みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第4話 古羊芽衣は、大神士狼のラブコメを許さない!

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「あの、よこたんや? 次からはもう少しだけ、野生解放するのは我慢しようね? これじゃ師匠の身体がもたないよ?」

「うぅぅ……うん。ご、ゴメンネ、ししょー?」



『しゅんっ……』と、よこたんの犬耳とシッポが、分かりやすく垂れ下がる。

 その姿に苦笑しつつ、俺は自分の右手に視線を移す。

 そこには包帯でぐるぐる巻きにされた、哀れな恋人右手がいた。

 別に闇の力とかは封印していないし、闇の炎に抱かれて消える気もない。

 あぁ~、中二病でも恋がしてぇ……。



「それで? 犬的欲求は解消されたっぽい? ……って、まぁその姿を見れば、一目瞭然なんだけどさ」

「うぅ……。ほんとにゴメンナサイ……」
「謝るな、謝るな。とりあえず、次のヤツやろうぜ?」



 そう言って俺は、うさみんから貸してもらったじゅうもうブラシを懐から取り出した。



「ブラシ? それで何をするの? ……な、なんだか嫌な予感がするんだけど?」

「そりゃもちろんっ! よこたんのそのふわふわ♪ のシッポを、毛づくろいしてやろうと――あれ? よこたん? なんでそんなジリジリと俺から離れて行くのかな?」



 何故か爆乳わんは怯えた様子で、1歩、また1歩と、俺から距離をとり始める。

 その豊かな胸の前で、自分のシッポを守るように抱きしめる姿は、正直男の庇護欲ひごよくをこれでもかと逆なでし、恥ずかしながら、ちょっと興奮した。



「ハァ、ハァ、ハァ……ッ! な、なんで離れるんだい?」
「だ、だって……今のししょー、ちょっと怖いっていうか……。その……は、鼻息が荒いよ?」



 俺が近づいた分だけ、よこたんもまた距離をとる。

 ちょっと?

 それじゃいつまで経っても、毛づくろい出来ないでしょ?

 俺は『害はないよぉ!』と、両手を広げ安全アピールをしながら、紳士な口調で言ってやった。



「だ、大丈夫! 痛くしないから! すぐ終わるから! 雲数えてたら、終わってるから! 先っちょ、先っちょだけだからさ! ね? ね?」 

「わふぅっ!? に、にじり寄らないでよぉ!? お、お母ぁさ~んッ!?」



 とうとう半泣きのまま、マイマザーに助けを求め始めるラブリー☆マイエンジェル。

 ヤバい!?

 このままじゃ事案発生だ!



「待て待て! 誤解だ、誤解! これも全ては、よこたんを人間に戻すための処置なんだよ!」



 これを見ろ!

 と、俺はポケットからスマホを取り出し、ズイッ! と、爆乳わん娘の方へと差し出した。

 よこたんは、おそるおそるといった様子で近づいてくるなり、ビクビクッ!? と身体を震わせながら、俺のスマホに視線を向けた。



「す、『健やかペットライフ』……?」

「そうだよ。この記事によればだな、犬っていう生き物はトリミング……つまり毛づくろいされるのが好きな生き物なんだとよ。だからさ、俺に毛づくろいさせてくれよぉ~? お願ぁ~い! 200円あげるからぁ~っ!?」

「な、何でそんなに必死なの……? 逆に怖いよ……」



 困った顔で、頬をぽりぽりとかく、ラブリー☆マイエンジェル。

 やがて、観念したように「ハァ……」と、乙女のため息を1つ溢すと『しょうがないなぁ』とばかりに、苦笑を浮かべてみせた。



「うん……わかった。それじゃ、お願いしようかな?」
「よっしゃぁぁぁぁぁ―――ッッ!」



 歓喜のガッツポーズ。

 全身の細胞が、喜びのあまりワッショイ! ワッショイ! と暴れまわる。

 よし! よこたんの気分が変わらないうちに、さっさとやってしまおう! そうしよう!

