111 / 414
第4部 残酷すぎる天使のテーゼ
第4話 尿意、どんっ!
しおりを挟む
森実祭に使う備品を確認するために、校舎裏の体育倉庫へやってきて、はや2時間。
気がつくと、芽衣に渡されたチェックリストも、残りわずかとなっていた。
「す、すげぇな、よこたん……。あんなに乱雑に置かれていた備品の数々を、こうもあっさり見つけ出すとは。どんな名探偵でも、真実を見つけ出すのに数時間はかかるっていうのに……。プロかよ、おまえ?」
「えへへ……。実はこういうチマチマした探し物は、結構得意なんだ!」
照れたような笑みを溢しながら、どこか得意げな顔を浮かべる、よこたん。
もちろんその間も、彼女の手は別の独立した生き物のように、次々と備品をチェックしていく。
流石はあの芽衣が生徒会庶務に選んだだけのことはあるぜ。
俺の秘蔵コレクションを暴き出した経歴は、ダテじゃない。
「どうやら次で最後みたいだね」
「おぉっ! 芽衣には3日はかかると言われていたチェックリストが、わずか2時間ちょいで全部片付くとはっ!? ……絶対におまえにだけは俺の部屋を掃除してほしくないわ」
「な、なんでっ!? なんでししょーの中で、ボクの株が下がっているの!?」
驚愕の瞳を浮かべるよこたんに対して、俺も驚愕の瞳で彼女と相対する。
いやだって、ねぇ?
チミに俺の部屋を掃除させたら、絶対に我が秘蔵コレクションどころか、勉強机の3段目の引き出しの二重底になっている場所に隠している大人のオモチャ(意味深)まで暴きだされそうなんだもん。
何なの、おまえ?
名探偵なの?
じっちゃんの名にかけて、大人のオモチャを探し当てるの?
じっちゃん泣くぞ?
「むぅ……そこまで言われたら、意地でも掃除したくなっちゃうなぁ!」
「マジで勘弁してください、100円あげるから」
「いらないよぉ。冗談だから。土下座しようとしないで、ししょー?」
「そっか、土下座はナシか……」
「なんでちょっと物足りなさそうな顔をするの?」
もうコイツの前で膝を折ることに、何の抵抗も覚えない俺に、よこたんはやんわりと静止をかける。
床に片膝をついて、いつでもスタンバイOKだった俺は、しぶしぶ砂のついた膝を手で振り払いながら、その場で立ち上がる。
がその瞬間、ぶるっ!? と俺の背筋に青い電流が駆け巡った。
「あぁ~、すまん、よこたん。ちょっと、お花を狙撃してくる」
「トイレって普通に言いなよ、もう」
ポッ、と頬を朱色に染めながら、こそっと俺から視線を外す、爆乳わん娘。
その仕草を了承と受け取った俺は、いそいそと体育倉庫を後にしようと、扉に手をかけ――
――ガチャン。
「あれ?」
「どうしたの、ししょー?」
「いや、ちょっと待ってくれ。今、状況を把握するから」
「?」
頭にクエスチョンマークを浮かべるよこたんを尻目に、もう1度倉庫の扉を引っ張る。
――ガチャン。
――ガチャン、ガチャン。
――ガチャガチャガチャガチャガチャンッ!
「ほほぅ?」
何度引っ張ろうが、貞操観念ガチガチの人妻のお股のごとく、ピクリと開かない扉。
ふむふむ、なるほど。
これはつまり……そういうことか?
ようやく1つの結論に達することが出来た俺は、キョトンとした顔を浮かべるマイ☆エンジェルに向かって、にっこり♪ と笑顔を浮かべてみせた。
「コホンッ……。さて、ここでよこたんに重大なお知らせがあります」
「? どうしたの? そんな改まった言い方をして? ししょーらしくないよ? それよりも、早くトイレに行った方がいいよ?」
「いやぁ、それがさ? どうやら行きたくても、行けないみたいなんだわ」
「へっ?」
「……閉じ込められたみたい、俺たち」
ぽかんっ、としたよこたんの瞳が、次第に見開かれていき。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」
と素っ頓狂な声が、倉庫に嫌と言うほど反響した。
よこたんは慌てて扉まで近づき、さっきの俺と同じように何度も扉を動かそうと奮闘するが、そこはディフェンスに定評の体育倉庫。
もうね、1ミリも動く気配がしないよね。
頑固おやじの心並みに、開く気配がしないよねっ!
