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第1部 春のはじまりパッドエンド事件
第21話 そして悪魔がやって来る
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「――はい、これから猫の里親となってくれる人が生徒会室にくるそうです」
「わかりました、後はこちらでやっておきます。お疲れさまでした、羽賀先輩」
下着泥棒を捕まえてから、2日が経った月曜日の放課後。
俺たち生徒会役員は、土日の休日を返上して、下着泥棒の里親になってくれる人物を必死に探し周っていた。
そして週明けの今日、ようやく下着泥棒の里親が見つかり今から引き渡すのだ。
「後はわたしが責任を持って、この子を里親の方に引き渡します。それではみなさん、お疲れ様でした」
古羊の合図に、俺を含む役員たちがゾロゾロと生徒会室を後にする。
オレンジジュースをぶちまけたような廊下を歩きながら、俺は妹ちゃんのもとまで近寄り、前を歩く2人の先輩には聞かれないトーンで、こっそりと話をかけた。
「なんだかんだと、無事に終わってよかったな」
「う、うん。一時はどうなるかと思ったけどね」
「さすがの古羊も、猫を血祭りにあげるほど、外道ではなかったか」
「め、メイちゃんは外道じゃないよぉ~っ!」
そう、古羊の超パッドを盗んでいたのは、巣作り中の野良猫だったのだ!
流石の古羊も、猫を血祭りにあげるのは気が引けたらしく、しょうがなく猫の里親を探すために、俺たちはこの土日、必死に駆けずり回ったのであった。
いやぁ、でもよかった。古羊にも人の心があって!
「しかし、まさか犯人が猫だったとはなぁ」
「た、確かにね。さ、最初聞いたときはビックリしちゃった。まさか巣作りのために女性用下着を盗んでいたなんて……。でも、ネコさん可愛かったなぁ~」
ぽやっ♪ と微笑むよこたん。
相変わらず心を開いた奴には無防備である。
まったく、今日だけでも軽く3回は恋に落ちそうになったではないか。
一体その笑顔で何人の男子を勘違いさせてきたのか……危うく告白してフラれるところだったじゃないか。あぶねぇ~。
……いや、フラれちゃうのかよ、俺。
「そ、そう言えばししょー。きょ、今日渡された進路希望調査の紙……ってあれ? ししょー、カバンは?」
「あっ、やっべ。生徒会室に忘れてきた。ちょっと取りに戻ってくるわ!」
「一緒に行くよ」
「おぉ、すまんなぁ」
そのままの足取りで、よこたんと共に生徒会室へと引き返す。
そのまま勝手知ったる我が家と言わんばかりに、生徒会室の扉を開け。
「おーす。なぁ古羊、俺のカバン見なかった? ―って、うわっ!? ど、どうしたその顔!? 真っ青じゃねぇか!?」
「お、大神くん……」
生徒会室の会長席。
そこには山で1人遭難したような登山者のように、血の気を失った顔で、俺を見てくる古羊が居た。
その身体はガタガタと震えていて……なんでコイツこんなに怖がっているんだ?
