みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第4部 残酷すぎる天使のテーゼ

第19話 ご注文は爆弾ですか?

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 中庭のベンチを爆破予告されてから、5分後の中庭にて。

 芽衣を引きつれて、忘れ去られたかのように中庭の隅っこの方でちょこんと鎮座しているベンチの前へ集合すると、もうすでにやってきていた元気が「おっそ~い!」と待ち合わせに遅刻してきた彼ピを責める彼ピッピのように頬を膨らませていた。可愛くない……。



「人を呼び出しておいて遅れるとは何事や。重役にでもなったつもりか相棒?」

「すまんな、ヒーローは遅れて登場するモンなんだ。許せ」

「お待たせしてすみません、猿野くん……」

「い、いやいやっ!? 古羊はんは全然悪くないんやでっ!? というか、全然待ってへんから! ワイも今来たトコやさかいっ! ガッハッハッハッ!」



 芽衣がちょっと『しゅん……』となった演技を見せるだけで、アッサリ手のひらを引っくり返す我が残念な親友。

 もはや手首がドリル回転せんばかりの勢いである。



「それで? 相棒の言っとった爆弾つきのベンチは、コレで合っとるんか?」

「まぁ中庭のベンチなんて、コレ1つしかないし、間違いねぇだろ」

「2人とも、見てください。ベンチの下にバックが置いてありますよ」



 芽衣に促されるまま、ベンチの下に視線を向けると、そこには黒のボストンバックがデンッ! とその存在感をおおいに主張していた。

 芽衣がおそるおそる中身を確認するべく、ボストンバックのチャックを引っ張ると……中から【3分00秒】とデジタルで表示された謎の機械が姿を現した。



「おぉ~、よく刑事ドラマとか観るヤツだ。よく出来てんなぁ、コレ」
「猿野くん、確認の方をよろしくお願いします」
「ガッテン承知や」



 そう言って、ピッチピチのバニーガールの衣装に身を包んだ元気が膝を折り、ボストンバックの中に入っていた爆弾(?)を検分し始めた。

 どうでもいいけど、改めて我が親友を見返してみると……もはや視覚の暴力としか言えないよなぁ。

 ピッチピチのバニーガールの衣装が元気のお尻に食い込む姿とか、もはや俺に対する精神攻撃かと思ったほどだ。

 その証拠に中庭で休憩していたらしい親子連れの1組が『ねぇママ、ウサギさんがアソコで何かしているよ?』『見ちゃいけません!』と我が友を猥褻物扱いして、颯爽と立ち去っている始末だ。

 まぁガチムチナース姿の俺が言えた義理じゃないんだけどさ……。



「猿野くん、どうでしたか?」

「どうせニセモノだよ。この現代日本で、爆弾がそんな簡単に手に入ってたまるかっての。まったく、手の込んだイタズラをする奴が居たもんだ。お祭りだからって、ナニしてもいいってワケじゃねぇんだぞ? なぁ元気?」

「……本物や」
「……はい?」



 ぽしょり、と小さくつぶやく我が親友、元気。

 いつもバカみたいにハキハキ喋るコイツにしては、珍しく小声であった。



「はぁ? 本物? なにが?」
「だから……コレ」
「……まさかっ!?」



 何かを察したのか、芽衣の宝石のような瞳が、大きく見開かれる。

 元気がギギギギッ! と、錆びついたブリキの玩具おもちゃのようにぎこちなく首を動かして、俺と芽衣を見上げる。

 我が友の顔は、もはや青を通り越して真っ白☆

 その表情は、自室で自家発電中にママンに踏み込まれたときの俺の姿と、酷く酷似していた。

 ほんとあの時は焦ったぜ……。

 流石に夕飯前にエンジョイするのは、リスキー過ぎたか……。

 俺は2年A組の中でもトップクラスのスプリンター、その自負が油断に拍車をかけたのも1つの要因に違いない。

 それにしても、あのアマ……部屋に入るときは必ずノックして! って言ってるのに……っ!

