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鍵の子供が選ぶ道
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目の前で人間二人を焼かれたエリックは、怒りに震えている。
「なんてことを…!魔王め、どこまで非道な!」
「鍵の子供が望んだことだ」
「何故だ!?何故君たちはそんな酷いことを願ったんだ!」
怒鳴られ殴られ殺されそうになったところを見ていたはずなのに、まだそんなことを言うエリック。
エルは表情を消し、淡々と答える。
「あの人たちは親じゃない、化け物だ。ずっと俺たちを殴って蹴って、押し入れに閉じ込めて…何人の兄弟が死んだと思う?最後になんて言ってたか知ってる?」
ママ、お腹すいた、喉乾いた、痛い…全ての兄弟達の最後の言葉を聞いてきたエルは、涙を流す。
「勇者は正義の味方…だったらどうして皆んなは助からなかったの。助けてって言ったよ?何度もお願いしたよ?だけど誰も来てくれなかった!!」
「そ、それは…世界が違うから仕方ないではないか!門を開けられるのは鍵を持つ者だけ…君が開けたんだ!」
エルは、そんなもの知らない。
何故今回に限って異世界同士が繋がったのか…それは神にしか分からないこと。
「でも勇者さん、俺たちがあの二人に殺してやるって言われてたの聞いたよね。あの女に髪の毛掴まれるのも、アイがあの男に殺されそうになるのも見てたよね。それでも仲直りしろなんて言ってたよね?」
今までの大人達もそうだった…大人は大人しか信じない。
母親が反省を口にすれば許し、弱々しく支援を求めれば物資だけ送る。
子供達の悲鳴は聞き流されてきたのだ。
「子供を嘘つきって言う大人のほうが嘘つきだ…大嫌い。みんな死ねばいいのに」
エルの憎しみは〝大人〟へと向き、溢れ出した狂気が膨らんでいく。
「みんなみんな死んじゃえ…たくさん苦しんで、助けてって言っても助けてもらえずに死ね!!」
エルは泣いていた。
涙を流しながら、しかし笑っている。
「素晴らしい…お前には素質がある」
魔王は心が震えるのを感じていた。
人間の世界で生まれた少年が、自分達と並ぶほどの狂気を抱えている事に。
歓喜した魔王は、エルの頭に手を乗せて囁く。
「エル、と言ったか。お前を気に入った、二つの道を選ばせてやろう」
「二つの、道?」
「そうだ。今死ぬか。それとも共にこの世界を滅ぼすか」
エルは周囲を見渡す。
街の人々は逃げ惑い近くにはいないが、爆発音などは聞こえて来る…もうこの街全体が火の海になるのも時間の問題だ。
勇者エリック達も魔王軍に敵わず、捕らえられている。
アイは戸惑い怯えているが、ハルは状況を飲み込めずにキョロキョロするばかり。
マイは騒ぎに驚き泣いていたが、疲れ果て眠りそうになっていた。
「…この子達を助けたい。最後の兄妹なんだ、今度こそ守りたい」
「お前が我らと共に歩むならば、お前の兄妹も保護してやろう」
「助けてくれるの?ご飯、食べられる?」
「無論だ」
「マイ…赤ちゃんはミルクが欲しいんだ」
「みるく…母乳でよかろう、城勤の女が最近出産したばかりだ。分けて貰えば良い」
「おっぱい貰えるの?」
「魔族は身内に優しい。我が命じればしっかり育ててくれるぞ」
優しいお母さん代わりがいるらしいと聞き、エルは喜んだ。
そして、
「じゃあ、俺も世界を滅ぼす!」
何の未練も愛着もない生まれ故郷に死を。
エルが決意すると、空の割れ目がさらに広がり巨大な魔物が現れた。
「我が臣下、邪龍モージス。さあ、世界を焼き尽くせ」
魔王の名を受け部下達も動く。
勇者の仲間達を次々と殺し、勇者の首は魔王が刎ねた。
こうして人間の世界は数日後には滅び、文明の残骸を遺すだけの廃墟が広がる。
そんな世界を見下ろしながら、エルは笑った。
「すごくスッキリした…」
「楽しいか」
「うん!楽しかった!」
「また、やりたいか?」
首を傾げるエルに、魔王は言う。
「世界は他にもある。そのうちまた門が開く時が来る、その時にはお前も来るか」
「…悪い人いっぱいいるのかな?」
「良い人ばかりの世界などないさ」
「そうだよね。うん、またたくさん殺しに行く!」
無邪気に笑う少年に迷いはない。
自分達のような存在を増やさないためなら、無関係な世界を滅ぼす事にも罪悪感などないから。
魔族の女からお乳を貰い満たされた様子のマイを見て、エルは自分の判断が正しかったのだと確信する。
アイは少し怯えていたけれど、たくさんの食べ物や新しい服を前に並べられてすぐに笑顔になった。
ハルも好きなだけ飲み食いできることを喜び、初めておもちゃで遊ばせてもらい大はしゃぎだ。
「あいつらが死んでよかった…世界が滅んでよかった」
心からの笑みを浮かべるエルの側にいるのは、黒い毛並みの犬達。
死んだ兄弟達の塊を使い、魔王が作り出してくれた魔獣だ。
「これからもずーっと一緒だよ。兄ちゃんがいるからね」