「ほ、ほんとに閉じ込められちゃった!? ど、どうしよう、ししょーっ!?」
「まぁまぁ、落ち着けって? 俺たちがここに居ることは芽衣も知っているんだし、そのうち助けがくるだろうよ」
そんな悠長なことをつぶやきながら、少しカビ臭いマットの上に腰を下ろす。
よこたんも座れよ、とマッドの上をポンポン♪ と叩くが、一向にその場を動こうとしない彼女。
それどころか、どこか言いにくそうに唇をもにょもにょさせながら、しきりにモジモジと膝を擦り合わせていた。
「あ、あのね、ししょー? じ、実はね……ボクもなの」
「うん? 何が?」
何が『ボクも』なの?
主語をつけてくれ、主語を。
と俺が口を開くよりもはやく、よこたんがそのメープルシロップにつけた果実のようなプルプルの唇を動かして、こう言った。言ってしまった。
「ぼ、ボクもその……お、おトイレに行きたいっ!」
「誰かぁ!? 誰か助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――いっ!?」
気がつくと俺は『君に届け』と言わんばかりに。
――ガンガンガンガンッ!
と、固く閉ざされた扉をノックしまくっていた。
チクショウっ!?
某初号機パイロットの心の壁よりも固いんじゃねぇの、コレ!?
もう誰ぇ? ATフィールド展開してるの?
いや、お茶らけている場合じゃないぞ、俺っ!?
「おい、よこたんっ! どっちだ!? 大か小? それによっては、このミッションの難度が変わってくるぞ!」
「で、デリカシーッ!? 女の子にそんなこと聞かないでよっ!?」
「恥らってる場合か! 事は緊急を要するんだぞ!?」
うぅ~っ!? と子犬のように小さく呻きながら、よこたんがポッ! とその触り心地の良さそうなモチモチの頬を桜色に染め「……小さい方」と答えた。
「声が小さい! もっと大きな声で!」
「えぇっ!? だ、だからそのぉ……。お、おしっこ、の方だよぅ。うぅ……」
顔を真っ赤にして俯いてしまう、よこたん。
なんでこう、恥らう女の子はこんなにも可愛いらしいのだろうか?
こんな時だというのに、ちょっと興奮しちゃった♪
泣きそうな顔で「いじめないで……」と懇願する瞳を浮かべるエンジェル☆よこたんに、ついつい男の嗜虐心が逆撫でされる。
が、今は彼女をイジっている場合ではない。
事は一刻を争っていた。
「うぅ……ど、どうしよう、ししょー? 実はけっこう限界が近いんだけど……」
「『どうしよう』って言ったって、この状況じゃどうすることも……あっ!」
相当急激な尿意だったのだろう。
荒い吐息を繰り返しながら、時折「くぁっ!?」と短く悲鳴を上げ、小刻みに身体を揺する、よこたん。
そんなよこたんのすぐ近くで、俺はある透明な物体を発見した。
「やったぞ、よこたん! こんなところに、空のペットボトルが落ちてるぞ!」
「しないからね!? 絶対にソレにはしないからね!?」
「安心しろ、コレは万が一の備えだ。別の案はもう用意してある」
俺はよこたんの傍に落ちていたペットボトルを拾い上げながら、彼女の足下に跪くように腰を下ろして。
「俺がよこたんのトイレになろう」
「ソレ前に聞いたよっ! 却下だよ、却下っ!」
「安心しろ、よこたん。4割冗談だ」
「半分以上本気だっ!? だ、誰か助けてぇぇぇぇぇっ!? メイちゃぁぁぁぁぁんっ!?」
「じょ、ジョーダン、ジョーダン! マ●ケル・ジョーダンだってば! ちゃんと他の案を用意してあるから、そんなゴミを見る目で、師匠を見るんじゃありません」
「……冗談が質悪いよ」
辟易とした表情を浮かべるよこたんに、俺は「アレを見ろ」と、2人分の高さ位の位置にある小さな窓を指さした。
それは、頑張れば人ひとり分くらいなら、ギリギリ通れそうな大きさの窓だった。
「俺がよこたんを肩車するから、よこたんはあの窓から脱出し、用を足して来い。ついでに誰か呼んで、倉庫の扉を開けてくれ」
「な、なるほど! その手があるね! 今日のししょーは、いつもと違って冴えてるよ!」
「ふふ、このおバカさんめ! 俺はいつでも冴えてるわい」
軽口を叩き合いながら、よこたんの前にしゃがみこむ。
「よし合体だ、乗れ!」
「う、うんっ! そ、それじゃ……失礼しまぁ~す?」
むにゅん♪ とよこたんの形の良いお尻が俺の肩にパイルダーオン。
そのままお餅みたいに肌に吸い付く彼女のフトモモを、ガッチリと両手で固定する。
途端に甘酸っぱい匂いが俺の肺を蹂躙し、思考が一瞬だけスパーク。
しゃがみこんだままの体勢で、ピシリと固まってしまう。
こ、これは……っ!?