 俺が『お取込み中のところ悪いな』と、半笑いを浮かべてクスクス笑うママンの姿を思い返していると、元気がその不毛の大地と化したカッサカサの唇を動かして、ハッキリと断言した。




「この爆弾……本物や」




 瞬間、その言葉を待ってました! と言わんばかりに、ボストンバックの中の爆弾が『ピッ♪』と音を立てた。

 見ると爆弾のデジタルタイマーが『2分58秒』『2分57秒』『2分56秒』と時を刻み始めていてぇっ!?



「ちょっ!? コレっ!? カウントダウンがスタートしてるんですけど!?」

「か、解体することは出来ませんか!?」
「ざっと見てみたけど、無理や」



 爆弾片手に小さく首を振る元気。

 マジかよ……。



「げ、元気でも解体するコトが出来ないって……どんだけ高性能な爆弾なんだよ?」

「いや、解体は出来るで? ただ、コイツを解体するには、最短でも10分はかかる。3分未満ではまず不可能や。いやはや、ほんと上手く作ったもんやで」

「感心してる場合か!? 解体って赤か青のコードを切ればいいんだろ? なら俺がやる! 大丈夫、昨日、名探偵を観てきたから! 摩天楼を観てきたからっ! 俺に任せろ! ――って、コードが無いんですけど、この爆弾!?」

「そんな単純な爆弾、あるワケないやんけ。漫画やアニメの観すぎやで、相棒」



 そう言って、どこか小バカにするように「ぷっ」と吹き出す我が親友、元気。

 腹立つなコイツ……。

 よし、今度こっそりと司馬ちゃんに『元気がうさみんと浮気していたよ♪』ってデマを流してあげよっと☆

 ふふふっ、元気の泣き崩れた顔が見れるのかと思うと、胸の高鳴りを抑えきれないぜっ!



「猿野くん。おおよその予想で構いませんので、この爆弾が爆発したときの被害を教えて貰えませんか?」

「そうやなぁ。正確には分からんが……このベンチが軽く吹き飛ぶくらいの火力は、あると思うで」

「……ならやっぱり放置するワケにはいきませんね」



 そう言って芽衣は難しい顔で、何かを思案するようにキョロキョロと辺りを見渡した。



「どうした芽衣? トイレか?」

「この状況でトイレなワケがないでしょうが。人気の居ない場所を探していたんですよ」



 相変わらずデリカシーの無い男めっ!

 と一瞬だけ目で責められたが、俺に構っている余裕がないのか、すぐさま意識を周りに分散させる芽衣。



「人気の居ない場所? なんで?」

「解体が無理なら、せめて人気の居ないところで爆発させるしかありません。ここで爆発すれば、いくらベンチが吹き飛ぶだけと言っても、この人数です。誰かしらケガをするかもしれません」



 そう言った芽衣の視線の先には、この森実祭を楽しんでいる在校生や中学生、近所のおじちゃんやおばちゃん、果てはOBの姿があった。

 森実祭2日目。

 例年に比べて、かなりの来場者がやって来ており、校舎の中はおろか、この中庭でさえ、ちょっとしたすし詰め状態だ。

 確かに、これだけの人数なら、ベンチが吹き飛んだ余波で、何かしらのケガを起こしそうではある。

 いや、ケガだけならまだいい。

 最悪、吹き飛んだベンチに頭がぶつかって……。

 考えうる限りの1番最悪の未来が脳裏をよぎり、思わず身体を震わせる。



「でも古羊はん。下手な場所で爆発させても、校舎に燃え移る可能性があるで?」

「分かっています。なるべく周りにモノがなく、かつ人が居ない場所を……。うぅ~っ、もう時間がないっ!? 2人とも、一緒に考えてください!」

「了解やで!」
「あいあいさーっ!」



 ピッ、ピッ、ピッ! と小気味よく爆弾から電子音が響いてくる。

 見ると残り時間『1分20秒』と記されていた。

 1分20秒で行ける場所など限られている。

 1分20秒以内に人気の居ない場所、かつ周りに燃え移る心配がない場所……う~ん。

 とりあえず校舎の中で爆発させるのはマズいし、校外へ持って行くか?

