みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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真・最終部 みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

第11話 月が綺麗ですね

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 我が愛しの1番弟子、ヨウコ・コヒツジとのプールデートという名の宴も無事に終わった、その日の午後7時。

 俺はマイ☆エンジェルを家へ送り届けるべく、彼女と共にトボトボと他愛の無い会話を繰り広げながら、家路へと歩を進めていた。



「結局マジで優勝するとは……。相変わらず、とんでもないダイナマイトボディーだな、よこたん」
「うぅ……ししょーの為(ため)に頑張ったのにぃ。そ、そんなにハッキリ言わないでよぉ」



 は、恥ずかしいでしょ? と、月明かりの下でもハッキリと分かるくらい顔を赤らめる、爆乳わん娘。

 彼女の亜麻色の髪が、月の光に洗われるように、左右にフリフリと揺れる。

 それはまるで飼い主にたわむれる子犬のシッポのようで、自然と頬が緩んでしまう。

 そんな俺を見て、また何か勘違いしたのか、よこたんは分かりやすく、ぷくぅっ! と頬を膨らませるなり、ぷいっ! とソッポを向いてしまった。



「むぅ~っ!? ししょーのイジワルっ! もう知らないもんっ!」

「おっ、今の可愛い。もう1回『もう知らないもんっ!』って言ってくんない? 100円あげるから」

「つーんっ!」
「やっべ。からかい過ぎちゃった。ゴメン、ゴメンんごっ! 許してチョンマゲッ!」
「軽っ!? 誠意が感じられないよぉっ! つーんっ、だ!」



 ボク、怒ってますよぉ! と言わんばかりに頬を膨らませて、明後日の方へと顏を向けるマイ☆エンジェル。

 イカン、イカンッ!

 よこたんの顔や態度や言葉や雰囲気が、あまりにも自然に男の被虐ひぎゃくしんを煽ってくるから、ついつい俺の息子がS極に目覚めかけてしまった。反省、反省。

 それはそうと……へそを曲げても可愛いな、コイツ?

 ここに居るのが英国紳士もかくやと言われている俺じゃなければ、今頃【送り狼】と化して今夜はHOTホットでタフなパーティーが愛のホテルで開催されているところだ。



「あぁ~っ! また笑った!? もうっ! いつまで笑ってるの、ししょーっ!? ボク、怒ってるんだよ!?」

「いやいや、待て待て? 我が大いなる愛弟子まなでし、ヨウコ・コヒツジよ? 別にコレは、さっきの事を思い出したから笑っているワケじゃないぞ? ちょっと昔のことを思いだして、懐かしさに浸っていただけだから。いやマジで?」

「昔のことぉ? 何を思い出してたの、ししょーっ?」
「アレだよ、アレ。よこたんと俺の生徒会室でのファーストインパクトの件だよ」
「うぐぅっ!? そ、それは……!?」



 俺がそう口にした瞬間、よこたんは苦虫でも噛んだようにその端整な顔を歪ませた。



「今では見る影も無くなったけどさ、あの頃のよこたんは俺に警戒心バリバリで、何とまぁ扱いづらかったコトか」

「だ、だってだって! あの頃は、ししょーのコト知らなかったし! そ、それに、あの『大神士狼』くんが生徒会役員になるって言うんだよ? 警戒しない方がおかしいって話だよぉっ」

「えっ? どの『大神士狼』くん?」
「学校1のトラブルメイカーである大神士狼くんですっ」
「えっ、ウソ? 話盛ってない? 芽衣の胸部みたいに?」
「……怒られるよ、ししょー?」 



 いやいや待ってくれ、よこたんや?

 あのときのチミの第一印象は、ソレだったのかい?

 酷く心外なんですけど?

 俺はどちらかと言えばトラブルメイカーと言うより、トラブルバスターとして名をせていたと自負しているが? 

 あと、どうでもいいけどさ?

『トラブルメイカー』を『ToL●VEるメイカー』って言い直したら、何かエッチな感じに聞こえるよね!