一向に動かない俺を見て、よこたんが「ししょー?」と不安気な声をあげた。
「どうしたの? もう立っていいよ?」
「い、いや……ちょっと今は立てないわ」
「た、立てないって、どうして……ハッ!? もしかして、ボク、けっこう重いっ!? ご、ごめんね!?」
「いや体重とか関係なく、男の子特有の現象がその、ね?」
分かるでしょ? と言ったニュアンスで、よこたんに問いかけるが、よこたんは「どういうこと?」とばかりに首を捻るだけ。
だからね? 勃ってるが故に、立てないんだよ♪
と口に出来たら、どれだけ楽になれるだろうか?
しかし、この体育倉庫で2人きりの現状。
そんなことを言ったら、よこたんが身の危険を感じ、パニックになることは請け合いなので、なんとかバレずにやり過ごしたのだが……どうすればいい俺?
ギュンギュンッ! と思考を錯綜させていると、肩に乗っかっていたよこたんが、忙しなくモゾモゾし始めた。
「あ、あの、ししょー……? そろそろ限界が近いから、出来れば早く立ってくれると、嬉しいんだけど……」
「マジかっ!? しょうがねぇ、絶対に下は見るなよ? 絶対だぞ!?」
フリとかじゃないからな? とツンデレっぽく釘を刺しつつ、俺は覚悟を決めてゆっくりと立ち上がった。
……おそらく傍から見れば、さぞ雄大な景色が広がっていたコトであろう。
「よっしゃ、行くぞ!」
「う、うん!」
ハーフパンツをパツパツにしながら、よこたんを乗っけて、窓際までえっちらおっちらっ! 移動する。
よこたんは「えいっ!」と可愛らしい掛け声をあげながら、窓を通り抜けようとして。
「あ、あれ?」
「どうした、よこたん?」
「ど、どうしよう、ししょーっ!? お腹がつっかかって、出られないよぉっ!?」
「な、なんだとぉ!?」
パッ! と上を見上げると、そこにはいわゆる壁尻状態のよこたんが、ジタバタッ!? と暴れている素敵な光景が飛び込んできた。
「う~んっ!」と頑張って通り抜けようと、彼女のムチムチのお尻が『ふりふり♪』と左右に艶めかしく揺れる。
気がつくと、俺は両手を合わせて幸せを噛みしめていた。
お手々のシワとシワを合わせて幸せ、な~む。
「ご、ゴメンししょーっ! そっちから押してくれないかな? ボク1人の力じゃ、どうにも抜け出せなくて」
「えっ!? 触ってもいいの?」
「は、早くして! もう漏れそうなの!」
「全力で了解!」
俺は「左手は添えるだけ」とシュートのコツを呟きながら、よこたんのマシュマロヒップに、そっと手を這わせた。
瞬間、むにゅん♪ と恐ろしいまでに柔らかいよこたんのお尻に指先が沈みこみ、思わずツツーと涙を溢してしまう。
母ちゃん……俺を産んでくれてありがとう。
心の底から母親に感謝しつつ、押し上げるフリをして、よこたんのムチムチ♪ なお尻の感触を堪能する。
うん、今なら俺、逮捕されても反論しないぜ?
