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最終部 シンデレラボーイはこの『最強』を打ち砕く義務がある!
第24話 女神さまは『すべて』を知っている
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芽衣と村田インチョメが生徒会室を後にして、20分と少し。
2人は森実高校の生徒が暴れているという駅前の公園へと足を踏み入れるが……そこには森実校生はおろか、人っ子1人、誰もいない。
芽衣とインチョメの2人きり――いや、違う。
分かりにくいが、茂みや木の陰に何人か忍んでいる。
思わず全身の筋肉を緊張させてしまう。
そんな異様な公園内において、インチョメの声は透き通る程よく響いた。
「あ、あら? 誰も居ませんね? コレはどういう事でしょうか?」
「誰も居ない? ウソはダメですよ、村田さん。たくさん居るじゃないですか……茂みの中に。村田さんが呼んだんですよね、彼らを?」
「……えっ?」
「――村田さん、もういいんですよ? ……そんな白々しい演技をしなくても。わたしと2人きりになりたかったんですよね?」
「……演技? 何を言っているんですか、会長?」
意味が分からない? とばかりに、キョトンとした顔を浮かべる村田インチョメ。
残念だがインチョメよ、その虚勢は無意味だよ。
なんせ目の前に居るのは、FBIもビックリの捜査能力を持つ女なのだから。
「分かりませんか? なら、わたしから1つだけ――佐久間亮士くんは元気ですか?」
「――ッ!?」
瞬間、磁石のS極とN極のように、インチョメが激しく後退し、芽衣から距離をとった
その目は大きく見開かれ、驚きと、敵対心に満ち溢れているのが、傍目からでも手に取るように見て取れた。
もしかしたら『こうなる』かもしれない、という事をあらかじめ聞かされていた俺は、息を殺して2人を見守り続けた。
「……いつから?」
「『いつから?』といいますと?」
「いつからワタシと『彼』が……亮士くんが繋がっていると気がついたんですか?」
「逆にお聞きしますが、なんで『気づかれていない』と思えていたんですか?」
クスクスと上品そうに笑う芽衣。
そんな芽衣が不気味で仕方がないのか、また1歩、我らが女神さまから距離をとるインチョメ。
だが『それは許さない!』とばかりに、芽衣もまた1歩、インチョメと距離を詰める。
「お答え出来ませんか? なら、わたしが説明してあげますね?」
そうニッコリ♪ と微笑む芽衣の姿に、関係ないが背中から冷や汗が溢れてくる。
離れていてもコレなのだ。
至近距離であの笑顔を向けられたインチョメの恐怖は、尋常ではないだろう。
その証拠に、インチョメの指先が小刻みに震えているのが遠目からでも分かる。
そんなインチョメの事など気にすることなく、芽衣は独り言でも呟くように、淡々と口を開いていく。
「そもそも始まりからして、全てがおかしかったんですよ」
「そ、それはどういう……?」
「そうですねぇ……まず1つ目は士狼の『解雇申請の嘆願書』ですね。アレの存在が、まずおかしいです」
「ど、どこがですか? キチンと手順も踏んでますし、人数だって揃っていたハズです。おかしな所なんて、どこにも――」
ない、そう続くハズだったインチョメの言葉は、しかしして、芽衣によって容易く掻き消された。
「それですよ。人数がおかしいんです」
「……はい?」
「いえ、もっと正確に言えば、そこに署名してある性別がおかしいんですよ。……どうして嘆願書署名者は、全員女子生徒なんですか?」
インチョメの顔が凍りついた瞬間だった。
「そ、それはたまたま……そう、たまたまです! あのクソムシが女子生徒から嫌われている事は、会長だってご存じでしょ!?」
「確かに士狼は、ごく1部の生徒たちから毛嫌いされています。だから、あの嘆願書の署名も不自然というほど不自然ではないのかもしれません」
ほらっ! とようやく笑みを浮かべるインチョメ。
だが、その笑みも次の瞬間には再び凍りついてしまう。
「ですが、気になったものですからね。彼女たち全員の素性を調べさせて貰いました」
「へっ? し、調べた?」
「はい。もちろん村田さんの事も調べさせて貰いましたよ?」
「そ、そんなコトできるワケがない! あ、あの嘆願書に何人が署名したと思って!?」
「えぇっ、大変でしたよぉ。アナタに気づかれないように、生徒会役員総出で手分けして調べるのは」
さも当然のようにそう口にする芽衣に、インチョメの顔から血の気が引いていく。
そんなインチョメの姿を楽しそうに見据えながら、芽衣は意地悪く口角を引き上げ、こう続けた。
「あの署名欄に記入していた女子生徒たちなんですけどね? 半分はウチの生徒じゃありませんでしたよ? それで『あれ、おかしいなぁ?』と思って詳しく調べてみたら、全員ある1人の【共通の人物】に辿りついてしまうんですよね」
そう、佐久間亮士という男にね。
と、芽衣はかつて自分にトラウマを植え付けた男の名前を口にした。
「それでピーンッ! とキタんですよ。あぁっ、きっと『あのとき』の報復にキタんだな……って。まぁ確かに、あの人が『あのまま』黙っていられるワケがないですよね? プライドの塊のような男の人ですし」
署名を集めて士狼を辞めさせたのも。
生徒会から追放させたのも。
全部ぜんぶ、佐久間くんの差し金なんですよね?
