みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第9部 聖夜に水星は巡航する

第26話 これにて一件落ちゃ……えっ?

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 元気の野太いSOSコールを聞きつけ、生徒会役員たちが一斉に声のした校舎の中へと駆けだす。

 そして俺達が保健室の前へと到着するなり、目に飛び込んできたのは、黒いフードで顔を隠し、バットを握り締めた全身黒づくめの犯人と、それを押さえこみ地面へと組み伏せている元気の姿、そしてそんな2人の様子をカメラを構えて撮影している亀梨少年の姿だった。



「相棒っ、ちょうどええところに! コイツの足側を押さえこんでくれ!」
「了解んぽ!」



 ジタバタッ!? と暴れる黒づくめの男の足側へと回り込み、全体重をかけて、その場へ固定する。

 瞬間、もう逃げられないと悟ったのだろう。

 急に抵抗する力を抜き、グッタリと脱力するバットマン。

 俺たちの間に漂っていた緊張感は、時間と共に霧散し、今はなんとも落ち着いた状態となっていた。

 そんな雰囲気の中、ようやく芽衣がゆっくりとバットマンの前へと足を踏み出して、



「ごめんなさいね、こんな手荒なマネをしてしまって? でも『止めてみろ』と言ったのはアナタなんですから、恨まないでくださいね?」



 目深く被ったフードのせいで顔は見えないが、何となく芽衣を睨んでいるような気がしないでもない。

 そんなバットマンの視線を一身に受け止めながら、芽衣は割られていない保健室の窓の方へと視線を移した。



「アナタがガラスを割っていた教室なんですがね? 最初は関連性も何も無い、ただ無秩序に割っていただけだと思っていたんですが、アナタがくれた犯行予告のおかげで、ようやく全ての謎が解けましたよ」



 そう言って、芽衣はポケットから、今まで割られた教室の名前が羅列された紙を取り出してみせた。



「アナタが割っていた教室の窓ガラスには、意味があったんですよね?」



 そう頭文字です。

 芽衣がそう口にした瞬間、ビクッ!? とバットマンの身体は震えた。

 その反応を見て、芽衣は『やっぱり』と言わんばかりに、笑みを深めてみせた。



「多目的室。調理室。弓道部。合唱部。そして1年C組に、2年A組。これらの教室の頭文字を取ると『た』『ち』『き』『が』『い』『に』になります」



 一見すると、なんの意味もない文字の羅列に見えますが、コレを並べ替えると『とある』生徒の名前が浮き出てきます。

 と、芽衣はそう続けながら、ピラッ! と持っていた紙切れを裏返した。



「ここで重要になってくるのが、誰がつけたのか分からない【バットマン】という通り名です。コレは捜査の目を男子生徒に向けさせるべく、犯人が流した噂に違いないのでしょう。つまり、ここから逆算するに、犯人は女子生徒ということになります」



 裏返した紙切れには、大きな文字で『にいがきたち』と書かれていた。



「そして最後にココ、保健室の窓ガラスを割れば、暗号の完成です」



 そう犯人は、



「――犯人は1年C組、野球部マネージャー、新垣田千穂さん……アナタです!」



 そう言って、芽衣がバットマン……新垣ちゃんの目深まぶかに被ったパーカーをズリあげた。

 そして、そこに現れたのは、黒髪短髪の――



「えっ!? お、男っ!?」



 思わず俺の驚いた声が校舎へと響き渡る。

 そう、そこに居たのは新垣ちゃんではなく、とある男子生徒だったのだ。



「あ、アナタは確か……野球部の」
「た、タニガキくんだよ! タニガキタイチくんだよ!」



 芽衣は驚いたように目を見開き、よこたんに至っては『信じられない!?』とばかりに声を張り上げていた。

 そうなのだ。

 そこに居たのは、野球部マネージャーの新垣ちゃんではなく、エースで4番の俺達の同級生、谷垣太一だったのだ!

 ど、どういうことだ!? と混乱する我が生徒会役員たち。

 そんな俺たちを差し置いて、芽衣は再び暗号の書かれた紙切れへと視線を落とした。



「『た』『に』『が』『き』……『い』『ち』――ッ! 谷垣太一!? ど、どうして!?」

「ま、まさか俺の推理が当たっていただなんて……っ!? 名探偵シロウの爆誕か? 南のバーローとして、黒づくめの集団に追われるのか!?」

「いや、ししょーのは推理でもないでも無いよね? ただの私怨だよね?」



 自分の推理が外れて混乱する芽衣。

 そんな芽衣に代わって、よこたんが谷垣を刺激しないように、ゆっくりと声をかけた。



「まさかタニガキくんが【バットマン】だったなんて……なんでこんなコトをしたの?」
「どうせ騒ぎで注目を浴びたかっただけっしょ?」



 辛辣な言葉を投げかける大和田ちゃんの言葉に、谷垣は唇の端を噛みしめながら、



「……そうだよ」



 と乱暴な口調で肯定した。



「その通りだよ。目立ちたくて、日頃の鬱憤を晴らすために、窓ガラスを割ったんだよ」
「そ、そんなコトで……?」
「ヨッシーよ。本人にとっては、ガラスを割るほどのコトじゃったんじゃろ」



