下着から始まる恋愛

歌龍吟伶

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前編

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「あー、今日も遅くなっちゃったなー」 

すっかり暗くなった道を一人で歩く、なゆ。 

入社早々に残業となり帰宅時間が遅くなってしまった彼女は家路を急ぐ。 

「一人暮らしやっぱきついなー」 

そうつぶやきながら自宅アパートの近くまで来た、次の瞬間。 

突然後ろから羽交い締めにされた。 

「きゃっ?!」 

口を塞がれ壁に押しつけられ身動きが取れない。 

なゆは足をばたつかせ抵抗したが、 

「動くな、乱暴はしない。 頼みを聞いてくれればそれ以上の事はしない」 

男の声でそう言われ、ひとまず抵抗を止める。 

(・・・頼み?) 

なんだろう? 

なゆは緊張しながら男の要求を待つ。 

男は、ためらいがちに要求を口にした。 

「・・・今はいているパンツを、譲って欲しい」 

(え!?) 

男の言葉になゆは呆然とした。 

これは、完全に変質者。 

(やっ、怖い!!) 

なゆは恐怖に震え、ぽろぽろと涙を流す。 

すると、 

「すまない、怖がらせて」 

男は、申し訳なさそうな声で囁く。 

「本当にすまない。だが、どうにも衝動が抑えられないんだ。下着を譲って欲しいだけなんだ。それ以上の事はしないと誓う」 

(だけって言われても・・・っ) 

目の前で脱いで渡せと? 

十分抵抗がある、なゆはしばしの間震え続けた。 

男は、なゆを抑え続けてはいたがそれ以上動こうとしない。 

(ほんとに、パンツが欲しいだけ・・・なの?) 

なゆは少しだけ体の力を抜いた。 

その事に気が付いたのか、男も僅かに腕の力を抜く。 

「・・・むぐ・・・」 

口を塞がれているため、なゆはくぐもった声を上げた。 

(苦しい・・・) 

息苦しさを訴えようと、なゆはそっと男の手を握り、口からずらしてくれるよう僅かに引っ張る。

すると、 

「苦しいか?叫ばないでくれよ?」 

男はそう言いながら手を離した。 

「・・・」 

なゆは無言で震え続ける。 

しかし、抵抗する素振りは見せないでいると、男がなゆのスカートの中に手を入れた。 

「!!」 

なゆはビクンと震え身を硬直させる。 

「靴を脱いで、足、上げてくれ」 

なゆは怯えながらも、男の要求に従い靴を脱ぐ。 

そして、スルリと脱がされた下着が足を通り抜けた。 

「・・・」 

下着を脱がされ、なゆの恐怖はピークに達する。

(お願い、もう帰って!) 

必死にそう願っていると、 

「ありがとう。悪かったな、嫌な思いをさせて」 

男はそれだけ言うと離れていく。 

振り向くなとは言われなかった、男の気配が消えるまで動く事が出来なかった。

なゆが変質者に出くわしてから二ヶ月。 

周りで同じ様な話を聞かなかった事もあり、なゆは誰にも話さずにいた。 

あれ以来何もなかったため、なゆがあの時の事を思い出すことは減っていたのだが。

この日も帰りが遅くなったなゆは、夜道を一人で歩いていた。 

そして、いつものようにアパートに入ろうとしたのだが。

「動かないでくれ」 

あの時の再現の如く、なゆは後ろから羽交い締めにされた。 

「!!」 

あの時の男の声。

(ま、また!?) 

なゆが戸惑いと恐怖に硬直すると、 

「驚かせてすまん。また、頼みがあるんだ」 

男がそう言った。 

拘束する力はあまり強くない、なゆは恐怖よりも戸惑いの方が勝る。

「また同じお願いなんだが、今はいてる下着、譲ってくれ」 

「・・・」 

一瞬躊躇ったが、なゆはコクリと頷いた。 

下着を持って行くだけで、それ以外の危害は与えられていない。

二度目という事はエスカレートする怖れもあったが、なゆは抵抗しない事にした。 

「ありがとう」 

男は律儀に礼を言うと、そっとなゆのスカートの中に手を滑り込ませる。 

そして、あまり肌に触れないよう下着を脱がせていく。 

なゆは自ら靴を脱ぐと片足ずつ上げて、男が下着を脱がせやすいようにした。 

スルリと下着が脱がされる。 

なゆは僅かに震えていたが、大人しく壁を向いたままでいた。 

すると、 

「悪いな。ああ、そうだ」 

男はそう言ってなにやらごそごそと物音を立てる。 

(何?) 