 俺は『善は急げっ!』とばかりに、芝生の上に腰を下ろして、自分の太ももを手でポンポンッ! 叩きながら、「カマンッ!」と叫んでいた。



「ほらっ! よこたんも早く座って! 時間は有限なんだぞ?」
「急にやる気になったね、ししょー……」



 お願いします、とペコリと頭を下げながら、肩がぶつかりそうな距離まで近づく爆乳わん娘。

 途端に、ふわっ♪ と甘いミルクのような匂いが、鼻腔をくすぐった。

 吸い込めば吸い込むほど、ドクドクと血流が暴れ狂う。

 まるで麻薬のようだ。



「その……や、やさしくしてね?」



 潤んだ瞳で俺を見上げる、ラブリー☆マイエンジェル。

 鋼の理性を持つ俺じゃなければ今頃、「了解!」と頷いて、彼女のご要望通り、やさしく唇を奪っているところだ。

 俺が「おふぅ」と、変なうめき声を上げている隙に、シッポを器用に折り曲げ、俺の膝の上に、


 ――ぽすんっ。


 と、置いた。

 もう仕草からして100点満点だ!

 何なの彼女?

 俺を萌え殺そうする、どこかの刺客だったりするの?



「じゃ、じゃあ始めるじょ?」
「よ、よろしくお願いしめふっ!」



 何故かお互い、変に緊張してしまい、カミカミになってしまう。

 落ち着け、シロウ・オオカミ。

 おまえはこの程度で動揺するような、器の小さい男じゃないだろう?

 俺は菩薩さまのような面持ちで、すぅっ! と、爆乳わんのシッポをかし始めた。



「わふんっ!?」
「…………」



 何やら甘い声が聞こえた気がしたが、おそらく気のせいだろう。

 きっと俺の軟弱な心が生み出した、幻聴に違いない。

 そう思い、もう1度、獣毛ブラシでシッポを梳かした。



「……(スッ、スッ)」

「あっ!? ひゃぅ……」
「……(ススッ、スッ)」
「んっ……あぁっ……」
「……(ススッ、スススッ)」
「んふっ、そこは……だめぇ~!?」



 お、おやおやぁ~?

 なんだ、なんだ?

 エロイことは一切していないのに、この異様にトキめく胸の高鳴りはぁ?

 1回梳くたびに、「だめぇ~」とか「もうムリぃ~」とか、耳もとで同級生の18禁催眠音声ASMRが垂れ流しにされる現状。

 気がつくと『呼んだ、パパ?』と、我が2代目大神士狼が、ズボンの上からこちらに語りかけてきていた。

 呼んでない!

 呼んでないから、大人しくお家に帰ってなさい!

 ズボンの上から息子を叱責しっせきしている間にも、よこたんのシッポを丁寧に梳いていく。


 ――だからだろうか?


 このとき、爆乳わん娘の吐息が、妙に荒く、熱っぽくなっていることに、気づくのが遅れたのは。



「ハァ、ハァ、ハァ……」
「うん? どうしたよ、よこたん?」



 俺の返事に答えることなく、妙に湿った熱い吐息を何度も繰り返す。

 ふとラブリー☆マイエンジェルの顔を覗き見ると、目がビックリするくらい座っていた。



「お、おい? 大丈夫か、よこた――んぉっ!?」



 突然。

 突然である。

 さっきまで大人しく隣に座っていた爆乳わん娘が、急にガバッ! と、俺の身体を押し倒しにきたのだ!

 そのあまりにも素早く、無駄のない動きに、抵抗するヒマもなく、あっさり組み敷かれてしまう俺。



「あ、あのぉ? こ、古羊、さん……?」
「フシューッ! フシューッ!」



 俺に覆いかぶさったまま、鼻息だけが異様に荒くなっていく、爆乳わん娘。

 心なしか、その瞳は、どこか肉食動物を彷彿とさせて……って!?

 そんなこと言ってる場合じゃないね、コレ!?

 よこたんの唇から、一筋の唾液がツツーッ! と、俺の顔に垂れ落ちる。

 瞬間、俺の脳裏にピンクの稲妻が駆け巡った。



「も、もしかしておまえ……発情してる?」
「ふすーっ! ふすーっ!」



 返事を返すことなく、無言で俺のブレザーとシャツを乱暴に握りしめると、


 ――ビリィっ!



「ふわぁぁぁぁぁぁっ!?」



 『開けゴマ!』と言わんばかりに、強引に破りはじめた!

 ちょっ!?

 なにやってんの、コイツぅっ!?



「ま、待て待て!? ストップ、ストップ! よこたんストップ! 1回落ち着こうか? ね? ね!?」

「フシューッ! フシューッ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 男の破れ制服もどきなんて、絵面えづら汚過きたなすぎるよぉぉぉっ!」



 乙女の悲鳴(男)と共に、問答無用とばかりに服が破られる。

 プチプチプチ! と、弾け飛んで行くボタンなんぞ『知らん!』とばかりに、上半身をあっという間に剥かれる、ナイスガイ。

 お日様のもと、俺のフェロモンボディがコンニチハ!

 いや、ふざけている場合じゃねぇぞ、俺!?



「ちょっ、1回離れ……ウソ!? なんでコイツ、こんなに力強いんだよ!? よこたん! 俺の話を聞け! 聞いてくれ! お願い!?」

「ふすーっ! ふすーっ! ふすーっ! ふすーっ!」



 あっ……ヤバいわ、コイツ。

 性欲が爆発してる。

 人の話が聞こえてねぇわ。

 グググッ! と、現役男子高校生を腕力を圧倒しながら、


 ――かぷっ。


 と、俺の首筋に噛みつく、爆乳わん娘。



「うひぃ!?」



 思わず変な声が漏れる。

 が、もちろん今のラブリー☆マイエンジェルは気にしない。


 ――かぷかぷかぷっ!



「うひぃぃぃぃ~~~~っ!?」



 何度も何度も、俺の首筋に甘噛みを繰り返す、爆乳わん娘。

 まるで『おまえはもう、ボクのモノだぞ!』と、マーキングされているかのようだ。

 途端に俺の脳裏に浮かんだのは、よこたんを制止する言葉ではなく、


『あ、アカン、喰われる!?』


 という、草食動物特有の本能的危機感であった。



「お、落ち着け、よこたん! 落ち着いて、まずは師匠の話を聞いてくれ!?」

「フシューッ! フシューッ!」

「お、俺も初めてだから、その……やさしくしてね?」

「――ナニを乙女みたいなことを口走りながら、覚悟を決めてんのよ。アンタは?」



 それも突然やってきた。

 急に俺達2人の頭上から、ぬっ! と大きな人影が落ちたかと思うと、


 ――ドスッ! 


 という鈍い音が、よこたんの首筋から聞こえてきた。

 かと思えば「きゅぅ~」と、可愛らしい声を出しながら、爆乳わん娘の意識が刈り取られた。

 さっきまでのエロ本を前にした男子中学生を彷彿とさせる、ギラギラッ! とした、野獣じみた瞳から一転。

 グルグルと目を回しながら、俺に体重をかけてくる爆乳わん

 な、何が起きたんだ!?



「ったく。教室に居ないから、探してみれば……こんなところで盛ってんじゃないわよ。というか、なんで洋子はチャイナ服なワケ?」



 バッ! と顔を上げると、そこには我らが生徒会長閣下が、仏頂面のまま、仁王立ちで俺たちを見下ろしていた。

『あっ! パンツが見えた、ラッキー☆』とか、『おいおい? ライトグリーンとは、いい趣味してるじゃねぇか!』とか、『そのパンツに免じて、100万シロウポイントを贈呈しよう!』とか、思っている場合じゃない!

 は、はやく弁解しないと、殺される!?

 比喩ではなく、マジで!?

 俺は浮気現場に踏み込まれた夫のように、慌てて口をひらいた。



「ち、違うんだ芽衣! こ、これには深いワケが!」

「あぁ~。いいから、いいから。大体の事情は、宇佐美さんに聞いてるから、大丈夫よ。別に怒ってないから、安心しなさい」

「ほ、ほんとに? 怒ってない?」

「えぇ、怒ってないわよ。怒ってないけど――とりあえず、歯を食いしばりなさい?」

「嘘つきぃぃぃぃぃっ! メチャクチャ怒ってんじゃぁぁぁぁぁんっ!?」



 俺の泣き叫ぶような絶叫が、大空へと吸い込まれていく。

 我が頬を捉える会長閣下の拳には、一切の躊躇ためらいがなかった。

 すべては刹那。

 それはまるで、一流のアサシンによる、すれ違いざまの戦いを彷彿とさせる、極限の技と技のぶつかり合い。

 マイ☆エンジェルが寝息を立てるよりも先に、俺達の攻防は始まり――そして決着も刹那についたのだった。

 まあ、そうだな。

 芽衣のパンチを一言で表すなら…………世界が狙える、かな。
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