みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第3部 恋するウサギはくじけないっ!

第27話 神にサイコロは振らせない

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「――これはどういうことなんや、宇佐美はん!?」



 芽衣に連れられて生徒会室へとやってくるなり、元気の怒声が鼓膜を震わせた。

 あの中々怒らないどころか、怒りのいう感情を母親のお腹の中に落としてきたと、俺の中でもっぱらの噂の親友が、珍しく声を荒げて本気で怒っている光景を前に、思わず目を疑いそうになった。

「お、落ちちゅいて、チャルノくん!?」と、まずはおまえが落ち着け? とツッコミを入れたくなるように慌てふためくオロオロよこたんが、元気とヤツが敵意を向けている少女――うさみんの間に割って入った。



「妹はんは黙っといてくれや! これはワイと宇佐美はんの問題や!」

「で、でもでもっ! そんな一方的に怒鳴らなくても……。せ、せめてウサミさんのお話だけでも聞いてあげて?」

「さ、猿野……違うんじゃ! これにはワケが――」

「言い訳なんか聞きとうない! ワイは『なんでマイハニーにこんな酷い仕打ちをしたのか』、その理由が聞きたいんや!」



 ビクッ!? と体を震わせ、その小さな身体をさらに小さく丸める、よこたんとうさみん。

 見ていて楽しいモノじゃなかった。

 元気も元気で、ヒートアップし過ぎているせいか、周りが見えていないようで、今にも泣きそうな2人に殴りかかりそうだ。

 さすがにこれ以上、元気を刺激するのは危ないと判断した俺は、3人の間に身体を滑り込ませ、親友の肩に手を置いてみせた。



「それくらいにしておけよ、元気。2人とも怖がっているじゃねぇか」
「相棒……おまえっ!」



 グッ! と元気に襟首を掴まれる。

 その瞳は手負いの獣のように、危険な光をギラギラと放ちながら、俺をめあげてくる。

 こんなに怒り狂っている元気を見るのは、初めて会ったとき以来かもしれない。

 久しく向けられていなかった親友の敵意に、肌がチリチリと焼かれていく。



「どうやら相棒も、この件に関しては1枚噛んどるらしいのぅ。どういうつもりや?」

「……悪かったよ、騙すようなマネをして」

「謝るんやったら、最初からやるんやなかっ! おまえらは『やっていいコト』と『悪いコト』の区別も出来へんのかっ!? おぉっ!?」

「いやほんと、おっしゃる通りで」



 ぐうの音も出ないほどの正論に、何も言えなくなる。

 まさか人前でローション相撲をやっていた奴に、人として道を説かれる日が来ようとは……。

 全面的にこっちが悪いので、何も言い返せないのが腹立たしい。



「落ち着いてください猿野くん。士狼はわたしたちに巻き込まれただけで」
「芽衣、いいから」



 言いつのろうとする芽衣に「やめろ」と視線で訴える。

 もうここまでバレたからには、正直に事情を説明した方が早い。

 俺は芽衣から視線を切り、いまだ狼狽ろうばいしているパツキン巨乳に意識を向け、再び元気に目線を戻した。



「わかった。今から『なんでこうなった』のか、全部話す。全部話したうえで、俺たちをどうするか、判断してくれ」

「い、1号!? そ、それは!?」
「もう全部話すしかねぇよ、うさみん。じゃねぇと、このままじゃ本当に元気に嫌われるぞ?」



 うぅ、と顔をしかめるロリ巨乳。

 その顔は先ほどまでの青い顔とは違い、ほんのり朱が差し込んでいた。

 こうして俺は『なぜこんな奇行に走ったのか?』というコトを、うさみんの本当の気持ちも交えて、完結に元気に説明した。

 元気は終始無言であったが、俺の説明を聞き終えると、力なく俺の襟首から手を離した。



「……そうやったんか。宇佐美はんが、ワイのこと……」
「元気? どこ行くんだよ、おい?」



 フラフラと夢遊病者のような足取りで、生徒会室を後にしようとする元気。

 元気は俺の質問に答えることなく、無言で生徒会室から立ち去る。

 それとほぼ同時に、うさみんの膝がガクンッ! と折れた。