と、疑問形で尋ねてはいるが、もはや断定していると言ってもいい口調だった。
インチョメは「うぐぅっ……!?」と呻くばかりで、何も反論しない。
ソレを『正解』だと受け取った芽衣は、これみよがしに溜め息を溢しながら、小さく肩を竦めてみせた。
「ハァ……。実に『あの人』らしいヤリ口ですよ、まったく。こんな幼稚なマネなんかして……よほど暇なんですね、あの人? ほんと昔っから変わってない、つまんない男ですね。誰かをバカにして笑いを取ったり、人の目を気にした言動ばっかりのクセに、その実ワガママで、常に自分は誰よりも上だと思っていないと気が済まない。上っ面だけで中身が伴っていな――」
「――亮士くんを悪く言うな!」
芽衣の言葉を遮るように、インチョメの怒号が公園内に木霊した。
ザワザワザワッ!? と、木々が小刻みに揺れる程の怒声。
だが我らが女神さまは、そんなこと知ったこっちゃないとばかりに、涼しげに微笑むばかり。
それが余計にインチョメの逆鱗に触れたのだろう。
インチョメは堰が外れたように、怒涛の勢いで捲し立て始めた。
「亮士くんは悪くない! 亮士くんは勉強しか取り柄のなかったワタシに光をくれた!『魅力的な女の子』だと言ってくれた、だた1人の男の子なんだ! とっても優しい男の子なんだ!」
なのに。
なのにっ!
それなのに!?
「あのクソムシがぁぁぁぁぁ~~~っっ!?」
あのクソムシの、いや星美のバカ女たちのせいで居場所を追われ、家族からも見捨てられた、可哀そうな男の子なのよ!
何であんなにも優しい亮士くんが居場所を、学校を辞めなきゃいけないの!?
おかしいでしょ!?
許さない、許さない、絶対に許さない!
亮士くんを苦しめたヤツらにも、同じ苦しみを味わわせてやらなきゃ不公平よ!
と、子どものように喚き散らすインチョメ。
おいおい?
気になるアイツを看病しようとして、全部失敗したあげく『あ、アンタのせいよ!』と責任転嫁するヒロインかよ?
……な、なんだよソレ?