 困惑する爆乳わんを宥めるように、うさみんが間に割って入る。

 その隣で大和田ちゃんが「ほらやっぱり」と言いたげに、あきれた瞳でバットマンこと谷垣を見おろしていた。



「まったく。クリスマス会も近いっていうのに、いい迷惑だし」
「でも、これでクリスマス会が中止にならなくなったっすね! 自分、嬉しいっす!」



 大和田ちゃんと司馬ちゃんの1年生コンビが、安堵に胸を撫でおろしている間に、元気と俺は谷垣を無理やり立たせる。



「とりあえずや。大和田はんとハニーは、職員室に先生がもうとるかどうか確認して来てくれるかいな? コイツはワイたちが生徒会室へ連れて行くさかい」



 元気の言葉に1年生美少女コンビは素直に頷き、そのまま職員室のある3階へと駆けて行った。

 そんな後輩たちの後ろ姿を捉えながら、元気が「ほな、行こか」と、顔を伏せている谷垣を引っ張って生徒会室へと歩き出す。

 その後ろをヒョコヒョコと着いて行く、うさみんとよこたん。



「色々あったけど、これで一件落着だな」



 俺はいまだ保健室の前で突っ立っている芽衣の隣に移動しながら、からかうような口調で女神さまに声をかけた。



「まさか完璧超人の生徒会長さまでも、間違える事があるとは。こりゃいいモノを見せてもらったわ」

「……あによ? アタシの推理が間違っていたのは、最後だけでしょ?」

「まぁその最後が致命的だったんだけどな。ねぇねぇ? どんな気分? あんなにドヤ顔で推理を披露しておいて、間違った気分って、どんな気分なの? ねぇ、ねぇねぇ? ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!」

「ここぞとばかりにあおってくるわね、コイツ……」



 うぐっ!? と、バツが悪そうに顔を背ける芽衣。

 うんうんっ! 日頃のお返しが出来て、シロウは満足です♪

 ホクホク♪ 気分の俺に、素の口調に戻った芽衣が、強がった様子で「別にいいでしょ!」と呟いた。



「これでクリスマス会は無事続行できるし、それになりより、今日の分の窓ガラスが割られなかっただけでも良かっ……た……あれ? ほけん、しつ……?」

「ん? どうした芽衣?」



 元気たちの後を追いかけようと歩み始めた俺たちだったが、芽衣が保健室の窓ガラスを凝視した瞬間、何かに気がついたように目を見開いた。



「ッ!? ま、待ってください!」



 芽衣の切り裂くような声音が校舎へと木霊し、生徒会室へと向かい始めていた元気たちの足を止めた。

「ど、どうしたのメイちゃん?」と、瞳いっぱいに疑問符を浮かべるラブリー☆マイエンジェルが、こちらに振り返るよりも先に、いつの間にか生徒会長の仮面を被った芽衣が、俯いている谷垣に対して、半ば叫ぶように声をかけた。



「どうして……どうして『保健室』なんですか!?」
「「「「???」」」」



 芽衣の質問の意図が分からず、首を捻る生徒会役員たち。

 そんな俺たちの事などお構いなしに、芽衣は谷垣に質問を続けた。



谷垣たにがき太一たいちくん……アナタの名前に『ほ』はつかないハズなのに」

「ちょっ、ちょっと待て芽衣。ど、どういうことだってばよ?」

「よく思い返してください士狼。わたしは犯人が新垣田千にいがきたちさんだと推理したから『ほ』がつく『保健室』を予想したんですよ?」



 でも、と芽衣は鋭い視線を谷垣に向けながら、こう言いつのった。



「犯人の名前が『谷垣太一』なら、今日は『ほ』じゃなく『た』のつく教室……例えば体育館の小窓なんかを割りに行くハズです!」



 全員の顔に「あっ!?」という表情が浮かぶ。

 た、確かに!

 芽衣の推理通りいくなら、保健室の窓を割りに来るなんておかしいぞ!?

 だって谷垣の名前に『ほ』なんて入ってないんだから!

 これは一体どういうことだ!? と、役員全員の困惑した視線が谷垣へと集中する。

 谷垣は言いづらそうに、



「その……会長はさっきからナニを言っているだい? あ、暗号?」



 その瞬間、芽衣どころか全員が目を丸くした。

 コイツ、もしかして今までの割ったガラスの頭文字を合わせると、自分の名前になるコトに、気がついていないのか?

 一瞬「ブラフか?」と疑ってしまうが、谷垣の瞳に嘘はない。

 むしろ本気で『何を言ってるのか分からない?』といった様子だった。

 いや、でもそれって……



「……これで確定しましたね」



 芽衣は、もう訳が分からない俺達に向けて、ハッキリとこう告げた。






「谷垣くんは犯人じゃありません――真犯人は別にいます」
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