みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第2部 聖なる愚か者の行進

第34話 男はフラれた数だけ強くなる

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 倉庫に飛び込むなり、いきなり鹿目ちゃんが男に押し倒されていてビビった。

 ビビりすぎたので、つい勢い余って鹿目ちゃんに覆いかぶさっている男を蹴飛ばしてしまったが、大丈夫だろうか?

 まあ、身体も小刻みに痙攣しているし大丈夫だろう、と自分を無理やり納得させ、残りの男共の数を確認する。

 ひぃ、ふぅ、みぃ……3人か。


「ど、どうして? どうして、センパイがここに……?」
「ちょっと待ってな。すぐ終わらせてくるからよ」
「へっ?」


 呆けた声をあげる鹿目ちゃんの脇を通り過ぎるなり、3人の男のうちの1人が、怒声を上げながら突っ込んできた。


「ふざけんじゃねぇぞ、ゴラッ!?」
「ふざけてねぇよ」


 振りあげた拳を紙一重で躱し、無防備になった右のレバーに左拳を叩きこむ。

 そして痛みで顔が前に出て来たところを、右足の上段回し蹴りで蹴り飛ばす。

 地面に倒れ込む男と入れ替わるように、もう1人が拳を振り抜いてきた。

 それを鼻先寸前で躱し切り、左の下段蹴りを放つ。

 体勢が崩れたところで、再び右の上段回し蹴りを男の側頭部に叩きこむ。

 男が膝から崩れ落ちるのを確認し、最後に残った1人を睨みつけた。



「テメェで最後だ」

「うぐっ!? なんだコイツ!? マジぇ……。お、おまえ、まさか本当に喧嘩狼か!?」



 俺に睨まれて体が強ばる男。

 その隙を縫うように、とっつぁんメガネが鹿目ちゃんのもとまで駆けだした。


「ま、窓花! だ、大丈夫だったか!?」
「う、うん。ワタシは大丈夫……。でも、どうして大神センパイが、ここに?」
「そんなのいいから、今は逃げるのが先だ!」
「ま、待ってダイちゃん!? ……こ、腰が抜けて立てないの」


 2人のやりとりを耳にしながら、1歩、男との距離を詰める。

 その瞬間、男がツバを吐き散らしながら、脅すように俺に向かって叫んだ。



「お、おまえっ!? 俺らがクズ高だって分かって、手ぇ出してんのか!? こんなことして……2度とこの町を歩けると思うなよ!? 必ず俺らの仲間がおまえに報復するからな!」

「やってみろや。俺は森高の大神士狼だ。テメェらがどこのどいつかなんざは知らねぇが、俺の友達ダチに手を出すやからは、例え神様仏様でも許さねぇ」



 ドンッ! と、男の土手どてぱらに右足を蹴り込んでやる。

 激しく咳き込みながら、その場でうずくまる男の髪を掴んで持ち上げる。

 そのまま、吐息がかかりそうなほど男に顔を近づけると、俺は念押しするように口をひらいた。



「いいか、よく聞けよ? もし今度、俺のダチに手ぇ出したら、その面で2度とこの町を歩けないようにしてやるからな。分かったか? 分かったなら、返事は!?」

「わ、分かった……。もうコイツらには近づかねぇよ……。だ、だから、もう勘弁してくれ……ください……」



 言質を取ることが出来た俺は、男の髪の毛から手を離してやった。

 そんな光景を見て、とっつぁんメガネが「すげぇ……」と小さく声を漏らす。

 俺は転がっている男共の屍を無視して、鹿目ちゃんたちの方まで歩み寄ると、俺にビビっているとっつぁんメガネに向かって、1つだけ忠告してやった。



「おい兄ちゃん。こういう奴らはな、1度でも美味しい思いをすると、際限なく調子に乗るから、安易あんいに金なんか渡しちゃダメだぜ?」

「は、はい! き、肝に銘じておきますっ!」

「大神センパイ……どうして? どうして、助けに来てくれたんですか? わ、ワタシ、あんなに酷いことしたのに……」



 気がつくと、鹿目ちゃんはポロポロと涙を流していた。


「泣かないでくれよ鹿目ちゃん……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……ワタシ、ワタシ……っ!」


 嗚咽混じりに何度も頭を下げる彼女に、俺は苦笑を浮かべてみせた。


「いいんだよ、別に。こういうことは、慣れたもんだからさ」


 それに、と満面の笑みを浮かべて、俺は彼女に言ってやった。




「惚れた女の好きな男くらい、守ってやるのが男ってもんだろ?」
「――ッ! あ、ありがとう……ございます……っ!」




 泣きじゃくる鹿目ちゃん。

 俺はその隣にいるとっつぁんメガネに、目線だけで語りかける。

 あとはおまえの役目だぜ?

 俺の意図を汲んだのか、とっつぁんメガネはコクンと小さく頷くと、鹿目ちゃんの震える肩をそっと抱きしめた。

 そんな2人を尻目に「じゃあな」と短く別れの言葉を告げ、倉庫を後にする。

 夏空の下、俺は俺の帰りを待っている仲間のもとへと歩き出す。

 愛しき人に背を向けて。

 今度こそ、本当にさようなら鹿目ちゃん。



 ……俺の大切だった人。
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