押し入れの子供達は、やっと幸せになれました。
めでたしめでたし。
「なんてことを…!魔王め、どこまで非道な!」
「鍵の子供が望んだことだ」
「何故だ!?何故君たちはそんな酷いことを願ったんだ!」
怒鳴られ殴られ殺されそうになったところを見ていたはずなのに、まだそんなことを言うエリック。
エルは表情を消し、淡々と答える。
「あの人たちは親じゃない、化け物だ。ずっと俺たちを殴って蹴って、押し入れに閉じ込めて…何人の兄弟が死んだと思う?最後になんて言ってたか知ってる?」
ママ、お腹すいた、喉乾いた、痛い…全ての兄弟達の最後の言葉を聞いてきたエルは、涙を流す。
「勇者は正義の味方…だったらどうして皆んなは助からなかったの。助けてって言ったよ?何度もお願いしたよ?だけど誰も来てくれなかった!!」
「そ、それは…世界が違うから仕方ないではないか!門を開けられるのは鍵を持つ者だけ…君が開けたんだ!」
エルは、そんなもの知らない。
何故今回に限って異世界同士が繋がったのか…それは神にしか分からないこと。
「でも勇者さん、俺たちがあの二人に殺してやるって言われてたの聞いたよね。あの女に髪の毛掴まれるのも、アイがあの男に殺されそうになるのも見てたよね。それでも仲直りしろなんて言ってたよね?」
今までの大人達もそうだった…大人は大人しか信じない。
母親が反省を口にすれば許し、弱々しく支援を求めれば物資だけ送る。
子供達の悲鳴は聞き流されてきたのだ。
「子供を嘘つきって言う大人のほうが嘘つきだ…大嫌い。みんな死ねばいいのに」
エルの憎しみは〝大人〟へと向き、溢れ出した狂気が膨らんでいく。
「みんなみんな死んじゃえ…たくさん苦しんで、助けてって言っても助けてもらえずに死ね!!」
エルは泣いていた。
涙を流しながら、しかし笑っている。
「素晴らしい…お前には素質がある」
魔王は心が震えるのを感じていた。
人間の世界で生まれた少年が、自分達と並ぶほどの狂気を抱えている事に。
歓喜した魔王は、エルの頭に手を乗せて囁く。
「エル、と言ったか。お前を気に入った、二つの道を選ばせてやろう」
「二つの、道?」
「そうだ。今死ぬか。それとも共にこの世界を滅ぼすか」
エルは周囲を見渡す。
街の人々は逃げ惑い近くにはいないが、爆発音などは聞こえて来る…もうこの街全体が火の海になるのも時間の問題だ。
勇者エリック達も魔王軍に敵わず、捕らえられている。
アイは戸惑い怯えているが、ハルは状況を飲み込めずにキョロキョロするばかり。
マイは騒ぎに驚き泣いていたが、疲れ果て眠りそうになっていた。
「…この子達を助けたい。最後の兄妹なんだ、今度こそ守りたい」
「お前が我らと共に歩むならば、お前の兄妹も保護してやろう」
「助けてくれるの?ご飯、食べられる?」
「無論だ」
「マイ…赤ちゃんはミルクが欲しいんだ」
「みるく…母乳でよかろう、城勤の女が最近出産したばかりだ。分けて貰えば良い」
「おっぱい貰えるの?」
「魔族は身内に優しい。我が命じればしっかり育ててくれるぞ」
優しいお母さん代わりがいるらしいと聞き、エルは喜んだ。
そして、
「じゃあ、俺も世界を滅ぼす!」
何の未練も愛着もない生まれ故郷に死を。
エルが決意すると、空の割れ目がさらに広がり巨大な魔物が現れた。
「我が臣下、邪龍モージス。さあ、世界を焼き尽くせ」
魔王の名を受け部下達も動く。
勇者の仲間達を次々と殺し、勇者の首は魔王が刎ねた。
こうして人間の世界は数日後には滅び、文明の残骸を遺すだけの廃墟が広がる。
そんな世界を見下ろしながら、エルは笑った。
「すごくスッキリした…」
「楽しいか」
「うん!楽しかった!」
「また、やりたいか?」
首を傾げるエルに、魔王は言う。
「世界は他にもある。そのうちまた門が開く時が来る、その時にはお前も来るか」
「…悪い人いっぱいいるのかな?」
「良い人ばかりの世界などないさ」
「そうだよね。うん、またたくさん殺しに行く!」
無邪気に笑う少年に迷いはない。
自分達のような存在を増やさないためなら、無関係な世界を滅ぼす事にも罪悪感などないから。
魔族の女からお乳を貰い満たされた様子のマイを見て、エルは自分の判断が正しかったのだと確信する。
アイは少し怯えていたけれど、たくさんの食べ物や新しい服を前に並べられてすぐに笑顔になった。
ハルも好きなだけ飲み食いできることを喜び、初めておもちゃで遊ばせてもらい大はしゃぎだ。
「あいつらが死んでよかった…世界が滅んでよかった」
心からの笑みを浮かべるエルの側にいるのは、黒い毛並みの犬達。
死んだ兄弟達の塊を使い、魔王が作り出してくれた魔獣だ。
「これからもずーっと一緒だよ。兄ちゃんがいるからね」
押し入れの子供達は、やっと幸せになれました。
めでたしめでたし。
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