みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第1部 春のはじまりパッドエンド事件

第19話 この盗まれたパッドに祝福を!

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 かくしてパッド捜索隊の一員に強制入隊させられた俺は、生徒会室で双子姫と共に、作戦会議を開催していた。



「そ、それじゃ今から『下着ドロボウさん捕獲計画』の作戦会議を始めますっ!」



 どこから取り出してきたのか、『さくせん会議』と女の子らしい丸っこい字で書かれたホワイトボードの前で、司会進行を務める妹ちゃんが口火を切った。

 途端に会長席でふんぞり返っていた古羊が異を唱える。



「違うわよ洋子。『捕獲』じゃなくて『血祭り』計画よ。必ずヤツの臓物ぞうもつでカルパッチョを作ってやるんだから」
「だから発言が乙女じゃねぇんだよなぁ……」
「メイちゃん……」



 ギリギリと奥歯を噛みしめる古羊。

 その表情は乙女というよりバーバリアンである。

 おいおい1号かい?

 それとも2号かい?



「な、なら『下着ドロボウさんをこらしめようっ!』会議で……どうかな?」
「んん~……まぁ、いいわ。ソレでいきましょう」



 どうやら及第点を貰えたらしい妹ちゃんが、ほっと胸を撫で下ろした。

 そのせいで制服の上からでも分かるほど豊かな胸元が上下する。

 う~ん、この半分でいいから姉の方に分けてあげたいっ!

 ほんと胸囲きょういの――違う、驚異の格差社会だよねっ!

 神様って残酷だなぁ、と思いました、まるっ!



「大神くん? 余計なことは考えなくていいからね? 殺すぞ?」
「サーセンっ!」



 ニッコリ♪ と圧の強い笑顔で釘を刺される。

 ねぇ、なんで俺の考えていることが分かるの?

 エスパーなの?

 エスパー芽衣さんなの?

 フジオぉぉぉぉぉっ!



「お、落ちついてメイちゃん? ね?」
「……チッ。わかったわよ。でも、次はないわよ?」
「イエス・ボスっ!」



 よこたんに窘められ、しぶしぶといった様子で引き下がる古羊。

 何気に妹の言うことはよく聞くんだよなぁ、コイツ。

 まぁその分、無茶振りもよくするけど……。

 なんて事を思っていると、よこたんが場をしきり直すように「で、ではっ!」と可愛らしく声を張り上げた。



「下着ドロボウさんをこらしめる、何かいい案がある人は、どしどし言ってください!」
「そうねぇ。今思いつく限りで1番堅実的な案は、この辺り周辺に住む野郎共のキ●タマを全員1人残らず潰して周ることくらいかしら。女の子らしく」
「女の子らしくとは一体……?」



 ドン引きである。

 彼女には1度、辞書で『女の子』という単語に赤線を引いて来てもらいたい所だ。

 なんでそんな物騒な発想が出てくるの?

 ヤーさんなの?



「そもそも犯人が男だって決めつけるのも、どうかと思うね。俺は」
「ど、どういうこと、ししょー??」
「いや、もしかしたらさ? 犯人は女の子が大好きな女の子なのかもしれないし。何ソレ、最高かよ? とうとみ幕府爆誕、おめでとうございますっ!」
「急に祝福し始めたわよ、この男……?」
「ししょー……」



 何故か2人からヤベェ薬をキメている奴みたいな目で見られる。

 もしかしたら惚れられたかもしれない。



「でもなんで女の子が女の子の下着を盗むのよ? 意味が分からないわ」
「そ、そうだよ。他人の下着なんか盗まなくても、自分の下着があるよね?」
「それは言わぬが百合ゆり――違う、花ってヤツさ」
「「???」」



 よく分からない、と言った風に2人一緒に首を傾げる双子姫。

 彼女たちは知らないのだ。

 世の中には、特殊な性癖をもったレディー達が居ることを。

 そして、そんな彼女たちを見て尊死とうとししてしまう戦士オトコたちが居ることを。

 ちなみに『尊死』とは、ガンや脳卒中にぐ、人類の3大死因の1つだよっ☆



「なら大神くんは他に妙案があるの?」
「う~ん……あっ! おとり作戦とかどうよ?」
「「おとり作戦?」」



 コテンッ? と首を傾げる2人に、俺は「おうよっ!」と頷いてみせた。



「もう1度、今度はあえて胸パッドを女子更衣室に放置して、俺たちはロッカーに隠れる。んで、犯人が盗みに現れたところを一網打尽っ! どうよ? 中々に妙案じゃね、コレ?」
「バカね。それだと四六時中、ロッカーの中に入って監視しなきゃいけないじゃないの。その間、授業とかどうするのよ?」
「あっ、そうか……」
「な、ならビデオカメラを設置するとかは? それならボクたちが授業中でも、関係ないよね!?」
「ダメよ洋子。そのビデオカメラはどうやって用意するのよ?」
「だよね……」



 しょぼん……と、古羊の架空の犬耳とシッポが力なく垂れる。

 さて、万策尽きたワケだが?



