みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!

第8話 駆け落ちしよう!

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 ――物体への殺意。

 言葉として明らかに矛盾を孕んでいるソレは、しかしして、今の俺の気持ちを表現するのにコレほど適切なモノはないと断言できるだろう。



「……単三電池がこんなに憎いと思ったのは、生まれて初めてだよ」



 1人居間で忌々いまいましげに呟きながら、右手に握られた単三電池を、親の仇のように見下ろす。

 現在時刻は、夜の8時少し過ぎ。

 俺は芽衣がどこから持ち出したのか、頑丈なロープで身体と冷蔵庫をドッキングされ、ちょっとしたイエスキリストの気持ちを味わっていた。

 1人で……。

 そう、1人でだ!

 現在俺は、1人で古羊姉妹がお風呂から上がるのを粛々しゅくしゅくと待っている、忠犬ハチ公状態なのだ。



「チクショウ……。本来であれば、薬の影響で俺とよこたんの『嬉し恥ずかし入浴タイム』のハズなのに……。コイツが、コイツがあるせいで!?」



 神はスケベに厳しい。

 その言葉を証明するように、俺は手に持っていた単三電池を睨みつけた。

 そう、うさみんが作成した例の薬の説明書曰く、どうやら俺か爆乳わん娘の片方が、単三電池を握っている間は、30分間だけ薬の効果を打ち消してしまうらしいのだ。

 打ち消してしまうらしいのだ!

 はい、大事なコトなので2回言いましたよ?

 クソったれめ……ッ!?

 コイツのせいで、よこたんと一緒にお風呂❤ はおろか、彼女の便器になるという俺の素敵計画が頓挫とんざしてしまったじゃねぇか。

 ほんと人類の英知が憎い!

 発展しすぎた科学は、人に不幸しかもたらさないってことを、身に染みて感じたね!

 例えばアレだ、昔の白い水着がイイ例だ。

 昔の白い水着は、水に濡れると透けるという、健全な男の子たちに超能力の目覚めを与えてくれる素晴らしいモノだったというのに、今の白水着ときたら……チクショウ。

 憎い!

 発展した科学が憎い!



「おっとぉ。落ち着け、俺ぇ。終わった事をいつまでも悔いているのは、子どものすることだぞ? ……そう、大人はコレからのことを考えるんだ!」



 現在、保護者の居ない我が家。

 美少女2人が、楽しくお風呂。

 我が家の浴槽 → 武道館へシフト☆チェンジ。

 とくれば、もうやることは1つしかない。



「風呂場の脱衣所は簡単な鍵がかかるが、脱衣所まで俺の進行を防ぐものが無いのは最高だ」



 前回はお風呂に突貫しようとした矢先、阿修羅像よろしく母ちゃんが居間の扉の前で完璧なディフェンスを敷いていたが、今回は……ふふっ♪



「むしろ2人と別行動をとれたことに、感謝するべきかもしれないな」



 あの2人が入浴中ということは、我が家の脱衣所は今、宝島と化していることを意味している。

 洗濯機という名の宝箱から、彼女たちのお宝をトレジャーするのも……うん、悪くない。全然悪くない。

 乾電池を握っている手前、一緒に湯船にはかれないのは残念だが、今回はコレで我慢しようではないか。



「さぁ、誰も傷つかないパーティーの始まりだぁ!」



 俺はさっそく行動に移すべく、腰に巻かれたロープを外そうと身をよじり……おっ?

 なんかポケットの辺りがブルブルするぞ?

 それと同時にポケットの中にあるスマホから、



『キュンキュン、どっきゅん大号泣♪ ぷんぷん、ぷりぷりプリンセス♪』



 と俺の心を震わす、あのジョーンコネコネ氏の名曲が聞こえてきた。

 電話の着信音だ。



「チッ、誰だぁ? こんなタイミングで俺の邪魔をしてくる不埒者はぁ?」



 おのぉぉぉおおれ! と悪態をきながら、俺は空いていた方の手で、ポケットに仕舞いこんでいたスマホを取り出す。

 そこには液晶画面にデカデカと『未来の妹~エターナルシスター~』と表示されていた。

 むっ? 未来の妹からの電話なら、早く出てあげなければ! という強迫観念に駆られ、俺は素早く通話ボタンをタップしていた。



「ヘイッ、こちら! 未来の兄上、大和田士狼のスマホになりやす!」
『勝手に戸籍を改竄(かいざん)すんなし……』



 我が未来の妹、大和田信菜嬢の呆れた声音が脳を震わせた。

 う~ん、今日も今日とて超絶クールッ!

