びイギリスにある姉妹校との交流をサポートしています。忙しいですが、大変やりがいのある仕事です。興味のある人は、ぜひ見学にきてください。以上です』
『は、はい。ありがとうございました』
ペコリッ、とお辞儀をして奥へと引っ込んでいく古羊さん。
そんな古羊さんを、新入生たちは名残惜しそうに見つめていた。
心なしか、その瞳はハートマークになっている気がしてならない。
「なんや相棒、もしかして古羊はんに惚れちまったかい?」
「ああっ、もうビショビショだね」
「その表現はどうかと思うで……?」
そんな軽口を叩き合っていると、近くの女子生徒で俺と同じクラスの蛇塚と、これまた同じクラスの男子生徒の「アマゾン」もとい三橋倫太郎との会話が、偶然耳に入ってきた。
「ほんとすごいわよね、古羊ちゃんは。仕事は出来るし気配り上手。それでいて妙に隙がありそうな雰囲気があるでしょ?」
「まあ、隙がありそうっていうか、実際隙だらけじゃね?」
「分かってないわねぇ。みんなそこに勘違いして、いざ特攻をかけると玉砕して帰ってくるわけ。アレを落とすのは至難の技ね。ライバルも多そうだし」
そう言って蛇塚が周りを見渡した、釣られて俺も周りを見渡してしまう。
確かに周りの男どもの視線が、ギラギラと野獣めいた瞳になっている。
まるで今朝の俺みたいだ。
「まあ本人は本人で、もう好きな男がいるみたいだけどね」
「「なんだと(やて)っ!? それはほんとか(ほんまか)っ!」」
「うわっ!? びっくりしたぁ」
蛇塚の言葉に俺と元気が同時に反応する。
見ると周りの男子生徒もみなこちらに聞き耳を立てていたらしく、血走った瞳で蛇塚を見つめていた。
「ええっ、まず間違いないわね。見てれば分かるわ、あのお尻の振り方……十中八九、間違いないわね」
「う、ウソやろ……。相手は、相手は誰なんや!?」
涙目で絶望に打ちひしがれる元気。その横で俺は――
「――ッ(白目)」
あまりにも理不尽な出来事に気を失っていた。
いや俺だけではない、俺のようにメンタルがガラスの十代の男たちが次々と気を失っていく。
ほんと世の中は俺たちブサメンに厳しい。
それから俺たちは校長のやけに長いスピーチを流し聞きながら、教頭に怒られるまで気を失い続けた
ほんと校長と古羊さんのスカートは短ければ短い方がいい。むしろ無い方がいい。
――と、ここまではいつも通りの俺たちの日常だった。
だが神様のイタズラか、はたまた悪魔の策略かは分からないが、この日の放課後、交わることがなかった俺と双子姫の2つの道が、偶然交わることになるのだ。
……それも、もっとも最悪な方法で。
が、野郎共の視線は、ステージの上で必死にパフォーマンスをしている男子ダンス部の方ではなく、その脇にちょこんと佇んでいる美少女に釘づけであった。
ステージの脇、そこには司会進行をするべくマイクを持った双子姫の妹、古羊洋子ちゃんがいた。
『だ、男子ダンス部のみなさん、ありがとうございましたっ!』
そう言って律儀にペコリと頭を下げる、妹さん。
途端にサラサラの彼女の亜麻色の髪が空調に靡き、フローラルな香りがここまで薫ってくるかのようである。
「はぁ~、相変わらず妹ちゃんも可愛いなぁ……。結婚したい」
「ワイも♪」
俺の隣に居た元気が、同意だ! と言わんばかりに、うっとりしていた。
ほんと妹ちゃんも、お姉さんと同じく可愛いよなぁ。
そう思っていたのは、どうやら俺だけではないらしく、周りの野郎共も、うっとりしながら、妹ちゃんを凝視していた。
「なにあの人? 超絶カワイイんですけど? 僕のお嫁さんかな?」
「ふざけんな、カス!? あの人は俺のお嫁さん、いやマイ・ワイフになってくれるかもしれない人だぞ!?」
「おいおい、キミたち? 人の女に色目を使わないでくれるかな?」
「「あぁんっ!?」」
新入生の列で、そんな醜い小競り合いが聞こえてくる。
俺は某奇妙な冒険に出てくる主人公のように「やれやれだぜ……」と呟きながら、軽く肩を竦めた。
ごめんな、新入生?
妹ちゃんは、俺の(同学年の)女だから、諦めてくれ?
