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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!
第17話 鬼島真人の独白
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草木も眠る丑三つ時。
【鬼人會】會長、鬼島真人は空き地の土管にどっしり腰を下ろしながら、今しがた青い顔をして報告にきた部下の声に、耳を傾けていた。
「あぁ~……つまりアレかいな? その妙にバカ強い赤毛の兄ちゃんに、鉄平はおろか、錬もやられたばい?」
へいっ! と頷く2人の野郎共を尻目に、鬼島は月に向かって「ふぅ~」と息を吐いた。
グラサンこと鉄平は、鬼人會でもかなり腕の立つ男として、鬼島も一目置いていた男だ。
それはパンチパーマ――錬も同じこと。
その2人が、揃って瞬殺された。
謎の赤毛の兄ちゃんに。
一体その『赤毛の兄ちゃん』とは、何者だ?
「ここら一帯の腕っぷしが立ちそうな奴は、全員潰したハズや……。だとすれば、古羊洋介が応援に頼んだ仲間か? いや、状況から考えるに、ソレは無いか。なら他所のチームの奴か? でも他県で見張っているハズの【悪童】からは連絡はないし……う~む?」
鬼島は思考の迷路に迷う前に、さらに詳しい情報を知るべく、報告に来た野郎2人に声をかけた。
「そのバカ強ぇ『赤毛の兄ちゃん』なんやが、どんな見た目しとぉとか?」
「見た目は、そうですね……。暗くて正直よく分からなかったんですが、時代遅れのリーゼントに、何故か上半身裸の上にスカジャンだけ羽織った、妙な出で立ちをした野郎でした」
「そ、それからメチャクチャ別嬪な女子2人を侍らかしてました!」
「赤髪のリーゼントに上半身裸のスカジャン……別嬪な女子2人やと……?」
瞬間、鬼島の脳裏に、昼前に駅前で出会った士狼たちの姿が浮かび上がった。
まさか、アイツらか?
と一瞬疑いをかけるも、すぐさま首を横に振り、自分の考えを打ち消した。
いやいや、ありえない。
あの男なワケがない。
あの男からは強者の風格はおろか、威圧感すら感じなかったではないか。
それによくよく思い出してみろ、あの男の間抜けた顔を。
いまだに気合さえあれば『かめ●め波』は無理でも『ギャ●ック砲』くらいなら本気で出せる! と信じてそうなアホ面な男だぞ?
そうだ、勘違いに違いない。
「? 會長? どうかしましたか?」
「いや、なんでもないばい。とりあえず、そのイカれたファッションの赤髪のリーゼント野郎は、見つけ次第、ワテに連絡しろ。ワテがケリをつけたるさかい」
「「はいっ!」」
「よし、行け」
訓練された犬のように、夜の街へと消えて行く部下を見据えながら、鬼島はかつて自分が強者と認めた男たちの姿を思い出していた。
そしてまず一番に思い出されたのは、生まれて初めて自分の膝に土をつけた男――九頭竜高校の頭、鷹野翼の姿であった。
それは去年の出来事、まだ鬼人會が発足して間もない頃のことだ。
あの頃の鬼島は血気盛んで、強い相手がいれば全国どこにでも喧嘩を売りに行くような、ギラついたナイフのような男であった。
そんな彼が全国でも名高い九頭竜高校に目をつけるのは当然の結果であり、鬼島は選りすぐりの精鋭10人を引きつれて、カチコミをかけた。
結果は惨敗。
しかもたった2人の男に、である。
10人だ、10人居たのだ。
ソレをたった2人で退けられたばかりか、歯牙にもかけられなかった。
今でもハッキリと思い出せる。
あのときの男の……鷹野翼の至極つまらなそうな冷めた眼つきを。
あの目が、あの屈辱が、自分にここまでの執念を与えたのだ。
その日から、鬼島は自分に敗北の味を与えた鷹野翼と、その右腕である大和田信愛の打倒のみを目標として、1年間腕を磨いてきた。
気がつくと鬼人會は【東京卍帝国】の主要チームにまで成長し、鬼島本人に至っては【東京卍帝国】の6人の大幹部【シックス・ピストルズ】の1人に数えられる程になっていた。
「この星美を制圧し終えたら、次はいよいよ森実町や。……待ってろや、鷹野翼ぁ」
鬼島の瞳が危なげに光る。
このときの鬼島は、まだ知らない。
自分の目標とすべき男が、そのアホ面全開の男のお尻に、ご執心であることを。
このときの鬼島は、まだ知らないのだ。
彼が真実を知るまで……残り2日。
真実を知ったとき、彼は『彼』でいられるのか……。
それは神さえも分からない事だった。
【鬼人會】會長、鬼島真人は空き地の土管にどっしり腰を下ろしながら、今しがた青い顔をして報告にきた部下の声に、耳を傾けていた。
「あぁ~……つまりアレかいな? その妙にバカ強い赤毛の兄ちゃんに、鉄平はおろか、錬もやられたばい?」
へいっ! と頷く2人の野郎共を尻目に、鬼島は月に向かって「ふぅ~」と息を吐いた。
グラサンこと鉄平は、鬼人會でもかなり腕の立つ男として、鬼島も一目置いていた男だ。
それはパンチパーマ――錬も同じこと。
その2人が、揃って瞬殺された。
謎の赤毛の兄ちゃんに。
一体その『赤毛の兄ちゃん』とは、何者だ?