 こう気がついたら女の子の股間にダイブしてそうな……あっ。



「トラブルで思い出したんだけどさ、あの事件は大変だったよなぁ」
「それって、メイちゃんのパッドさんが誘拐された、変態仮面さん事件のこと?」

「そうそう。芽衣が変態仮面をタコ殴りにして、よこたんが『お漏らし』しかけた、アレな。いやぁ、あのときのよこたんは、最高にエロかった! そういえば、あのあと、ちゃんとトイレには間に合ったのか?」

「デリカシーっ!? デリカシーが無さ過ぎるよ、ししょーっ!? うぅ……人の気も知らないでぇ! ……って、アレ? もしかして、ボクが酷い目に遭う時って、必ずししょーが一緒に居ない?」

「うん、それは気のせいだな」

「で、でもでもっ! 変態仮面さん事件の時といい、体育館倉庫のお片付け事件の時といい、何かトラブルがある時は、必ずししょーが横に居るような……? あれれ?」

「それは錯覚だな。今日はプールで疲れて頭も回っていないんだろうよ。帰ったら温かくして寝ろよ?」

「あっ、うん。ありがとう?」



 すぐさまコチラの会話の流れに乗ってくれる、爆乳わん

 なんてチョロイ……もといイイ子なんだ。

 チミのような勘の鈍い子は大好きだよっ!



「……今思い返してみればさ、この1年、色々なコトがあったよねぇ」
「あぁ~、確かに。もう激動の1年としてN●Kが取材に来てもおかしくないレベルで、色々あったよなぁ」



 月光の光が優しく俺たちを照らしていく中、2人して今年1年を振り返るように、ガラにも無く、ちょっとばかし感傷に浸り始めた。



「文化祭に体育祭、生徒会長選挙にクリスマス会……ほんと色々あったよねぇ」

鷹野ハードゲイと出会ったり、お尻を掘られかけて1等賞しかけたり、全裸で校内を徘徊(はいかい)したり、全裸で警察に捕まったり……ほんと色々あったよなぁ」

「思い出が共有できないにも程があるよ……」



 ロクな思い出がないね、ししょー……。

 と、何故か俺のセンチメンタル・メモリーにあきれを通り越してドン引きしているラブリー☆マイエンジェル。



「もっと2人で共有できる思い出とかないのぉ?」
「そんなことを言われてもなぁ……。逆に聞くけど、何かある?」
「えっ? そうだなぁ……。例えば――この間の病院での出来事とか?」



 ドクンッ! と、絶頂したように心臓が跳ねた。

 気がつくと俺たちは、その場に立ち止まり、お互いの目を真っ直ぐ見据えていた。



「よこたん……」
「今日のデートもさ、あのときの返事をするために、誘ってくれたんだよね?」
「……なんだ、分かってたのか」
「そりゃ分かるよぉ~。だって、ししょー分かりやすいんだもん」



 クスクスと、月明かりに照らされながら上品に笑う、爆乳わん娘。

 その姿は本当に天使のようで、思わず呼吸をするのも忘れて見惚れてしまった位だ。

 まるで世界に2人だけしか居ないような、そんな錯覚すら感じる不思議な時間。

 何か言わなきゃ! とは思うのだが、こういう時に限って、俺の舌はいつもの饒舌じょうぜつさを失ってしまう。

 ほんとポンコツにも程がある。

 そんな自分が心底嫌になる。

 が、よこたんはそんな俺の弱い部分ですら受け入れてくれるかのように、優しく、ささやくように甘い声を出した。



「ねぇ、ししょー? 『あのとき』の続き、今しよっか?」



 ……どうやら、覚悟を決める時が来たらしい。

 俺は無言で頷くと、よこたんはまるで【あの日】の、病室での一件を巻き戻すかのように、ハッキリと俺の瞳を捉えて、





「大神士狼くん……好きです。大好きです。ボクと付き合ってください」





 と言った。

 そこには泣き虫で、嫉妬深くて、純情で、誰よりも友達想いの女の子じゃない、1人の女性が立っていた。

 俺の知らない古羊洋子が立っていた。

 瞬間、俺の脳裏に、この1年間で共に過ごした彼女との思い出が、走馬灯のように駆け巡った。


 一緒に勉強したこと。

 一緒に花壇を掃除したこと。

 一緒に旅行に行ったこと。

 一緒にご飯を食べたこと。

 一緒に危険を乗り越えてきたこと。

 喜んだこと。

 怒ったこと。

 悲しんだこと。

 楽しんだこと。

 笑ったこと。



 ……そして、『恋』をしたこと。



 毎日がキラキラと宝石のように輝いて、退屈だった俺の日常に、色を与えてくれたこと。

 目を閉じれば何時いつだって、目蓋まぶたの裏には彼女の笑顔があった。



「ありがとうな。こんなロクデナシのことを好きになってくれて」



 ……だからこそ、俺は彼女にこう言わなければならないのだ。



「――でもゴメン。俺はおまえの気持ちに応えることは出来ない」
「……そっか」



 ギチリッ! と、俺の胸の中で『何か』が悲鳴をあげる。

 痛い、すごく痛い。

 今にも胸がはち切れそうだ。

 こんな可愛くてイイ子を振るだなんて、おまえ正気か!?