緊張するなゆわその手に男が紙のようなものを握らせてきた。 

「・・・?」 

「下着だってタダじゃないだろう。無くなって困らないはずもないよな。新しいのを買うと良い」 

男が渡してきたのは、一万円札だった。 

「こ、こんなにいらないです」 

なゆは小さな声でそう言った。 

さすがに、金を受け取る事には抵抗がある。 

なゆは首を振って拒否したが、 

「たぶん、また我慢できなくなって貰いに来る。 通報するなら今のうちだ。しないなら、下着が無くならないよう買っておくと良い」 

男は苦笑混じりにそう言う。 

「・・・なんで、こんなことするんですか?」 

なゆは疑問を口にした。 

大声を上げるなり逃げるなり、逃れる術はあったのに。

不思議とこの男への恐怖をあまり感じず、なゆは男に質問する。

「趣味、としか言いようがないな」 

男はなゆの耳元で囁く。 

「時々無性に、脱ぎたての女性のパンツが欲しくなってしまって。その衝動が、抑えきれないんだ。だが、こんなことをしたのは君が初めてだよ。 
チラッと見掛けて可愛いなと思ったらもう我慢できなくて。 色々と溜まっていたタイミングだったんだ・・・君にとっては迷惑な話だな」 

男は自傷気味に話す。 

「いい年して本当に恥ずかしいと思う。君にも申し訳ないと思っている。 いっそ、君が通報してくれれば全て終わるのかも知れないな。 私はそれを望んでいるのかも知れない」 

男はそう言うとなゆから体を離しゆっくりと立ち去った。 


なゆはその後ろ姿をただ見つめる。


二度目の遭遇から二週間後。 

なゆが帰宅すると、例の男が玄関の前にいた。 

「!!」 

驚き後ずさるなゆに、帽子を目深に被った男が小さな声で「おかえり」と言う。 

「な・・・」 

驚きすぎて口をパクパクさせるばかりのなゆ。 

男は苦笑しながら近付いてきた。 

「すまない、毎回後ろから襲うのも申し訳ないと思って待つ事にしたのだが逆に驚いたか?」 

男はなゆの目の前に立つ。 

その手には、紙袋が。 

「??」 

不思議に思いなゆが手元を見つめると、 

「ああ、これはな」 

男が紙袋を手渡してきた。 

「なんですか?」 

「君に着て欲しくて買ってしまった」 

中に入っていたのは、色とりどりの女性用パンツ。 

「!!!」 

驚くなゆに、男は申し訳なさそうな声で話す。 

「すまんな、さすがにこれは嫌か?」 

「今、履くんですか?」 

なゆは叫ぶ事も逃げる事もしなかった。 

「いや、今はいい。今度会いに来た時に履いていたら欲しいなと思っただけだ」 

「・・・はぁ」 

なゆは恐る恐る受け取るり、男の様子をうかがう。

(普通に見ると、良い感じのおじさんに見えるのに) 

なゆが無言で見上げていると、 

「・・・今日も、貰って帰って良いかな?」 

男が躊躇いがちにそう言った。 

なゆはこくんと頷く。 

しかし、 

「あ、でも・・・あの、ここだと明るくて恥ずかしいんですけど」 

玄関の前は廊下の電気が明るく、互いの姿も周りからも良く見える。

なゆは恥ずかしくて俯いた。 

「そうか、そうだな。 では、どうしようか?」 

彼に諦めるという選択肢は無いようだ。 

いつの間にか、男の手がなゆの尻に回されスカートの上から掴んでいる。 

(う、うーん・・・) 

なゆは躊躇ったが、じーっと見下ろしてくる男の視線に根負けし提案した。 

「あ、あの。玄関、入りますか?」 

「いいのか?」 

「玄関の中だけですよ。 脱ぐとこ誰かに見られたらヤバイし・・・」 

「・・・ああ」 

なゆは、そっと玄関を開け男を招き入れる。
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