「おい、大丈夫かよ古羊? とりあえず、保健室にでも行って休憩でもするか? あっ! 休憩って言っても、エロい意味じゃ――」
「え~と、ちょっとお話中のところゴメンね? 君は芽衣の知り合いかな?」
――ないよ、と言いかけた俺の言葉を奪うように、芽衣と相対していた学ランを着込んだ男子生徒が言葉を紡いだ。
そこでようやく、俺は目の前の学ラン野郎を視界に納めた。
俺は声をかけてきた学ランに見栄を張って「カレピです♪」と言おうとして……言葉を失った。
「えっと、そんなにマジマジと見つめられると照れちゃうんだけどな?」
ぼくの顔に何かついていたかな? と、苦笑を浮かべる野郎に呼吸を忘れて見入ってしまう。
俺の目の前、そこにはテレビでしか見たことがないようなイケメンが立っていた。
歳の頃は俺たちと同じか、少し上だろう。
落ち着いた雰囲気のせいか、やけに大人っぽく見える。
その整えられた顔は、なんだか作り物の人形のようだ。
「どうしたの、ししょー? こんな所で立ち止まって――っ!?」
俺のあとを追いかけて来ていた妹ちゃんが、目の前のイケメンを視界に納めるや否や、ギョッ!? と大きく目を見開いた。
どうやら俺と同じく目の前のイケメンの美貌に驚いている……ということではないらしい。
なんせイケメン君を視界に納めた瞬間、よこたんの瞳に烈火の如き怒りと、剣呑の色が浮かびあがったのだから。
よこたんは俺の脇を走り抜けると、ガタガタと震える姉とイケメン君を遮るように、その豊満な身体を割り込ませた。
「やぁ。久しぶりだね、洋子ちゃん。中学以来だから2年ぶりかな? 元気だった?」
「……よくメイちゃんの前に顔を出せたね、佐久間くん?」
「そんな怖い顔しないでよ。いやぁ、まさか猫を引き取りに来たら、こんな所で『偶然』中学の同級生に会えるだなんてっ! すごく嬉しいよ」
「ボクは2度と会いたくなかったよ」
「ハハハッ! 手厳しいなぁ」
爽やかに苦笑を浮かべるイケメンくん。
そんな彼とは対照的に、がるるるるるるるっ! と、人当りのイイ彼女にしては珍しく敵意剥き出しでイケメン君を睨むよこたん。――って、うん?
『佐久間』……?
はて? どっかで聞いたことある名前だけど……どこだったっけ?
首を捻る俺に気がついたのか、例のイケメン君がそのアンティークじみた精緻な唇を動かした。
「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。ぼくの名前は佐久間亮士。県立星美高校の2年生で、そこに居る古羊芽衣さんの『彼氏』だった男だよ」
そう言って朗らかに笑う佐久間亮士との出会い、いや再会が古羊芽衣の生活を一変させることになるなんて、俺はおろか本人すらも知らなかった。
「わかりました、後はこちらでやっておきます。お疲れさまでした、羽賀先輩」
下着泥棒を捕まえてから、2日が経った月曜日の放課後。
俺たち生徒会役員は、土日の休日を返上して、下着泥棒の里親になってくれる人物を必死に探し周っていた。
そして週明けの今日、ようやく下着泥棒の里親が見つかり今から引き渡すのだ。
「後はわたしが責任を持って、この子を里親の方に引き渡します。それではみなさん、お疲れ様でした」
古羊の合図に、俺を含む役員たちがゾロゾロと生徒会室を後にする。
オレンジジュースをぶちまけたような廊下を歩きながら、俺は妹ちゃんのもとまで近寄り、前を歩く2人の先輩には聞かれないトーンで、こっそりと話をかけた。
「なんだかんだと、無事に終わってよかったな」
「う、うん。一時はどうなるかと思ったけどね」
「さすがの古羊も、猫を血祭りにあげるほど、外道ではなかったか」
「め、メイちゃんは外道じゃないよぉ~っ!」
そう、古羊の超パッドを盗んでいたのは、巣作り中の野良猫だったのだ!
流石の古羊も、猫を血祭りにあげるのは気が引けたらしく、しょうがなく猫の里親を探すために、俺たちはこの土日、必死に駆けずり回ったのであった。
いやぁ、でもよかった。古羊にも人の心があって!