そんな事を考えていると、試合用のユニフォームに着替えた野球部員が、ステージの上に立っていた。
『つ、続きましては硬式野球部のみなさんです。そ、それでは5分間のアピールタイムを、ど、どう
ぞ』
『どうも、キャプテンの坂田次郎です。我々、硬式野球部は! 本当はサッカーの方が大好きです! 一緒にサッカーをやってくれる新入生! 大! 募集中!』
『えっ!? そ、それでいいの? あっ、は、はい! あ、ありがとうございました!』
「……だからうちの学校の野球部は弱いねん」
「素直にサッカー部と合流すればいいのにな?」
隣で元気が同意だとばかりに、首を縦に振った。
うちの学校は実績と部員の数によって支給される部費が決まる。
なので、特に実績を残していない弱小の部活動たちは、この新入部員獲得にみんな躍起になるのが毎年の恒例行事なのだ。
だというのに、ウチの野球部からはやる気の「や」の字すら感じられない。
なんせ今もステージの上で、部員たちが一生懸命サッカーボールでリフティングしているくらい、野球への情熱を感じない。
妹ちゃんがさっさと坂田からマイクを回収すると、野球部をステージから撤退させる。
恥将、坂田キャプテン率いる野球部は、不満タラタラに奥へと引っ込んでいった。
『つ、続きまして、私たち森実高校生徒会執行部です』
『はい』
不思議とよく響く声が、体育館を包みこむ。
数秒遅れて、ステージの端から均等に整えられたボディの美少女が現れた瞬間、「おぉぉぉぉっ!?」と、新入生たちが一気に色めきたった。
「ちょっ!? なにあの人!? メチャクチャ可愛いですけど!?」
「うっわ、髪キレイ~」
「やべぇ。オレ、年上、大好物なんだよなぁ」
「結婚してください」
突如現れた美少女に、みな興奮を隠せないでいるのが見て取れる。
とくに半数の男子生徒なんかは、鼻息を荒くしながら食い入るようにステージを凝視ししている始末だ。
その美少女こと古羊芽衣ちゃんは、妹と同じ亜麻色の髪を風に靡かせ、ステージの中央に佇むと、ニコッと見る者全てを幸せな気分にさせる微笑みを浮かべて、お辞儀をした。
「「「はうわっ!?」」」
刹那、新入生の男子全員が前かがみになる。
新たな『古羊クラブ』の会員が増えた瞬間である。
さすがは我が校の2大アイドルの1人。
一瞬で男たちの心を鷲掴みにしやがった。
しきりにストレッチパワーの溜まったお股を押さえる新入生たちを、生温かい目で見守りつつ、ついつい苦笑してしまう。
「まったく、あの程度の微笑みで前かがみとは……。今年の新入生は軟弱者が多いな。気合が足りんぞ、気合が。なあ元気よ?」
「相棒……鼻血、拭けや?」
おっと、つい俺の古羊さんに対する熱いパトスが、鼻から溢れてしまったらしい。反省、反省☆
俺は手の甲で乱暴に鼻を擦りながら、ニヒルな笑みを浮かべて腰を九十度に曲げている元気と共に、再び彼女の勇姿を見守る作業に戻るべく、ステージへと視線を移した。
『そ、それではっ! 5分間のアピールタイムを、ど、どうぞ!』
『みなさん、こんにちは』
「「「「こんにちはぁぁぁぁ――っ!」」」」
『ふふっ。はい、こんにちは。元気があるのはいいことですね』
野太い男達の不愉快な大合唱も、さらりと受け流す古羊さん。
す、すごい……もし俺が逆の立場なら、あまりの気持ち悪さに発狂して、盗んだバイクで走り出すところだ。
さすがは古羊さんだ、メンタルが強いな。好きっ!
きっと彼女なら通りすがりのおっさんにいきなり「死ね!」と言われても、むしろニコニコしながら握手を求めにいくに違いない。
はっ? おっさん、俺の古羊さんにナニ暴言をぶつけてんだよ? 殺すよ?(暗黒微笑)
『こほんっ。えー、生徒会で会長を任されている古羊芽衣です。わたしたちは主に、体育祭や学園祭といった学校の行事、地域ボランティアや校内清掃、及びイギリスにある姉妹校との交流をサポートしています。忙しいですが、大変やりがいのある仕事です。興味のある人は、ぜひ見学にきてください。以上です』
『は、はい。ありがとうございました』
ペコリッ、とお辞儀をして奥へと引っ込んでいく古羊さん。
そんな古羊さんを、新入生たちは名残惜しそうに見つめていた。
心なしか、その瞳はハートマークになっている気がしてならない。
「なんや相棒、もしかして古羊はんに惚れちまったかい?」
「ああっ、もうビショビショだね」
「その表現はどうかと思うで……?」
そんな軽口を叩き合っていると、近くの女子生徒で俺と同じクラスの蛇塚と、これまた同じクラスの男子生徒の「アマゾン」もとい三橋倫太郎との会話が、偶然耳に入ってきた。
「ほんとすごいわよね、古羊ちゃんは。仕事は出来るし気配り上手。それでいて妙に隙がありそうな雰囲気があるでしょ?」
「まあ、隙がありそうっていうか、実際隙だらけじゃね?」
「分かってないわねぇ。みんなそこに勘違いして、いざ特攻をかけると玉砕して帰ってくるわけ。アレを落とすのは至難の技ね。ライバルも多そうだし」
そう言って蛇塚が周りを見渡した、釣られて俺も周りを見渡してしまう。
確かに周りの男どもの視線が、ギラギラと野獣めいた瞳になっている。
まるで今朝の俺みたいだ。
「まあ本人は本人で、もう好きな男がいるみたいだけどね」
「「なんだと(やて)っ!? それはほんとか(ほんまか)っ!」」
「うわっ!? びっくりしたぁ」
蛇塚の言葉に俺と元気が同時に反応する。
見ると周りの男子生徒もみなこちらに聞き耳を立てていたらしく、血走った瞳で蛇塚を見つめていた。
「ええっ、まず間違いないわね。見てれば分かるわ、あのお尻の振り方……十中八九、間違いないわね」
「う、ウソやろ……。相手は、相手は誰なんや!?」
涙目で絶望に打ちひしがれる元気。その横で俺は――
「――ッ(白目)」
あまりにも理不尽な出来事に気を失っていた。
いや俺だけではない、俺のようにメンタルがガラスの十代の男たちが次々と気を失っていく。
ほんと世の中は俺たちブサメンに厳しい。
それから俺たちは校長のやけに長いスピーチを流し聞きながら、教頭に怒られるまで気を失い続けた
ほんと校長と古羊さんのスカートは短ければ短い方がいい。むしろ無い方がいい。
――と、ここまではいつも通りの俺たちの日常だった。
だが神様のイタズラか、はたまた悪魔の策略かは分からないが、この日の放課後、交わることがなかった俺と双子姫の2つの道が、偶然交わることになるのだ。
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