そう考えると可愛いじゃねぇか……。
なんて1人ドキドキしていると、ギロリッ! と芽衣を鋭く睨みつけるインチョメ。
「会長、アンタも同罪よ。アンタがアタシを調べたように、アタシもアンタを調べさせて貰ったわ」
ふひっ♪ と、気持ちの悪い笑みを浮かべながら、勝ち誇った顔をするインチョメ。
「アンタ、自分の性欲を解消するために、簡単に男に股を開くクソビッチなんですってね?」
「……まさか、まだそんな噂を信じている人が居ようとは」
辟易した様子で溜め息をこぼす芽衣。
そんな芽衣を尻目に、ポケットからスマホを取り出し、動画撮影モードを起動させたインチョメが、下卑た笑みを頬に湛えて、
「そんなクソビッチな会長に、ワタシからとっっっっっても素敵なサプライズ☆プレゼントがありまぁ~す♪」
インチョメが軽く手を挙げると、茂みに隠れていた男たちが、ゆっくりと2人を囲うように姿を現した。
その数、おおよそ10。
芽衣は自分を囲っている男達を軽く見渡しながら、小さく肩を揺らした。
「これはまた、素敵なサプライズですね?」
「……余裕ぶっちゃって、ムカつくわね。知ってるのよ? あのクソムシ――大神士狼の弱点がアンタだって事をね」
「……それはどういう意味ですか?」
ピクンッ! と、少しだけ芽衣の眉根が跳ね上がる。
その些細な変化を見逃さなかったインチョメが、愉悦に満ちた不気味な笑みを、顔に張り付けた。
「言葉通りの意味ですよ、会長♪ 大神士狼の心を折る為(ため)には、彼の最も大切にしているモノを砕かなきゃいけない。そして彼が一番大切にしているモノは……生徒会役員の絆」
だ・か・ら❤ と、インチョメは耳まで裂けそうなほど口角を引き上げ、こう言った。
「――アナタたち生徒会女性陣の凌辱動画を撮影して、今度こそっ! 完膚なきまでっ! あのクソムシの心をヘシ折ってあげるわ!」
「……女性陣と言いますと、洋子と大和田さんも入っているんですか?」
「それだけじゃないわよ? 宇佐美に司馬もターゲットの1人よ」
もしかしたら今頃、もう他の男達にヤられているかもねぇ~。
と、上機嫌にそう呟くインチョメ。
それと同時に、俺のスマホがひゅぽっ♪ と情けない音をあげた。
俺はインチョメたちから視線を切り、自分のスマホへと意識を向ける。
そこには我が親友と、未来の兄上の名前が浮かび上がっていた。
俺は2人から送られてきたメッセージを流し読み……どうやら芽衣の予感が当たったらしい事を確信する。
もちろん、そんな事なんぞ知らない芽衣は、これみよがしにワザとらしく溜め息をこぼして、
「ハァ~……。ブサイクですねぇ、村田さん?」
「~~~~っ!? わ、ワタシはブサイクじゃない! 亮士くんだって『可愛い』って何度も言ってくれて――」
「いいえ、ブサイクですよ? ……心がブサイクです」
直視できませんね。
と、芽衣がせせら笑うように、そう口にした瞬間。
ぷっつーん。
と、インチョメの怒りの導火線に火が点いてしまった。
「あ、そう? なら、もういいや。いま土下座すれば、会長だけでも許してあげようかと思ったけど……気が変わったわ」
――やれ。
インチョメが感情の抜け落ちた声音で、周りの男たちに命令を下した。
途端に男たちは、欲望に満ちた下卑た笑みを浮かべながら、ジリジリと芽衣との距離を詰めていく。
そんな趣味の悪い光景を楽しそうに眺めるインチョメに、芽衣はいつもの生徒会長の仮面を被ったまま、涼しげに桜の蕾のような唇を動かした。
「あら、許してくれる気があったんですか? 案外優しいですね、村田さん」
「……会長。自分の立場、分かってる? それとも現実が直視できなくて、ぶっ壊れちゃった?」
「えぇっ、もちろん分かっていますよ。……ただ、村田さんも分かっていますか? もしかして、忘れてはいませんか?」
「忘れる? なにを?」
「あぁ、やっぱり忘れているんですね」
クスクスと口元に手を当て、上品に笑う芽衣。
そんな芽衣の態度が癪に触ったのか、大きく息を吸って怒声を上げようとする、村田インチョメ。
だが、彼女の怒声は公園内に木霊する事はなかった。
インチョメがその荒れた唇を震わすよりも先に、芽衣がニッコリ❤ と微笑みながら、この場に居る全員に宣言するように、こう言った。
「――わたしの隣には、とっても頼りになる『番犬』が居るって事をです♪」
芽衣のその言葉を合図に、息を殺して茂みに身を潜めていた俺は、ありったけの脚力を右足に集中させ、地面を蹴り上げた。
ボコッ! とクレーターが出来上がるが、そんなのお構いなしで身体を加速させる。
1発の弾丸のように加速した身体は、インチョメの脇を抜け、今にも芽衣に手を出そうとしていたオールバックの男の腹部へと、勢いそのままに、とび蹴りをかます。
途端に「コッペリオン!?」と謎の悲鳴をあげながら、サッカーボールのように背後へ吹っ飛んで行く男。
唇の端から泡を吹いて白目を剥くオールバックを前に、インチョメはおろか、他の野郎共9人も、目を見開きながらその場で固まってしまう。
そんなインチョメたちを尻目に、俺は右足をプルプルと左右に揺らしながら、芽衣の目の前へと陣取って、我らが女神さまに声をかけた。