「しかし、まさか犯人が猫だったとはなぁ」
「た、確かにね。さ、最初聞いたときはビックリしちゃった。まさか巣作りのために女性用下着を盗んでいたなんて……。でも、ネコさん可愛かったなぁ~」
ぽやっ♪ と微笑むよこたん。
相変わらず心を開いた奴には無防備である。
まったく、今日だけでも軽く3回は恋に落ちそうになったではないか。
一体その笑顔で何人の男子を勘違いさせてきたのか……危うく告白してフラれるところだったじゃないか。あぶねぇ~。
……いや、フラれちゃうのかよ、俺。
「そ、そう言えばししょー。きょ、今日渡された進路希望調査の紙……ってあれ? ししょー、カバンは?」
「あっ、やっべ。生徒会室に忘れてきた。ちょっと取りに戻ってくるわ!」
「一緒に行くよ」
「おぉ、すまんなぁ」
そのままの足取りで、よこたんと共に生徒会室へと引き返す。
そのまま勝手知ったる我が家と言わんばかりに、生徒会室の扉を開け。
「おーす。なぁ古羊、俺のカバン見なかった? ―って、うわっ!? ど、どうしたその顔!? 真っ青じゃねぇか!?」
「お、大神くん……」
生徒会室の会長席。
そこには山で1人遭難したような登山者のように、血の気を失った顔で、俺を見てくる古羊が居た。
その身体はガタガタと震えていて……なんでコイツこんなに怖がっているんだ?
「おい、大丈夫かよ古羊? とりあえず、保健室にでも行って休憩でもするか? あっ! 休憩って言っても、エロい意味じゃ――」
「え~と、ちょっとお話中のところゴメンね? 君は芽衣の知り合いかな?」
――ないよ、と言いかけた俺の言葉を奪うように、芽衣と相対していた学ランを着込んだ男子生徒が言葉を紡いだ。
そこでようやく、俺は目の前の学ラン野郎を視界に納めた。
俺は声をかけてきた学ランに見栄を張って「カレピです♪」と言おうとして……言葉を失った。
「えっと、そんなにマジマジと見つめられると照れちゃうんだけどな?」
ぼくの顔に何かついていたかな? と、苦笑を浮かべる野郎に呼吸を忘れて見入ってしまう。
俺の目の前、そこにはテレビでしか見たことがないようなイケメンが立っていた。
歳の頃は俺たちと同じか、少し上だろう。
落ち着いた雰囲気のせいか、やけに大人っぽく見える。
その整えられた顔は、なんだか作り物の人形のようだ。
「どうしたの、ししょー? こんな所で立ち止まって――っ!?」
俺のあとを追いかけて来ていた妹ちゃんが、目の前のイケメンを視界に納めるや否や、ギョッ!? と大きく目を見開いた。
どうやら俺と同じく目の前のイケメンの美貌に驚いている……ということではないらしい。
なんせイケメン君を視界に納めた瞬間、よこたんの瞳に烈火の如き怒りと、剣呑の色が浮かびあがったのだから。
よこたんは俺の脇を走り抜けると、ガタガタと震える姉とイケメン君を遮るように、その豊満な身体を割り込ませた。
「やぁ。久しぶりだね、洋子ちゃん。中学以来だから2年ぶりかな? 元気だった?」
「……よくメイちゃんの前に顔を出せたね、佐久間くん?」
「そんな怖い顔しないでよ。いやぁ、まさか猫を引き取りに来たら、こんな所で『偶然』中学の同級生に会えるだなんてっ! すごく嬉しいよ」
「ボクは2度と会いたくなかったよ」
「ハハハッ! 手厳しいなぁ」
爽やかに苦笑を浮かべるイケメンくん。
そんな彼とは対照的に、がるるるるるるるっ! と、人当りのイイ彼女にしては珍しく敵意剥き出しでイケメン君を睨むよこたん。――って、うん?
『佐久間』……?
はて? どっかで聞いたことある名前だけど……どこだったっけ?
首を捻る俺に気がついたのか、例のイケメン君がそのアンティークじみた精緻な唇を動かした。
「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。ぼくの名前は佐久間亮士。県立星美高校の2年生で、そこに居る古羊芽衣さんの『彼氏』だった男だよ」
そう言って朗らかに笑う佐久間亮士との出会い、いや再会が古羊芽衣の生活を一変させることになるなんて、俺はおろか本人すらも知らなかった。
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