塀の中で「いやぁ、やらかしちまったぜぇ~。でも後悔はしてないぜぇ~」と満面の笑みで言える自信がある。
「えいっ! えいっ! あ~ん、抜けないよぉ!? ――って、ひゃんっ!? ちょっ、ししょーっ!? お、押してくれるのはありがたいんだけどね? そ、そんなにお尻を揉まないで……くすぐったいよ?」
「すまん、よこたん。でも、おまえのお尻が俺を誘ってくるから……」
『ヘイ、ラッシャーイ! ラッシャーイ! 柔らかいヨ~ッ! とても柔らかいヨ~っ!』
「なっ? 誘ってるだろ?」
「今の声ナニっ!?」
「肉屋のダニエルだが?」
「ダニエルッ!? 誰っ!? 怖いよっ!?」
去年、短期で肉屋のバイトに入ったときに仲良くなったオーストラリアからの留学生、ダニエルの声が体育倉庫に木霊する。
基本的に真面目で優しいのだが、何故か呼び込みの際『美味しいよ~』を『柔らかいヨ~』と悪魔変換してしまう、ちょっとお茶目なマッチョ、それがダニエルだ。
ダニエル、今頃なにしてるのかなぁ……。
と、ちょっとおセンチな気分に浸っていると、よこたんの強ばった声が俺の鼓膜を叩いてきた。
「そもそも、なんで今、肉屋のダニエルさんの声がするの!? 意味分かんないよっ!?」
「あぁ、さっきのは俺のスマホの着信音だ。ダニエルにお願いして、声だけ録音させてもらったんだよ」
「ちょっと待って、ししょーっ!? スマホがあるなら、ボクがこんなコトしなくても、ソレで外と連絡を取ればいいんじゃないの!? ソレで万事解決するんじゃないの!?」
「……天才かよ、おまえ?」
「普通だよ、もうっ! ししょーのバカぁぁぁぁぁ――ッ!!」
半泣きの声音を響かせながら、むにゅむにゅ♪ と俺の手のひらでスライムが如く形を変えていく、よこたんヒップ。
そして手のひらから感じる幸せの感触。
なるほど、これがいわゆる幸せの絶頂というヤツか。
俺の知る幸せの絶頂は、つい3カ月ほど前に従姉の姉ちゃんが結婚披露宴で涙を流しながらマイクに向かって「今日! マユミは! コウジくんと! 家族になれましたぁぁぁぁっ! 今、幸せの絶頂でぇぇぇぇぇぇす!」と言っていた日以来だ。
ちなみにマユミ姉ちゃんとコウジさんは、その1カ月後に離婚したよっ!
何でもマユミ姉ちゃんは、通っていたホストの兄ちゃんと駆け落ち同然で逃げちゃったみたいで、それからしばらくの間、コウジさんは酒浸りになったらしいけど……まあその話は置いておこうか。
つまり、今が幸せの絶頂なら、あとは下るだけということだっ!
「あっ……も、もう無理、漏れる……」
「待て待て! もう少し頑張れ! 諦めるな、よこたんっ!」
「あれ? お婆ちゃん? そんな所で何をしているの? というか、なんでこんな所に川が? あぁ、ウォシュレットか」
「落ち着け、よこたんっ! 三途のウォシュレットを渡るんじゃない! 希望を捨てるな! というか三途のウォシュレットってなんだ!?」
全てを諦め、ダランと全身から力を抜く、よこたん。
瞬間、俺は悟った。
万が一……そう一万分の一の出来事に、コト至ったのだと。
俺はポケットに入れていた空のペットボトルを素早く取り出すと、間に合え! と念じながら、よこたんのお股めがけてロックオン!