「あぁ~っ!? じゃあもう、どうするよ!? この際、パッドの中にGPSでも仕込むか? んで、盗んだ後を追いかけるか?」



 もう半ばヤケクソ気味に思いついた案を口にした。

 その瞬間。

 ――パチンっ!

 古羊が小気味よく指先を鳴らした。



「ソレ、採用」



 …………はい?

◇◇

 古羊の盗まれたパッドを捜索し始めて、3日目の放課後。

 俺たちは学校近くの雑木林の中に居た。



「あった! あったわよ、2人とも!」
「よかったね」
「メイちゃん……」



 茂みに顔を突っ込んで「ひゃっほーい!」と狂喜乱舞する亜麻色の髪の美少女を、何とも言えない気持ちで眺める、俺とよこたん。

 時刻は午後6時手前。

 俺たちは古羊の盗まれたパッドが眠る場所で、彼女のパッドを取り戻しに来ていた。



「まさか、ししょーのGPS作戦がこんなに上手くいくなんて……。やったね!」
「……確かに俺は『パッドの中にGPSでも仕込むか?』とは言ったけどさ? マジで仕込むかヤツがあるか? 普通?」
「メイちゃんは普通じゃないから……」



 いまだに「おかえり、我が子たちよっ!」と狂喜している姉を、生暖かい目で見守る妹。

 実の妹にこんなセリフを吐かれるアイツって、一体……?



「何をしてるの2人とも! はやくこっちに来なさい!」



 布製のパッド片手に、狂ったように喜び続ける現役女子校生。

 これは現実か?

 俺とよこたんは、苦笑を浮かべながら古羊に近寄り、茂みの中を確認した。

 そこには、古羊のパッドだけではなく、手編みのマフラーや手袋、はては女物の下着が多数無造作に置かれていた。



「はぁ~、随分と色んなものがあるなぁ……。おっ、黒のスケスケパンティー発見! 誰のだ、これ?」
「し、ししょーは見ちゃダメ!」



 よこたんに目を塞がれる。

 ぷにっ♪ とした感触が妙に気持ち良かった。



「なにはともあれ、無事に古羊のパッドも見つけたし、そろそろ撤収てっしゅうしようぜ?」
「そ、そうだね。それじゃ帰ろっかメイちゃん」
「……まだよ、まだ終わってないわ」



 はぁ? と、よこたんと2人して古羊を見る。

 そこにはさっきまで喜んでいた女はおらず、代わりに復讐に燃えるアヴェンジャーが居た。



「アタシ、言ったはずよ? 『パッドを取り戻したうえで、パッドを盗んだ犯人を血祭りにあげたい』って」
「……やっぱり何度聞いても、狂った発言だよなぁ」
「えっ? め、メイちゃんまさか……」



 よこたんの顔が、一瞬で強ばった。

 俺は何となくこうなるんじゃないかという気はあったので、そこまで驚きはしていない。

 古羊は茂みの中で無造作に置かれている下着類を指さし、



「犯人は盗んだ物をこの場所で保管している。つまり、ここに再び犯人が現れる可能性が高いということ! ということは――」
「ここを張り込んでいれば犯人を逮捕できる、てか?」
「その通りよ! 今からここに張り込んで、必ず犯人を捕まえるわよ!」
「だ、ダメだよ!? そんなの危なすぎるよ!」



 断固反対っ! と言わんばかりに、姉の制服の裾を握る妹。

 確かに、よこたんの言う通りである。

 もうすでに辺りは薄暗くなり始めているし、何よりついこの間、謎の女たちに襲われたばかりだ。

 もしかしたら、また変な奴に襲われるかもしれない。

 だが古羊のことだ。また無理やり協力させるんだろうな。

 なんて思っていたら、



「……そうね、確かに危険すぎるわよね」



 と殊勝なことを言ってビックリしてしまった。

 ど、どうしたんだ古羊? と怪訝けげんそうな瞳で彼女を見つめる。



「女の子が夜中にこんな場所にいちゃ、襲われても文句は言えないわよね。……それでも、アタシは真犯人を捕まえたい。捕まえて、血祭りにあげたいの」
「澄んだ瞳でゲスいこと言うなぁ」



 思わず感心してしまった。

 有言実行とは見上げた根性だ。

 が、もちろんそんな言葉で納得する妹ちゃんではない。



「だ、ダメだよメイちゃん! もう暗くなるし今日は帰ろう? また明日から張り込めばいいでしょ?」
「……洋子は先に帰りなさい。アンタを危ない目に遭わせるわけにはいかないわ」
「メイちゃんっ!」
「大丈夫よ、アタシは1人じゃないわ」



 だって、と古羊は言った。



「だって大神くんも一緒に見張るんだもの」
「えっ、俺も?」



 これまたいつの間にか『犯人捜索隊』の一員に組み込まれていた。

 どうやら俺の1日はまだ終わらないらしい……。
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