みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第2部 聖なる愚か者の行進

第17話 そうだ、合コンへ行こう!

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「やってらんねぇよ、バーロー……。なんで元気なんだよ、コンチクショウ……」
「おぉっ! 荒れてるねぇ、シロちゃんっ!」

「そっとしておいてあげてください、狛井先輩。さすがの大神くんも、ダメージを負っているみたいなんで」


 生徒会室に着くなり、俺は自分の机に勉強道具を広げることもなく、ガンガンと除夜の鐘よろしく机にヘッドバッドを決めていた。

 そして時折、お昼休みのテロリズムを思い出して、ビクッ! と打ち上げられたハマチよろしく、大きく身体を震わせる。


「……大神、うるさい」
「ね、ねこセンパイっ!? さ、さすがに今はそっとしておいてあげましょうよぉ」


 チッ、と軽く舌打ちを打つ羽賀先輩を、よこたんが必死になってたしなめていた。


「……仕事もしなければ勉強もしないヤツのことを気遣っても、時間の無駄」
「ちょっ!? ねこセンパイ!? だから、ししょーに聞こえちゃうってば!」
「でもまぁ確かに、今日の大神くんは使い物にならなそうですねぇ」


 そう言って古羊が「生きてますかぁ?」と、18禁催眠音声のように耳元で囁いてくる。

 その声がくすぐったくって、返事の代わりにビクビクッ! と身体を震わせてしまった。


「どうですか? 今日はテスト勉強、頑張れそうですか?」
「……んーん、ムリ」
「……男が甘えた声を出しても、気持ち悪いだけ」
「ね、ねこセンパイっ!? シーッ! シーッ!」


 人差し指を唇に持って必死に「静かに!」のジェスチャーを送る、よこたん。

 だがそんな爆乳わんのフォローなど意にも返していない羽賀先輩は、フン、と小さく鼻を鳴らして自分の仕事へと戻っていった。

 あの人、俺を傷つけるだけ傷つけて、アッサリ自分の仕事に戻っていったな。

 なんなの? ピンポイントで俺の弱っている部分を狙撃してくるなんて、天性のスナイパーなの?



「チクショウ……。もしかして、もうこの世には、俺のことを好きでいてくれる女の子なんて存在しないんじゃねぇの?」

「そ、そんなことないよ! ししょーの事を好きな女の子は、この世に絶対居るよ!」
「よ、よこたん……っ!」
「……そうだな、古羊妹の言う通りだ」
「は、羽賀先輩っ!」


 つい先ほどまで、辛辣な言葉を投げかけていた羽賀先輩が、小さく頷いてくれた。

 せ、先輩……。

 俺、先輩のことを誤解してたよ。

 先輩って、実は後輩想いの温かい女の――



「……大神も、もう少し見た目がカッコよくて、性格に姑息さがなく、残念を通り越してもはや哀れみ抱きかねないバカな所もなく、邪悪なる性欲を抹消し、遺伝子を組み換え、あと4、5回ぐらい生まれ変われば、ギリギリ女の子にモテなくもないな」

「それもう俺じゃないですよね? 別人ですよね?」



 訂正。

 羽賀先輩は、やっぱり羽賀先輩だった。

 もしかしてこの人、俺を自殺に追い込むRTAでも開催しているのだろうか?



「あぁぁぁぁっ!? やっぱりこの世に俺のことを好きになってくれる女の子なんて、いないんだぁぁぁぁぁっ!」

「そ、そんなことないってば! 絶対にししょーを好きになってくれる子は、この世にいるよ!」
「じゃあその子は今、この世のどこに居るっていうんだよ!?」
「そ、それは……ノーコメントで」


 頬に朱を差し込ませながら、キョロキョロと視線がバタフライする、よこたん。

 ほらみろっ! 思いつかないのなら、そんなことを言うんじゃねぇよ!



「チクショウ! なんで俺には春が来ないんだ? 360度、どこからどう見てもイケメンでカッコいいのに!」

「そういうところですよ?」
「……断じてイケメンではない」
「あっ、あはははは……」



 生徒会女性役員の辛辣な言葉がナイフとなり、モテない男の繊細な心をズタズタにしていく。

 ほんと、なんで俺の周りにはロクな女がいないんだろう? これも試練か?


「……もうお家帰る」


 席を立ち、トボトボと歩き出す。

 さすがにそっとしておいてくれるのか、役員の誰も俺が帰るのを引き留めなかった。

 それはそれで、なんだか寂しくなって、さらに家に帰る足取りが重くなる。

 生徒会室を後にし、ゾンビのような足取りで昇降口まで移動する。

 上履きから靴に履き替え、あとは世界を呪いながら帰るだけ。


「おーい、シロちゃ~ん」


 のところで、何故か俺を追いかけてきてくれた廉太郎先輩に呼び止められる。


「なんすか先輩? そんなに慌てて?」
「いやぁ、ちょっとシロちゃんに明日のことでお願いしたいことがあってさぁ!」
「お願いっすか?」


 正直、今は気乗りしないし、なによりテスト勉強に集中したい。

 廉太郎先輩には悪いが、断らせて――


「あ~、悪いんすけど先輩。俺、明日は用事が」
「シロちゃん、合コンに興味ある?」
「詳しく聞きましょう」


 ――もらおうと思ったが、やはり困っている人を無視するのは、生徒会役員としてあってはならないことだと考え直す。

 そうだ、廉太郎先輩は俺たちの大切な仲間なんだ。

 仲間の願いを無下にすることなんて、そんな酷いこと、俺には出来ない。



「実はさ? 明日の放課後にね、駅前のカラオケボックスで勉強会をしよう! って話しになってるんだよ。まあ勉強会は建前で、普通に合コンだと思ってくれて構わないよ」

「ふむふむ、それで?」

「うん、でね? 5対5でやることになったのはいいんだけど、男の子の1人が急にドタキャンしちゃって……。それで悪いんだけ、どシロちゃんに参加して貰ってもええかなぁ? このままじゃ、お流れになりそうで。お願いシロちゃん! この通り!」

「顔を上げてください廉太郎先輩」



 俺は頭を下げる廉太郎先輩の肩を、そっと叩いた。



「困っている先輩を助けるのは、後輩の役目ですから」
「それじゃ、参加してくれるんだね!」

「えぇっ、もちろんじゃないですか! 後輩として、先輩の顔に泥を塗らせるワケには、いかないですからね!」

「シロちゃん……ボクはなんていい後輩を持ったんだ!」



 俺たちは打ち合わせでもしていたかのように「先輩!」「シロちゃん!」と熱い抱擁を交わす。

 なんと美しき友情だろうか。

 俺と廉太郎先輩は今、親よりも固い絆で結ばれたのだ。



「任してください! この『合コンの司令塔』、またの名を『夜の得点王』と言われた俺が、バッチリ場を盛り上げてみせますよ!」

「なんて頼もしいんだ、シロちゃん! それじゃ詳細は追手連絡するよ! 引き留めて悪かったね!」

「いえいえっ! 先輩……いやブラザーのためなら、いくらでも時間を作りますよ!」



 この瞬間、大神士狼は一生、狛井廉太郎アニキについて行こうと心に決めた。

 だがこのときの俺は、大事なことをひとつ失念していたのだ。











 そうこの男、狛井廉太郎は羽賀先輩に嫉妬して貰うためなら、どんな手段も使う男だということを。
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