「お呼びですかな、ご主人さま?」
「いいタイミングです。流石はわたしのワンちゃんですね」
芽衣の顔は自分の犬を見せびらかす飼い主のように、どこか誇らしげだった。
2人は森実高校の生徒が暴れているという駅前の公園へと足を踏み入れるが……そこには森実校生はおろか、人っ子1人、誰もいない。
芽衣とインチョメの2人きり――いや、違う。
分かりにくいが、茂みや木の陰に何人か忍んでいる。
思わず全身の筋肉を緊張させてしまう。
そんな異様な公園内において、インチョメの声は透き通る程よく響いた。
「あ、あら? 誰も居ませんね? コレはどういう事でしょうか?」
「誰も居ない? ウソはダメですよ、村田さん。たくさん居るじゃないですか……茂みの中に。村田さんが呼んだんですよね、彼らを?」
「……えっ?」
「――村田さん、もういいんですよ? ……そんな白々しい演技をしなくても。わたしと2人きりになりたかったんですよね?」
「……演技? 何を言っているんですか、会長?」
意味が分からない? とばかりに、キョトンとした顔を浮かべる村田インチョメ。
残念だがインチョメよ、その虚勢は無意味だよ。
なんせ目の前に居るのは、FBIもビックリの捜査能力を持つ女なのだから。
「分かりませんか? なら、わたしから1つだけ――佐久間亮士くんは元気ですか?」
「――ッ!?」
瞬間、磁石のS極とN極のように、インチョメが激しく後退し、芽衣から距離をとった
その目は大きく見開かれ、驚きと、敵対心に満ち溢れているのが、傍目からでも手に取るように見て取れた。
もしかしたら『こうなる』かもしれない、という事をあらかじめ聞かされていた俺は、息を殺して2人を見守り続けた。
「……いつから?」
「『いつから?』といいますと?」
「いつからワタシと『彼』が……亮士くんが繋がっていると気がついたんですか?」
「逆にお聞きしますが、なんで『気づかれていない』と思えていたんですか?」
クスクスと上品そうに笑う芽衣。
そんな芽衣が不気味で仕方がないのか、また1歩、我らが女神さまから距離をとるインチョメ。
だが『それは許さない!』とばかりに、芽衣もまた1歩、インチョメと距離を詰める。
「お答え出来ませんか? なら、わたしが説明してあげますね?」
そうニッコリ♪ と微笑む芽衣の姿に、関係ないが背中から冷や汗が溢れてくる。
離れていてもコレなのだ。
至近距離であの笑顔を向けられたインチョメの恐怖は、尋常ではないだろう。
その証拠に、インチョメの指先が小刻みに震えているのが遠目からでも分かる。
そんなインチョメの事など気にすることなく、芽衣は独り言でも呟くように、淡々と口を開いていく。
「そもそも始まりからして、全てがおかしかったんですよ」
「そ、それはどういう……?」
「そうですねぇ……まず1つ目は士狼の『解雇申請の嘆願書』ですね。アレの存在が、まずおかしいです」
「ど、どこがですか? キチンと手順も踏んでますし、人数だって揃っていたハズです。おかしな所なんて、どこにも――」
ない、そう続くハズだったインチョメの言葉は、しかしして、芽衣によって容易く掻き消された。
「それですよ。人数がおかしいんです」
「……はい?」
「いえ、もっと正確に言えば、そこに署名してある性別がおかしいんですよ。……どうして嘆願書署名者は、全員女子生徒なんですか?」
インチョメの顔が凍りついた瞬間だった。
「そ、それはたまたま……そう、たまたまです! あのクソムシが女子生徒から嫌われている事は、会長だってご存じでしょ!?」
「確かに士狼は、ごく1部の生徒たちから毛嫌いされています。だから、あの嘆願書の署名も不自然というほど不自然ではないのかもしれません」
ほらっ! とようやく笑みを浮かべるインチョメ。
だが、その笑みも次の瞬間には再び凍りついてしまう。
「ですが、気になったものですからね。彼女たち全員の素性を調べさせて貰いました」
「へっ? し、調べた?」
「はい。もちろん村田さんの事も調べさせて貰いましたよ?」
「そ、そんなコトできるワケがない! あ、あの嘆願書に何人が署名したと思って!?」
「えぇっ、大変でしたよぉ。アナタに気づかれないように、生徒会役員総出で手分けして調べるのは」
さも当然のようにそう口にする芽衣に、インチョメの顔から血の気が引いていく。
そんなインチョメの姿を楽しそうに見据えながら、芽衣は意地悪く口角を引き上げ、こう続けた。
「あの署名欄に記入していた女子生徒たちなんですけどね? 半分はウチの生徒じゃありませんでしたよ? それで『あれ、おかしいなぁ?』と思って詳しく調べてみたら、全員ある1人の【共通の人物】に辿りついてしまうんですよね」
そう、佐久間亮士という男にね。
と、芽衣はかつて自分にトラウマを植え付けた男の名前を口にした。
「それでピーンッ! とキタんですよ。あぁっ、きっと『あのとき』の報復にキタんだな……って。まぁ確かに、あの人が『あのまま』黙っていられるワケがないですよね? プライドの塊のような男の人ですし」
署名を集めて士狼を辞めさせたのも。
生徒会から追放させたのも。
全部ぜんぶ、佐久間くんの差し金なんですよね?