 幸い、この森実高校はちょっとした丘の上にあるし、適当に放り捨てても、民家には影響がないハズ。

 ……まぁ近くの木々たちに燃え移って、山火事になることは請け合いだけど。

 クソッたれめ!?

 山には雄大な自然が!

 なにより野生動物たちが居るんだぞ!?

 それらが全て燃えて消えるだなんて……なんという悲劇だっ! 

 あぁ、人はなんと愚かで醜く、残酷な生き物なんだ。

 宇宙船『地球号』はおまえらだけの船じゃない。

 この世界に生きとし生ける者たちの大切な船だということに、何故気づかない?

 悲しい、俺は1人の人間として悲しいよ……。



「コラ士狼っ! 現実逃避しないっ! 今回ばかりは諦めるのはナシですよっ!」
「ハッ!?」



 慌てふためく芽衣の呼びかけに、俺は正気を取り戻す。

 お、俺は一体ナニを考えていたんだ?

 というか、目の前の現実から目を逸らして、一体ナニがしたかったんだ?

 ダメだ。どうやら焦り過ぎて、まともな思考回路が出来ないでいるらしい。

 これはいかん。

 落ち着け、俺。

 まだ慌てるような時間じゃない。

 そうだ、落ち着け。

 落ち着くんだ、俺。

 この知的でクールなナイスガイである所の俺にかかれば、打開策なんて、いくらでも湯水のごとく思いつくハズだろう?

 さぁっ、大神士狼の真価を全世界に見せてやろうぜ!

 俺の優秀な頭脳が唸りをあげ、知恵熱と共に、太陽がジリジリと我が頭部を焼いていく。

 ……暑い、暑すぎる。

 いくら夏だからといっても、今日はいつもより暑く感じて仕方がない。

 こう暑いと、考え事どころの騒ぎじゃない。

 ふぅ~む……よしっ! 

 ここは一旦、頭を冷やす意味も込めて、お茶でも飲んでクールダウンを……あっ。

 そうだ、お茶持って来てないんだった……。

 しょうがない、近くの売店か自動販売機で、お茶でも買ってくるとしよう。

 いや待て?

 せっかくの森実祭なんだ、ここはちょっとリッチに、どこかのクラスの喫茶店で飲み物をテイクアウトしようではないか!

 確かに自動販売機で買うよりも、値は張るかもしれない。

 だが、それもいつか素敵な思い出に変わると俺は確信している。

 なんせ思い出はプライス・レス……お金では買えない価値がある。

 それにキンキンに冷えた飲み物を胃袋に流し込めば、さぞ爽快に違いない!

 俺は懐から財布を取り出し、何故か焦った表情を浮かべる元気と芽衣に、笑顔で声をかけた。



「ちょっとそこまでお茶買ってくるけど、2人とも何かいる?」

「ふざけんな相棒っ!? ナニをこの非常時に一服いっぷくしようとしとるんやっ!?」

「だから諦めるのはナシですよ、士狼っ!」



 ハッ!?

 お、俺としたことが、この短時間でごくごく自然に2度目の現実逃避だと?

 この俺ともあろう男が!?

 この知的でクール、それでいて大人の色気たっぷりの、これ俺様がっ!?

 そんなバカなっ!?

 これは何かの間違いであばばばばばばばばっ!?



「あぁ、もうっ!? このおバカっ! フリーズする前に頭を動かせ!」

「アカンッ!? 残り40秒や! このままじゃ、ワイらも巻き込まれるで!?」



 流石に猫を被っている余裕がない芽衣の叱責と、元気の絶望に満ちた声音が同時に俺を襲ってくる。

 残り40秒……もう校舎外に出ることは不可能だ。校舎の中で爆発させるしかない。

 でも、どこで?



