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第44話
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季節は巡り、冬を迎えたファルシオ王国。
農場の視察から戻ったイルヴィンドは寒さに震えていた。
「ううう、寒かった…!」
「お帰りなさいませ陛下、すぐに湯殿の支度をさせますね」
揉むと暖かくなる小袋を手に出迎えたリラフィアは、冷え切ったイルヴィンドの手を取り包み込んだ。
「わ、暖かいね」
「よかったですわ。鉄粉などを使用しておりますの。今流通を進めているところです」
開発者から試作をもらって以来、リラフィアはこの商品を支援している。
「みんな喜ぶよ、手が冷えると何をするのも大変だもん」
イルヴィンドの手が少し温まったところで風呂の準備が終わり、イルヴィンドは浴室へと向かった。
「ふー…今年は雨が少なかったから、やっぱり不作だって」
体を温めてきたイルヴィンドは、視察の内容をリラフィアに伝える。
メラニー事件以来、こそこそ暗躍しないという約束をしたリラフィアは、勝手な情報収集をやめ素直にイルヴィンドの話を聞くようになった。
「天候ばかりはどうすることもできませんものね…悩ましい限りですわね」
水不足の年があれば、豪雨災害が起きる年もある。
自然の恩恵を受けている農家への打撃は大きい。
「他の領土での試験栽培はどうでしたか?」
リラフィアの案により、環境の変化に強いものを選んで東の作物を南へ、西の作物を北へなどの試みが行われているのだ。
「気温と湿度の関係で、東から南へ送った作物はダメだったみたい。でも逆のほうは、生育具合はちょっと悪いけど改良できそうだって」
食糧難にならないよう、農家の人々が収入に困らないよう。
国王夫妻が考案した取り組みに、国民達は喜んでいる。
初めは幼い王への不安や不満が聞かれていたが、今では誰もが国王を慕っていた。
「…全く、あのお二人は仕事の話ばかり。いつになったらお世継ぎを設ける気になるのかしら」
国民達に慕われる国王夫妻に不満を漏らすのは、女官長マーサ。
先王の時代から城で働いている彼女は、イルヴィンドが生まれた時のことも知っている。
「陛下以来一人も王家の子が生まれていないというのに、いつまでも時を待っているだなんて悠長な事を言って。初夜すら迎えてないのよ、できるものもできやしない」
マーサの話を黙って聞いているのは、夫であるアドラー侯爵。
二人は長女をイルヴィンドの妃候補として差し出していたのだが、リラフィアの父ケルヴィンに負け悔しい思いをした。
「家柄だってあのレミリア嬢より上だったのに、強引に割り込んできておいて世継ぎを産まないなんて」
王家の下に位置する公爵家の娘は既に嫁いでいたため、マーサ達の娘が地位的には有力視されていたのだが、元宰相バルカンと親しかった疑いがあるとのことで外されてしまったのだ。
「バルカンが欲を出しさえしなければ、今頃は我々の天下だったのにな」
ようやく口を開いたアドラー侯爵。
城を牛耳る日を夢見て先代の王妃に仕えていた女官長マーサを娶ったというのに、バルカンが捕らえられたことはとんだ誤算だった。
農場の視察から戻ったイルヴィンドは寒さに震えていた。
「ううう、寒かった…!」
「お帰りなさいませ陛下、すぐに湯殿の支度をさせますね」
揉むと暖かくなる小袋を手に出迎えたリラフィアは、冷え切ったイルヴィンドの手を取り包み込んだ。
「わ、暖かいね」
「よかったですわ。鉄粉などを使用しておりますの。今流通を進めているところです」
開発者から試作をもらって以来、リラフィアはこの商品を支援している。
「みんな喜ぶよ、手が冷えると何をするのも大変だもん」
イルヴィンドの手が少し温まったところで風呂の準備が終わり、イルヴィンドは浴室へと向かった。
「ふー…今年は雨が少なかったから、やっぱり不作だって」
体を温めてきたイルヴィンドは、視察の内容をリラフィアに伝える。
メラニー事件以来、こそこそ暗躍しないという約束をしたリラフィアは、勝手な情報収集をやめ素直にイルヴィンドの話を聞くようになった。
「天候ばかりはどうすることもできませんものね…悩ましい限りですわね」
水不足の年があれば、豪雨災害が起きる年もある。
自然の恩恵を受けている農家への打撃は大きい。
「他の領土での試験栽培はどうでしたか?」
リラフィアの案により、環境の変化に強いものを選んで東の作物を南へ、西の作物を北へなどの試みが行われているのだ。
「気温と湿度の関係で、東から南へ送った作物はダメだったみたい。でも逆のほうは、生育具合はちょっと悪いけど改良できそうだって」
食糧難にならないよう、農家の人々が収入に困らないよう。
国王夫妻が考案した取り組みに、国民達は喜んでいる。
初めは幼い王への不安や不満が聞かれていたが、今では誰もが国王を慕っていた。
「…全く、あのお二人は仕事の話ばかり。いつになったらお世継ぎを設ける気になるのかしら」
国民達に慕われる国王夫妻に不満を漏らすのは、女官長マーサ。
先王の時代から城で働いている彼女は、イルヴィンドが生まれた時のことも知っている。
「陛下以来一人も王家の子が生まれていないというのに、いつまでも時を待っているだなんて悠長な事を言って。初夜すら迎えてないのよ、できるものもできやしない」
マーサの話を黙って聞いているのは、夫であるアドラー侯爵。
二人は長女をイルヴィンドの妃候補として差し出していたのだが、リラフィアの父ケルヴィンに負け悔しい思いをした。
「家柄だってあのレミリア嬢より上だったのに、強引に割り込んできておいて世継ぎを産まないなんて」
王家の下に位置する公爵家の娘は既に嫁いでいたため、マーサ達の娘が地位的には有力視されていたのだが、元宰相バルカンと親しかった疑いがあるとのことで外されてしまったのだ。
「バルカンが欲を出しさえしなければ、今頃は我々の天下だったのにな」
ようやく口を開いたアドラー侯爵。
城を牛耳る日を夢見て先代の王妃に仕えていた女官長マーサを娶ったというのに、バルカンが捕らえられたことはとんだ誤算だった。
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