「ここら一帯の腕っぷしが立ちそうな奴は、全員潰したハズや……。だとすれば、古羊洋介が応援に頼んだ仲間か? いや、状況から考えるに、ソレは無いか。なら他所のチームの奴か? でも他県で見張っているハズの【悪童】からは連絡はないし……う~む?」
鬼島は思考の迷路に迷う前に、さらに詳しい情報を知るべく、報告に来た野郎2人に声をかけた。
「そのバカ強ぇ『赤毛の兄ちゃん』なんやが、どんな見た目しとぉとか?」
「見た目は、そうですね……。暗くて正直よく分からなかったんですが、時代遅れのリーゼントに、何故か上半身裸の上にスカジャンだけ羽織った、妙な出で立ちをした野郎でした」
「そ、それからメチャクチャ別嬪な女子2人を侍らかしてました!」
「赤髪のリーゼントに上半身裸のスカジャン……別嬪な女子2人やと……?」
瞬間、鬼島の脳裏に、昼前に駅前で出会った士狼たちの姿が浮かび上がった。
まさか、アイツらか?
と一瞬疑いをかけるも、すぐさま首を横に振り、自分の考えを打ち消した。
いやいや、ありえない。
あの男なワケがない。
あの男からは強者の風格はおろか、威圧感すら感じなかったではないか。
それによくよく思い出してみろ、あの男の間抜けた顔を。
いまだに気合さえあれば『かめ●め波』は無理でも『ギャ●ック砲』くらいなら本気で出せる! と信じてそうなアホ面な男だぞ?
そうだ、勘違いに違いない。
「? 會長? どうかしましたか?」
「いや、なんでもないばい。とりあえず、そのイカれたファッションの赤髪のリーゼント野郎は、見つけ次第、ワテに連絡しろ。ワテがケリをつけたるさかい」
「「はいっ!」」
「よし、行け」
訓練された犬のように、夜の街へと消えて行く部下を見据えながら、鬼島はかつて自分が強者と認めた男たちの姿を思い出していた。
そしてまず一番に思い出されたのは、生まれて初めて自分の膝に土をつけた男――九頭竜高校の頭、鷹野翼の姿であった。
それは去年の出来事、まだ鬼人會が発足して間もない頃のことだ。
あの頃の鬼島は血気盛んで、強い相手がいれば全国どこにでも喧嘩を売りに行くような、ギラついたナイフのような男であった。
そんな彼が全国でも名高い九頭竜高校に目をつけるのは当然の結果であり、鬼島は選りすぐりの精鋭10人を引きつれて、カチコミをかけた。
結果は惨敗。
しかもたった2人の男に、である。
10人だ、10人居たのだ。
ソレをたった2人で退けられたばかりか、歯牙にもかけられなかった。
今でもハッキリと思い出せる。
あのときの男の……鷹野翼の至極つまらなそうな冷めた眼つきを。
あの目が、あの屈辱が、自分にここまでの執念を与えたのだ。
その日から、鬼島は自分に敗北の味を与えた鷹野翼と、その右腕である大和田信愛の打倒のみを目標として、1年間腕を磨いてきた。
気がつくと鬼人會は【東京卍帝国】の主要チームにまで成長し、鬼島本人に至っては【東京卍帝国】の6人の大幹部【シックス・ピストルズ】の1人に数えられる程になっていた。
「この星美を制圧し終えたら、次はいよいよ森実町や。……待ってろや、鷹野翼ぁ」
鬼島の瞳が危なげに光る。
このときの鬼島は、まだ知らない。
自分の目標とすべき男が、そのアホ面全開の男のお尻に、ご執心であることを。
このときの鬼島は、まだ知らないのだ。
彼が真実を知るまで……残り2日。
真実を知ったとき、彼は『彼』でいられるのか……。
それは神さえも分からない事だった。
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