と、疑問形で尋ねてはいるが、もはや断定していると言ってもいい口調だった。
インチョメは「うぐぅっ……!?」と呻くばかりで、何も反論しない。
ソレを『正解』だと受け取った芽衣は、これみよがしに溜め息を溢しながら、小さく肩を竦めてみせた。
「ハァ……。実に『あの人』らしいヤリ口ですよ、まったく。こんな幼稚なマネなんかして……よほど暇なんですね、あの人? ほんと昔っから変わってない、つまんない男ですね。誰かをバカにして笑いを取ったり、人の目を気にした言動ばっかりのクセに、その実ワガママで、常に自分は誰よりも上だと思っていないと気が済まない。上っ面だけで中身が伴っていな――」
「――亮士くんを悪く言うな!」
芽衣の言葉を遮るように、インチョメの怒号が公園内に木霊した。
ザワザワザワッ!? と、木々が小刻みに揺れる程の怒声。
だが我らが女神さまは、そんなこと知ったこっちゃないとばかりに、涼しげに微笑むばかり。
それが余計にインチョメの逆鱗に触れたのだろう。
インチョメは堰が外れたように、怒涛の勢いで捲し立て始めた。
「亮士くんは悪くない! 亮士くんは勉強しか取り柄のなかったワタシに光をくれた!『魅力的な女の子』だと言ってくれた、だた1人の男の子なんだ! とっても優しい男の子なんだ!」
なのに。
なのにっ!
それなのに!?
「あのクソムシがぁぁぁぁぁ~~~っっ!?」
あのクソムシの、いや星美のバカ女たちのせいで居場所を追われ、家族からも見捨てられた、可哀そうな男の子なのよ!
何であんなにも優しい亮士くんが居場所を、学校を辞めなきゃいけないの!?
おかしいでしょ!?
許さない、許さない、絶対に許さない!
亮士くんを苦しめたヤツらにも、同じ苦しみを味わわせてやらなきゃ不公平よ!
と、子どものように喚き散らすインチョメ。
おいおい?
気になるアイツを看病しようとして、全部失敗したあげく『あ、アンタのせいよ!』と責任転嫁するヒロインかよ?
……な、なんだよソレ?
そう考えると可愛いじゃねぇか……。
なんて1人ドキドキしていると、ギロリッ! と芽衣を鋭く睨みつけるインチョメ。
「会長、アンタも同罪よ。アンタがアタシを調べたように、アタシもアンタを調べさせて貰ったわ」
ふひっ♪ と、気持ちの悪い笑みを浮かべながら、勝ち誇った顔をするインチョメ。
「アンタ、自分の性欲を解消するために、簡単に男に股を開くクソビッチなんですってね?」
「……まさか、まだそんな噂を信じている人が居ようとは」
辟易した様子で溜め息をこぼす芽衣。
そんな芽衣を尻目に、ポケットからスマホを取り出し、動画撮影モードを起動させたインチョメが、下卑た笑みを頬に湛えて、
「そんなクソビッチな会長に、ワタシからとっっっっっても素敵なサプライズ☆プレゼントがありまぁ~す♪」
インチョメが軽く手を挙げると、茂みに隠れていた男たちが、ゆっくりと2人を囲うように姿を現した。
その数、おおよそ10。
芽衣は自分を囲っている男達を軽く見渡しながら、小さく肩を揺らした。
「これはまた、素敵なサプライズですね?」
「……余裕ぶっちゃって、ムカつくわね。知ってるのよ? あのクソムシ――大神士狼の弱点がアンタだって事をね」
「……それはどういう意味ですか?」
ピクンッ! と、少しだけ芽衣の眉根が跳ね上がる。
その些細な変化を見逃さなかったインチョメが、愉悦に満ちた不気味な笑みを、顔に張り付けた。
「言葉通りの意味ですよ、会長♪ 大神士狼の心を折る為(ため)には、彼の最も大切にしているモノを砕かなきゃいけない。そして彼が一番大切にしているモノは……生徒会役員の絆」
だ・か・ら❤ と、インチョメは耳まで裂けそうなほど口角を引き上げ、こう言った。
「――アナタたち生徒会女性陣の凌辱動画を撮影して、今度こそっ! 完膚なきまでっ! あのクソムシの心をヘシ折ってあげるわ!」
「……女性陣と言いますと、洋子と大和田さんも入っているんですか?」
「それだけじゃないわよ? 宇佐美に司馬もターゲットの1人よ」
もしかしたら今頃、もう他の男達にヤられているかもねぇ~。
と、上機嫌にそう呟くインチョメ。
それと同時に、俺のスマホがひゅぽっ♪ と情けない音をあげた。
俺はインチョメたちから視線を切り、自分のスマホへと意識を向ける。
そこには我が親友と、未来の兄上の名前が浮かび上がっていた。
俺は2人から送られてきたメッセージを流し読み……どうやら芽衣の予感が当たったらしい事を確信する。
もちろん、そんな事なんぞ知らない芽衣は、これみよがしにワザとらしく溜め息をこぼして、
「ハァ~……。ブサイクですねぇ、村田さん?」
「~~~~っ!? わ、ワタシはブサイクじゃない! 亮士くんだって『可愛い』って何度も言ってくれて――」
「いいえ、ブサイクですよ? ……心がブサイクです」
直視できませんね。
と、芽衣がせせら笑うように、そう口にした瞬間。
ぷっつーん。
と、インチョメの怒りの導火線に火が点いてしまった。
「あ、そう? なら、もういいや。いま土下座すれば、会長だけでも許してあげようかと思ったけど……気が変わったわ」
――やれ。
インチョメが感情の抜け落ちた声音で、周りの男たちに命令を下した。
途端に男たちは、欲望に満ちた下卑た笑みを浮かべながら、ジリジリと芽衣との距離を詰めていく。
そんな趣味の悪い光景を楽しそうに眺めるインチョメに、芽衣はいつもの生徒会長の仮面を被ったまま、涼しげに桜の蕾のような唇を動かした。
「あら、許してくれる気があったんですか? 案外優しいですね、村田さん」
「……会長。自分の立場、分かってる? それとも現実が直視できなくて、ぶっ壊れちゃった?」
「えぇっ、もちろん分かっていますよ。……ただ、村田さんも分かっていますか? もしかして、忘れてはいませんか?」
「忘れる? なにを?」
「あぁ、やっぱり忘れているんですね」
クスクスと口元に手を当て、上品に笑う芽衣。
そんな芽衣の態度が癪に触ったのか、大きく息を吸って怒声を上げようとする、村田インチョメ。
だが、彼女の怒声は公園内に木霊する事はなかった。
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「――わたしの隣には、とっても頼りになる『番犬』が居るって事をです♪」
芽衣のその言葉を合図に、息を殺して茂みに身を潜めていた俺は、ありったけの脚力を右足に集中させ、地面を蹴り上げた。
ボコッ! とクレーターが出来上がるが、そんなのお構いなしで身体を加速させる。
1発の弾丸のように加速した身体は、インチョメの脇を抜け、今にも芽衣に手を出そうとしていたオールバックの男の腹部へと、勢いそのままに、とび蹴りをかます。
途端に「コッペリオン!?」と謎の悲鳴をあげながら、サッカーボールのように背後へ吹っ飛んで行く男。
唇の端から泡を吹いて白目を剥くオールバックを前に、インチョメはおろか、他の野郎共9人も、目を見開きながらその場で固まってしまう。
そんなインチョメたちを尻目に、俺は右足をプルプルと左右に揺らしながら、芽衣の目の前へと陣取って、我らが女神さまに声をかけた。
「お呼びですかな、ご主人さま?」
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