みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第9部 聖夜に水星は巡航する

第11話 芽衣ちゃん、大勝利!

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 世の中にはベストマッチな組み合わせというモノが存在する。

 例えば『魔王に勇者』『巫女に触手』『陰キャにハーレム』『おっさんにスローライフ』『おっぱいにロマン』等々。

 アレにはソレ、ソレにはコレ! と言ったように、太古の昔より決められた最高の組み合わせがこの世には存在する。

 では美しい亜麻色の髪を持つ美少女に合う最高の組み合わせとは、一体何だろうか?

 清楚な感じのワンピース?

 あえて意表をついてのパンク系?

 考えれば考えるほど、深みにハマっていく。

 まさに人類の命題とも言える問題。

 そんな誰もが解くことが出来なかった命題を、俺、大神士狼は人知れず解明することに成功していた。

 場所は森実町から打って変わって、隣町の駅前。

 土曜日ということもあり、人がごった返す中、俺は今しがたやって来た超絶美少女の姿に、文字通り心を奪われていた。



「遅れてごめん、士狼。待った?」



 そう言って、イルミネーションよりもキラキラと輝く亜麻色の髪をなびかせて、待ち合わせ場所の銅像前までやってきた美少女こと古羊芽衣の姿に、俺は何も言い返すことが出来ず、ただただ黙って彼女の姿に魅入みいってしまっていた。

  白のニットに白のニーハイ、そして頭にちょこん♪ と乗っかっている真っ白なふわふわのベレー帽。

 まさに俺の理想とする美少女が、そこに居た。



「士狼? おーい、士狼ったらぁ?」
「…………」
「もう! 返事をしなさい!」
「ぷがっ!?」



 むぎゅっ! と、芽衣の雪原のような指先が俺の鼻を軽く摘みあげる。

 途端に妄想の世界へと羽ばたいていた意識が、現実世界にベイルアウト。



「ハッ!? ここはどこ? おまえは芽衣」
「そしてアンタは大神士狼よ」



 芽衣は今日も今日とて、見事に盛っている虚乳をバルン♪ と揺らしながら、



「もう、しっかりしてよね? 今日はこれからクリスマス会用のプレゼントを買いに行くんだから」



 と言った。

 そうなのだ。今日は芽衣と2人っきりで、クリスマス会に使用するプレゼントを買いに、隣町まで足を伸ばしているのだ。

 事の発端は、3日前の水曜日の放課後。

 芽衣が俺に『付き合ってくれる?』と告白してきたのが、すべての始まり。

 並みの男ならここで、


『つ、付き合ってって!? もしかして芽衣のヤツ、お、俺のことが好きなのか!? 恋が走り出してしまったのか!?』


 と慌てふためくところだろうが、俺、シロウ・オオカミは違う。

 言葉足らずの行き違いなど、ハーレムラノベで幾度いくどとなく経験済みだ。

 よって、芽衣の『付き合ってくれる?』が、クリスマス会用のプレゼント選びであることを一瞬で看破してやった。

 いやほんと、あのときの芽衣の悔しがる顔は、一生忘れないと思う。

 それにしても、またしてもラノベに命を救われるとは。

 やっぱりラノベは正義だな!



「士狼? もう、またボーっとしてる!」
「あっ! いや、その……」

「どうしたのよ? らしくない。言いたいことがあるなら、いつもみたいに言えばいいでしょ?」

「い、いや、その服、か、かか、かかかかっ!?」
「『かかかか』?」



 不審な態度を取る俺に、コテンと首を傾げる芽衣。

 お、おかしい?

 いつもなら月9のスカしたイケメンばりに、


『その服、可愛いじゃん。似合ってるよ』


 と言っているところなのに、今日に限って、何故か台詞がのど元で詰まって出てこない!

 ええい!?

 いいから言え、俺!

 俺は無理やり言葉を吐き出すように、やや上ずった声音で彼女の名前を呼んだ。



「め、芽衣!」
「うん? なに?」
「そ、その服! よく似合ってるにょっ!」
「……にょ?」



 噛んだ。

 死にたい。

 死のっかな?

 来世ではハイスペックな陰キャとなってハーレムを築いてやる、と決意を新たに辞世の句を読もうとした矢先、突如芽衣が「ぷふっ!?」と盛大に吹き出した。

 いつもの作り笑いと違い、心底楽しそうに笑う芽衣。

 そんな芽衣の姿に、周りを歩いていた通行人たちが見惚れたように立ち止まっていく。

 一瞬にして、この場に居る人たちを魅了してしまう我らが女神さま。

 ほんと罪づくりな女である。



「ぷふっ!? 『にょ』って! 『にょ』って! 可愛すぎるでしょ、アンタ!? プハッ!?」

「なるほど。少しココで待っていてくれ、芽衣。ちょっくら異世界に転生して、イケメンに生まれ変わってくるからよぉ」

「もぉ、ゴメンゴメン! そう不貞腐ふてくされないでってば!」



 そう言って、トラックに轢かれるべく道路へと特攻しようとした俺の右手に、


 ――ふわっ♪


 とした感触が返ってくる。

 見ると、芽衣が俺の手を包み込むように、ぎゅっ! と掴んでいた。



「ねぇ士狼? 今日のアタシの服装……どうかな?」



 頬を桃色に染め、優しげな眼差しで、そんなことを聞き返される。

 なるほど、どうやらリトライのチャンスをくれるらしい。

 俺は今度こそ噛まないように、口の中で言葉を転がしながら、



「よ、よく似合ってる。ビックリした」
「はい、大変よくできました♪」



 まるでデキの悪い飼い犬を甘やかすように、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる芽衣。

 なんだろう?

 マジで今日のコイツは『女の子』っていうより、『女性』って言葉がしっくりくる感じだ。

 というか、ヤバいな俺。

 まだ始まってすらいないのに、テンションがアホみたいに上がってしまっているぞぉ!



「ごめんね、待たせちゃって? けっこう待った?」
「い、いや。そんなに待ってねぇよ」



 忖度そんたくナシの笑顔を前に、思わず顔を逸らしながら、ぶっきらぼうに応えてしまう。

「ほんとに?」と、窺うように俺の顔をのぞき込んでくる芽衣に「ほんと、ほんと」と頷く。

 いやほんと、全然待ってない。

 ちょっと4時間ほど前からスタンバイしていただけだから。全然待ってない。



「よかった♪ それじゃ、行こっか士狼」
「お、おう」



 繋がれた右手をリード代わりに、スタスタと前を歩いて行く、我らが会長閣下。

 その足取りは酷くご機嫌で、今にもスキップしてしまいそうなくらい軽やかだ。

 俺はいまだバクバクと狂ったように脈打つ心臓を無理やり抑えながら、猫のシッポのように揺れる彼女の亜麻色の髪の後を追った。

 まるでこの世界に2人しか居ないような錯覚に襲われる俺。

 だからだろうか?



『『…………』』



 背後の物陰から俺達を見据える2つ影に、気づくことが出来なかったのは。

 このときの俺は、まだ知らなかったのだ。

 もうすでに背後にメスライオンと、主人に反逆をくわだてようとする子羊の存在に。
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