「残り30秒っ! もう無理や! 逃げるで2人とも!」

「待ってください猿野くん! せめて中庭ここじゃない場所で爆発させないとっ!?」

「流石に今日ばかりは人気の居ない場所を探すんわ無理や! それこそ、立ち入り禁止エリアでもない限りわ!」



 そう言って、芽衣の手を取って爆弾から距離を取ろうとする元気。

 俺もそのあとに続こうとして……パンっ! と頭の中で思考が弾けた。

 それは生存本能がせるワザだったのか、はたまた、あの奇天烈大辞典きてれつだいじてんな母親から受け継いだ大神の血によるモノなのかは定かではない。

 一瞬。

 一瞬である。

 俺の脳裏に『とある場所』が浮かび上がったのは。

 人気の居ない場所、森実祭、立ち入り禁止エリア……。



「ッ!?」



 瞬間、思考が弾けると同時に、俺は爆弾を抱えて校舎の壁に向かって走り出していた。



「あ、相棒っ!?」
「士狼っ!?」



 困惑する元気と芽衣の言葉を置き去りに、俺は校舎の白い壁を、文字通り



『ママぁ~、ナースさんが壁の上を走ってるよぉ?』

『ん? もう、そんなワケないで――うぇぇぇっ!? ナニアレ!? CG!? ワイヤーアクション!?』



 どこか女性の素っ頓狂な声が聞こえた気がしたが、構わず壁を駆け上がる。

 4階建ての白塗りの校舎を1階、2階と、上に向かって加速しながら通り過ぎていく。

 そのたびに、遥か背後の地面の方から、人のざわめきが津波のように大きくなっていく。



『おいみんな、壁を見ろ!?』
『なんだアレ!? 鳥か!?』
『飛行機か!?』

『いや、ガチムチナースだっ! ガチムチナースが猿みてぇに一瞬で壁をよじ登った、ていうか駆け上ったぞ!? どうやったんだ!? というかガチムチナースってなんだ!? 自分で言ってて意味わかんねぇ!?』

『いやそれ以前に、どんな身体能力してんだよ? スパ●ダーマンか、あのナース?』

『というかアレ、ナースなの? それとも化け物なの?』

『いっらっしゃいませ~。ママみ喫茶【歩雌裸尼庵ポメラニアン】へようこ――へっ? えぇっ!? し、ししょーっ!?』



 森実祭に来場してきたゲストや、教室で接客している生徒たちの視線と声音に背中を押されて、気がつくと俺は4階まで一気に駆け上っていた。

 そしてそのまま4階すら駆け抜け、さらにその上――立ち入りが禁止されている屋上へと足をかける。

 小脇に抱えている爆弾が爆発するまで残り……5秒。



「うぉぉぉぉっ!? どすこいっ!」



 一閃。

 気合と共に、誰も居ない屋上へと、持って来ていた爆弾を放り捨てる。

 俺の手から離れた爆弾は綺麗な弧を描きながら、屋上のど真ん中へと見事な着地をげ。






 ――次の瞬間、爆音と共に大きくぜた。





「よっしゃぁぁぁっ! ――って、うぉっ!? やっべ!?」


 一瞬だけ爆炎をあげる爆弾に押されるように、俺の身体がふわりっ! と空中に浮いた。

 そのまま謎の浮遊感と共に、自由落下という名の不自由な落下が、俺の身体を加速させる。

 まるで飛翔しているかのような数秒を経験しつつ、俺の脳裏は走馬灯でも見るかのように、この間、物理の授業で習った方程式が浮かび上がった。

 標準重力加速度を秒速約9.8メートルと仮定して、今現在、絶賛自由落下中の屋上から地上までおおよそ17メートルと定義するならば……だいたい約1.8秒後には俺は地上と熱い抱擁ほうようを交わすことになるだろう。

 その際の衝撃は、時速65キロを軽く超えているワケで……なるほど。

 もうすぐ人身事故と呼んでもいいレベルの衝撃が、俺の身体を襲ってくるワケか。

 ふと視界の隅で、どこかのクラスで使っていたらしいマネキンが、木端微塵に粉々になっている姿が目に入った。



「はっは~ん? なるほどなぁ」



 どうやら、もうすぐ俺も、あぁなるらしい。

 俺を迎え入れるように悲鳴をあげる来客や生徒たちを尻目に、容赦なくドンドン迫ってくる地面。

 この状況で、俺が今、ハッキリと言えることはただ1つ。




 ――よし、1学期の物理の範囲は完璧だなっ!
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