 と、心の片隅で、もう1人の俺が声高らかに反論する。

 分かってる、こんなイイ子を悲しませるんだ。

 きっとそれ相応の罰が、俺を待っているに違いないのだろう。

 それでも俺は、彼女の気持ちに応えることは出来ない。

 応えることを、してはいけない。

 それは彼女を侮辱ぶじょくすることだから。



「ねぇ、ししょー……っ?」



 彼女のいつも通りの声音が、耳を撫でる。

 俺は彼女のどこまでも澄んだ碧い瞳から、絶対に視線を逸らすことなく、彼女の声に耳を傾けた。



「『なんで?』とか……聞いてもいい、かな?」
「……好きな奴が居るんだ、俺」



 そう俺が口にした瞬間、よこたんが痛みにえるかのように顔を歪めた。

 ひときわ胸が痛む。

 それでも俺は、言わなければならない。

 彼女が今まで向けてくれていた、無性の愛に報いるために。



「そいつはさ、気が強いし、喧嘩も強いし、おまけに腹黒いしで、おおよそ良い所なんてロクに無い、悪魔のような女なんだけどさ? ……ほんとは寂しがり屋で、意地っ張りで、それで――世界で1番優しい女の子なんだ」



 よこたんは、すぐさま無理やり笑みを顔に張り付け、小さく笑った。



「メイちゃん……だね?」
「…………」
「やっぱり……ね」



 苦笑を浮かべる俺。

 そんな俺を見て、正解だと確信した彼女が、また笑う。



「もう1つ、質問してもいいかな?」
「うん? おうっ、この際だ。1つと言わず、2つでも3つでも答えてやるぜ?」
「ううん。1つでいい。あと1つだけでいい」



 よこたんは、どこまでも真っ直ぐに俺を射抜き、



「ししょーはさ、どれくらいボクのコトが好きだった?」
「……きっと出会う順番が違っていれば、心底惚れていたんだろうなって思えるくらいに、好きだった」
「そっかぁ……えへへ」



 はにかんだ笑みを浮かべて、ぽすんっ! と俺の胸に自分の頭をぶつける、よこたん。

 そのまま、


 ――ポカンッ!


 と痛くもかゆくもないパンチが飛んでくる。

 そのパンチは、今までらったどの拳よりも、芯に響いた。



「ししょーはイジワルだよ」
「知ってる」
「こんなにボクの心をかき乱して、ボクの心の中に住みついておいて……この無責任男」
「知ってる」
「ロクデナシ」
「それも知ってる」
「スケベ、ドスケベ、ド変態。性欲大魔神のアンポンタン」
「それは言い過ぎじゃない?」

「――でも好き。大好き」

「……あんがと」



 絶対に目は逸らさない。

 それは彼女の覚悟を踏みにじる行為だから。

 だから俺は、月明かりに照らされ、気丈に振る舞う彼女の姿を網膜に、心に、魂に焼き付ける。

 それが俺に出来る最大限の誠意だと信じて。



「いい、ししょー? メイちゃんを泣かしたら、オコだからね? ボク、激オコだからね?」
「了解、肝にめいじておくわ」
「うん、肝に銘じておいてね」



 おいっ、肝! 俺の肝!

 芽衣を泣かせたら、よこたんがオコだぞ、分かったか!?

 俺が肝に言い聞かせている間に、よこたんは、ぺちんっ! と自分の頬を軽く叩いて、気持ちを切り替えるかのように、小さく気合を入れた。



「……ふぅ~、よしっ! それじゃ帰ろっか、ししょーっ!」
「そうすっべ。あっ、途中でコンビニ寄ってもいい? 喉渇いちゃったよ、俺」
「もう、しょうがないなぁ」



 そしていつも通り、また歩きはじめる、彼女の隣を。

 いつも通り歩幅を合わせて。

 いつも通り軽口を言い合いながら。

 いつも通り笑顔を浮かべて歩き出す。
 


 ……いつもと違って、声の震えを抑えながら。



 ふと見上げたお月さまは、憎たらしいほど綺麗だった。
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