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第10話:王になった坊や

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内乱を起こしに行ったヴィンセントは無事だろうか。

密かに身を案じていたトゥリアの元に、王が変わったという知らせが入ったのは一ヶ月後のことだった。

死んだと思われていた王子ヴィンセント率いる革命軍は、国境警備隊をあっさり制圧。

真っ直ぐに城を目指し進軍する彼らを止めようとするものは、居なかった。

疲弊しきった国民達にとっては英雄にしか見えず、雇われていた兵士たちも家に帰れると期待して戦いを放棄。

慌てた国王軍は、すぐさま他の地域を見捨てて王城のみ守りを固めた。

さすがに城を守る兵士たちはそれなりに強かったが、消耗せずに来れたヴィンセント達に押され敗北。

二週間の籠城の末、隠れることに耐えられなくなった国王夫妻と第一王子が抜け出したところを確保。

国民の恨みを買っていた国王達は、広場で国民達に石を投げられながら公開処刑されたらしい。


『僕は勝ちました。少し落ち着いたら会いに行きます、愛しのトゥリア』


使い魔が持ち帰った手紙を読み、トゥリアは小さく笑う。

ヴィンセントは、様子を見に行かせた鴉を見てすぐに使い魔だと気づいたらしい。

捕まって手紙を渡された、としょんぼりしている使い魔の頭をトゥリアは撫でてやる。


「やれやれ、あの坊やが国王かい。立派に育ったようだし大丈夫だろうけど…あたし離れできるんだろうか?」


トゥリアに一目惚れしてからずっと自分への想いを胸に生きてきたと言うヴィンセント。

王になったなら結婚して子供をつくらなくてはならないだろう、どうするつもりなのか。


「あの様子じゃあ嫁に来いって言いそうだけど、魔女が王妃になんてなれるわけない」


なる気もないしね、と一人呟きながら空を見上げるトゥリア。

森の空気は澄んでいて気持ちがいい…この森は母と過ごした森。

母が魔女狩りで殺され、一度は出て行くしかなかったけれど、時が経ってから戻ったのだ。

火を放たれ一部は燃えたらしいが、その直後に土砂降りが降り鎮火。

森はすぐに再生したようだ。


「立派な王様におなり、せっかくあの日助けてやったんだからね」


生かして良かったと思える方が、後味もいいから。

トゥリアの囁きは、風に乗って消えていく。

この後ヴィンセントが求婚しに来るのだが、この時のトゥリアはただ国の平和を願っていた。

何度も見てきた人間同士の醜い争いも愚かさも、しばらく見たくない。

天候不良もそろそろ落ち着きそうだ、そんな気配を察していたトゥリアの顔には笑みが浮かんでいた。

国は何度も生まれ変われる…森のように。
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