狙い撃つぜ! と心の中で呟きつつ、決壊寸前のよこたんダムに向かって、ソレを差し出し。
「――あっ、もうムリだぁ~」
その妙に明るいくせに、絶望感を孕んだ声音を耳にしながら、俺は――
気がつくと、芽衣に渡されたチェックリストも、残りわずかとなっていた。
「す、すげぇな、よこたん……。あんなに乱雑に置かれていた備品の数々を、こうもあっさり見つけ出すとは。どんな名探偵でも、真実を見つけ出すのに数時間はかかるっていうのに……。プロかよ、おまえ?」
「えへへ……。実はこういうチマチマした探し物は、結構得意なんだ!」
照れたような笑みを溢しながら、どこか得意げな顔を浮かべる、よこたん。
もちろんその間も、彼女の手は別の独立した生き物のように、次々と備品をチェックしていく。
流石はあの芽衣が生徒会庶務に選んだだけのことはあるぜ。
俺の秘蔵コレクションを暴き出した経歴は、ダテじゃない。
「どうやら次で最後みたいだね」
「おぉっ! 芽衣には3日はかかると言われていたチェックリストが、わずか2時間ちょいで全部片付くとはっ!? ……絶対におまえにだけは俺の部屋を掃除してほしくないわ」
「な、なんでっ!? なんでししょーの中で、ボクの株が下がっているの!?」
驚愕の瞳を浮かべるよこたんに対して、俺も驚愕の瞳で彼女と相対する。
いやだって、ねぇ?
チミに俺の部屋を掃除させたら、絶対に我が秘蔵コレクションどころか、勉強机の3段目の引き出しの二重底になっている場所に隠している大人のオモチャ(意味深)まで暴きだされそうなんだもん。
何なの、おまえ?
名探偵なの?
じっちゃんの名にかけて、大人のオモチャを探し当てるの?
じっちゃん泣くぞ?
「むぅ……そこまで言われたら、意地でも掃除したくなっちゃうなぁ!」
「マジで勘弁してください、100円あげるから」
「いらないよぉ。冗談だから。土下座しようとしないで、ししょー?」
「そっか、土下座はナシか……」
「なんでちょっと物足りなさそうな顔をするの?」
もうコイツの前で膝を折ることに、何の抵抗も覚えない俺に、よこたんはやんわりと静止をかける。
床に片膝をついて、いつでもスタンバイOKだった俺は、しぶしぶ砂のついた膝を手で振り払いながら、その場で立ち上がる。
がその瞬間、ぶるっ!? と俺の背筋に青い電流が駆け巡った。
「あぁ~、すまん、よこたん。ちょっと、お花を狙撃してくる」
「トイレって普通に言いなよ、もう」
ポッ、と頬を朱色に染めながら、こそっと俺から視線を外す、爆乳わん娘。
その仕草を了承と受け取った俺は、いそいそと体育倉庫を後にしようと、扉に手をかけ――
――ガチャン。
「あれ?」
「どうしたの、ししょー?」
「いや、ちょっと待ってくれ。今、状況を把握するから」
「?」
頭にクエスチョンマークを浮かべるよこたんを尻目に、もう1度倉庫の扉を引っ張る。
――ガチャン。
――ガチャン、ガチャン。
――ガチャガチャガチャガチャガチャンッ!
「ほほぅ?」
何度引っ張ろうが、貞操観念ガチガチの人妻のお股のごとく、ピクリと開かない扉。
ふむふむ、なるほど。
これはつまり……そういうことか?
ようやく1つの結論に達することが出来た俺は、キョトンとした顔を浮かべるマイ☆エンジェルに向かって、にっこり♪ と笑顔を浮かべてみせた。
「コホンッ……。さて、ここでよこたんに重大なお知らせがあります」
「? どうしたの? そんな改まった言い方をして? ししょーらしくないよ? それよりも、早くトイレに行った方がいいよ?」
「いやぁ、それがさ? どうやら行きたくても、行けないみたいなんだわ」
「へっ?」
「……閉じ込められたみたい、俺たち」
ぽかんっ、としたよこたんの瞳が、次第に見開かれていき。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」
と素っ頓狂な声が、倉庫に嫌と言うほど反響した。
よこたんは慌てて扉まで近づき、さっきの俺と同じように何度も扉を動かそうと奮闘するが、そこはディフェンスに定評の体育倉庫。
もうね、1ミリも動く気配がしないよね。
頑固おやじの心並みに、開く気配がしないよねっ!
