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押し入れの子供達
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安いアパートの二階にある一室。
ここで暮らすのは、若く見える女と強面の男…表向きはそうなっている。
しかし押し入れの中では、汚物まみれの子供が三人、息を潜めて生きていた。
「あんっ、久しぶりだからって激しいっ」
「やっと赤ん坊が生まれて血も止まったんだろう?良いじゃねぇか」
ベッドの上で激しく求め合う男女。
部屋の隅では生後一ヶ月ほどの赤子が眠っている。
その様子を押し入れから覗くのは、六つの目。
「…ねえ、赤ちゃんまだ生きてるのかな?」
「さっき泣いて少しおっぱい貰ったみたいだから、多分まだ生きてるよ」
「おっぱい…おなかすいた」
10歳ほどの少年と、6歳ほどの少女、そして2歳くらいの少年。
三人は部屋にいる女から生まれた子供だが、全員父親が違う。
女は次々と男を変え、そのたびに妊娠。
子供を産んでしばらくすると男と別れ、まだ別の男を見つけてくる。
それを繰り返しながら生活していた。
今回の男は何人目だったか…一番上の少年は記憶を遡る事をやめ、部屋の隅で眠っている赤子が泣き出さない事だけを願う。
男と女の時間を邪魔すると、二人は鬼のように激怒し怒鳴り散らすのだ。
怒鳴るだけならばいいが、今までの経験からそろそろ手が出る可能性が高い。
下の兄弟が消えたのは何人だったか…少年は祈る思いで部屋の様子を伺う。
子供達の目があることなど全く考えていない男女の行為は激しさを増していき、嬌声とベッドが軋む音が響き渡る。
すると恐れていた通り、赤子が起きて泣き出した。
そもそも腹が満たされておらず眠りが浅かったのだ、顔を真っ赤にして息が止まりそうなほど泣き喚く。
「ちっ、いいところだったのによお!邪魔だな!」
「うるさい子だね!!邪魔するならアンタも押し入れ行きだよ!!」
女は赤子を掴み上げ、まだ首も座っていないのに乱暴に押し入れへと投げ込んだ。
「ひぎゃあああん!!」
「っ…!」
「おい!まだ誰か居るんだろう、そいつを黙らせな!!そしたら食いもんくれてやるよ!!」
いつものこと。
女に押し付けられた子供は、すぐに弱って死んでしまう。
10歳ほどの少年は、何度もその腕の中で冷たくなっていく兄妹を見ている。
この押し入れの角にある塊を作り出したのは、彼だから。
(お願い、少しの間でいいから静かにして…!)
必死に赤子をあやし、隠し持っていた哺乳瓶を口に当てる。
ほんの僅かにミルクを入れて与えると、赤子は必死に吸い付いた。
あっという間に飲み干してしまったが、なんとか落ち着いたようでウトウトし始める。
部屋の中では、
「あーあ、お前の子供なら可愛いと思ったんだけどなー。うるせえんだな」
「赤ん坊なんてみんなそうだよ、鬱陶しいもんさ」
男と女が絡み合いながら話していた。
それを聞き、もうこの赤子が部屋に戻してもらえる事はないのだと悟る少年。
いつもそうだ。
半年保てばいいほうで、生後すぐに捨ててしまうことも多い。
(今回は何日生かしてあげられるかな…ごめんね、助けてあげられなくて)
ミルクが生命線の赤子。
あの女は子供を捨てたらもう何も買ってはくれない。
オムツもミルクもすぐに底をついてしまう…すでに痩せている赤子を見つめながら、少年は心の中で謝っていた。
赤子が泣くと男が怒鳴り女が熱湯を押し入れにぶちまけにくるので、年長の少年は二人がいない隙に家に残されたミルクとオムツをかき集めた。
ついでに牛乳、期限切れの菓子パン、弁当の残りを片っ端から押し入れに持ち込む。
「やった!食べ物だ!」
6歳ほどの少女が弁当の残りに食いつき、2歳ほどの少年もカビかけたパンに齧り付く。
年長の少年は狭い押し入れの中で必死に赤子の面倒を見ていた。
ドアのチャイムが鳴ったが、出る事は許されない…誰もいない今なら出られるのだが、以前バレて連れ戻された際に一人死んでしまっているため三人は動けなかった。
しかし運悪く赤子が泣いてしまい、外の人間が何度もドアを叩く。
「すみませーん!林さーん?赤ちゃんの様子を見にきましたー」
以前ならば年長の少年が出て、両親は不在ですと言って誤魔化すことができていた。
しかし汚物まみれで放置されるようになり、今では人前になど出られない。
弱々しく泣いていた赤子が泣き止み静かになると、少しして外の人間も帰ったようで静かになった。
(…まずい。きっと後で電話か手紙がくる、赤ちゃんが泣いてたってバレたら怒られる)
少年が冷や汗をかいていると、
「どうしたの、エル」
弁当を食べ終えた少女が顔を覗き込んできた。
「…いや、大丈夫。大丈夫だよ、アイ」
不安がらせないように笑ってみせる少年…笑瑠。
少女の名は愛生、2歳ほどの少年は晴琉、赤子は女の子で舞衣という。
命と名前を与えられ、奪われるだけの存在たち。