 そのプリティ極まる唇から発せられるプリティ極まりない言葉に、背筋がゾクゾクしたのはナイショだ。



「冗談、冗談! シロパイジョークさ! それよりも、どったべ? 大和田ちゃんがこんな時間に電話してくるなんて、珍しいじゃん?」

『いやぁ、実はね? ウチとお兄ちゃんと翼さんで、この冬休みに旅行へ行こう! って話になったんだけどね? シロパイもどうかなって思ってさ』

「ん? 旅行?」
『そう旅行。明後日から。だから明後日、シロパイいてるかなぁ~? って確認』



 明後日、空いてる? と珍しく可愛く尋ねてくる、我がプチデビル後輩。



「もちろんっ! 可愛い未来の妹からの願いだ、全力で叶えさせて貰う所存しょぞんで……あっ」
『うん? シロパイ、どったし?』



 プリティな後輩の不思議そうな声音が、鼓膜をくすぐった。

 が、ぶっちゃけ今の俺は、そんな彼女を気にしている余裕はなかった。

 俺、今、よこたんと離れられないから、旅行ムリじゃね? 

 いやこの際、旅行がムリなのは仕方がない。

 が……どうやって俺の現状を彼女に説明する?

 ここ最近、何故か俺が女の子と楽しそうに談笑しているのが気にいらないのか、俺が女の子と仲良くしていると、途端に機嫌が悪くなってしまう大和田ちゃんである。

 そんな彼女に、バカ正直に、現在俺が置かれている状況を説明しようものなら……なるほど。

 年末年始は、俺の血の雨でスタートしそうだな。



『シロパイ? さっきから黙ってるけど、マジでどうしたし?』
「い、いやぁ? ただちょっと日本の未来について、想いをせていただけだよ?」

『一介の高校生には荷が重すぎるっしょ、ソレ……? まぁいいや。それで? 旅行、どうするし?』

「あぁ~……それなんですがね? ちょっと明後日は都合が――」



 悪くて、と断りの文句を言おうとした。

 その瞬間だった。



 ――しろぉ~、ボディーソープが切れたんだけど、どこに替えのヤツがあるのぉ?



 と妙に艶っぽい芽衣の声が、お風呂場を突き抜けて、居間、そして我がスマホへと届いた。届いてしまった。

 刹那、スマホ越しでも分かるくらい、我が未来の妹の声音が低くなった。ひぇっ!?



『ねぇ……シロパイ? 今、女の人の声がしなかった?』
「き、きき、気のせいじゃにゃいかにゃ!?」

『ふぅぅぅぅん? ……気のせいにしては、やけに聞き慣れた声だった気がするんだけど? というか、今の声、会長じゃね?』

「そ、そそ、そんなワケないだろ!? こ、こんな時間に芽衣が我が家に居るワケ――」



 ――ちょっと、しろぉ~? 聞こえてるのぉ?

 ――ししょーっ? このししょーのボディソープ、使ってもいいのぉ?



「……ない、ことも無い……かなぁ?」
『ほぉぉぉぉぉん? 今の声、会長と古羊パイセンだよね? ……コレは一体どういうことだし?』

「ど、どういうことだろうね? あっ! もしかしたら、我が家に住んでいる小粋な妖精さんが、イタズラでもしてるのかも! なぁ~んて……てへ♪」

『……ふぅぅぅぅぅぅぅぅん? 妖精さん、ねぇ?』



 説明しろ? とスピーカー越しから隠しきれない怒気を発する、我が愛しのプチデビル後輩。

 ひ、ひぇぇぇぇぇ~っ!?

 ど、どどど、どうする!?

 どうするの、俺!?

 しょ、正直に打ち明けるか?

 いや、打ち明けたら最後、森実の空に季節外れの汚ねぇ花火が打ち上がる事になるぞ。

 致し方ない。こうなれば、実は我が家の玄関は異世界へと繋がっていて、現在俺は魔王を倒すべく天から勅命ちょくめいを受けた伝説の勇者として、血湧き、肉躍る、大冒険の途中なんだという、少年少女の心をこれでもかとくすぐる大長編ラブストーリーを口にして、お茶を濁すか?