「ほ、ほんとに閉じ込められちゃった!? ど、どうしよう、ししょーっ!?」
「まぁまぁ、落ち着けって? 俺たちがここに居ることは芽衣も知っているんだし、そのうち助けがくるだろうよ」
そんな悠長なことをつぶやきながら、少しカビ臭いマットの上に腰を下ろす。
よこたんも座れよ、とマッドの上をポンポン♪ と叩くが、一向にその場を動こうとしない彼女。
それどころか、どこか言いにくそうに唇をもにょもにょさせながら、しきりにモジモジと膝を擦り合わせていた。
「あ、あのね、ししょー? じ、実はね……ボクもなの」
「うん? 何が?」
何が『ボクも』なの?
主語をつけてくれ、主語を。
と俺が口を開くよりもはやく、よこたんがそのメープルシロップにつけた果実のようなプルプルの唇を動かして、こう言った。言ってしまった。
「ぼ、ボクもその……お、おトイレに行きたいっ!」
「誰かぁ!? 誰か助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――いっ!?」
気がつくと俺は『君に届け』と言わんばかりに。
――ガンガンガンガンッ!
と、固く閉ざされた扉をノックしまくっていた。
チクショウっ!?
某初号機パイロットの心の壁よりも固いんじゃねぇの、コレ!?
もう誰ぇ? ATフィールド展開してるの?
いや、お茶らけている場合じゃないぞ、俺っ!?
「おい、よこたんっ! どっちだ!? 大か小? それによっては、このミッションの難度が変わってくるぞ!」
「で、デリカシーッ!? 女の子にそんなこと聞かないでよっ!?」
「恥らってる場合か! 事は緊急を要するんだぞ!?」
うぅ~っ!? と子犬のように小さく呻きながら、よこたんがポッ! とその触り心地の良さそうなモチモチの頬を桜色に染め「……小さい方」と答えた。
「声が小さい! もっと大きな声で!」
「えぇっ!? だ、だからそのぉ……。お、おしっこ、の方だよぅ。うぅ……」
顔を真っ赤にして俯いてしまう、よこたん。
なんでこう、恥らう女の子はこんなにも可愛いらしいのだろうか?
こんな時だというのに、ちょっと興奮しちゃった♪
泣きそうな顔で「いじめないで……」と懇願する瞳を浮かべるエンジェル☆よこたんに、ついつい男の嗜虐心が逆撫でされる。
が、今は彼女をイジっている場合ではない。
事は一刻を争っていた。
「うぅ……ど、どうしよう、ししょー? 実はけっこう限界が近いんだけど……」
「『どうしよう』って言ったって、この状況じゃどうすることも……あっ!」
相当急激な尿意だったのだろう。
荒い吐息を繰り返しながら、時折「くぁっ!?」と短く悲鳴を上げ、小刻みに身体を揺する、よこたん。
そんなよこたんのすぐ近くで、俺はある透明な物体を発見した。
「やったぞ、よこたん! こんなところに、空のペットボトルが落ちてるぞ!」
「しないからね!? 絶対にソレにはしないからね!?」
「安心しろ、コレは万が一の備えだ。別の案はもう用意してある」
俺はよこたんの傍に落ちていたペットボトルを拾い上げながら、彼女の足下に跪くように腰を下ろして。
「俺がよこたんのトイレになろう」
「ソレ前に聞いたよっ! 却下だよ、却下っ!」
「安心しろ、よこたん。4割冗談だ」
「半分以上本気だっ!? だ、誰か助けてぇぇぇぇぇっ!? メイちゃぁぁぁぁぁんっ!?」
「じょ、ジョーダン、ジョーダン! マ●ケル・ジョーダンだってば! ちゃんと他の案を用意してあるから、そんなゴミを見る目で、師匠を見るんじゃありません」
「……冗談が質悪いよ」
辟易とした表情を浮かべるよこたんに、俺は「アレを見ろ」と、2人分の高さ位の位置にある小さな窓を指さした。
それは、頑張れば人ひとり分くらいなら、ギリギリ通れそうな大きさの窓だった。
「俺がよこたんを肩車するから、よこたんはあの窓から脱出し、用を足して来い。ついでに誰か呼んで、倉庫の扉を開けてくれ」
「な、なるほど! その手があるね! 今日のししょーは、いつもと違って冴えてるよ!」
「ふふ、このおバカさんめ! 俺はいつでも冴えてるわい」
軽口を叩き合いながら、よこたんの前にしゃがみこむ。
「よし合体だ、乗れ!」
「う、うんっ! そ、それじゃ……失礼しまぁ~す?」
むにゅん♪ とよこたんの形の良いお尻が俺の肩にパイルダーオン。
そのままお餅みたいに肌に吸い付く彼女のフトモモを、ガッチリと両手で固定する。
途端に甘酸っぱい匂いが俺の肺を蹂躙し、思考が一瞬だけスパーク。
しゃがみこんだままの体勢で、ピシリと固まってしまう。
こ、これは……っ!?