救いなどないと絶望しきっている彼らに再び恐怖の夜が訪れる…
ここで暮らすのは、若く見える女と強面の男…表向きはそうなっている。
しかし押し入れの中では、汚物まみれの子供が三人、息を潜めて生きていた。
「あんっ、久しぶりだからって激しいっ」
「やっと赤ん坊が生まれて血も止まったんだろう?良いじゃねぇか」
ベッドの上で激しく求め合う男女。
部屋の隅では生後一ヶ月ほどの赤子が眠っている。
その様子を押し入れから覗くのは、六つの目。
「…ねえ、赤ちゃんまだ生きてるのかな?」
「さっき泣いて少しおっぱい貰ったみたいだから、多分まだ生きてるよ」
「おっぱい…おなかすいた」
10歳ほどの少年と、6歳ほどの少女、そして2歳くらいの少年。
三人は部屋にいる女から生まれた子供だが、全員父親が違う。
女は次々と男を変え、そのたびに妊娠。
子供を産んでしばらくすると男と別れ、まだ別の男を見つけてくる。
それを繰り返しながら生活していた。
今回の男は何人目だったか…一番上の少年は記憶を遡る事をやめ、部屋の隅で眠っている赤子が泣き出さない事だけを願う。
男と女の時間を邪魔すると、二人は鬼のように激怒し怒鳴り散らすのだ。
怒鳴るだけならばいいが、今までの経験からそろそろ手が出る可能性が高い。
下の兄弟が消えたのは何人だったか…少年は祈る思いで部屋の様子を伺う。
子供達の目があることなど全く考えていない男女の行為は激しさを増していき、嬌声とベッドが軋む音が響き渡る。
すると恐れていた通り、赤子が起きて泣き出した。
そもそも腹が満たされておらず眠りが浅かったのだ、顔を真っ赤にして息が止まりそうなほど泣き喚く。
「ちっ、いいところだったのによお!邪魔だな!」
「うるさい子だね!!邪魔するならアンタも押し入れ行きだよ!!」
女は赤子を掴み上げ、まだ首も座っていないのに乱暴に押し入れへと投げ込んだ。
「ひぎゃあああん!!」
「っ…!」
「おい!まだ誰か居るんだろう、そいつを黙らせな!!そしたら食いもんくれてやるよ!!」
いつものこと。
女に押し付けられた子供は、すぐに弱って死んでしまう。
10歳ほどの少年は、何度もその腕の中で冷たくなっていく兄妹を見ている。
この押し入れの角にある塊を作り出したのは、彼だから。
(お願い、少しの間でいいから静かにして…!)
必死に赤子をあやし、隠し持っていた哺乳瓶を口に当てる。
ほんの僅かにミルクを入れて与えると、赤子は必死に吸い付いた。
あっという間に飲み干してしまったが、なんとか落ち着いたようでウトウトし始める。
部屋の中では、
「あーあ、お前の子供なら可愛いと思ったんだけどなー。うるせえんだな」
「赤ん坊なんてみんなそうだよ、鬱陶しいもんさ」
男と女が絡み合いながら話していた。
それを聞き、もうこの赤子が部屋に戻してもらえる事はないのだと悟る少年。
いつもそうだ。
半年保てばいいほうで、生後すぐに捨ててしまうことも多い。
(今回は何日生かしてあげられるかな…ごめんね、助けてあげられなくて)
ミルクが生命線の赤子。
あの女は子供を捨てたらもう何も買ってはくれない。
オムツもミルクもすぐに底をついてしまう…すでに痩せている赤子を見つめながら、少年は心の中で謝っていた。
赤子が泣くと男が怒鳴り女が熱湯を押し入れにぶちまけにくるので、年長の少年は二人がいない隙に家に残されたミルクとオムツをかき集めた。
ついでに牛乳、期限切れの菓子パン、弁当の残りを片っ端から押し入れに持ち込む。
「やった!食べ物だ!」
6歳ほどの少女が弁当の残りに食いつき、2歳ほどの少年もカビかけたパンに齧り付く。
年長の少年は狭い押し入れの中で必死に赤子の面倒を見ていた。
ドアのチャイムが鳴ったが、出る事は許されない…誰もいない今なら出られるのだが、以前バレて連れ戻された際に一人死んでしまっているため三人は動けなかった。
しかし運悪く赤子が泣いてしまい、外の人間が何度もドアを叩く。
「すみませーん!林さーん?赤ちゃんの様子を見にきましたー」
以前ならば年長の少年が出て、両親は不在ですと言って誤魔化すことができていた。
しかし汚物まみれで放置されるようになり、今では人前になど出られない。
弱々しく泣いていた赤子が泣き止み静かになると、少しして外の人間も帰ったようで静かになった。
(…まずい。きっと後で電話か手紙がくる、赤ちゃんが泣いてたってバレたら怒られる)
少年が冷や汗をかいていると、
「どうしたの、エル」
弁当を食べ終えた少女が顔を覗き込んできた。
「…いや、大丈夫。大丈夫だよ、アイ」
不安がらせないように笑ってみせる少年…笑瑠。
少女の名は愛生、2歳ほどの少年は晴琉、赤子は女の子で舞衣という。
命と名前を与えられ、奪われるだけの存在たち。
救いなどないと絶望しきっている彼らに再び恐怖の夜が訪れる…
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