「だ、大丈夫、ウサミさん!?」
「い、いやぁ! スマン、スマン! ちょっと身体の力が抜けてしもうてのぅ」



 アハハッ! とおどけた調子で笑う、ロリ巨乳。

 明らかに無理して笑っているのがバレバレのその笑顔に、思わず目を背けたくなった。



「ワリィ、うさみん……。おまえの気持ちを無視して、勝手なことをして」

「なにを謝っておる1号。もとはと言えば、ワガハイが貴様らを巻き込んだせいじゃろうが。1号が気にする必要なんぞないわい!」



 うさみんは実にあっけらかんとした口調のまま、元気が去って行った生徒会室の扉に視線を向け、コミカルな感じで肩を竦めた。



「これでワガハイの初恋も終わりかのう。いやぁ悪かった! 協力してもらっておいて、こんなオチになってしもうて」

「い、いえ、わたしたちは大丈夫ですが……。宇佐美さん、ほんとに大丈夫ですか?」
「うん? なにがじゃ?」



 不自然なくらい笑顔なうさみんに、背筋がゾクッとする。

 そのあまりにも作り物めいた笑顔に、何故か恐怖にも似た感情が沸き起こった。

 よく分からんが、コレはマズイッ!?

 そう俺の本能が訴えかけてくるが、どういうわけか舌が麻痺したかのように動かない。


「ワガハイは大丈夫じゃぞ? たかだが猿野に嫌われた程度で凹むほど、軟弱ではないわい。むしろ今は清々しい気分じゃ!」


 今なら新しい発明が出来そうじゃ! とあっけらかんとした様子で笑う、うさみん。

 違うだろ?

 そうじゃないだろ?

 俺じゃない誰かが、必死にそう叫んでいるような気がした。


「3人とも、ここまで付き合ってくれてありがとうのう! ワガハイは、このあと予定が詰まっておるゆえに、ここらでドロンさせてもらうのじゃ! アッハッハッハッハッ!」


 豪快に笑いながら生徒会室のドアを乱暴に開ける、うさみん。

 俺たちは何も言うことが出来ず、うさみんの姿が見えなくなるまで、ずっと彼女の背中を見送り続けた。



「……追いかけるわよ、2人とも」
「えっ?」
「め、メイちゃん?」
「今すぐ宇佐美さんを追いかけるわよ!」



 芽衣が切羽詰った様子で、うさみんの後を追いかけようとする。

 ソレを慌てて静止する、俺とよこたん。



「待て待て! さすがに今は1人にさせてやろうぜ?」
「そ、そうだよ! ウサミさんにも考える時間が欲しいだろうし」
「後じゃダメなのよ! 今、宇佐美さんを追いかけないと、彼女が『彼女』でなくなってしまうわ!」



 うさみんが『うさみん』じゃなくなる?

 何言っているんだコイツは? と、よこたんと共に不可解な視線を芽衣に向けると、芽衣はまっすぐ俺達を見返しながら、その桜の蕾のような唇を動かした。


「アタシも同じだから、分かるのよ。嫌なことがあると、逆に冷静になっちゃうっていうか、でも本当は面倒なことを後回しにしているだけで、そのせいで自分が傷ついたことにすら気づかないで、それで……それで深く落ち込むのよ」


 瞳を伏せながら、苦しげにつぶやく芽衣。

 それでも彼女は言葉を紡ぎ続けた。


「アタシの場合は洋子が先に気がついてくれるから、アタシは『アタシ』のままでいられた」


 けど、宇佐美さんには誰もいない。

 指摘してくれる存在が、どこにもいない。

 だから追いかける、と芽衣は力強く答えた。



「今ここで追いかけないと、彼女はきっと後悔する! だから、だからっ!」
「もういい。みなまで言うな、芽衣」



 俺が言葉を遮ると、芽衣はこの世の終わりのような顔を浮かべてみせた。

 そんな彼女に背中を向け、生徒会室のドアの方へと歩き出す。



「何してんだ、テメェら? あのロリ巨乳を追いかけるぞ」
「し、士狼っ!」
「うん、行こうメイちゃん! ウサミさんを追いかけなきゃ!」



 えぇっ! と、いつもの調子を取り戻した芽衣が頷く。

 そのまま3人でうさみんの後を追うべく、生徒会室を飛び出した。

 彼女を追いかける俺たちの脚に、もう迷いはなかった。
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