一向に動かない俺を見て、よこたんが「ししょー?」と不安気な声をあげた。
「どうしたの? もう立っていいよ?」
「い、いや……ちょっと今は立てないわ」
「た、立てないって、どうして……ハッ!? もしかして、ボク、けっこう重いっ!? ご、ごめんね!?」
「いや体重とか関係なく、男の子特有の現象がその、ね?」
分かるでしょ? と言ったニュアンスで、よこたんに問いかけるが、よこたんは「どういうこと?」とばかりに首を捻るだけ。
だからね? 勃ってるが故に、立てないんだよ♪
と口に出来たら、どれだけ楽になれるだろうか?
しかし、この体育倉庫で2人きりの現状。
そんなことを言ったら、よこたんが身の危険を感じ、パニックになることは請け合いなので、なんとかバレずにやり過ごしたのだが……どうすればいい俺?
ギュンギュンッ! と思考を錯綜させていると、肩に乗っかっていたよこたんが、忙しなくモゾモゾし始めた。
「あ、あの、ししょー……? そろそろ限界が近いから、出来れば早く立ってくれると、嬉しいんだけど……」
「マジかっ!? しょうがねぇ、絶対に下は見るなよ? 絶対だぞ!?」
フリとかじゃないからな? とツンデレっぽく釘を刺しつつ、俺は覚悟を決めてゆっくりと立ち上がった。
……おそらく傍から見れば、さぞ雄大な景色が広がっていたコトであろう。
「よっしゃ、行くぞ!」
「う、うん!」
ハーフパンツをパツパツにしながら、よこたんを乗っけて、窓際までえっちらおっちらっ! 移動する。
よこたんは「えいっ!」と可愛らしい掛け声をあげながら、窓を通り抜けようとして。
「あ、あれ?」
「どうした、よこたん?」
「ど、どうしよう、ししょーっ!? お腹がつっかかって、出られないよぉっ!?」
「な、なんだとぉ!?」
パッ! と上を見上げると、そこにはいわゆる壁尻状態のよこたんが、ジタバタッ!? と暴れている素敵な光景が飛び込んできた。
「う~んっ!」と頑張って通り抜けようと、彼女のムチムチのお尻が『ふりふり♪』と左右に艶めかしく揺れる。
気がつくと、俺は両手を合わせて幸せを噛みしめていた。
お手々のシワとシワを合わせて幸せ、な~む。
「ご、ゴメンししょーっ! そっちから押してくれないかな? ボク1人の力じゃ、どうにも抜け出せなくて」
「えっ!? 触ってもいいの?」
「は、早くして! もう漏れそうなの!」
「全力で了解!」
俺は「左手は添えるだけ」とシュートのコツを呟きながら、よこたんのマシュマロヒップに、そっと手を這わせた。
瞬間、むにゅん♪ と恐ろしいまでに柔らかいよこたんのお尻に指先が沈みこみ、思わずツツーと涙を溢してしまう。
母ちゃん……俺を産んでくれてありがとう。
心の底から母親に感謝しつつ、押し上げるフリをして、よこたんのムチムチ♪ なお尻の感触を堪能する。
うん、今なら俺、逮捕されても反論しないぜ?