 一瞬の沈黙。

 その隙をつくように、先ほどとは打って変わって、大和田ちゃんが不自然なくらい上機嫌な声音で、



『あっ、そうだシロパイ。シロパイ、明日、何か予定ある?』
「はへっ? あ、明日はとくに何も。予定は入ってないけど……?」
『よかったぁ! それじゃ、明日のお昼、シロパイのウチに遊びに行くね?』



 き、緊急事態発生! 緊急事態発生!?



「チョアッ? ま、待って待って! あ、明日は予定が!? アレ? お、大和田ちゃん? も、もしもし? もしもし、もしもぉぉぉぉぉぉぉぉしっ!? ……終わった」



 ブツンッ! と、一方的に切れる通話。

 ……ヤバい。

 超ヤバい。

 とにかくヤバい!

 もし今、この状況で大和田ちゃんが双子姫に遭遇しようものなら……我が家がハルマゲドンになる。

 そ、そうなる前にどこかへ逃げなきゃ!

 ここじゃない何処どこかへ!

 どこでもない明日へ!



「ふぃぃぃ~♪ いいお湯だった。もう士狼? なんで返事してくれなかったのよ? 結局、士狼の買ってるボディーソープ使っちゃったじゃない」

「はふぅ~♪ 気持ちよかったぁ~。あっ! 替えのボディーソープがどこにあるのか分からなかったから、ししょーのを使っちゃったけど、ごめんね?」



 羊を連想させるモコモコの白いパジャマに、髪をタオルで包むように巻いた芽衣と、シルクのパジャマに身を包んだマイ☆エンジェルが、ホカホカ♪ と湯気を立てながら、居間へと帰宅してくる。

 芽衣は、いつもジッチャンの形見のように、肌身離さず身につけている超パッドを取り外した状態で。

 どこまでも地平線が広がるソレは、まだ新年すら開けていないのに、俺に初日の出の予感を予想させた。

 対して爆乳わん娘は、柔らかくて滑らかな素材のおかげで、胸元の皺というか、なんだか先っぽの方がツンとしていて……おいおい!?

 まさかコイツ、ノーブラかっ!?

 ノーブラなのかっ!?

 よ、よこたんのヤツ、ひょっとして俺を誘ってるんじゃないのか!?

 んなっ!? ま、マジか、おまえ!?

 この状況で腕を前に組むだと!?

 お、おまえ、そんなことしたら余計に胸が強調されて、その柔らかな形が! 先端が! 今まで以上にハッキリしちゃって!?

 わ、我、夜戦に突入するか!? 



「士狼、どうしたのよ? そんな真剣な顔をして?」
「ししょー?」



 コテンッ? と首を傾げる2人。

 俺はそんな2人の視線を一身に浴びながら、王に忠誠を誓う騎士のように片膝をつき、よこたんの右手をやんわりと掴んだ。

 本当は立って肩に手を置こうとしたんだけどさ、違う部分が立ち上がってて、立つに立てないっていうね、うん。

 いやぁ、それにしてもアレだね?

 どんなコトにしろ、達人クラスになると、技を出された瞬間は、もうまるで手品だよねっ!

『アレ? いつの間に?』って感じで。

 気がついたらこんな有様だったなんて、俺は一体自分をどこまで鍛えようとしているのか。

 自分自身のポテンシャルが怖くて堪らないぜ☆

 が、今はそんなことより、ラブリー☆マイエンジェルだ。



「よこたんよ……我が大いなる弟子、ヨウコ・コヒツジよ。今から言う師匠の言葉を、しかと胸に刻みつけるのだ」
「ほぇっ? う、うん?」



 困惑した顔を浮かべる我が弟子に向かって、俺は小さく息を吸い込んだ。

 先ほどの大和田ちゃんとの会話、そして爆乳わん娘のサービスシーンのおかげで、俺はある1つの結論へと辿りついていた。

 大和田ちゃんにバーサクされない方法。

 それはもう、1つしかない。

 俺はマイ☆エンジェルのどこまでも透き通った碧い瞳をまっすぐ捉え、祈るような気持ちで、ハッキリとこう言った。




「よこたん。俺と一緒に――駆け落ちしよう」




 瞬間『あっ、伝えるべき言葉はコレじゃないや』と気づいたその時には、虚乳生徒会長の笑顔の拳が、俺の顔面へと迫っていた。

 その日、俺が最後に見た光景は、不気味なくらいニコニコ♪ している邪神メイ・コヒツジの姿と、驚きに目を見開き、顔を真っ赤にしている大天使よこたんの姿であった。
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