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第9部 聖夜に水星は巡航する
第1話 クリスマス~チキンの大量虐殺日編~
しおりを挟む――クリスマス。
それは『節分』『海開き』に並ぶ、日本3大ハイパードスケベ☆イベントと名高い、恋人たちのお祭りである。
街の至るところに愛が溢れ、まるで地上を彩るイルミネーションのように、恋人たちの顔に光が宿る。
それは我が森実町でも同じことであった。
12月25日。家から1歩外に出れば、そこには――人外魔境が広がっていた。
街の中はカップルという名の魑魅魍魎で溢れかえり、モミの木の下へ避難すれば、野郎共が彼女のオッパイを揉み揉みしている始末。
まさに独り者には地獄絵図。
かと言って家に引きこもってエロ動画を鑑賞するのも、何だか負けた気がして、つい外出してしまう。
そして心と身体に多大なダメージを受け、
『お、俺は仏教だから、クリスマスとか関係ねぇし!』
と強がるゾロアスター教が、何と多いことか。
そんなイエスを忘れ、はしゃく卑猥な若者が多いクリスマスを目前にした、12月の初頭。
俺、大神士狼は、
「ふしゅーっ!? ふしゅーっ!? ひふほーっ!」
「あ、あはん、あはんっ!? もうへんはいや! ほまれ、あいほう!」
――放課後、2年A組の教室で親友(♂)とポッキーゲームに興じていた。
「ふがっ、ふがっ!? も、もうひやや~っ!」
「なふなふぇんふぃっ! ほれふぇっふぇふぁきてぇーんだほ!?」
フガフガと瞳からポロポロ涙を流しながら、ポッキーを齧っていく我が親友、猿野元気。
その数センチ反対で同じくポッキーを齧りるナイスガイ、俺。
たぶん元気と同じ顔をしていると思う。
ほんと何でこんなことになってしまったんだろう?
確かクラスの男子共とY談、もとい雑談していたハズなのに、何で俺は男同士でポッキーゲームになんぞ興じているんだ?
自分で自分の行動が分からない。
マジで数分前の俺は何を考えていたんだ?
もはや狂喜の沙汰としか思えねぇ!
あぁ、出来ることなら超引き返したい。
でも、ここで逃げたら『チキン』だと思われそうで嫌だし……クソッたれめ!
なんだ、この退くも地獄、進むも地獄な現状は!?
「す、すげぇ……なんて惨い光景なんだ。気持ち悪すぎて、直視出来ねぇ……」
「おろっ!? おろろろろろろろろっ!?」
「た、大変だ!? 相沢があまりの気持ち悪さに、口から物体Xを吐き出しやがったぞ!」
俺たち2人の放つ緊張感に周りの男共(カスども)も当てられたのか、ゴクリッ! と生唾を飲み込む音が、やけに鮮明に聞こえてくる。
俺は1度、そんなカス共から視線を切り、再び鼻先数センチの距離に居る我が親友に意識を向けた。
あぁ……なんてブサイクなんだろうコイツ。
思わず、心の中でうっとりしながら目の前のブサイクの顔をジロジロと観察してしまう。
まつ毛の1本から顎の先まで、まるで神様が『よし! ここらで1発、目隠して、作ってみようかな!』と、チャレンジ精神の極みで創造したとしか思えない造形美。
そしてゆっくりと頬を桃色に染めていく親友。
それはさながら、サナギが蝶へと完全変態するかのように、完全な変態が目の前に居た。
正直、目を逸らしたい気持ちでいっぱいだ。
「ほい、ふぁめろ! ほぉをほめるふぁ! ほっちをふぃるな!」
「ふぁ、ふぁいぼう……ふぁふぁふぃふふぃふぇふぇ?」
「ふぁにふぁくふぉをふぃめへんは!? ふふぁへんふぁ! ふぇをあへろ!」
スッ! と、瞳を閉じる我が親友。
おいバカ、頬を桃色に染めるな!?
気持ち悪いんだよ、ソレ?
なんて思っていた矢先、突然天空から、
「ちょわーっ!」
と、いう可愛らしい掛け声が、脳天へと降りそそいた。
瞬間、ブゥンッ! と、鼻先寸前をチョップが通過。
そのまま俺の元気が咥えていたポッキーを文字通り、
――ポキッ!
と、へし折った。
「「た、たふかっふぁ!」」
俺たちは、ポッキーをスココココココココッ! と齧りながら、チョップをかましてきた救世主に視線を向けた。
そこには、ほど良く日焼けしたポニーテールの美少女1年生が、憤慨した様子で俺達を見つめていた。
「自分のダーリンに何をやってるっすか、大神センパイ!? いくらセンパイでも、ダーリンは渡さないっすよ!」
そう言って俺を睨みつけてきたのは、元気の彼女にして陸上部の期待のホープ、司馬葵ちゃんだった。
安心して、司馬ちゃん?
俺もいらないから♪
なんなら利子つけてお返ししたい位だから♪
と、俺がそう口を挟むよりも早く、元気の嬉しそうな気持ち悪い猫撫で声が、鼓膜をくすぐった。
「マイハニーッ! 来てくれたんか!」
「うっす! なんだか嫌な予感がしたんで、慌てて駆けつけてみたら、案の定っすよ!」
まったく油断も隙もないっす! と俺から元気を引き離しつつ、自分の背後へと隠してしまう司馬ちゃん。
別に俺はどこぞのマッドサイエンティストじゃないんだから、そんなブサイク寝取らないよ?
なんて不満気な眼差しをバカップルに送っていると、今度は俺の背後から春風のような爽やかな声音が教室を駆け抜けていった。
「はいはい、おふざけは終了ですよ~? みなさん解散してくださぁ~い」
そう周りの男共に告げたのは、我らが猫かぶりの女神さま、古羊芽衣その人であった。
メープルシロップに漬け込んだ果実のような潤んだ唇、太陽の光を一身に受け止めた亜麻色の髪、研磨に研磨を重ねたような輝きを放つ、紅玉のような瞳。
そして超パッドによりギガ盛りされた虚乳。
相変わらず規格外の容姿とニセチチを持つ絶世の美少女が、その白魚のように白くしなやかな手をパンパン叩きながら、周りの男共を見渡した。
ソレを合図に「はぁ~い」と、クモの子を散らすように帰宅していくカスたち。
「おろっ? 芽衣、居たの? 生徒会室に行ったんじゃなかったっけ?」
「士狼が遅いから迎えに来たんですよ。ほらっ、そんなおバカなことをしてないで、行きますよ?」
「へっ? どこに?」
純粋な疑問を口にした途端、芽衣はアンポンタンを見るような目で俺を見据えてきた。
「ハァ、今朝伝えたばかりじゃないですか? 今日は今期の生徒会メンバーでの最後の活動ですから、みんなで打ち上げをしようって言いましたよね? もう忘れたんですか?」
「あぁっ!? そうだった、そうだった! すっかり忘れてたわ!」
「……やっぱり忘れてたんですね士狼」
そう言って俺の目の前であからさまにため息をこぼす女神さま。
そんな彼女の態度に、少しだけムッ! としてしまう。
なんだよ、なんだよ!
ちょっと忘れてただけじゃんかよ!
まったく、これくらいの事を許せないなんて、相変わらず器と本物のおっぱいが小さい――
「士狼? それ以上余計なことは考えなくていいですからね?」
「す、すいません……。あ、謝るんで、腹パンを止めていただいてもよろしいでしょうか?」
元気と司馬ちゃんがちちょうど見えない角度で、ドス! ドス! と俺のみぞおちめがけて、芽衣の重い拳が突き刺さる。
その都度「うっ!? うっ!?」と、情けない声が唇から漏れてしまう。
そのあまりにも的確なボディ狙いに、思わず心の中で「まっくのうち! まっくのうち!」と叫んでしまう。
ヤベェ、このままじゃ伝家の宝刀デンプシー・ロールにまで炸裂しそうだ。
「まったく、士狼は相変わらず乙女の扱いが分かっていないんですから」
「へぇ、最近の乙女は良い感じでボディブローを放つことが出来るんだぁ」
シロウ初めて知ちゃった☆
と、心の中でおどけてみせていると、さっきまで別世界で自分の彼女とイチャコラ♥ していた元気が「あっ!」と何かを思い出したかのように声を張り上げた。
「そうや、そうや! 古羊はん。悪いんやが、生徒会入りの話な、考えたんやがやっぱ断らせてもらうわ」
「そうですか? 残念です。猿野くんはいい会計になると思ったんですが……」
「えっ? 元気、おまえ生徒会に入るの?」
「入らん、入らん。そういう話を古羊はんから受け取っただけや」
そうあっけらかんと口にして、ガハハハッ! と豪快に笑う我が親友。
これが2年に進級したての頃なら、
『せ、生徒会でふか!? は、はひ! この不肖猿野元気! 古羊はんのために、全力でお受けさせてもらいまふでふ!』
と気持ち悪い笑み全開で「でふでふ、でゅふふ!」と狂喜乱舞してただろうに。
それが今では、この通りよ。
まったく、これが彼女持ちの余裕というヤツなのかね?
反吐が出そうだ。
「誘いは嬉しいけど、生徒会に入ったらマイハニーとの蜜月の時間が減っちゃうさかいのぅ。ねぇ、ハニィ~?」
「ダーリン、生徒会に入らないんすか? そっすか……せっかくダーリンのカッコいい所が見られると思ったんすけど……。残念っす」
「――どうも『やる気』『根気』『元気』! 生徒会会計、猿野元気を今後ともよろしく!」
「きゃ~っ! ダーリンカッコいい~っ!」
「清々しいまでの手のひら返しですね……」
「な? 手首がねじ切れんばかりだよな」
手首にドリルを搭載しているとしか思えない熱い手のひら返しに、呆れるを通り越して、もはや尊敬しそうだ。
おいおい? おまえの手首、天元突破してんじゃん?
穴掘りゲンキなのか?
穴掘りゲンキくんなのか?
でもな元気?
俺、おまえのそういう所……嫌いじゃないぜ?
「相変わらず仲がいいですね、2人は。少し嫉妬しちゃいます」
「い、いくら会長先輩でも、ダーリンがあげないっすよ!?」
「それは大丈夫です。わたしはまだ馬に蹴られて死にたくないので♪」
言外に「いらない」と伝える芽衣。
そのまま視線を2人から切り、窓の外、下校していく生徒たちの方へと移す。
「それにしても、ここ最近、妙にカップルが増えたような気がしますね」
「しょうがねぇよ。もうすぐチキンの大量虐殺日だからさ」
「……クリスマスって、普通に言えないんですか、士狼は?」
何故かゲンナリした様子で、力なく俺を睨む芽衣。
そう言えばコイツ、鶏肉大好きだったっけ?
うんうん、鶏肉はいいぞぉ。
なんせ食べれば、おっぱいが大きくなるらしいからな!
大神士狼は古羊芽衣のおっぱいを応援しています。
と、どこぞのスポンサーのような事を考えていると、ガシッ! と芽衣に右手を掴まれた。
ヤベッ!?
また考えている事がバレたか!?
と一瞬焦るが、どうやらそうじゃないらしい。
「お喋りはここまでにして、そろそろ打ち上げに行きますよ士狼。もう全員集合しているんですからね」
「へいへい。それじゃまた明日なバカップル!」
元気たちに簡単な別れの挨拶をしつつ、俺は芽衣の手をギュッ! と握り返しながら、彼女の後ろを追いかけていく。
「バカップルって相棒……」
「今の先輩たちの方がよっぽどバカップルっすよ……」
背後で元気と司馬ちゃんが何を言っていたような気がするが、きっと別れの挨拶とかそんなのだろう。
俺はもう1度だけ胸の中で2人に別れを告げながら、何故かほんのり頬が赤い女神さまの後をついていくのであった。
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