塀の中で「いやぁ、やらかしちまったぜぇ~。でも後悔はしてないぜぇ~」と満面の笑みで言える自信がある。
「えいっ! えいっ! あ~ん、抜けないよぉ!? ――って、ひゃんっ!? ちょっ、ししょーっ!? お、押してくれるのはありがたいんだけどね? そ、そんなにお尻を揉まないで……くすぐったいよ?」
「すまん、よこたん。でも、おまえのお尻が俺を誘ってくるから……」
『ヘイ、ラッシャーイ! ラッシャーイ! 柔らかいヨ~ッ! とても柔らかいヨ~っ!』
「なっ? 誘ってるだろ?」
「今の声ナニっ!?」
「肉屋のダニエルだが?」
「ダニエルッ!? 誰っ!? 怖いよっ!?」
去年、短期で肉屋のバイトに入ったときに仲良くなったオーストラリアからの留学生、ダニエルの声が体育倉庫に木霊する。
基本的に真面目で優しいのだが、何故か呼び込みの際『美味しいよ~』を『柔らかいヨ~』と悪魔変換してしまう、ちょっとお茶目なマッチョ、それがダニエルだ。
ダニエル、今頃なにしてるのかなぁ……。
と、ちょっとおセンチな気分に浸っていると、よこたんの強ばった声が俺の鼓膜を叩いてきた。
「そもそも、なんで今、肉屋のダニエルさんの声がするの!? 意味分かんないよっ!?」
「あぁ、さっきのは俺のスマホの着信音だ。ダニエルにお願いして、声だけ録音させてもらったんだよ」
「ちょっと待って、ししょーっ!? スマホがあるなら、ボクがこんなコトしなくても、ソレで外と連絡を取ればいいんじゃないの!? ソレで万事解決するんじゃないの!?」
「……天才かよ、おまえ?」
「普通だよ、もうっ! ししょーのバカぁぁぁぁぁ――ッ!!」
半泣きの声音を響かせながら、むにゅむにゅ♪ と俺の手のひらでスライムが如く形を変えていく、よこたんヒップ。
そして手のひらから感じる幸せの感触。
なるほど、これがいわゆる幸せの絶頂というヤツか。
俺の知る幸せの絶頂は、つい3カ月ほど前に従姉の姉ちゃんが結婚披露宴で涙を流しながらマイクに向かって「今日! マユミは! コウジくんと! 家族になれましたぁぁぁぁっ! 今、幸せの絶頂でぇぇぇぇぇぇす!」と言っていた日以来だ。
ちなみにマユミ姉ちゃんとコウジさんは、その1カ月後に離婚したよっ!
何でもマユミ姉ちゃんは、通っていたホストの兄ちゃんと駆け落ち同然で逃げちゃったみたいで、それからしばらくの間、コウジさんは酒浸りになったらしいけど……まあその話は置いておこうか。
つまり、今が幸せの絶頂なら、あとは下るだけということだっ!
「あっ……も、もう無理、漏れる……」
「待て待て! もう少し頑張れ! 諦めるな、よこたんっ!」
「あれ? お婆ちゃん? そんな所で何をしているの? というか、なんでこんな所に川が? あぁ、ウォシュレットか」
「落ち着け、よこたんっ! 三途のウォシュレットを渡るんじゃない! 希望を捨てるな! というか三途のウォシュレットってなんだ!?」
全てを諦め、ダランと全身から力を抜く、よこたん。
瞬間、俺は悟った。
万が一……そう一万分の一の出来事に、コト至ったのだと。
俺はポケットに入れていた空のペットボトルを素早く取り出すと、間に合え! と念じながら、よこたんのお股めがけてロックオン!
狙い撃つぜ! と心の中で呟きつつ、決壊寸前のよこたんダムに向かって、ソレを差し出し。
「――あっ、もうムリだぁ~」
その妙に明るいくせに、絶望感を孕んだ声音を耳にしながら、俺は――
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる