みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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最終部 シンデレラボーイはこの『最強』を打ち砕く義務がある!

第32話 トラウマを乗り越えろ!

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 うぉぉぉぉぉぉぉぉっ! と男達の、いや漢たちの野太い声が木霊する工場内の扉が、ゆっくりと開いていく。

 俺、大神士狼もタイガーも、あの佐久間でさえ、その開かれていく扉に意識を持って行かれていた。

 そして扉の向こう側では……なんかブリーフたちの饗宴きょうえんというか狂宴きょうえんが開催されていた。



「……頭イカれてんのか、ここの連中は?」



 至極ごもっともな事を口にするタイガー。

 うん、それは俺も思ってた。

 なんだ、あのこの世の地獄のような光景は?

 閻魔大王もドン引きの事案発生案件じゃないか。

 誰だよ、首謀者は!? 

 って、1人しか居ないか。

 なんて内心ツッコんでいると、まさにその首謀者たちがブリーフたちの声援を背に受けて、廃工場内へと踏み込んでくる所だった。

 静寂を切り裂くように、彼女たちの足音だけが鼓膜を震わせる。

 気がつくと俺の口角が勝手に上がっていた。



「遅いぜ、芽衣? 危うくイジメられる所だったわ」
「そう言うんじゃないわよ、士狼。これでも超特急で走ってきたんだから」



 そう言って首謀者――我らが生徒会長閣下が、悪役のように悪い笑みを浮かべて肩をすくめる。

 それと同時に、彼女の背後に居たマイ☆エンジェルとプチデビル後輩が「ししょーっ!?」「シロパイ!?」と声をあげた。

 手足を拘束されている手前、手を振って応えることが出来ないが、代わりに「おーう、大丈夫だぁ」と答えてやる。

 そう、今の所は大丈夫だ。

 まぁただ問題は、乙女たちの背後で肉食獣を彷彿とさせるギラついた目で俺を見つめている鷹野ハードゲイが、この場に居ることが1番の問題だった。

 今のところ空気を読んで沈黙を貫いているが、もうすでに奴の社会の窓はフルオープンしている。

 優秀な皆さんの事ならお気づきかもしれないが、奴の前で拘束されるという事は、俺の前に全裸の爆乳お姉さんが横たわっているのと同じ状況なのだ!

 これは実に危うい!

 もしココで芽衣たちが消えようモノなら、俺は5分も経たずして、鷹野のシャウエッセンを下のお口でモグモグしてしまう事になりかねない!

 事は緊急を要した。



「大丈夫か、喧嘩狼! 今、助けるで!」



 と、耳まで裂けんばかりにニッチャリ❤ とほくそ笑む鷹野が、俺の元まで走ってこようとする――って危ない!? 俺の貞操が危ない!?

 心配する顔をしてはいるが、その表情は歓喜に包まれているのが、俺には分かった。

 だ、誰かアイツを止めろ!?

 このままじゃ、俺は奴のポークビッツをにゅるっ! と消してしまう高等マジックを習得してしまう!

 そんな祈りが天に届いたのか、突然立ち上がったタイガーが俺の前へと立ち塞がり、鷹野の動きを止めた。



「……まぁ待てよ、鷹野翼。おまえの相手は、このオレだ」
「チッ……いい所で」



 変態が忌々いまいましげに舌打ちをこぼしたのを、俺は見逃さなかった。

 いや怖ぇよ……。



「キサマが【東京卍帝国】の親玉かいな?」
「……小鳥遊大我だ。一応『初めまして』とか言っておこうか、鷹野翼」
「なんや、ワシの名前を知っとるんか。なら話は早いで……アンさんがこれからどうなるか、分かるよなぁ?」



 ゴキゴキゴキッ!

 鷹野の指の関節音が、廃工場の地面に転がっていく。

 その好戦的な瞳といい……俺とのチョメチョメ☆タイムを邪魔されたのが、相当ムカついたらしい。

 アイツ、どんだけ俺のことを掘りたいんだよ……?

 助けに来て貰っておいてアレだが、帰ってくれねぇかなぁ?
 
 そんな鷹野の熱い視線を、いつもの飄々ひょうひょうとした態度で受け流すタイガー。

 こっちもこっちで肝が据わっている。



「……ゴタクはいいから、かかってきな。テメェを倒して、オレが真の【最強】であることを証明してやるよ」
「ええ度胸や!」



 ソレを合図に、タイガーに向かって鷹野が突進した。

 バチバチッ! にり合う2人を横目に、歪な笑みを顔に張り付けた佐久間が、竹刀をビュンッ! と空打ちさせながら、芽衣を鋭く見据えていた。



「やぁ芽衣、数時間ぶりかな? ところで外で暴れている変態たちは、芽衣の差し金かな?」
「だとしたら何かしら?」
「いや別に? ただ相変わらずムカつく女だなって思って。まぁそんな女を屈服させるのも大好きだから、別にいいけどさ」



 途端に大和田ちゃんの「うわぁ、なんだコイツ……?」とドン引きした声が、大気を震わせた。



「会長、あんなのが好きだったの? かなり趣味が悪いとしか言えないし……」
「若気の至りよ」
「あれあれぇ? 今日は随分と強気だねぇ、芽衣? もしかして中学時代の『アレ』、忘れちゃったの? ならもう1度、思い出させてあげないとね!」



『アレ』というのは、中学時代に佐久間コイツが強姦失敗の末、芽衣をタコ殴りにした件のことだろう。

 まるで自分の武勇伝を語らうように、その薄汚ねぇ口から発せられる不愉快極まりない言葉に、思わず眉根を寄せてしまう。

 佐久間の瞳に嗜虐しぎゃくの光が灯ると同時に、芽衣の背後に控えていた爆乳わんが「さ、佐久間くん!」と声を張り上げた。



「ど、どうしてこんな事を? い、今さら『あのとき』の復讐をして何になるのさ!」
「僕がスカっとする」



 な、なにそれ…? と驚きの声をあげたのは、大和田ちゃんだった。

 そっか、そういえば、大和田ちゃんはクソ野郎と会うのは初めてだっけ?

 そんな大和田ちゃんの表情に気づいたのか、うっとり♪ した表情で眺める佐久間。



「おっ? キミいいねぇ! 実に僕好みの顔だよぉ。よぉしっ! キミの顔に免じて、特別に語っちゃおうかなぁっ!」



 佐久間はニコッ♪ と微笑むなり、その人形のような綺麗な唇を震わせ、薄汚ねぇ言葉をまき散らし始めた。



「僕はね、君たちの幸せが、反吐が出る程嫌いなんだよ。まぁ当然だよね? 僕に『あんな』事をしでかしたんだもん。嫌いって言わない方が、ムリな話だよね?」



 だから、いかにして君たちの幸せをぶっ壊すか、ずっと考えてきた。

 もう寝ても覚めても、芽衣たちの事しか考えられないくらいに。

 こんなに1人の女に執着したのも、初めてかもしれないね。

 だから『復讐』なんて安っぽい言葉で一纏ひとまとめにしないで欲しいな。



「僕の今の気持ちを言葉に表すなら……うん、アレが1番近いかもしれないね」



 佐久間はもったいぶったかのように間を作り、芽衣たちの目をまっすぐ見据えながら、熱に浮かされた乙女のごとく、蒸気した顔でこう言った。



「――恋。

 そう、コレは恋だっ!

 僕は今、芽衣に恋をしている!

 どう壊してやろうか?

 どう泣かせてやろうか?

 どう傷つけ、引き裂いてやろうか?

 そんなことを考えるたびに、僕はとても幸せになれる。

 芽衣の絶望した顔を思い浮かべるたびに、もう射精してしまいそうなくらい、心が震えるよ!」



『恋』と聞いた瞬間、古羊姉妹はおろか、あの大和田ちゃんでさえ「気持ち悪い」とばかりに顔を歪ませた。

 それは俺も同じだった。

 まるで自分の中の大切な想いをけがされたような、そんな気がして、思わず顔をしかめてしまう。

 そんな俺たちが愉快でたまらないのか、佐久間の顔にさらに深い笑みが刻まれる。



「そうッ! 僕が芽衣に恋して、恋焦がれているからこそ、この状況になったと言っても過言ではないね! いや、もはやコレは恋というより『愛』と言った方が、言い得て妙かな? 僕が居る限り、芽衣は絶対に幸せになれない。させない。させてやらない! これが僕の愛だよ!」

「OK、もう分かった。ソレ以上喋らなくていいわよ」



 感情のこもっていない声音で、静かにそう呟く芽衣。

 ずっと一緒に居たから分かる。

 アレは相当キている時の声だ。

 芽衣はスッ! と自分の背中に手を伸ばすと、制服の中からスルスルとバットを。

 ポケットからはパッドを取り出してみせた。



「『恋』だの『愛』だの回りくどい言い方して……。用はアタシをぶっ壊して、不幸にしたいって事でしょ? ――なら、やってみなさいよ? その戯言(ざれごと)が本気であることを、言葉じゃなくて行動で示してみなさい。このクソ野郎」

「……ふふふっ♪ ペラペラと、よく回る口だ……ねっ!」



 佐久間は「言われるまでもない!」とばかりに竹刀を振りかぶり、芽衣に向かって大地を蹴り上げた。

 瞬間、芽衣は爆乳わんとプチデビル後輩に向かって、声を張り上げた。



「洋子、大和田さんっ! それじゃ作戦通り、よろしく!」
「う、うんっ!」
「ガッテン承知!」



 2人の元気のいい声を背中に、芽衣は持っていたパッドを軽く空中へ放り投げた。

 そして浮いたパッドを――バットで全力で叩いた。

 途端にパッドから「カキーンっ!」と、ありえない金属音が聞こえてきた。

 と同時に、パッドがボフンッ! と炸裂し、辺り一面を真っ白に覆い、俺たちの視界を奪った。

「いや、だから? なんでパッドに煙幕弾なんか仕込んでるの? バカなの? イカレなの?」という言葉をグッと飲み込む、俺。

 ほんとあの女は、パッドを兵器か何かと勘違いしているんじゃないだろうか?

 いやまぁ、確かに女子力を底上げする兵器である事には変わりないんだけどさ。



「だ、大丈夫ししょーっ? 今、助けてあげるからね?」
「とりあえず、まずはこの手足を縛っている結束バンドを外して……ってぇ!? メッチャきつく縛ってんだけど、コレ!?」
「よこたんっ! 大和田ちゃん!」



 視界が白で覆われている間に、よこたんと大和田ちゃんが、俺の傍まで駆け寄って来てくれたらしく、必死に俺の拘束を解こうと、結束バンドと格闘してくれていた。



「うんしょっ! うんしょっ! うぅ~っ!? 固いよぉ、コレぇ!?」
「イダダダダダダダダッ!? 優しく、もっと優しくほどいて! 初セクロスに挑む女子校生並みに優しく解いて!」
「シロパイ、今ツッコミしづらい面持おももちだから、静かにしてろし!」



 2人の下手くそな前戯ぜんぎ――じゃない、荒々しい手つきにより、縛られていた手足が破瓜はかいされたかのような痛みが走る。

 そんなやりとりを繰り返すうちに、視界に光が戻ってきた。

 そして完全に視界を取りも出した俺が目にしたのは――芽衣と佐久間のバットと竹刀が、鍔迫つばぜり合いをしている光景であった。
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